[このページについてのご意見、お問い合わせなどはメールにて webmaster@shodanren.gr.jp までお送りください。]
|
2026年度 PLオンブズ会議報告会 モバイルバッテリーなどに使われているリチウムイオン電池による発火事故は、消防庁の調査によると、2025年には1,297件発生しました。事故の原因としては、製品の欠陥や品質の問題に加え、使用時の落下などによる衝撃や高温環境での保管など、様々な要因が指摘されています。しかし、事故が起きても「どこに責任を求めればよいのか」「原因は製品にあるのか」を明らかにすることは容易ではありません。現行の製造物責任法(PL法)では、被害を受けた消費者が事故原因や製品の欠陥を立証しなければならず、大きな負担となっています。 本報告会では、リチウムイオン電池の発火事故の実態と流通の仕組み、事故発生時の責任を問うことの難しさ、また製品安全4法改正で新たに設けられた「国内管理人」制度の役割について学びました。さらに、EUの制度との比較を通じて、今後のPL法改正に求められる課題や方向性について考えました。 【日時】7月1日(水)14時00分〜16時30分〔ハイブリッド形式〕 【内容】報告①リチウムイオン電池事故の実情と「製品安全4法」の施行状況 【参加】107人 概要(事務局による要約) ■報告①「リチウムイオン電池事故の実情と「製品安全4法」の施行状況 経済産業省 製品安全課 課長補佐 小川ゆめ子さん
●「製品安全4法」の施行状況 製品安全4法では、危害発生のおそれがある製品(PSマーク対象製品)を指定し、製造・輸入事業者に対して国が定めた技術基準の遵守を義務付けています。PSマークは2種類あり、○(丸)PSマークは、事業者が自主検査を行い技術基準に適合している製品。◇(菱形)PSマークは、自主検査に加え、国が登録した検査機関の適合検査を受ける必要があります。 2024年の改正では、PSマーク対象製品を国内消費者に直接販売する海外事業者を「特定輸入事業者」と位置付け、現行の製造・輸入事業者と同様に届出を可能とし、技術基準への適合、国内管理人の選任を義務付けました。国内管理人は、「日本国内においてその輸入に係る特定製品による一般消費者の生命又は身体に対する危害の発生及び拡大を防止するために必要な措置をとらせるための者」と定義されています。国内管理人には、検査記録の写しの保存義務や報告徴収、立入検査及び製品提出命令の受忍義務があり、違反した場合は、罰則や、特定輸入事業者に対する表示の禁止が適用されます。さらに、国内管理人は、特定輸入事業者の届出から一年経過するごとに、事業者の連絡体制について国に報告するとされています。取引デジタルプラットフォーム事業者に関しては、国は危害発生のおそれがある場合に出品削除の要請ができる規定を創設しました。さらに、子供の製品事故の未然防止のために、「子供用特定製品」を指定し、「子供PSCマーク(丸、菱形)」が表示されています。2026年4月には、重大製品事故の発生件数等を踏まえ、乳幼児用ベッドガードとベビーカーを新たに指定しました。 2025年12月の製品安全4法改正後、制度に基づく届出は、2026年6月時点で、子供用特定製品は545件、特定輸入事業者は3,039件となっています。 ●リチウムイオン電池事故の実情 モバイルバッテリーによる発火・発煙事故が増加傾向にあり、電車・新幹線・航空機内など公共交通機関でも事故が発生しています。事故の要因は、製造段階の品質管理の不備、流通段階の不適切製品の流通、使用・廃棄段階での誤使用や経年劣化などが挙げられ、それぞれの段階で対策が必要になります。 製造段階では、調査の結果、一部製品で電圧監視が不十分であることが確認されたため、電圧監視に関する要件を明確化して技術基準を強化しています。またNITE(製品評価技術基盤機構)では、「LIB(Lithium Ion Battery)事故対応専門タスクフォース」を設置し、原因特定が難しいLIB製品事故への対応を強化することで、再発防止に取り組んでいます。さらに、製造工程の品質管理の重要性を踏まえ、2026年2月にはモバイルバッテリー関係事業者81社に対して、製造・品質管理体制や安全に関する事項の確認を要請しており、今後フォローアップを実施する予定です。 流通段階では、インターネット上の違法・不適切な製品の流通を防ぐため、ネットパトロールによる監視を強化しています。違反が疑われる製品は、製品安全誓約の削除要請を活用して、速やかに削除を求めています。また、製造・輸入・販売事業者のうち、連絡が取れなかった事業者については3カ月ごとに事業者リストを公表しています。 使用・廃棄段階では、関係省庁(消費者庁、総務省消防庁、経済産業省、国土交通省、環境省)で、「リチウムイオン電池総合対策パッケージ」を推進し、3つのC「賢く選ぶ」「丁寧に使う」「正しく捨てる・そして資源循環」を消費者に呼びかけています。 報告②「リチウムイオン電池火災事故事案の対応と海外製造製品事故の対応の困難性」 弁護士・PLオンブズ会議メンバー 伊藤崇さん
