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消費者契約法第3次改正に向けて「後編」検討会報告書学習 開催報告

 消費者庁「消費者契約に関する検討会(以下、検討会)」は、2019年12月24日から開催され、取消権等の規律の在り方や、平均的な損害の額の立証負担の軽減、契約条項の不当条項(サルベージ条項や消費者の権利を放棄するものとみなす条項)、定型約款の情報提供の在り方などについて論議が行われ、2021年9月10日に検討会報告書が公表されました。

 消費者は誰もが脆弱性を持つ中、高齢化の進展や成年年齢引き下げの施行、オンライン取引の拡大など、消費者を取り巻く環境は大きく変化しています。検討会報告書では、消費者が事業者との健全な取引を通じて安心して安全に生活していくためのセーフティネットを整備するという視点が欠かせない、としてまとめられています。

 検討会報告書を踏まえ、2022年度の通常国会にて、より消費者保護に資する改正が行われることが期待されています。

 「後編」学習会では、検討会報告書の内容や今後の課題について学習しました。

【日時】2021年10月6日(水)14時00分〜16時00分〔Zoomを活用したオンライン学習会〕

【内容と講師】「検討会報告書の概要と今後」黒木 理恵さん(消費者庁 消費者制度課 課長)
「報告書の評価と法改正に向けた課題」鈴木 敦士さん(弁護士)

【参加】123人

概要(事務局による要約)

1.消費者の取消権について(報告書p4〜11)

検討会報告書の概要:黒木さん

 消費者契約に関する検討会報告書が9月10日に公表され、意見募集(10月21日まで)が行われています。それ以外に、本日も含めてさまざまな場で意見交換を行っていますが、そこでの意見も踏まえ法制的な検討を進め、次期通常国会を見据え速やかな改正法案の提出を目指しています。

■取消権について
①「困惑類型の脱法防止規定」
【考えられる対応】消費者に心理的な負担をかける行為で、①不退去(第1号)、②退去妨害(第2号)、③契約前の義務実施(第7号)、④契約前活動の損失補償請求(第8号)の取消権と実質的に同程度の不当性を有する行為について、脱法防止規定を設ける。

 取消権は、法第4条の第1〜4項にあり、第3項が困惑類型(8つの類型)と言われ、事業者の一定の行為により消費者が困惑し、契約を締結した場合に取消権を定めています。

 霊感等による知見を用いた告知(第6号)は、消費者が契約を締結したいと考えるよう誘導するものであり、脱法防止規定の対象とするのは難しいと考えられました。また、経験の不足による不安をあおる告知(第3号)、経験の不足による好意の感情の誤信に乗じた関係の破綻の告知(第4号)、判断力の低下による不安をあおる告知(第5号)は、消費者の属性や心理状態を要件としており、その事情は多様であり受け皿規定を設けることは難しいと考えられました。

②「消費者の心理状態に着目した規定」
【考えられる対応】事業者が、正常な商慣習に照らして不当に消費者に働きかけることにより、契約を締結しないという判断を妨げられる状況を作出、消費者の意思決定が歪められた場合に取消権を設ける。

 検討会では、心理学や行動経済学の専門の先生の知見から問題の所在なども報告されました。消費者に慎重な検討(熟慮)をさせないよう仕向け、消費者を直感的で便宜的な思考(ヒューリスティックな判断)に誘導している場合に考えられます。たとえば、消費者の検討時間を制限して焦らせる等の勧誘手法を組み合わせたり、極端な形で用いることで、慎重に検討する機会を奪う行為として規定することが考えられるとしています。

③「消費者の判断力に着目した規定」
【考えられる対応】判断力の著しく低下した消費者が、生活に著しい支障を及ぼすような内容の契約を締結した場合に取消権を設ける。

 契約の当事者には契約自由の原則があるので、対象となる契約は真に必要な範囲に限定をして、消費者の生活が将来に渡り成り立たなくするような契約を対象とすると考えられました。事業者の認識の要件は、消費者の生活に著しい支障を及ぼすことについて事業者に悪意がある場合及び悪意と同視される程度の重過失がある場合に限り取り消すことができると考えられるとしています。

