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消費者裁判手続特例法について学ぼう 学習会 開催報告

 消費者被害については、消費者と事業者との間に情報の質・量や交渉力の格差があり、消費者自ら被害回復を図ることが難しく、多くの消費者が「泣き寝入り」をしてしまっている状況にあります。特に、個々の消費者が訴訟を提起するには、相応の費用や労力を要する上に、少額の請求となる場合が多く、困難です。

 消費者裁判手続特例法「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(2016年10月施行)により、現在4団体(*)ある「特定適格消費者団体」が消費者に代わって、消費者被害の集団的な回復を図るための裁判手続を行うことができる、消費者被害回復訴訟制度が運用されています。

 消費者庁にて、今年3月より消費者庁「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」が設置され、制度の利用のしやすさや、特定適格消費者団体の社会的意義・役割などについて検討され、10月8日に報告書が公表されるとともに、意見募集が行われました。

 学習会では、「消費者裁判手続特例法について」「検討会報告書の内容について」学びました。

【日時】2021年10月21日(木)13時30分〜15時00分 〔Zoom活用オンライン学習会〕

【講師】黒木 理恵さん(消費者庁 消費者制度課 課長)
板谷 伸彦さん(特定適格消費者団体 特定非営利活動法人消費者機構日本 専務理事)

【参加】73人

概要(事務局による要約)

■消費者裁判手続特例法の改正に向けて

板谷 伸彦さん

◇消費者団体訴訟制度

 2006年に、民事訴訟の原則の例外として消費者団体に訴訟を提起する権利を与える消費者団体訴訟制度が出来ました。消費者団体訴訟制度は、事業者の不当な勧誘行為や契約条項などに対しての「差止請求」と、消費者の財産的被害を集団的に回復するための裁判手続を行う「被害回復」があります。

 2016年10月から、消費者裁判手続特例法の施行によって消費者被害回復訴訟制度が始まりました。消費者被害回復訴訟制度は、二段階型の訴訟制度となっており、第一段階の共通義務確認訴訟では、事業者が消費者に金銭を支払う義務があるかどうかを確認し、第二段階の簡易確定手続では、対象となる消費者に情報提供を行い、訴訟手続の参加を呼びかけ、誰にいくら支払うか確定します。

 この制度の意義は、個人では訴えづらい消費者被害に対して相対的に時間・費用・労力をかけずに被害回復訴訟を追行してもらえます。事業者にとっても紛争の一回的解決が可能であること、行政にとっても法令の実効性が確保できることのメリットがあります。

◇制度の活用が広がらない現状

 消費者被害回復訴訟制度は、5年が経過しても活用が広がっていません。その要因として、①端緒情報の質や量が不十分であること、②対象となり得る事案が限られること、③特定適格消費者団体の体制による対応の限界性があるのではないか、と報告書でまとめられています。

 問題点として、被告や請求の範囲が狭すぎること、二段階目の手続で通知や公告の負担が重いことがあります。それなのに、悪質事業者ほど資産を隠してしまい、回収できない可能性もありますが、一旦提訴すると途中では止められないので、下手に提訴を行うと負担に耐えられない懸念がでてきます。提訴判断前に資産状況(どれだけ損害を回収できるか)を確認する術もなく、止む無く断念してしまうことも少なくありません。また、事業者が対象者の情報を廃棄している場合には個別通知が困難になり、結局返金できず不当利得が事業者の手元に残る訳ですが、そうした場合の金銭の受け皿がありません。ほかに検討会の中では、支配性の要件(第二段階の手続きを簡易に進められない場合は却下できるとする規定)の運用について裁判所に理解が十分浸透していないことや、判決に至らなかった場合に判決を待っていた消費者の消滅時効が成立してしまう問題などの検討も行われました。

 現在、意見募集を行っていますので、報告書の内容が今後の法案化作業に反映されるよう、消費者団体から意見を提出していきましょう。(締め切り11月7日)