リチウムイオン電池の火災事故では、電池内部で短絡(ショート)が発生し、異常発熱が一定温度を超えると熱暴走に至って発火することが主な原因とされています。その要因として、不良セルや異物混入という製造上の問題、設計上の不備、落下による損傷、高温環境での使用など、さまざまが考えられます。 しかし、実際の火災事故では製品が激しく焼損しているため、消防やNITEの調査でも「バッテリーから出火した可能性が高い」とまでは判断できても、なぜ発火したのか、製品の欠陥によるものなのかを特定できないケースが多くみられます。火災原因が「不明」とされる事例も少なくありません。 そのため、被害者が製造物責任(PL)を追及しようとしても、事故品が焼失しているため製造上の欠陥を直接立証することは極めて困難です。また、設計上の欠陥を主張する場合には、本来どのような設計であれば事故を防止できたのかを示す必要があり、その前提として事故原因の解明が求められます。結果として、被害者は「通常どおり使用していたにもかかわらず事故が起きた」という事実から欠陥を推定する主張に頼らざるを得ない場合が多いです。 PL法の責任主体としては、製造業者や輸入業者だけでなく、自社ブランド名を付けて販売している事業者(表示製造業者・実質的製造業者)も対象となります。また、PSEマーク表示に関わる届出事業者に責任を問える場合もあります。一方で、近年増加している海外事業者による越境ECでは、国内に実質的な責任主体が存在しないケースがあります。この場合、消費者としてはオンラインモール事業者や国内管理人への責任追及を期待したいところですが、現行のPL法ではこれらは責任主体に含まれておらず、救済には限界があります。 もっとも、近年はデジタルプラットフォームをめぐる法制度整備が進んでいることから、オンラインモールに対して出店審査義務や安全確保義務の違反を理由とした責任追及の可能性もありますが、それはPL法に基づくものではなく、契約上の責任(債務不履行責任)など別の法的構成によるものになります。 ●ECプラットフォームの責任を問う―― 購入したモバイルバッテリーによる自宅火災訴訟の記録 加藤尚徳さん
2017年にAmazonマーケットプレイスで購入した中国メーカー製モバイルバッテリーが発火し、自宅がほぼ全焼する火災事故が発生しました。被害額は約1,000万円に及びましたが、販売事業者が海外事業者であったため、連絡が困難で、Amazonも情報開示や仲介に応じなかったため、十分な被害回復を受けることができませんでした。 Amazonに対して損害賠償を求めて提訴しましたが、一審・二審・最高裁のすべてで敗訴しました。裁判所は、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法などで定められている事業者の義務は「努力義務」にとどまり、Amazonに法的責任を認めることはできないと判断しました。一方で、EUや米国ではプラットフォーム事業者の責任がより明確に位置付けられており、販売者情報の確認義務や、フルフィルメントサービス提供者に対する責任規定が整備されています。越境EC取引における消費者保護を強化するため、プラットフォーム事業者の法的義務の明確化、フルフィルメント事業者への責任付与、オンライン紛争解決(ODR)の整備、EUとの制度調和などの法改正を提言します。 ■報告③製品安全4法と国内管理人制度 株式会社コマースロボティクス グローバルAI事業部 部長代理 戸嶋美希さん
近年、海外事業者がインターネットモールを通じて日本の消費者へ直接販売するケースが増えています。しかし、事故や不具合が発生した際に、日本語で相談できる窓口がない、販売事業者と連絡が取れない、責任所在が分かりにくいという課題があります。そのため、改正製品安全4法で「国内管理人制度」を設け、日本国内の窓口として機能させることを定めました。 具体的には、海外事業者が「特定輸入事業者」として日本の消費者へ直接販売する場合には、①国内管理人を選任して届出を行うこと、②PSC・PSEなどのマークを適切に表示すること、③重大製品事故を把握した場合は10日以内に行政へ報告すること、④事故原因の調査やリコールなど再発防止措置を行うことが義務付けられています。