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高齢化・情報化・コロナ禍(3K)の消費者被害をどう救済するか
開催報告

 消費者庁では、2019年12月から「消費者契約に関する検討会」を開催し、消費者契約法の改正を視野に入れた検討が行われています。検討会の中では、コロナ禍における結婚式やレジャー施設のキャンセル問題など、情勢を踏まえた新たな課題についても論議されています。

 「消費者契約法の改正を実現する連絡会※」は、消費者契約法の改正の実現に向けて、学習活動や国への提言などを行っています。改正に向けた運動の一環として、2月1日、「消費者契約法の改正を実現する連絡会」、「ストップ消費者被害!〜消費者契約法改正運動〜」、全国消団連の3者共催で、近年増加している高齢化、情報化、コロナ禍における消費者被害事例を題材に、河上正二さん(青山学院大学教授、前消費者委員会委員長)をお招きして勉強会を開催しました。

※「消費者契約法の改正を実現する連絡会」:消費者団体、弁護士、消費生活相談員などで構成され、公正な消費者取引の実現と消費者被害の適切な予防・救済に資する消費者契約法の改正の実現に向けて活動しており、全国消団連も当連絡会に参加しています。

【日時】2月1日(月)18時00分〜20時30分〔Zoomを活用したオンライン学習会〕

【講師】青山学院大学教授 河上正二さん

【参加】約180人

概要(事務局による要約)

■事例1 高性能なスマホの契約をめぐるトラブルについて

(問題提起:弁護士 増田朋記さん)

 スマートフォンの機種変更のために店舗へ出向いた。スマートフォンをあまり利用しないため、通話、データ量ともに一番安いプランを希望すると、タブレット端末とのセット契約が必要と言われた。タブレット端末は不要と断るもセット販売が必要と言われ、ヘッドホン、置き型充電器も渡された(料金説明なく無料と認識)。後で、請求額が高額となったため驚いて確認すると、50GBのデータ通信プランの料金が一時請求されていることがわかった。また、スマートフォンとタブレット端末は別々の契約が可能であり、ヘッドホンと置き型充電器は分割払いの有料であることも判明した。(契約当事者:60歳代 女性)

◇事例での問題点は(増田)

 「タブレット端末とのセット契約が必要」との点は、本来単独で締結可能な通信契約の取引条件について事実と異なる説明があったため、不実告知ではないかと思います。しかし、口頭では記録に残らず、契約書に記載がある場合は読まなかった消費者に落ち度があると指摘される可能性があります。また、スマートフォンをあまり利用しないため、通話、データ量ともに一番安いプランを希望したのに大容量のデータ通信プランとされた点については、過量契約ではないかと思います。しかし、事業者からは不必要であるという消費者側の事情を認識していない等と反論される可能性があります。

 消費者庁での現在の検討では、消費者契約法の改正の方向性として、困惑類型のうち強迫類似型として、社会通念に照らし信義則に反して消費者が契約した場合の取り消しなどが提案されています。また、消費者の判断力が著しく低下していること、契約が消費者の生活に著しい支障を及ぼすことを知りながら勧誘した場合の取り消しなどが提案されています。

◇問題点の解決に向けて(河上)

 消費者契約法の位置づけとしては、民法とその特別法である特定商取引法の間のように捉えており、ある程度要件が抽象的になることは避けられないと考えます。消費者契約法の10条にあるように、信義則に反して行われた契約は無効であるといった、包括的な規定がよいと考えています。規程の要件については、事業者の主観を要件とするのではなく、客観的な行為態様に着目するのが望ましいと思います。現行法でも対応できるとも思いますが、立証でつまずく可能性もあります。

■事例2 占いサイトのトラブルについて

(問題提起:弁護士 志部淳之介さん)

 スマートフォンで「無料鑑定」との広告を見て、占いサイトに生年月日を登録した。その後、鑑定士から「無料で鑑定する」とメッセージがあり、鑑定してもらうことにした。私を守ってくれる三つの「徳」である、「健康の徳」「人間関係の徳」「金運の徳」を授けてもらえるとのことだった。最初の二つの「徳」は早めに授かったが、「金運の徳」をなかなか授かることができず、無料鑑定期間を過ぎてもやりとりを続けてしまった。毎日のようにコンビニエンスストアでプリペイド型電子マネーのギフトカードを買って、メッセージを送信するためのポイントを購入した。お金の支払いが難しくなり、途中で鑑定をやめようとすると、「今やめるとこれまでのやりとりのすべてが無駄になる、もう少しだ」と引き止められて続けてしまった。また、鑑定士は病気で余命僅かとのことで、その師匠等も登場し、複数の鑑定士とやりとりをするようになった。4か月で300万円を支払ってしまい、「騙されているのではないか」と家族に言われて目が覚めた。返金してほしい。(契約当事者:50歳代 女性)

