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消費者法制度のパラダイムシフトについて学習会 報告

 消費者契約法は、2022年に改正審議の際に、国会で「〜既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方の検討〜」との附帯決議を付された上で可決成立しました。そして消費者庁は「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」で論議を進め、2023年7月に懇談会のまとめである「論議の整理」の中で、それまで当然のこととして消費者法制度の前提としてきた「合理的な判断の出来る消費者」から「消費者は誰もが脆弱性を有する存在」に消費者像を変化し、それに対応できる消費者法制に大転換すること(いわゆる「パラダイムシフト」)を提起しました。

 そして消費者委員会は「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」を設けて、高齢化やデジタル化の進展等、消費者を取り巻く環境の変化に対応できる規律の在り方・考え方について2023年12月から検討しています。2024年10月には中間報告を公表し、現在論議の終盤に入りました。消費者法制の一大転換に向けて、これまでどのような論議がされ、今後どのように具体化につなげていくのか、消費者庁と消費者委員会の事務局よりご説明いただきました。

【日時】4月24日(木)14時00分〜15時40分〔Zoom活用のオンライン学習会〕

【講師】消費者庁 消費者制度課長  古川 剛さん
内閣府消費者委員会 事務局長 小林 真一郎さん

【参加】79人

概要(事務局による要約)

消費者法制度のパラダイムシフトに向けた検討について

内閣府消費者委員会 事務局長 小林 真一郎さんより

 消費者団体の観点で、消費者契約法との関わりを紹介しますと、全国消団連ホームページの歴史コーナーには、1998年に「契約をめぐる被害の増加と消費者契約法制定運動」とあります。当時は契約に関するトラブルが増えてきて、民法の特別法を作る必要があるとして、消費者団体や弁護士会などによる署名運動も行われ、消費者契約法が民法の特別法との位置付けで2000年に制定され、2001年に施行されました。消費者庁ホームページの「消費者契約法」のコーナーを見ていただくと、「消費者と事業者との間には持っている情報の質・量や交渉力に格差があり、このような状況を踏まえて消費者に利益を守るために消費者契約法ができた」となっていて、不当な勧誘による契約の取消しと不当な契約条項の無効等を規定しているとあります。

 その後、何度か改正があり、消費者団体や弁護士会からも意見書提出や審議会への委員参加といった取り組みにより一定の前進はありましたが、全ての課題をクリアすることはできていません。改正時の積み残し課題は、附帯決議に引き続き検討する内容が規定されています。本日の説明は、2022年改正時の附帯決議に由来する内容になります。

 高齢化やデジタル化の進展等に伴い、消費者を取り巻く環境が日々変化していることと、消費者法を個別課題ごとに都度対応して改正を行っても、消費者取引の「安心・安全」を十全に実現するのは難しいと考えられるとのことで、附帯決議に「既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方について検討を開始すること」と挙げられていました。

 第1弾は消費者庁「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」が2022年8月から開始され、2023年7月に議論の整理が公表されました。

 第2弾は、消費者庁から消費者委員会に諮問があり、「消費者法制度に関するパラダイムシフト専門調査会」が2023年12月から開かれています。諮問内容は『超高齢化やデジタル化の進展等消費者を取り巻く取引環境の変化に対応するため、消費者の脆弱性への対策を基軸とし、生活者としての消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者法制度のパラダイムシフトについて検討すること。具体的には、消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者取引全体の法制度の在り方、ハードロー的手法とソフトロー的手法、民事・行政・刑事法規定など種々の手法をコーディネートした実効性の高い規律の在り方、デジタル化による技術の進展が消費者の関わる取引環境に与える影響についての基本的な考え方等を検討すること。』です。中間整理を2024年10月に公表し、現在は後半の論議を行っていて、今年の夏頃にとりまとめられる予定です。

 このパラダイムシフト専門調査会は、消費者委員会と消費者庁の共同事務局として運営をしています。消費者団体・弁護士会が長年取り組んできたテーマに大きく関連する議論であり、是非関心を持っていただければと思います。

