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6月セミナー

「自治体戦略2040構想」から今後の地方消費者行政を考える 報告

 全国消団連では「地方消費者行政プロジェクト」を立ち上げ、自治体消費者行政の充実強化のために調査活動や提言活動に取り組んでいます。地方消費者行政の基盤の強化として、地方消費者行政交付金制度の改善や国による恒久的な財政措置を講じる必要があるとの意見の提出を行っています。あわせて、地方の消費者行政機能の戦略的強化も必要であると考えています。

 今後、我が国が本格的な人口減少と高齢化を迎える中、住民の暮らしと地域経済を守るためには、自治体が行政上の諸課題に的確に対応し、持続可能な形での質の高い行政サービスを提供する必要があります。2040年頃には、高齢者人口が最大となります。総務省の「自治体戦略2040構想研究会」では報告がまとめられ、「地方制度調査会」でも、自治体が抱える行政課題や早急に取り組むべき対応策についての検討が行われています。

 今回は、地方消費者行政が抱えている様々な課題について検討を深めることをねらいとし、総務省で検討されている「自治体戦略2040構想」などについて、学習を行いました。

【日時】2019年6月21日(金)12時30分〜14時00分

【会場】主婦会館プラザエフ 5階会議室

【講師】宍戸常寿さん(東京大学大学院法学政治学研究科教授、第32次地方制度調査会委員)

【参加】40人

【スケジュール】

12:30   開会
12:35   講演 「地方制度調査会」と「自治体戦略2040構想研究会」報告の概要
13:35   今後の地方消費者行政のあり方について意見交換
14:00   閉会

【主な内容】

1.議論の経緯

 「自治体戦略2040構想研究会」(2017年10月〜2019年7月)では、今後、我が国が本格的な人口減少と高齢化を迎える中、高齢者(65 歳以上)人口が最大となる 2040 年頃の自治体が抱える行政課題を整理した上で、バックキャスティングに今後の自治体行政のあり方を展望し、早急に取り組むべき対応策を検討しました。「地方制度調査会」では、この研究会の報告を受け取り、さらに議論を深めています。

 「自治体戦略2040年構想」は、これまでの議論とは異なり、2040年の人口動態を前提に、日本社会や地方自治体がその頃どうなっているのか、どういうことが起こるのか、そのために今から何をするべきなのか、の構想を立てたものとして注目されています。

2.「自治体戦略2040構想研究会」報告から

 人口の動向や市区町村の変動を見た上で、6つの個別課題(1子育て・教育、2医療・介護、3インフラ・公共交通、4空間管理・防災、5労働力、6産業・テクノロジー)を整理し、迫り来る内政上の危機の対応(1若者を吸収しながら老いていく東京圏と支え手を失う地方圏、2標準的な人生設計の消滅による雇用・教育の機能不全、3スポンジ化する都市と朽ち果てるインフラ)、そして、新たな自治体行政の基本的考え方を示しました。

新たな自治体行政の基本的考え方のポイント

 議論の前提になっているのは、労働力(特に若年労働力)の絶対量が不足すること、人口縮減時代のパラダイムへの転換が必要になること、です。

①スマート自治体への転換
②公共私によるくらしの維持
③圏域マネジメントと二層制の柔軟化
④東京圏のプラットフォーム

3.第32次地方制度調査会の審議から

 地方制度調査会は、学識経験者による小委員会を設け、ヒアリングや現地調査などの議論を積み重ね、総会に報告をしています。委員の現地調査では盛岡市の事例として、8市町村の広域連携による消費者行政の取り組みの報告がありました。現在は、中間とりまとめを作成しているところです。

消費者行政の観点で、論点として考えられることについて

  1. 2040年からのバックキャストにおけるマクロな問題関心として、2040年のかなり正確な予測を基に新しい議論をしています。消費者行政に関する視点として、「消費者行政は他の行政サービスの1つという位置付けになっていること」「消費者行政を特別扱いする固有の事情があるか?」「Society5.0と格差の問題として、AIやIoTの活用でこれから起こる消費者問題に対応することや、都心と地方との格差があること」があります。
  2. 消費者行政の圏域化をどう考えるか?の視点として、「積極面として専門性があること、行政のエキスパートが引っ張ってくれること」「消極面として相談窓口が身近に確保されないかもしれないこと」「課題として、国(消費者委員会・消費者庁)との連携が取れるか」があります。
  3. 公・共・私のベストミックスと消費者行政では、「消費者団体の位置付け」「消費者行政の担い手の育成」「地方議会と消費者としてもっと消費者問題に関心を持つこと」などがあります。

■主な質疑応答

Q:2040構想の「圏域」とは、市町村広域合併とどう違うのか。

A:総務省が考えているのは、合併することではなく、広域連携を県よりも小さく、市町村よりも大きなレベルで行うこと。ある町の行政サービスを他の自治体の住民も使えるようにする。また別の行政サービスは別の自治体が提供することを可能にするといった、行政機能をシェアするような方向での制度ができないか、議論している。

Q:圏域のマネジメントを考えた時、地方自治の関係で住民自治、団体自治はどのように整理されるかが、大きな論点かと思う。住民との権利保障はどうなるのか。誰が責任を負うのか。

A:本来はいまごろ、総務省で具体的な制度設計論に入っていなければいけないと思う。ひとつのやり方としては、それぞれの地方公共団体の首長が集まる場で議論することであるが、強い自治体との格差や、住民自治が損なわれる問題が起こる可能性がある。また、圏域全体の住民の意向をダイレクトに反映してガバナンスして運営していくことと、国や県が手続きが回っているかチェックする仕組みを作り、組み合わせてガバナンスとして回していくことも考えられる。問題は、圏域をひとつの地方自治法上の地方公共団体として位置付けるのかであるがが、まだ総務省もそこまで踏み切れていないと思う。
この問題については、首長の声や住民の声を聞くことが重要であると思う。政府の会議体で考えていることについて、疑問や批判も含め意見を出すことが必要と思う。

Q:「消費者行政を特別扱いする固有の事情があるか?」について、消費者庁・自治体も消費者団体もまだこのことを打ち出しきれていない。消費者庁で「消費者庁設置以降の主な地方消費者行政事務の変化」などの資料を出して、このことを打ち出そうとしているが、「特別扱いする固有の事情」としては弱いか。

A:消費者行政は頑張ってほしいと思うが、弱い。固有の事情の打ち出し方が「成年年齢引き下げ」とかならまだしも、「消費者への情報提供」「国際化に伴う在日・訪日外国人への対応」といったものでは、他の行政分野も同じである。議論をし直し、消費者基本法をより強力な形で改正していくような議論が必要かと思う。

Q:消費者庁が消費者被害・トラブル額を年間5〜6兆円と試算している。およそ、GDPの1%に相当する。日本の農業の国内生産額は8兆5000億で、支える巨大官庁として農林水産省がある。対して、消費者庁は300人くらいの小さな役所であって、考えるとアンバランスだと思うが、こうした議論は特別扱いする事情にはならないか。

A:そういう議論は非常に有効だと思う。地方の消費者行政をしっかりすることで、その5兆円が別のもっと価値のあるものに化ける。費用対効果を考え、地方の消費者行政をしっかり行った方が余程よいとなれば、社会的合意は得られる可能性がある。ソーシャルビジネス的に消費者行政を語ることは有効であると思う。

以上

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