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《お米の学習会》
「コメの流通 〜生産から小売りまで〜 令和の米騒動を考える」
を開催しました

 コメの情報が氾濫する中で、消費者が何をどう理解し、どのような視点で今のコメ問題と向き合えばいいかを学び考えあう機会として、お米の学習会を以下の通り開催しました。

【日 時】6月20日(金)14:00〜15:30
〔Zoomを活用したオンライン学習会〕

【参加者】266名

【内 容】『コメの流通』〜生産から小売りまで〜
令和の米騒動を考える

【講 師】食の信頼向上をめざす会 事務局長 中村 啓一さん

概要(事務局による要約)

1 コメの需給と流通の現状とルール

<生産・消費・作況指数>

 コメの生産量を経年で見ると波がありますが、消費量は減少し続けています。昭和のコメ余りの時代には過剰在庫の財政負担も大きく、昭和46年から減反政策が始まりました。平成5年に大きく生産量が落ちているのが「平成のコメ騒動」で、この年の作況指数は74でした。このとき在庫は23万トンしかなく、在庫を補うためにタイ・アメリカ・オーストラリアから緊急輸入されました。これを機に「食糧管理法」(生産・流通・消費を国が管理する法律)が廃止され、コメの取引は自由な時代に入っていくことになります。

 平成15年は冷夏で、コメの作況指数は92でした。コメ価格のトレンドを見ると、平成のコメ騒動と冷夏の年には価格が跳ね上がり、その後は一貫して安い時代がありました。生産者目線で「コメは長い期間安すぎた」と言われる時代背景です。

 令和6年の作況指数は101ですが、価格は過去を大きく上回り、この原因は何かということが大きな話題になっています。流通などの構造的な問題が指摘されていますが、状況を見る限りでは今年だけの問題であり、必ずしも流通だけが原因ではないと考えられます。

<流通経路>

 コメの流通経路として生産量の約4割は集出荷業者に渡り、他段階に回るのはそのうちの3割、1割ほどは直接卸または消費者の手元に行きます。また農家の持つ直販ルートも3割ほどありますが、ネット販売やふるさと納税など多様化しています。15%程度は農家消費、つまり自らの食用や縁故米といわれるものです。

<検査・トレーサビリティ・表示・備蓄>

 農産物検査では等級や銘柄等を確認しますが、義務ではなく任意です。ふるい下米とは、国の基準に沿った数値のふるいにかけ、上に残った玄米を主食用にするというものです。ふるいの下の玄米も業務用や加工食品になります。

 トレーサビリティ制度は、流通段階の各事業者が入出荷の記録を取り保存することですが、例えば牛のように個体識別番号があるわけではないので、コメの記録を辿るのは簡単なことではありません。

 コメの表示については食品表示法上で、単一原料米以外の産地・品種・産年の表示は義務ではなく任意表示とされています。複数原料米の表示については、表示根拠を示せる資料があれば品種・産年を表示できる、とされており、つまり表示しなくてもいいという意味になります。

 コメの備蓄の考え方は、国内の不作に際して緊急輸入をせずに国内産米で対処しうるものとして市場から隔離する「棚上げ備蓄」というものになっています。備蓄5年経過後は主食用として市場に戻さず、その後は飼料米とされます。政府備蓄米の運営は、5年間保存し非主食用(飼料米)として販売することをルールとするものであって「品質的に動物の餌にしかならない」という意味ではありません。

2 令和の米騒動と備蓄米放出

<農水省の対応と変化>

 令和6年の夏、南海トラフの地震情報が出た際に店頭から一斉にコメが消えました。それ以前からコメは足りなかったのではという話もありますが、この南海トラフ情報を機に、消費者の購買行動は明らかに変化して、買い急ぎが起こり、店頭でコメが買えない現象が全国的に起こりました。この時に行政が何らかの手を打っていれば今の騒ぎにはならなかったのではないか、というのが概ね一致している識者の見解です。

 昨夏以降、備蓄米放出を求める声が上がりましたが、農水省は「これは一時的なもので新米が出れば解決されること」として対応しませんでした。その後コメ価格が高騰し、農水省は令和7年2月から入札による備蓄米の売り渡しを行いましたが、価格にはコミットしない、1年以内に買い戻しが条件、大手の集荷業者が対象、転売を防ぐため精米で販売、としたため、多方面に制約があり流通が滞る原因にもなりました。また入札備蓄米の9割以上を落札した全農は、混乱を防ぐため販売先に備蓄米と表示しないように要請し、出回らない備蓄米、下がらないコメ価格の原因にもなりました。