万が一事故が発生した際には、特定輸入事業者の指示・承諾のもとで③④の対応を国内管理人が行う場合があります。これにより、事故の拡大防止や迅速な被害者対応が可能になり、消費者保護につながる仕組みとなっています。 消費者がインターネットモール等で製品購入の際には、PSCやPSEなどの安全マークの表示がされているか、販売事業者や問い合わせ先が明記されているかなどを確認しましょう。また子供向け製品なら子供向けPSCマークや対象年齢の表示の有無を確認する必要があります。特定輸入事業者や国内管理人の情報は経済産業省の「保安ネット公表ポータル」で調べることができます。さらに、消費者庁やNITEのリコール情報がないか確認しましょう。 製品安全4法は、消費者を保護するうえで非常に重要な法律です。特に、ネット通販のグローバル化によって生じている安全上の隙間を埋める存在として、「国内管理人制度」が大きな役割を果たしていると考えています。ネット通販での買い物は非常に便利ですが、購入前にはPSEマークの有無や、国内管理人が置かれているかどうかを確認する習慣を身につけていただきたいと思います。私たちは国内管理人として、今後も海外の事業者の商品が安全に日本に届けられるよう支援するとともに、万が一事故が発生した場合にも、消費者の皆さまが迅速な救済を受けられる仕組みづくりに貢献してまいります。 消費者自身の注意による「自衛」と、国内管理人制度という仕組みによる「防衛」。この二つがそろって初めて、デジタル時代にふさわしい真の製品安全が実現すると考えています。 本日の報告が、皆さまの今後の活動や安全な商品選択の一助となれば幸いです。 ■報告④EUの立法状況と日本法 一橋大学名誉教授・弁護士 PLオンブズ会議メンバー 松本恒雄さん
EUの製造物責任指令は、日本のPL法と基本的な構造で共通していますが、いくつか重要な相違点があります。第一に、EUでは、製造者等が特定できない場合、最終的な販売者が責任を負う仕組みが設けられています。第二に、生命・身体および消費者個人の財産損害は救済対象となる一方、企業が被った事業上の損害は対象外とされています。 EUのPL指令が改正された背景には、ソフトウェアやデジタルサービスの普及に対し、従来の制度が十分対応できていないこと、グリーン化やサステナビリティへの対応が求められていること(修理・再利用)、EU域外事業者からの直接購入の増加で、EU域内で責任を負う主体が存在しない場合があること、製品の欠陥や因果関係の立証が消費者にとって依然として困難であることなどが挙げられます。 2024年の新PL指令では、製造物の範囲を拡大し、ソフトウェアやデジタル関連の要素を取り込みました。欠陥については、考慮要素が詳細に規定されました。また、消費者の立証負担を軽減するための規定も整備されました。越境ECへの対応として、責任主体の範囲も拡充され、製造者や輸入業者に加え、EU域内の「権限ある代理人(authorized representative)」や「フルフィルメントサービス提供者(fulfillment service provider)」が一定の場合に責任を負うこととされました。 プラットフォーム事業者については、単にオンラインモールを運営しているだけで直ちに製造物責任を負うわけではないとしています。しかし、自ら販売主体であるかのような外観を有している場合や、フルフィルメントサービスを提供している場合には責任を負う可能性があります。また、EUのデジタルサービス法(DSA)は、出店事業者の身元や連絡先等を確認する義務や、安全な取引環境を確保するための義務をプラットフォーム事業者に課しています。 さらにEUでは、PL法改正の前段階として、市場監視規則や一般製品安全規則により、域外事業者への対応やオンライン取引に関する規制整備が進められてきました。行政規制と民事責任の制度が相互に補完しながら構築されている点が特徴です。 これに対し日本では、近年の製品安全4法改正により「国内管理人」制度などが導入されたものの、それが直ちにPL法上の責任主体となるとはされていません。海外事業者の日本国内における代表者制度との関係や、越境EC事業者への執行確保のあり方については、なお検討課題が残されています。 今後、日本においても、デジタル化や越境ECの拡大を踏まえ、消費者救済の実効性を高める観点から、責任主体のあり方、プラットフォーム事業者の役割、立証負担の軽減策などを含めたPL法の見直しが課題になると考えられます。EUの制度改革は、その重要な参考事例として注目されます。 ■PLオンブズ会議からの提言
PLオンブズ会議メンバーの長田三紀さんが「提言」を読み上げて紹介しました。 |