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2025年度 PLオンブズ会議報告会

ネット社会における「製品安全」問題
〜官民の「製品安全規制」は消費者を守るのに充分か?

 インターネットによる消費者取引の拡大の中で、製品安全に関する行政規制の在り方の見直しとして「消費生活用製品安全法等の一部を改正する法律(製品安全4法)」が2024年6月に成立し、2025年12月25日に施行されます。現在、改正製品安全4法の施行に向けて、国内管理人の配置などの準備が進められています。前後して、2022年には通信販売取引の適正化等を図る観点から「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(取引DPF消費者保護法)が施行され、また2023年にはオンラインマーケットプレイス事業者が自発的もしくは要請を受けて安全でない製品をサイトから削除するなどの「製品安全誓約」がスタートしています。

 今回のPLオンブズ会議報告会では、経済産業省より、改正法の施行に向けた準備状況、消費者庁からは、取引DPF消費者保護法の運用状況と「製品安全誓約」の実施状況と今後について、お話を伺いました。

【日時】7月1日(火)14時00分〜16時30分 〔ハイブリッド形式〕

【内容】報告1.「改正製品安全4法の施行(2025/12/25)に向けて」
(経済産業省 製品安全課長補佐 佐藤貴幸さん)
報告2.「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」運用の 現況と今後について
(消費者庁 取引対策課 取引デジタルプラットフォーム消費者保護室長 落合英紀さん)
報告3.「製品安全誓約」の現況と今後について
(消費者庁 消費者安全課 政策企画専門官 稲垣利彦さん)
報告4.「海外の法制度」(一橋大学名誉教授・PLオンブズ会議メンバー 松本恒雄さん) 質疑応答
PLオンブズ会議からの提言

【参加】85人

概要(事務局による要約)

報告1「改正製品安全4法の施行(2025/12/25)に向けて」

経済産業省 製品安全課長補佐 佐藤貴幸さん

 製品安全4法は、危害発生のおそれがある製品(PSマーク対象製品)を指定し、製造・輸入事業者に対して国が定めた技術基準等の遵守を義務付けています。具体的には「消費生活用製品安全法(消安法)(13品目)」「ガス事業法(ガス事法)(8品目)」「電気用品安全法(電安法)(457品目)」「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(液石法)(17品目)」になります。

 インターネット取引の実態をみると、物販系BtoCの電子商取引が拡大傾向にあり、それに伴いインターネットモールや自社ECサイトで販売された製品による重大製品事故の増加やPSマーク対象製品でPSマーク表示が付されずに販売されている等の違反も増加傾向にあり、出品を行う事業者等に対してはPSマークの確認や、安全でない製品についてはその製造・輸入事業者に対しては再発防止策等を求めています。こうした状況を踏まえ当方では「ネットパトロール事業」を実施していて、インターネットモール運営事業者の協力を得ながら、出品者への事実照会を行い、その結果を踏まえて必要に応じて、問題のある製品については出品削除要請等を実施しています。

 また、国内の大手ネットモール等運営事業者に対しては、違反品の出品が多く見られる4品目「リチウムイオン蓄電池」「カートリッジガスこんろ」「携帯用レーザー応用装置(レーザーポインター)」「乗車用ヘルメット(バイク用)」については事前の出品審査を要請しています。

●改正製品安全4法による、新たな規制の対象者、対象製品等の具体的な内容

 「消費生活用製品安全法等の一部を改正する法律」は、昨年6月26日に改正し、2025年12月25日に施行されます。インターネット取引での製品安全の確保に関する改正内容として大きく4点あり、@海外事業者の規制対象化(国内管理人の選任)、A取引デジタルプラットフォーム(以下、取引DPF)提供者に対する出品削除要請等の創設、B届出事項の公表制度の創設、C法令等違反行為者の公表制度の創設になります。

@は、海外事業者が取引DPFを利用するなどして国内の輸入事業者を介さず、国内消費者に直接製品を販売することも、「輸入」に該当する旨の法改正を行い、法律上、当該海外事業者を「特定輸入事業者」と規定しました。特定輸入事業者には製造・輸入事業者と同じ義務を課し、国内管理人を選任して届出を求めることにしました。

Aは、取引DPF消費者保護法でも措置をしていますが、問題のある製品や消費者に危害が及ぶ場合と認められる時には、オンラインモール事業者に対して出品削除を要請することを制度化しています。

Bは、届け情報の公表で、その際には国内管理人の氏名も公表します。

Cは、法令違反を行った者の氏名を公表することで、適切な事業者の製品の選択できる環境を整えるものです。

●特定海外事業者・国内管理人

 製品の安全性については、届出をした特定海外事業者が責任を持つことが原則ですが、法執行の実効性の確保の観点から、国内管理人に対しては、@検査記録(技術基準に適合していることなど)の写しの保存義務、A報告徴収、立入検査及び製品提出命令の受忍義務が規定されました。また、特定輸入事業者と国内管理人が適切に連絡を取り合える体制にあるかどうかを定期的に確認するため、@特定輸入事業者が届出を行った日から1年経過するごとに、国内管理人には定期的な報告を求める、A国内管理人が特定輸入事業者との契約を解除する場合には、契約の解除を行う日の前日から起算して30日前の日までに、申し出ることも求めています。