■過量契約取消権における「同種」の解釈

 「同種」の範囲は、過度に細分化して解すべきではなく、消費者が置かれた状況に照らして合理的に考えたときに別の種類のものと見ることが適当かどうかについても、社会通念に照らして判断すべきである旨を逐条解説等によって明らかにすることが考えられるとしています。

 

報告書の評価と課題:鈴木さん

 いわゆるつけ込み型の勧誘については課題になっており、どういうものを対象にするのか、理論的には難しいと思います。

①「困惑類型の脱法防止規定」

 たとえば、投資マンションの勧誘で、断っても何度も面談の機会を設けさせるような、執拗な勧誘に対して対象になったらよいかと思います。また、困惑類型の第3号から第6号にも脱法防止規定を作ってほしかったです。5号も破綻を告げる要件があるので、全体として不安をあおっているといえるのではないか、特に3号と5号は似たような内容であり、規定を整理して使いやすくできるのではないかと思いました。事業者の認識が要件にあると使いにくいから脱法防止規定を設けても意味がないという議論がありますが、不安をあおる行為が酷いものだと、認識は認められやすいということはあると思います。

②「消費者の心理状態に着目した規定」

 検討時間の制限、広告とは異なる内容の勧誘(水道や鍵のトラブルなど)、長時間勧誘、期待感をあおるなどがあげられています。長時間勧誘による「困惑」と「浅慮」の区分けや分析が必要です。

 デート商法は、高揚感から契約するパターンがあり、無理に困惑類型を広げて取り込むよりも、消費者の心理状態に着目した規定に入れることができるのではないかと思います。

③「消費者の判断力に着目した規定」

 実務的には、「生活を将来にわたり成り立たなくなるような契約」とありますが、自宅を売却して住むところがない、貯蓄の大半を使うなどもありますが、もう少し広く「現在の生活の維持が困難」というものを含めて広く救うことができないのかと思います。また、事業者における要件として悪意・重過失をセットにするのは過重であると考えます。

2.平均的な損害について(報告書p12〜17)

検討会報告書の概要:黒木さん

■「平均的な損害」の考慮要素の列挙
【考えられる対応】「平均的な損害」の主要な考慮要素として、商品、権利、役務等の対価、解除の時期、当該消費者契約の性質、当該消費者契約の代替可能性、費用の回復可能性などを例示で列挙する。

■解約時の説明に関する努力義務の導入
【考えられる対応】事業者に違約金条項について不当でないことを説明する努力義務を課す。

 説明の時期は、事業者が消費者に対して違約金条項に基づいて違約金を請求する場合等において、当該消費者から説明を求められた場合に限定することが考えられます。

 説明の内容は、どのような考慮要素及び算定基準に従って「平均的な損害」を算定し、違約金が当該「平均的な損害」の額を下回っていると考えたのかや違約金の合理性について、説明することが考えられるとしています。

■立証責任の負担を軽減する特則の導入
【考えられる対応】事業者は自己の主張する「平均的な損害」の額とその算定根拠を明らかにしなければならないこととする規定、いわゆる「積極否認の特則」の規定を設ける。適格消費者団体及び特定適格消費者団体に利用主体を限定する。

 

報告書の評価と課題:鈴木さん

 平均的損害の立証負担の軽減については、法9条1号は、消費者契約法でよく使われている規定で、つけ込み型勧誘と同様に、重要な論点となっています。事業者側からは、算定根拠が営業秘密であり開示ができないとの議論があり、政策を示すことが難しかったかと思います。

■「平均的な損害」の考慮要素の列挙

 平均的な損害について、適切な考慮要素を示すことが重要だと思います。契約の解除で違約金を事業者が請求する場合に、何に着目しているかのコンセンサスができているとよいと思います。

■解約時の説明に関する努力義務の導入

 平均的な損害の額を下回っていれば、不当ではないということになりますが、平均的損害の額自体を示さず、それより下回っていると主張されて、納得できるでしょうか。平均的損害の額と算定根拠を示すべきだと思います。

