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「LPガスの取引透明化問題に関する学習会」を開催しました

 LPガスはもともと自由な料金設定が可能で、取引ガイドラインの遵守も自主的な範囲にとどまっていたために、料金体系やその内訳が開示されない、無償配管やガス器具の無償貸与の商慣行による料金への影響も不明瞭など、多くの問題がありました。

 経済産業省は2017年、都市ガスの自由化に合わせて、その競合先と目されるLPガスについて「取引適正化ガイドライン」を策定し、取引の透明化を求めましたが、このガイドラインの策定から3年が経過し、取引透明化の状況はどうなっているのでしょうか。

 今回の学習会では、専門家、消費者団体、行政それぞれの立場からご報告をいただき、LPガス料金透明化の進捗状況と、取引透明化の推進に向けての課題について考えました。

【日 時】 2020年8月7日(金)16:00〜18:00

【開催形式】Zoomを利用したオンライン学習会

【参加者】 49名

概要(事務局による要約)

LPガス取引適正化の到達点と課題

橘川 武郎先生(国際大学教授)

 LPガスの特徴は大きく4つの特徴があります。

①基幹エネルギーの一つである:全国の4割以上の世帯が利用する重要な家庭燃料として、またタクシーなどの自動車用燃料として利用されています。

②付加価値が高い:カロリーが高く、都市ガスのカロリー調整にも使われます。保安サービスの水準が高い、戸別配送のため、顧客とface-to-faceの関係を築くことで多様なサービスの提供が可能です。

③分散型エネルギーの王者:導管が敷設できない地域へもエネルギー供給ができ、広く普及することが可能です。東日本大震災を教訓に、LPガスのような分散型のエネルギー供給の重要性も認知されています。

④有事の際の最後の砦:東日本大震災の時、各家の軒下にLPガスボンベがあることで、早く利用が再開できました。今後は、集中型エネルギーを利用している都市部に災害用のLPガス供給設備を置くなどの活用が今後期待されます。

 ただし、水害・洪水にはやや弱く、その対策が急務です。

 取引透明化が問題となる背景としては、東日本大震災後の2012年からシェールLPガスの輸入が開始されたことがあります。それまで80%以上を中東に依存していた輸入先が変化し、輸入・卸売価格が下がりました。ただその下落幅に比べ、小売価格が下がっていない点が課題で、それを改善するためにも取引を透明化して、競争を活発にするべきと考えます。

 今は自由化の時代になり、全国各地で市営・公営の都市ガス事業の民営化が進み、その民営化の有力な担い手としてLPガス会社があります。

 実は都市ガスに新規参入するのは難しいのが実情です。電力は三段階料金制度という、多く使うと単価が上がる仕組みに対し、都市ガスは普通の商品と同じように多く使うと単価が下がります。そのため、値下げメニューが作りにくい、作ったとしてもなかなか収益が上がりません。しかし、都市ガスに新規参入したLPガス会社はLPガスの事業だけでなく、水、ケーブルテレビ、光回線等を売るといった、多角化したパッケージを打ち出し、ガス以外のサービスで利益を上げています。

 問題は肝心のLPガスの市場です。電気の市場、都市ガスの市場でLPガス会社は頑張っているとして、LPガス市場で大きな変化があったのかというとそうではありません。先ほどから強調している輸入価格や卸売価格が下がった割には小売価格が下がっていないという問題は、何らかの形で地域独占(寡占)のメカニズムが働いているのではないか、ということです。確かにLPガス料金透明化は簡単ではなく、消費者との相対取引で料金体系が異なり、料金透明化が難しいこともよくあります。

 しかし今は状況が変わり、都市ガス会社も小売料金自由化になり、相対取引で料金が一軒一軒違う契約が可能な状況になってきました。その都市ガス業界が料金表を明示しているのにLPガス業界ができないはずはないという問題提起があり、LPガスの世界でも料金透明化の対応が求められています。

 もちろん料金透明化というのはなかなか大変なことで、小さな業者は経営が厳しくなることもあるので、必ずしも料金を値下げするだけではなく、多様なサービスと組み合わせ、サービスを高めることも必要になります。

 LPガスについては、消費者団体、LPガス事業者、自治体、国の行政トップの4者が一堂に会して、LPガスの様々な問題を議論する懇談会が、毎年地域ごとに開かれています。この懇談会で毎年議論が盛り上がっていたのが北海道と南関東です。

 北海道の懇談会で明らかな問題となっているのは「無償配管」です。賃貸アパートのガス料金の中に、賃貸のアパートを建てる時にLPガスの事業者がガス器具の導入代金、ガス周りのいろんな道具、諸費用、場合によってはガスと全然関係のない電化製品などまで負担させられるケースもあったということです。その費用を入居者のガス料金として回収しているため、ガス料金が割高になるわけです。