 これらを受けて農水省はその後運用を変更し、買戻しを5年以内に延長、卸売り業者間の取引も可能、玄米での販売も可能、と変更しました。

 令和7年5月に大臣が交代し、さらに大きく状況が変わりました。入札を随意契約に変更、買戻しはしない、輸送費は国が負担、年間扱い量1万トン以上の大手小売・ネット販売業者と直接契約、店頭価格を2千円/5k程度にする、効果がなければ無制限に放出する、というものです。

 その後、更なる運用見直しがあり、契約先を精米設備のある米穀販売業者・年間扱い量1千トン以上の中小小売業者に拡大、法律で米の転売を禁止、外食・中食も販売対象、主食用ミニマムアクセス米を前倒し輸入、というものになりました。また配送の条件は一貫していて、10tか12tの倍数(330〜400袋/30k)で車上渡しする、となっており、大型トラックの受け入れ設備や人員が用意できない中小規模事業者には障壁にもなっています。

<備蓄米の流通>

 入札の場合は、政府から買受け者(全農)に渡り、その先は買受け側の努力で売ってもらうものとなりますが、大臣の交代後に採用された随意契約では、国から直接スーパーや事業者に玄米が渡りました。コメは加工品であるため精米や選別・袋詰めなどの行程があり、中間での作業負担がとても大きいものとなりました。

 備蓄米を数値的な状況で見ると、消費者に販売される備蓄米売り渡し量(予定を含む)は1億4千5百80万袋(5キロ袋)となり、赤ちゃんまで含めた日本の人口で、一人一袋以上届く計算になりました。これは大変な量と言えます。

 また、当初の入札米は備蓄米であることが公表されずに売られましたが、今の随意契約米は逆で「備蓄米が入荷しました」などアピールされて陳列され、消費者が列をなして購入する光景も見られました。

3 生産現場の現状と今後の方向

 日本の農業を支える従事者は高齢化が進み、平均年齢は67.8歳で、農業人口は年々減少しています。世界的に見ても高齢化比率は日本が突出して高くなっています。またコメの生産コストは作付け規模が大きくなることにより減少するものですが、日本では1ha以下の小規模水稲経営が従事者の62%である現状から、コスト負担が大きくて利益が少ない農業者が多いことは統計の数字にも表れています。

 精米換算した5キロ当たりの令和5年産米の平均生産費1477円と同小売価格2400円(農水省調べ・昨年7月時点)との差は923円(講師試算)が中間流通コストであり、保管、精米加工包装、輸送、販売経費等を考慮するとコメの流通がブラックボックスであると言うのは、必ずしも正しいとは言えません。

 また、コメが足りなければもっと輸入すればいい、或いはもっと生産して輸出を増やせばいい、足りないときはそれを国産米として流通すればいい、という声がありますが、現状の輸出量は45000tほどで、いざというときに輸出を国内産にまわせるかと言えば、とても現実的ではありません。加えて、他の生産国との価格競争や輸出先への供給責任が産まれることも踏まえると、これは容易な話ではありません。

4 講師からの問題提起 <それぞれの消費者が考えるべきことは?>

  • 「日本人の主食だから」、「小規模農家も大切」など、心情的な想いだけでは解決しません。生産コストを下げるためには規模拡大や協業化・機械化が不可欠と言えます。
  • 農協の役割とは何でしょうか。集荷・販売を行う役割のほか、共撰共販など重要な経済活動、個々の農家が単独では行えない選別作業や販路確保などを担うことで、農家の負担を軽減している役割は大きいものと言えます。
  • 問屋の役割とは何でしょうか。仕入れ・分荷・配送機能の他、加工品であるコメの乾燥・籾すり・精米・包装を、小規模小売店が独自に担うことはとても困難です。
  • 消費者にとっても、生産者にとっても適正な価格とは何でしょうか。消費者がいつものお店でいつものお米を安心して買えること、そして生産者は、来年以降も安心して米作りを続けられること。これが基本です。
  • 国民の主食であるコメを安定的に供給するためには、生産現場の担い手に焦点を当てた支援が必要です。高齢化する小規模米農家の生計を消費者の負担だけで支えることは不可能と言えます。
  • 主食のセーフティーネットを輸出入に依存するのはリスクも大きくなります。
  • コメの備蓄はどうあるべきでしょうか。不作や災害等の非常時の備え、新たな役割、価格維持機能(バッファーストック)等々、令和のコメ騒動を機に消費者一人一人が考えることが必要です。

以上

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