報告2「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」運用の現況と今後について

取引デジタルプラットフォーム消費者保護室長 落合英紀さん

 デジタルプラットフォームにおける取引では、販売業者(出品者)と消費者(購入者)との間には、「通信販売取引(特定商取引に関する法律)」があり、販売業者と取引DPF提供者との間には「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(経済産業省所管)」があり、消費者と取引DPF提供者との間に「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(消費者庁所管)」があるというのが全体像のイメージとなります。

●取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律

 取引DPFにおいて危険な商品の流通や販売業者が特定できず紛争解決が困難になるといった問題が発生し、それに対応して、通信販売取引の適正化に関して、取引DPF提供者の協力を確保して、消費者の利益の保護を図ることを目的とした法律です。

 法律の内容は、(1)取引DPF提供者の努力義務(第3条)として、一番重要な項目が販売業者等をオンラインモール側がコントロールして、出品時に審査をして裏付けとなる情報を取ること。そして、消費者から販売業者等に関する苦情があった時にオンラインモール側で必要な対応をすること。消費者と販売業者等が円滑に連絡をすることができるようにオンラインモール上において販売業者等に特定商取引法上の広告表示義務を履行させること、があります。これらは努力義務ではありますが、具体的な内容については指針を作成していて、毎年フォローアップしています。(2)取引DPFの利用の停止等に係る要請(第4条)として、重要事項(商品の安全性の判断に資する事項等)に著しく事実に相違等する表示(虚偽誇大広告など)、かつ販売業者等による表示の是正が期待できない場合、取引DPF提供者に対して、販売業者等に表示を削除するようになどといった要請ができます。(4)官民協議会は、消費者団体、事業者団体や行政機関などで情報交換を行っています。また、「取引DPF提供者の努力義務に関する指針」は、取引DPF提供者の努力義務に関し、法の規定の「趣旨・目的・基本的な取組」を明らかにするとともに、「望ましい取組(ベストプラクティス)の例」を示すものです。

 運用の状況について、取引DPFを運営する物販系、オークション・フリマ、予約サービス、クラウドファンディング、役務提供系を対象に調査を実施しています。法第3条に基づく取組については2023年度と比較して2024年度はさらに進展している状況であると言えます。法第4条に基づく要請の案件として、自転車用ヘルメットが安全規格に適合するものではないこと、情報商材では簡単な作業で収入を得られる可能性がないこと、これらの販売業者による表示の是正が期待できないとして、表示の削除を要請した事案があります。

 CtoC取引の場となる出品者については、販売業者等(いわゆる「隠れB」)に該当し得る者の出品状況の把握から調査を行いました。あくまで試算の数値ですが、約6割程度が販売業者等に該当し得る可能性があると推定されるとともに、消費生活相談においてもフリマサービスの相談が一定数を占めています。そのような状況から、販売業者等の該当性を適切に判断し、ガイドラインを踏まえた法運用の強化が必要であると考えています。さらに、純粋なCtoC取引については、場の提供者の役割が重要で、利用者からの問い合わせや取引の監視等の充実が期待されるところです。

報告3「製品安全誓約」の現況と今後について

消費者庁 消費者安全課 政策企画専門官 稲垣利彦さん

 製品安全誓約(日本国)とは、OECD(経済協力開発機構)が公表した「製品安全誓約の声明」を踏まえ、消費者庁を始めとする消費者向け製品の規制当局と運営事業者により策定し2023年6月29日にスタートしたものです。オンラインマーケットプレイス(OM)上において出品(販売)される、リコール製品や規制当局が定義する安全ではない製品が生命・身体に及ぼすリスクから、消費者をこれまで以上に保護することを目的とした製品安全に係る法律による仕組みではなく「官民協働の自主的な取組」です。また、消費者法ではBtoC取引の規制が中心ですが、CtoC取引もカバーしています。

 参加希望のOM運営事業者は、全12項目の誓約項目の実施方法を記載した資料を提出します。スタート時には、7社でスタートし、現在、「アマゾンジャパン合同会社(Amazon.co.jp)」「eBay Japan合同会社(Qoo10)」「auコマース&ライフ株式会社(au PAY マーケット)」「株式会社メルカリ(メルカリ(CtoC)、メルカリShops)」「株式会社モバオク(モバオク(CtoC))」「LINEヤフー株式会社(Yahoo!ショッピング、Yahoo!オークション(CtoC)、Yahoo!フリマ、LINEギフト)」「楽天グループ株式会社(楽天市場、楽天ラクマ(CtoC))」「三井不動産株式会社(Mitsui Shopping Park &mall、三井アウトレットパーク オンライン)」の8社が署名をしています。