 この点はもともと非常に大きな問題だと指摘されていたのですが、北海道生協連の川原さんが全国で初めて本格的な調査をされて、それが白日の下に明らかになりました。

 これをきっかけに国の適正化のガイドラインが策定されましたが、到達点はまだ不十分なところがあります。料金透明化の中で基本料金と従量性の料金の2部制の料金体系は大分広がりましたが、本来は3部制(3部目は設備・配管等料金)の料金体系にするべきだと考えています。設備代の負担が入っているならば、まずその設備費を基本料金や従量料金と分けて考える必要があり、これはまだ緒についたばかりです。

 次に昨年の南関東の懇談会で非常に印象的だったのが、神奈川県の消費者団体の調査です。神奈川県は料金透明化が最も進んだ県だといわれていたのですが、形式的には進んでいるけれども、実態としてはそれほど進んでいないことが明らかになりました。

 次の問題として、LPガスは災害には強いが水害には弱い点です。具体的な対策がなかなか進まず、去年の台風でLPガスが流出したことで、昨年の政府の審議会(産業構造審議会保安・消費生活補用製品安全分科会)ではこの点を強く指摘しました。

 これらの問題(①輸入・卸売価格との連動による小売価格の透明化、②設備付き供給料金に関する3部料金制導入、③水害危機対策)は、間接的なガイドライン方式という業界団体の自主規制と政府の行政指導との組み合わせで改善を求めるやり方の有効性や、本当に効果が出るのかどうかというところは疑問があります。また、LPガスを管轄する行政機関の脆弱化も含めて正面から議論したほうがいいのではないか、もっと強いアプローチがあるのではないかということも、考える段階にきていると思います。

消費者団体からの活動報告①

今井 澄江さん(神奈川消費者の会連絡会)

 平成29年3月に公表された「LPガス料金公表事業者及び公表予定事業者リスト」をもとに毎年実態調査をしています。電話で基本料金と1m3あたりの単価を問い合わせる方法で行いました。感じよく即答していただける事業者がある一方で、「ホームページを見て」と言われ、その場での回答がない事例や、競合他社からの探りと疑われ邪険な対応をされた事例もありました。2019年度に調査した事業者数703社のうち価格を公表してくれた事業者数は233社(公表率33%)でした。これは標準価格の開示が進んでいるとは言えない状況です。神奈川県のLPガス協会でも標準価格の公表を促しているとのことなので、今年度の調査では公表率が上がると期待しています。(事務局より:2020年度の公表率は48%とのご連絡をいただきました)

 ストレスのたまる調査方法ではありますが、今年度はコロナ禍でも調査が実施でき、この調査方法のメリットとともに、団体の活動の意義も見出すことができました。

消費者団体からの活動報告②

川原 敬伸さん(北海道生活協同組合連合会)

 LPガスについては、以前から多くの意見・疑問が寄せられており、2015年から北海道の3団体で発足した「LPガス問題を考える会」で調査や働きかけを行っています。これまで、道内91社318枚の請求書の集計・分析や、北海道大学生協とともに賃貸アパート・マンション98棟の価格実態調査などを行い、同一地域・同一事業者間でも料金格差が大きい(基本料金は3.5倍、従量料金は2.5倍前後)ことが分かりました。さらに価格格差が生まれる要因として、LPガス業界には顧客確保の見返りとして建設業者等からの配管・ガス機器等の無償配置の慣例があり、その費用はガス料金に上乗せし、利用者には十分説明していない実態があることも解明されました。この間、無償配管、ガス機器の無償貸与などの問題は改善されていません。都市ガスの整備が見込めない北海道では、LPガスはなくてはならない重要なエネルギーだからこそ、ガイドラインに沿って取引透明化や標準的料金メニューの公表などを進め、消費者から選ばれるエネルギーになってほしいと思います。消費者はこれからも調査を通して、LPガス取引の問題について、社会に広くアピールしていかなくてはなりません。ガイドライン策定から3年経過した今の状況から考えると、さらなる運用強化や法制化による義務化を検討する時期なのではないかと考えます。行政は、国交省や消費者庁、また都道府県とも連携し、このことについて、前向きに検討して欲しいと思います。

活動の詳細は学習パンフレットとしてまとめられています。

資源エネルギー庁からこの間の取り組み報告

橋爪 優文さん(経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課企画官(液化石油ガス産業担当))

 毎年実施している調査から、1事業者当たりの料金メニュー数は事業規模が大きい事業者ほど多い傾向があることが分かりました。その要因は事業者の合併によるものもあり、今後計画的に集約されることが望ましいと考えています。2019年度は、それまでの郵送方式に代わり、ウェブで調査を実施したところ、中小の事業者からの回答が減りました。そのため結果の傾向が変わった(改善されている方向に振れている)のではないかと感じています。

質疑応答

 質疑応答では、標準価格の公表について、資源エネルギー庁の調査結果と神奈川県消費者の会連絡会の実態調査結果との乖離について、店頭でのみ標準価格を開示していることや、ホームページを見られない(高齢者など)への対応について、料金開示状況を高めていくための(あるいは事業者にガイドライン遵守させるための)施策について、資源エネルギー庁と国交省との連携について、などのやり取りがありました。また全国消団連に、基本調査項目を整理し、このLPガス料金問題について調査活動を全国的に広げていくとよい、とのご意見もありました。

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