◇事例での問題点は(志部)

 「健康の徳」「金運の徳」という超自然的な「徳」が得られるという勧誘内容で惑わされた結果、合理的な判断ができない状況で契約してしまうという意味での「幻惑」を作出する行為により、このような不必要な契約を締結しています。このような幻惑行為は,契約締結に関する消費者の自由な意思決定を阻害するという点で「困惑」と同じであり、契約の取り消しが必要です。現行法にも不安をあおる告知等の取消し規定が存在しますが、契約をすれば将来の利益が得られることを示す勧誘事例では、「不安をあおる」要件の該当性が文言上はっきりしません。このような「不当に期待をあおる」行為においても、取消の対象となることが明確な法整備、あるいは逐条解説での解釈の明示が必要です。

◇問題点の解決に向けて(河上)

 こうした事例における契約取り消しは、現行法がどこまで適用されるか難しい問題です。ただ、不安をあおる告知が期待をあおることにもなることを考えると、「不当に不安もしくは期待をあおり〜」といった表現での規定でもよいのではないかと考えます。

■事例3 キャンセル料をめぐるトラブルについて

(問題提起:弁護士 野々山宏さん)

 令和2年3月、17時ごろに新婦と一緒に結婚式場を見学した。2時間後に見学を終え、見積もり(約300万円)を出してもらった。年内に挙式したかったが、年内の空きは少ないと言われた。持ち帰って検討すると提案したが、「本日中の契約でないと難しい。年内はすぐに埋まってしまう。本日決めるなら代金の特別割引をする」と言われた。他の式場も考えており、すぐに決めるのは不安だったので新婦の親に相談しようとすると、「電話はしない方がいい」と止められた。1時間以上、「本日中に契約する方が良い」と説得され、年内に挙式をしたかったので契約書の内容によく目を通す余裕もなく、申込金20万円を新郎のクレジットカードで決済し、令和2年10月の挙式を申し込んだ。手続きを終え、結婚式場を出たときには21時ごろになっていた。これまでに料理の内容等を話し合ってきたが、特に準備は進んでいなかった。新型コロナウイルスのため緊急事態宣言が出され、その後解除されたものの他県に住む親族が参加できない可能性が高くなってきた。1年間は延期できると言われているがコロナ禍が長期化しているので、令和2年6月にキャンセルを申し出たところ、自己都合なので規定によって追加でキャンセル料が80万円発生すると言われた。自己都合によるキャンセルではないのに、キャンセル料が申込金と併せて100万円とは高すぎるのではないか。(いくつかの事例をまとめています)

◇事例での問題点は(野々山)

 消費者が勧誘場所から退去する意思を示したのに退去させなかった、「退去妨害」があったと考えられないでしょうか。加えて長時間の説得の中でやむなく契約しているので、困惑型の「浅慮」として契約したと言えないでしょうか。改正では、浅慮での行為の取り消しや時間制限などの規定を設けることが必要です。

 また、コロナ禍により実施困難との判断で意図しないキャンセルを申し込んだところ、高額なキャンセル料を求められる事例が報告されています。6月時点では、緊急事態宣言は解除されていましたが、感染状況などから高齢者を含めた移動は危険であり、事業者としては履行可能でも顧客である消費者からは社会通念上結婚式を実施は困難な状況と評価できるとして、民法の危険負担の規定で支払い義務はないと解する余地があります。

 仮に自己都合と評価されるとしても、金額が問題となり、キャンセル料条項のうち、平均的な損害の額を超える部分は無効となります。

◇問題点の解決に向けて(河上)

 今回は申込金としての支払いがあり、解約手付の推定を受けると、契約から解放されることになるのではないかと考えます。また、夜間の長時間勧誘に加えて退去妨害もあったということで、現行法でも取り消しができると思います。この場合、一年以内の取り消し期間の制限に注意する必要があります。また、消費者を心理的に追い込み契約をせざるを得ない状況とすることには問題があると思います。浅慮の判断要素を示すことが必要です。

 コロナ禍におけるキャンセルの問題については、自己都合か否かの解釈により危険負担の適用の可否が問題となるかと思います。緊急事態宣言の解除後のキャンセルについては、社会通念上、自己都合解約ではないと考えられます。事業者のキャンセル料については、損害に関してゼロの推定が働くと考えるべきです。平均的な損害の額は、消費者側では立証が難しく、本来であれば穴を埋められないという証拠を事業者側が用意すべきだと思います。つまり、立証責任の転換が必要であると考えています。

以上

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