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「エネルギー基本計画学習会」を開催しました エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示すために政府が策定するものです。おおむね3〜4年ごとに改定が行われ、現在第7次計画に向けた見直しの検討が、経済産業省 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で始まっています。また、国民の意見を参考にするために「エネルギー政策に関する意見箱」が開設されています。 今回は、2024年〜2025年にかけての国内外の動きや、エネルギー基本計画の概要と見直しにおける重要な論点を学習しました。 【日 時】2024年9月19日(木)14:00〜16:00 【プログラム】 【参加者】35名 開催概要(事務局による要約) 「エネルギー基本計画とその論点について」 小俵 大明さん(Climate Integrate プログラム・ディレクター) 1.2024年はわたしたちの未来を方向付ける分岐点 パリ協定では、2100年の段階で、工業化以前と比べた時の気温上昇を1.5℃あるいは2℃に抑えることを目標に掲げていますが、世界気象機関によれば、昨年は工業前と比べて1.45℃の上昇ということで、パリ協定の目標とする1.5℃に迫ろうという気温上昇が既に昨年起こる事態となりました。。工業化以前と比べて気温の上昇幅が上がった時に、極端な高温が起こる頻度が高まり、大雨あるいは逆に干ばつも増えてくることが示されています。 こうした事態を受けて、国連は「我々は気候地獄に向かう高速道路でアクセルを踏み続けている」というかなり強い表現で、気候変動への対策を呼びかけています。 今年から来年の春にかけて、エネルギーのあり方を決める第七次エネルギー基本計画が検討、策定される予定です。日本の温室効果ガスの排出削減目標を定めるNDCという国連に提出する目標についても、来年2月の提出が予定されています。また、GX(グリーントランスフォーメーション) 2040ビジョンというのも来年の春頃に決定されると想定しています。 それぞれの位置づけですが、まず、2050年カーボンニュートラルといった基本的なビジョンを定めているのが、パリ協定に基づく長期戦略です。この長期戦略を踏まえて、環境省では地球温暖化対策推進法に基づく地球温暖化対策計画(以下、温対計画)を策定して、あらゆる温室効果ガスの削減目標などを定めています。一方で、日本のCO2排出量の9割以上を占めるエネルギー分野の対策については、経済産業省が所管するエネルギー基本法に基づいて、エネルギー基本計画が定められています。そして現在進められているエネルギー政策の検討は、COPやG7での合意、科学的な知見を踏まえて、GX推進法や各種関連法を踏まえながら検討されて、最終的にエネルギー基本計画や、NDC、あるいは温対計画として公表されます。 今から来年1月頃までが日本のエネルギー政策の方向性が大きく動きうる時期です。年内に出てくるこれらの素案に対して意見箱やパブリックコメントなどを通して政府に私たちの声を届けることが大切です。 エネルギー基本計画の審議会の構造は、経済産業省総合資源エネルギー調査会の下に四つの分科会があり、基本政策分科会がエネルギー基本計画の案の作成を担当していますが、実際には分科会下の各種会議体や政府外の会議体において個別テーマが議論され、その検討結果が基本政策分科会に吸い上げられて案が作成されています。これら会議体の委員構成について、Climate Integrateが独自の判断基準に基づいて、化石燃料中心のシステムからの脱却に積極的か、どちらでもないか、消極的かという三つに分けたところ、消極的な委員が多くを占めることがわかりました。 2.次期エネルギー基本計画の策定に向けた論点 日本の温室効果ガスの排出量については、世界とともに削減を進めていかなくてはなりませんが、日本は先進国として大幅に削減をする責務があると考えています。ではどう脱炭素するべきなのか。日本の最大の排出要因は石炭火力、ガス火力という電力部門で、だからこそ電力をどうするかが重要です。現在のエネルギー基本計画で定められている2030年の政府の電源構成目標を達成するには、石炭、天然ガスの依存度をだいぶ下げ、同時に再エネをだいぶ増やさなければいけない状況です。しかし電気事業者の供給計画は現状から変わらず、このまま電気事業者の自主的な取り組みに任せれば、政府目標も達成できない状況です。電力需要について、2023年頃から増え、2033年に2019年頃の水準に至るということで、急増するというよりは、電力需要が少しずつ増えていきそうな状況です。2033年よりも先については様々な要因があり、予測にかなり幅があるので、冷静な議論を行う必要があると考えています。 