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全国消団連 国際活動専門委員会企画
「社会のデジタル化と個人の権利」に係る学習会報告

 全国消団連の国際活動専門委員会は、2024年度、デジタルと消費者の権利をテーマに、論議を進めています。

 社会のデジタル化の進展で生活が便利になった半面、デジタル化自体は想像以上の速さで進み、個人の権利が置き去りにされていることを懸念しています。

 このような状況下で、デジタル社会において個人の権利をどのように尊重していくのか、一橋大学大学院の生貝直人教授を講師にお招きして、「社会のデジタル化と個人の権利」に係る学習会を開催しました。

【日 時】2025年1月28日(火)14時00分〜15時30分
〔Zoomを活用したオンライン学習会〕

【講 師】生貝 直人さん(一橋大学大学院法学研究科ビジネススロー専攻教授)

【題 名】デジタル環境における個人の権利の尊重〜プラットフォーム・AIに関する各国法制を中心に〜

【参加者】50人

概要(事務局による要約)

 今回の企画を検討実行した国際活動専門委員会の加藤委員長から、趣旨説明を含む開会挨拶を行った上で、生貝教授にお話しいただきました。

 デジタル化の進展の中で、消費者団体の果たす役割について触れられた後、前半はオンラインプラットフォーム、後半はAIにフォーカスして、EUおよび米国連邦法・州法と日本の法制度の比較、更に国内の法制度検討の最新状況などをご説明いただき、そのうえで参加者との質疑応答を行いました。

 オンラインプラットフォームの規律に関しては、EUのデジタルサービス法について、その概要と対象事業者、事業者が取り組むべき規律として、①違法・有害情報の流通に関する規律、②データ保護・青少年保護に関する規律、③超大規模プラットフォーム事業者が特に取り組むべき規律、④BtoCマーケットプレイスの追加規定、と整理してご説明いただきました。そして、日本の情報流通プラットフォーム対処法にデジタルサービス法が及ぼした影響、青少年保護の関係ではイギリスのオンライン安全法の内容についてもご説明いただきました。更に、アメリカ、オーストラリアのオンライン詐欺被害の状況の推移をご紹介いただいた上で、アメリカでの新しい規則や規制に触れられました。各国のデジタル法制のなかで最も消費者の権利を手厚く保護しているのはEUですが、自己責任の風潮が強いと捉えがちなアメリカについては、連邦法では立法されていなくとも、カリフォルニアなどリベラルと言われている州を中心に消費者保護の立法が進んでいること、デジタル分野の消費者被害は諸外国で先行して顕在化し、2〜3年のタイムラグを置いてから日本に入ってくる傾向があることなどをお話しいただきました。そして法制度のみならず、被害も含めての海外事例を把握しておくことの重要性や、近年では翻訳技術の進展もあり、日本に流入するまでのタイムラグがもっと短くなる可能性が高いことなどをご説明いただきました。

 後半のAIについては、AIに対応する法制が、生成AI登場前では情報を処理するAIとそれに対応する法律という論点を中心に構築されてきたのが、登場後は情報を生成するAIとそれに対応する法律という論点に変化し、AI家電や自動運転車に代表されるような「製品安全」と個人データ保護の延長線上での「プロファイリング」問題から、「偽・誤情報」に加えて「環境情報全般」への影響や国家安全保障問題に議論が拡大してきたと整理いただいて、EUのAI法について論を進めていただきました。
 AI法は、生成AI登場前の論点に対応するAIシステム全般のカテゴライズに係る規律、登場後の汎用目的AIモデルのカテゴライズに係る規律の二つの部分で構成されているとのことです。そして①許容できないリスク、②リスクの高いAIシステムに求められる要件とシステム提供者の義務、③特定のAIシステムに対する透明性義務、④その他のAIシステム全般に対する自主的な行動規範の策定、⑤生成AIを典型とする汎用目的AIモデルの提供者の義務、⑥「システミックリスク」を有する汎用AIモデルの提供者の義務、をご説明いただきました。その上で、特に生成AIの持つ「リスク」について、大量のコンテンツを生成できるようになる中で、本物の人間が作ったコンテンツか否かを区別することが非常に困難になること、偽・誤情報などの社会への拡散や詐欺・なりすましなど消費者への欺瞞というような新しいリスクについて、米国連邦捜査局のAIを使った金融詐欺についての警告やEUのディープフェイク規制の内容、2023年10月の米国大統領令「安全で信頼できるAIの確保」、2024年9月成立の生成AIを規律するカリフォルニア州法など引用して、各国政府が力を入れて対応している内容をご説明いただきました。
 併せて、日本でのAIカバナンスの主な論議内容をご紹介いただいた上で、2024年7月以降の「AI戦略会議・AI制度研究会」の論議状況をご紹介いただきました。6回開催されて中間とりまとめが行われ、速やかな法制度化が必要と整理された一方で、罰則は科さない方向で検討が進められるのではないかと、今後の見通しなどもお示しいただきました。

 消費者団体の役割として、デジタル技術開発による産業発展重視という流れに対して、EUやアメリカの州法を始めとする海外の法制度、そしてすでに発生している消費者被害の実例を参考にしながら論議して、消費者の権利、消費者保護の強化を求めていくことが必要であるとの提起をいただきました。

【参加者の声】

  • 消費者保護すべきことを的確にとらえ、個人情報保護などが守られるように働きかけたい。
  • グローバルな視点での取り組みが必要なことを実感いたしました。
  • 問題が複雑で理解不足だったが、高速化するデジタル化に一般市民が適切な理解をもって対応してゆく必要性を感じた。国あるいは消団連レベルでも分かりやすい指針と資料を配布し支援することが必要に思います。
  • 幅広い知識を持っていくことの必要性と困難さ。
  • 私の仕事上では、消費者保護の視点から深められるとより有意義であると感じました。
  • 法改正の国会を待たずして事業者が対処できる法的枠組が必要。データの利活用においては企業間データ流通が阻害されていることが障壁なのではという議論もあり、何が障壁か検討する必要がある。というお話が興味深かったです。