消費者庁 消費者制度課長 古川 剛さんより

◇消費者の脆弱性

 消費者法制度のパラダイムシフトの検討において、「消費者の脆弱性」について捉えていくことが一番重要なことだと思っています。これは、消費者と事業者との情報の質・量・交渉力の格差に加えて、消費者の脆弱性を捉えます。脆弱性の考え方には、3類型あり、「類型的・属性的脆弱性(年齢や教育水準、経済状況等、ある集団に共通する特徴から捉えるもの)」例えば、社会生活上の経験が乏しいことから、取消権を設けることなど。「限定合理性による脆弱性(全ての人が持つ脆弱性として、人は限られた範囲でしか合理的な判断ができない)」例えば、解約料を考えた時に人間はキャンセルが起こる確率を低めに見積もっていて、実際にキャンセルが発生した時に、キャンセル料が高いと感じる認知バイアスがあること。「状況的脆弱性(人は誰しもが状況の影響を受けることもあり、状況次第では合理的に考えることが難しくなる)」例えば、ネットでの買い物でカウントダウンがされ焦らされるなど。があります。

 近代法(今の民法)では、強い個人をモデルとして、自由かつ自律的な意思決定により契約を結んでいくことで幸福な社会状態になるとの考え方が前提でした。自由主義、資本主義の中で、対等な関係で取引自由に契約ができて、幸福になる社会で出来ているはずです。

 ただ、高齢化やデジタル化で消費者を取り巻く環境が変化しています。人間を分析するツール(認知心理学、行動経済学など)もあり、強い個人モデルを前提とすることで世の中を成り立たせていただけではなかったのか(フィクションだったのではないか)との考えがあります。今も昔も、個人は周りの人と相談したり、情報を聞いたりして物事を判断しています。脆弱性を有することは人間として普通であることから考えていくことをしています。

 例えば、まだわかりませんが、文言として「事業者は消費者の脆弱性を不当に利用しない」「脆弱性に配慮しなさい」など、事業者の行動理念になってほしいとの論議もあり、脆弱性を法制度の基礎に置くということになるかと思います。また、事業者が消費者の信頼を裏切るような側面や不当に儲けるような販売をすることなど、脆弱性も捉えて要件設定ができるとよいかと考えます。

 法としての介入として、「独立した決定の保障(例えば、他者から介入がなければ自由に決定できるという幸福な選択をするもの)」「自分自身の選択であると納得できるような自律的な決定を保障(例えば、家族からの参考意見などを取捨選択しながら最終的には自分で決定し責任を持つ)」「結果として幸福を保護(例えば、深刻な許容しがたい結果に陥ることを回避すること)」のような考え方があるかと思います。規律をたくさん入れれば、自由な取引も阻害することにもなるので、消費者取引の「安心・安全」を確保するためにはどうしたらいいのかを議論しているところです。

◇アテンション・エコノミーへの対応

 個人の情報、時間、関心・アテンションを事業者が集約して企業活動に活用されます。ターゲティング広告のように閲覧履歴を踏まえて有益な広告が表示されることや、フィルターバブルやエコーチェンバーなどが生じることもあり、対応を考える必要があります。商品・サービスを購入する消費者の立場から、情報、関心を提供する取引の観点も踏まえて規律を整理することも必要と考えています。

◇デジタル化が消費者の取引環境に与える影響

 時間・空間・資材等の物理的障壁がほとんどないため、誰でも、誰とでも、いつでも、どこでも取引に関わることが可能です。また事業者の参入・撤退も容易です。例えば、スマホで地球の裏側から商品購入もできますが、トラブルが起きた時に対応できず泣き寝入りするしかないことも起こるかもしれません。リアル取引と大きく異なることとして、情報過多、取引が複雑、個別化などがあります。生成AIの普及で偽・誤情報に取り囲まれたり、消費者の行動を誘導するようなことも可能になっています。

 今様々な省庁が研究をしているのが「ダークパターン」であり、社会全体の損失・厚生の低下を生じさせるように誘導すると考えられています。消費者の脆弱性を利用したり、作出する可能性があります。また、個別化として、パーソナライズド・プライシングがあります。一般的に不健全なわけではなく、それを用いた搾取や不公正な取引が不健全であると考えられます。リアルな社会でもあることですが、倫理的な正当性に基づいてきちんと検討されていたり、消費者側ときちんと対話をしたり、そのような努力をすることが重要であると考えます。

 またデジタル化に対応した消費者教育やリテラシーが重要で、消費者を支援する仕組みとして消費者団体の活動は重要です。

◇今後の予定

 パラダイムシフトの検討では、後半、有識者の方からヒアリングを行っていて、そろそろ報告書の作成に向けて議論がされていく予定です。

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