政府によれば、2022年度は化石燃料の輸入のために34兆円という非常に大きな額を払うことになり、自動車や半導体産業で日本が得た外貨をほぼ全て失うことになりました。日本経済にとって化石燃料の脱却は、非常に大きな意義があると考えています。 発電コストについては、現在のエネルギー基本計画が作られた2020年の当時のコストと、2023年のコストをClimate Integrateで比較したところ、原子力、火力はコストが上がる一方で再エネが下がっているというトレンドになっており、今後このトレンドが続くと見込まれます。 太陽光発電について、業界団体は日本の太陽光発電には大きなポテンシャルがあることを示しており、また、業界団体が出している目標に届くように検討を進めていこうという相場観が見て取れます。 風力発電について、陸上風力発電はまだ稼働していない案件をいかに進めていくか、洋上風力発電はサプライチェーンをいかに作っていくのかが重要です。O&M(運用と保守)を含めた様々な産業育成の機会を捉え、スピードを緩めずに国際競争力のある産業に育てることが大きな課題になると考えています。 石炭火力については、非効率の石炭火力をフェードアウトするという政府の方針がありますが、全体としては2030年政府目標にも届きそうにありません。国際的には全廃を2030年度前半にという議論がなされていることと比較すると、一層の対策強化が求められる部分です。 原子力発電を再稼働しよう、更新もできるようにしようというGXの流れがありますが、仮に現在再稼働しているもの、そして廃止になっていないものを最大動かした場合も、日本の発電電力量の7%~15%がピークで、2030年から発電電力量がすぐに下がっていきます。原子力が脱炭素に果たせる役割が限定的であることを踏まえた上での冷静な議論が必要と考えています。 再エネ電気の有効活用に必要なのは、市場や発電側、系統の運用、それから送電送配電の強化、そして需要側のマネジメント、お湯や蓄電池に貯蔵するといった電力システムの改革によって、再生可能エネルギーを柔軟に有効利用し、大量導入ができる道を作ることをいかに進めるかが重要だと思っています。再エネの大量導入への障壁を、どのような場面で、どのような時間軸で取り除いていけるかも考える必要があります。 3.わたしたちにできること カーボンニュートラルに向けて、私たちに変革が必要な領域の一つ目がエネルギーです。化石燃料から再生可能エネルギー100%の電力システムを作っていく大胆なエネルギーチェンジを実現することです。例えば、石炭火力の新設計画が地域の人たちの反対で中止になった事例があり、反対に先の国会で洋上風力の関連法案がとくに強い要望がなかったため次期国会に先送りになったことから、きちんと事業者に対して、要らない、使いたくないということを伝えていくこと、また、再エネ、特に日本にポテンシャルがある洋上風力や太陽光発電を増やそうという声を上げていくことだと考えています。 加えて、2016年の電力自由化によって、私たちが作りたい未来のために、子供や孫のために、持続可能で、熱波や台風の被害が少ない未来に向けて、再エネで作られた電気を選ぶことができます。 二点目は住宅建築物で、これには断熱や高効率の設備機器の導入が含まれます。特に断熱は重要で、電気代やCO2削減だけではなく、健康を守る点でも重要だと考えています。政府も家庭での断熱に補助金を出して推進しています。 三点目は運輸のシステムチェンジで、乗り物、流通の仕方、交通のあり方が変わるといったことです。世界の圧倒的なトレンドは今やEV(電気自動車)になっていますが、EVの購入まで行かなくても、カーシェアや、自転車や公共交通機関を積極的に利用することは、私たちが足元でできることだと考えています。 4つ目は食。生産消費のシステムの大胆な転換で、持続可能な農林水産、地産地消・菜食を含みます。生産過程でのボイラー利用等に伴うCO2の削減、生産性を高めより多くの収量を得ること、消費の面では、植物由来の食事にする、食べ過ぎや廃棄食品を減らす、過包装を減らすことも大切なことだと考えています。 そして政府や自治体が私たちの税金で何をしようとしているのか、というのもぜひ見ていただきたい。カーボンニュートラルを目指していると掲げていても、例えば政府は火力に補助金を出し、中長期的に火力を使う方針を決定しようとしています。 最後に、電力開発のリードタイムが10年〜20年あることを踏まえると、カーボンニュートラルという未来は、それよりも10年から20年前の段階で動かないと見られません。再エネで作られた電気を選ぶなど、今から一人一人ができることを始めていただけたらと思います。 ご講演後の質疑応答では、再エネ、原発、グリーン水素についてなどのほか、多くの質問がありました。 最後に全国消団連から、エネルギー基本計画改定にあたって資源エネルギー庁が開設している「エネルギー政策に関する意見箱」への意見提出の呼びかけと、全国消団連が8月2日に基本政策分科会でヒアリング対応したことについて報告しました。 以上 |