 対象の製品は「消費生活用製品安全法第2条に記載する消費生活製品」が中心となりますが、他の法律で個別に安全に関する規制や基準が設けられている製品(例えばチャイルドシート、ペダル付き電動バイク等)もカバーしています。12の誓約項目には、規制当局のウェブサイトからリコール製品や安全でない製品に関する情報を確認して自主的に削除すること、規制当局からの出品削除要請を受けて削除すること、消費者からの情報提供に適切な対応を行うこと、販売者への情報提供を行うこと、再出品の阻止をするための措置をとること、AIなどを活用し安全でない製品の検出の水準を向上させることなどがあります。

 消費者庁では、数量的KPIを毎月まとめて公表するとともに、1年ごとにOM全体の実施状況をまとめて公表しています。数量的KPIである出品削除は現在100%の実施になっており、また質的KPIとして、項目ごとの取り組み内容について取りまとめています。このようにして取り組みの見える化を図っています。

 製品安全誓約は、OM運営事業者と規制当局との連携によりアップデートできる仕組みです。それゆえ、今後署名OM運営事業者や参加規制当局の増加などにより、製品安全誓約による取り組みがより充実していくものと考えています。

報告4「海外の法制度の動向と行政規制強化が民事責任に及ぼす影響の可能性」

一橋大学名誉教授・PLオンブズ会議メンバー 松本恒雄さん

●海外と日本の製造物責任

 アメリカでは、1923年に第1次不法行為法リステイトメント(判例法のまとめ)が採択されていますが、そこには製造物責任の規定はなく、1964年の第2次不法行為法リステイトメントで初めてルールが入りました。その後、1985年にEU旧製造物責任指令ができ、それを契機に1994年に日本の製造物責任法ができました。ヨーロッパの方が日本の法制度に近いから、議論がしやすかったのかと思います。その後、アメリカでは、1997年に第3次リステイトメント・製造物責任が採択され、設計上の欠陥、指示・警告上の欠陥については過失責任に近い形に修正がされました。

●EU新PL指令における保護の拡大

 2024年にはEU新製造物責任指令が公布されています。EUの新指令では、製造物の範囲にソフトウェア、デジタル製造ファイル、関連サービスなどが入るようになりました。日本はどれも入ってないです。デジタル製造ファイルは3Dプリンター用のデータのようなものです。関連サービスとしては外からの地図情報などの提供を受けながらの自動運転車があります。欠陥については、判断の基準が詳細に書き込まれています。責任主体については「フルフィルメントサービス提供者」という概念が新しく入ってきています。損害賠償の範囲に関してはデータが破壊された、あるいは、消えてしまった場合も対象になりました。データ損害については、事業用にも利用されているデータは対象外ということです。証拠開示・立証責任については、被害者側に非常に有利なルールが入っています。

●行政規制の製造物責任訴訟への影響

 日本とヨーロッパで見ると、行政規制についてもヨーロッパの方がもう少し厳しいのですが、今回の日本の製品安全4法改正を受けての影響を考えます。

 「特定輸入事業者」とされる越境直接販売業者について、製造物責任法上も輸入業者として評価することが可能になるでしょうか。また、「フルフィルメントサービス」提供者について、実態は輸入代行業者といってよいと思いますが、輸入業者と同じ責任を負うことになるでしょうか。いずれも、ハードルは高いと思います。

 プラットフォームへの影響ですが、例えば海外からの直接販売業者がPSマークをつけないと売れない製品を売っている場合に、プラットフォームに責任を追及できるか、そして、プラットフォームに事前チェック義務があるといえるのでしょうか。これは、理論構成しだいで、責任が認められる可能性があります。

●製品安全誓約がプラットフォームの責任に与える影響

 出品削除要請に迅速に応じなかった場合に、そのことがプラットフォームの民事責任の根拠になるのか。私はなると思いますが、どうでしょうか。この点は、製品安全誓約の法的な性質は何か、自主的な行動宣言にすぎないのか、それとも誰かとの約束かにもよりますが、私は民事責任の根拠になりうると考えています。

PLオンブズ会議からの提言

PLオンブズ会議世話人の中村雅人弁護士より、提言が発表され、続けて閉会挨拶されました。

https://www.shodanren.gr.jp/database/520.htm

閉会挨拶(中村雅人弁護士)

 日本はヨーロッパ等の外国の動きを見習って、PL法が動き出しているわけですが、今回、ヨーロッパ等では特にネット社会における安全について行政規制を作ると同時に、民事ルールについてもきちんと見直ししています。日本の状況を見ると、行政規制には新しい動きがあり12月から施行されますが、民事ルールが見えてきません。30年余り前のPL法を制定した時には、経済産業省、厚生労働省、農林水産省、法務省など各省庁が、所管する法律の関係で製造物責任法についての検討会などを行っていました。それらの知恵を集めて出来上がった製造物責任法です。今、ヨーロッパの新しい立法化の動きに対して、日本は、全然見えてきていません。消費者庁も含めて、関係省庁、国を挙げて製造物責任法のネット社会に相応しい新しい見直しを早期に実現していただきたいのが私どもの願いです。

以上

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