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「世界消費者権利の日(3月15日)」記念学習会
消費者をとりまくデジタル金融サービスの現状と課題 学習会 開催報告

 世界消費者権利の日(3月15日)は、1962年3月15日に米国のケネディ大統領が4つの「消費者の権利」について演説したことを受け、国際消費者機構(Consumers International、以下CI)が提唱した記念日で、CIが毎年テーマを決めて世界中の消費者団体に活動を呼びかけています。全国消費者団体連絡会 国際活動専門委員会もCIからの呼びかけに応え、今年のテーマである「公正なデジタル金融(Fair Digital Finance)」に関する学習会を開催しました。

【日時】2022年3月15日(火)14時00分〜15時30分(Zoomを活用したオンライン学習会)

【講師】京都大学大学院法学研究科 准教授
カライスコス アントニオス(Antonios Karaiskos)さん

【参加】110人

学習の概要

1.デジタル金融サービスの台頭

(1) デジタル金融サービスとは?

 金融デジタル技術を意味するフィンテック(fintech)は金融(finance)と技術(technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結び付けた様々な革新的な動きのことを指します。このようなデジタル金融サービスには、銀行等の金融機関によるネットバンキングやオンライントレード、ネット生命保険などのほかに、ポイントでの支払いや電子マネー、ロボアドバイザによる資産運用や、家計管理アプリ、暗号資産等、金融機関以外の事業者も提供しているサービスがあります。

(2) 日本におけるデジタル金融サービスの利用に関する動向

 日本では諸外国と比べて現金・預金保有率が高く、デジタル金融サービスの利用率が低い傾向があります。ネットバンキングやネット生命保険の利用率が伸び悩む一方で、高い利便性からポイントでの支払いや電子マネーの利用が増加していますが、同時にデジタル金融サービスによる預金等不正払い戻しの被害も増加傾向にあります。

2.デジタル金融サービスの光と影

 デジタル金融サービスが事業者や消費者に及ぼす主な影響には次のようなものがあります。

(1) デジタル金融サービスの提供事業者から見た場合

 光の側面には、新規参入がしやすくなること、運用コストを削減できること、製品・サービスのプロモーション機会が拡大すること、利用者情報の集約が容易かつ大規模にできること、より自由に商品・サービスを設計できること、リモートワーク等により効率を改善できることなどがあります。

 影の側面には、強固な市場支配力を持つ企業に寡占化されやすいこと、利用者の取引データや個人情報の流出により信頼が低下すること、マネーロンダリング等の悪用リスクがあること、ユーザーとの人的関係欠如により機会を損失すること、コンプライアンスが複雑化すること、新たな技術展開に対応するために労力・コストが必要になることなどがあります。

(2) 消費者から見た場合

 光の側面には、時間・手数料を節約できること、収支管理が容易であること、決済・投資手段の選択肢が増えること、低コストの国際取引を利用できること、商品購入時にCO2排出量を表示するようなサービスを利用することで環境に対する影響を可視化できることなどがあります。

 影の側面には、まず、物理的アクセスに対する影響として、オンライン化が進むと過疎地で金融機関が撤退してしまうことがあります。また、インターネット環境が必須で、接続設備やインターネット・リテラシーを持たない消費者は利用が困難です。パスワード管理に煩雑さが伴うとともに、閲覧情報・取引データ・個人情報等が収集され、流出や悪用のリスクもあります。利用者死亡時の相続問題やサービス提供者が破産した際の法的規制なども不確実です。

3.デジタル金融サービスの課題

(1) アクセス可能性:オンラインアクセスに必要な高速のネット接続には、それなりのコストがかかります。

(2) デジタルリテラシー:リテラシーは世代や地域によって異なります。技術的側面のみならず、プライバシーやデータの取り扱いに関する教育が重要ですが、誰が、いつ、どこで、どのように教育を提供するかは検討を要します。

(3) 包摂性(inclusiveness):脆弱な消費者を含む誰もがアクセス可能であることが必要です。データ収集 によるプロファイリング(人物像の分析)を通じて信用力などが評価されると、脆弱な消費者がますます社会的に排除されるおそれがあります。

(4) 透明性:プライバシーやデータ保護も含め、事業者はサービス内容を利用者に分かりやすく説明しなけ ればなりません。

(5) 安全性:利用者にはお金が守られているという安心感が必要です。システム上のリスクを早期に把握することが規制当局に求められる役割です。

(6) 紛争解決:何かトラブルが起きた際に時間的・物理的に容易にアクセスできる体制整備が事業者に求め られます。ODR(オンライン紛争解決)も手段のひとつですが、人を介さないトラブル解決には困難が伴い、柔軟性に欠ける場合があります。

(7) プライバシーおよびデータ: SNSのプロフィール、位置情報、投稿に使用されている単語、顔の表情・声のトーン等も収集対象であり、分析してローンの返済確率算定などに利用されています。このような情報に対するアクセスや利用範囲をコントロールし、有効な保護措置と法執行が行われなければなりません。

(8) 責任の所在:AI(人工知能)が自動的に学習を進めていくと、最初にサービスを設計した事業者にも説明ができなくなり、ブラックボックス化してしまう可能性があります。このような状況では、何か問題が生じた場合に誰が責任を負うのかが不明確です。

(9) 市場の健全性・持続可能性:市場の健全性を保ち、利用者にとって持続可能なサービスであることが必要です。

4.デジタル金融サービスのこれから

 標準化(ISO12812 Core banking - mobile financial services等)を活用していくことも考えられますが、規格は業界の意向に沿ってつくられる傾向があるため、認証が形骸化して消費者保護につながらない可能性があります。ここで忘れてならないのはデジタルウェルビーイングであり、デジタルテクノロジーの健全な使用を通じて心身を健全な状態に保つことです。その土台になるのはやはり消費者市民社会です。私たち消費者が現在および将来の世代にわたり社会に及ぼす影響を認識し、発信していくことが求められています。

以上

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