■立証責任の負担を軽減する特則の導入

 適格消費者団体の訴訟において「積極否認の特則」が導入されることになりますが、消費者契約を締結するのは消費者であり、個々の消費者も利用できるようにすべきであると考えます。実際には個別事件で平均的損害が争われることは少ないという意見がありますが、少額事件で元々訴訟になりにくいほか、個別事件は、平均的損害うんぬんよりも個別の考慮で解決していることがあります。また、基準を示す根拠が営業秘密だから明らかにできないというのは制度設計としておかしいので、基準を示すのに必要な情報は実質的に営業秘密には当たらないととらえるべきであると思います。

3.不当条項等について、4.消費者契約の条項の開示について、5.消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務における考慮要素について(報告書p18〜28)

検討会報告書の概要:黒木さん

■不当条項 サルベージ条項
【考えられる対応】事業者の損害賠償責任の範囲を軽過失の場合に一部免除する旨の契約条項は、明示的に定めなければ効力を有さない(サルベージ条項によっては同様の効果を生じない)こととする規定を設ける。

 法第8条では、いかなる場合も一切責任を負わないとするような全部免責は無効、また事業者の故意または重過失の場合は一部でも責任を免除するものは無効になっています。軽過失の場合、責任の一部を免除する条項は有効になり得るのですが、明示的にその旨を示さなければならないとする規定を設けることが考えられるとしています。

■不当条項 所有権等を放棄するものとみなす条項
【考えられる対応】所有権等を放棄するものとみなす条項を法第10条の第1要件に例示する。

■不当条項 消費者の解除権の行使を制限する条項
【考えられる対応】解除に伴う手続に必要な範囲を超えて、消費者に労力又は費用をかけさせる方法に制限する等の消費者の解除権の行使を制限する条項を法第10条の第1要件の例示とする。

■不当条項 消費者の解除権に関する努力義務
【考えられる対応】消費者が契約を解除する際に解除に関する情報提供が丁寧になされることを努力義務とする規定を設ける。

■定型約款の表示請求権に係る情報提供の努力義務
【考えられる対応】消費者契約の締結について勧誘をする際、定型約款の表示請求権の存在および行使方法について、必要な情報を提供することを努力義務と定める。

■適格消費者団体の契約条項の開示請求
【考えられる対応】適格消費者団体が、事業者と多数の消費者との間で不当条項を含む消費者契約を締結している疑いがあると客観的な事情に照らして認められる場合に、契約条項の開示を事業者に請求することができる。

■消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務における考慮要素について
【考えられる対応】消費者契約の内容についての情報提供に「年齢」を考慮要素にする。

 

報告書の評価と課題:鈴木さん

 情報の開示と情報提供義務については、前回改正時の消費者委員会付言にも記載されており、宿題になっていました。また不当条項は、なかなか議論が整理できず立法が難しくなっていましたが、今回サルベージ条項や解除権の制限について一定の方向性が示されました。

■不当条項 サルベージ条項

 サルベージ条項は免責条項で使われることが多いのですが、消費者に対する損害賠償や違約金の請求条項に「法律に反しない範囲内において」という限定をつける場合もあり得るので、法8条以外に明示的に使われているサルベージ条項についても検討するべきではないかと思っています。

■所有権等を放棄するものとみなす条項、消費者の解除権の行使を制限する条項

 法10条の例示にある程度記載されるのは意味がありますが、あまりに限定的に記載されると適応範囲が狭くなってしまいます。前段の例として掲げるものは、できるだけ不当性を取り込まず民法のデフォルトルールから離れている例を記載する必要があります。また、報告書のように、不当性が認められる相応の蓋然性があるものを列挙するという立場に立つのであれば、法10条の前段に掲げるというよりも、グレーリスト(いったんは不当条項と推定され、例外的な場合のみ、それが否定される条項)として規定を作っていくこともあるだろうと思います。

■定型約款の表示請求権に係る情報提供の努力義務

 契約をした時に、契約内容となる定型約款を表示していないこと自体がおかしいと思いますが、事業者の抵抗がとても強い状況です。すくなくとも、契約条項を容易に認識できる状況に置くことは、そんなに難しいことではないと思います。契約条項を容易に認識できる状況に置くことを義務付けるべきであり、義務違反の場合は消費者を拘束しないという法的効果を認めるべきであると思います。

■情報提供の努力義務の考慮要素

 年齢を考慮要素にしても年齢で画一的な処理とせずに、消費者の知識・経験を判断する手掛かりとすべきであると思います。

以上

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