■「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」報告書について

黒木 理恵さん

 「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」は、内閣総理大臣の認定を受けた特定適格消費者団体が、消費者に代わって被害の集団的な回復を求めることができる訴訟制度として、2016年10月1日に施行されました。その際、附則第5条では、施行後3年を経過した場合に施行の状況等を勘案し、法律の規定等について検討を加えることが規定されており、見直しの必要性が指摘されていました。

 検討会での検討事項は多岐にわたり、見直しの必要性を精査しながら、特に急ぎ対応する必要があると考えられるものを中心に検討し、報告書にまとめられています。

◇対象となる事案の範囲 請求・損害の範囲の見直し:慰謝料

 現行法上は、対象となる請求の範囲から、いわゆる拡大損害、逸失利益、人身損害及び慰謝料などが除かれています。

【考えられる対応】相当多数の消費者に同一額ないしは共通の算定基準により算定される額が認定される画一的に算定される慰謝料を対象とすることが考えられる。もっとも、過失による個人情報漏えい事案については対象外とすべきとの指摘、財産的損害と併せて請求される場合や故意により生じたものを対象とすべき等の議論があった。

◇被告の範囲の見直し

 共通義務確認訴訟の被告となるのは「事業者」で、いわゆる悪質商法にあっては、事業者自体の財産は散逸・隠匿される一方、代表者や実質的支配者の個人に財産が移転されてしまうことが珍しくありません。

【考えられる対応】不法行為に基づく損害賠償請求について、被告に該当する事業者が故意または重大な過失による不法行為責任を負う場合に、当該事業者と故意または重大な過失による共同不法行為責任を負う個人を共通義務確認訴訟の被告となる者に追加することが考えられる。

◇支配性の要件の考え方

 支配性の要件については、あまり厳格に捉えすぎると集団的な被害回復の立法趣旨にそぐわないと制度創設当時から指摘されていました。実際の運用状況を踏まえ支配性の要件の考え方の明確化が検討されました。

【考えられる対応】支配性の要件は堅持することは相当であるものの、簡易確定手続の審理の工夫等によっても、なお適切かつ迅速に判断することが困難であると認められる場合に限り、支配性の要件に基づき制度の対象外とされるべきと考えられる。

◇共通義務確認訴訟における和解

 現行法上、共通義務確認訴訟においても和解が認められていますが、その対象は共通義務の存否に限定されています。そのため、白か黒かというはっきりした和解しかできず、対象消費者に解決金を払うなどの和解はできません。

【考えられる対応】共通義務確認訴訟における和解内容に係る制限を無くし、様々な類型の和解が可能となるよう関係規定を整備することが考えられる。

◇対象消費者への情報提供の在り方:役割分担と費用負担の見直し

 現行法上、特定適格消費者団体は、消費者から授権を受ける主体として通知及び公告を行うこと、事業者は団体の求めに応じて公表、行政は公表との役割があります。

【考えられる対応】事業者による個別連絡は、事業者および特定適格消費者団体の双方の意向が合致する場合には実施をすることとし、事業者が対象消費者の全員またはこれに準ずる割合の対象消費者への個別連絡をしない場合には、特定適格消費者団体に公告に要する費用の一定額(算定基準により算定)を支払うこととすること考えられる。また、行政の役割の拡充や指定法人の活用も考えらえる。

◇特定適格消費者団体の活動を支える環境整備

 本制度は、自立的なサイクルが回り出す前の未だスタートアップの途上にあり、強力な梃入れのための支援と、将来に向けて制度の持続性を保つための環境整備を行うことが必要であるとしています。

【考えられる対応】消費者団体訴訟制度の実効的な運用を支える第三者的な主体を法的に位置付ける指定法人制度を導入することが考えられる。

以上

(*2021年10月20日に特定非営利活動法人消費者支援ネット北海道(ホクネット)が全国で4番目の「特定適格消費者団体」認定されました。)

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