消費者庁「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」は、消費者法研究者を中心としたワーキンググループを設けて、5月11日に今後の議論の土台となる「論点整理」を取りまとめました。現在、「論点整理」をもとに、親検討会で検討が再開しています。
そして、親検討会での論議の進行に併せて、「論点整理」の内容について意見を作成し、6月19日に「消費者担当大臣、消費者庁長官、消費者委員会委員長、国民生活センター理事長」に提出しました。
2026年6月19日
現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会
ワーキンググループ「論点整理」に対する意見
一般社団法人 全国消費者団体連絡会
消費者法制度のパラダイムシフトに向けた検討については、消費者庁「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者検討会」、内閣府消費者委員会「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」と議論が重ねられてきました。そして現在、消費者庁は「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会(以下、検討会)」を設けて、消費者契約法における具体的な規律や対応の検討を進めています。
検討会では「ワーキンググループ」が設置され、法学者による議論が行われ、5月11日に今後の議論の土台となる「論点整理」が公表されました。この「論点整理」では、消費者の多様な脆弱性に着目し、これに対応する新たな規律の在り方を検討している点は、現代の消費者取引の実態に即したものとして評価できます。
もっとも、消費者の脆弱性への対応については、個々の消費者の属性や状態のみの問題として捉えるものではありません。むしろ、消費者と事業者との間に存在する情報及び交渉力の構造的な格差に配慮し、誰もが公正な市場のもとで安全・安心に取引できる環境の中で、商品・サービスを購入できることこそが必要という観点から位置付けることが重要であると考えます。
よって、個々の消費者保護の問題にとどまらず、公正で健全な市場を確保するための制度設計として検討されるべきものです。
「論点整理」の方向性に概ね適切なものと考えますが、今後の検討において特に留意すべき点について、以下のとおり意見を述べます。
第1.消費者の多様な脆弱性への対応として必要な規律
【意見1】
消費者の多様な脆弱性に着目し、事業者や関係する主体に配慮を求める行動原則を整理する方向性は妥当であると考えます。この行動原則として、「配慮しないことが不適切なもの(ミニマム・スタンダート)」と「配慮することが望ましいもの(ベスト・プラクティス)」という規定を設けることに賛成します。特にミニマム・スタンダードについては、事業者による違反行為の禁止を明確にすべきと考えます。また、重大な不利益が生じた場合に契約の拘束から消費者を解放し、予防の観点から民事ルールと行政的手法を組み合わせて対応する考え方は、適切な方向性として評価いたします。その上で、配慮義務及び救済制度については、消費者の適切な判断を困難にしないことや生活状況を著しく悪化させないこと等の内容が、制度として誰にとっても理解しやすく、かつ実際に機能するよう、適用場面、要件及び効果について具体的に整理されることを望みます。
【意見の理由】
配慮内容を整理するとともに、事業者の不当行為の有無や主観に依らず、消費者に深刻な結論を及ぼした契約から解放することを可能とする枠組みを示したことは評価できます。
もっとも、消費者被害は多様な要因が複合的に影響して発生するため、事業者に対する抽象的な行動原則のみでは十分な対応が困難です。配慮義務や救済制度について、誰にとっても理解が可能であり、具体的な規律として整備することが重要です。
民事ルールとして検討された「消費者の解除権」は、一定の要件の下で契約を解消できる点において、特に脆弱な状況に置かれた消費者にとって、利用可能性の高い救済手段になると考えます。今後の検討に当たり、慎重かつ明確に検討されることを望みます。
さらに、消費者本人だけではなく、消費者に依拠する者(例えば、配偶者及び親族等)の生活への影響に配慮する観点も、指針等で具体化が図られることを希望します。
第2.消費者契約の各過程に関する必要な規律
【意見2】
サブスクリプションサービス等継続的契約の普及に対応し、解約妨害の禁止や離脱する機会の確保等の規律を整備する方向性は適切であると考えます。また、消費者が情報、時間、アテンションを提供する取引について、既存の配慮規定により対応するとの整理も妥当であると考えます。その上で、消費者が実際に契約から容易に離脱できるよう、具体的かつ実効的な制度とするとともに、契約内容や離脱条件等が消費者にとって分かりやすく整理されることを希望します。
【意見の理由】
解約妨害の禁止、合理的な離脱方法の提供、契約更新時の通知等を検討したことは、継続的契約の普及及びサブスクリプション型取引の実態に対応するものとして評価できます。
特に、解約手続の複雑化や不透明性は消費者被害の大きな要因となっていることから、消費者が合理的な方法で契約から離脱できる状態を確保することが重要です。また、契約当事者の死亡時等の対応については、事前の説明に加え、実際に手続を担う家族等にとっても分かりやすい形で整理される必要があります。
さらに、情報・アテンション等を提供する取引について、既存の配慮規定により対応するとの整理は、消費者の意思決定に適切な判断ができるとの観点から合理的です。他方で、デジタル取引の進展に伴う新たな課題にも留意し、消費者庁「デジタル取引・特定商取引法検討会」と連携して、隙間のない規制を検討する必要があります。これらの規律は、消費者の適切な選択を促すとともに、取引の透明性を高め、不適切な取引の抑止を通じて、公正な市場の形成にも資するものであると考えます。
第3.「解約料」の実態を踏まえた実効的な仕組み
【意見3】
解約料に関する規律について、消費者側の立証困難に対応し、事業者の立証責任の在り方等を見直す方向性、並びに解約料に関する説明を充実させる方向性は適切であると考えます。そのうえでワーキンググループでは、十分な結論にまで至らなかったとして、A案とB案の二つが併記されたことについては、消費者にとって平均的損害の額を立証が困難であることを考慮して、十分に検討することを望みます。損害の根拠に関する資料・データは事業者が保有しており、消費者がそれらを確認することは不可能です。従って消費者に立証責任を負わせるのではなく、事業者が立証責任を負うとすべきです。
解約料の合理性について、消費者にとって理解しやすく予見可能な基準とするとともに、十分な情報提供により適切な選択が可能となる仕組みとすることが重要です。
【意見の理由】
現行の「平均的損害」基準の限界や消費者側の立証困難の問題を踏まえ、事業者の立証責任の見直し等の複数の方策を示しており、実務上の課題に対応するものとして評価できます。
解約料は平均的な損害の額が基準とされていますが、原状回復賠償に相当する部分とすることが適切です。ただし、消費者にはその立証は困難であるため、事業者が負担をすべきであると考えます。
また、解約料に関する情報提供の不足がトラブルの一因となっていることから、説明内容の充実により、消費者の理解を促進し、適切な契約選択や円滑な離脱を可能とすることが大変重要です。
第4.横断的な検討事項
【意見4】
契約条項の有効性判断に、一定の基準を満たした場合に正当とする仕組みについては、消費者の予見可能性の確保との関係に留意しつつ慎重に検討することが望ましいです。また、法目的においては、消費者の脆弱性への対応に加え、公正な市場の確保という観点を明確に位置付ける方向性は重要です。そのような整理を打ちだすことで、消費者の定義について見直しを行わないとする方向性は妥当であると考えます。
【意見の理由】
契約条項の正当化要素を組み合わせる仕組みは、事業者のソフトローによる柔軟な規律を可能とする一方で、消費者の権利義務に直接的な影響を及ぼします。そのため、制度の明確性や予見可能性が確保されない場合には、消費者にとって契約内容の見通しが困難となるおそれがあり、慎重な検討が必要です。
他方で、消費者の脆弱性と関係主体の連携を踏まえた制度設計は、消費者が安心して取引できる環境の整備に資するものです。とりわけ、消費者保護は単なる個別救済にとどまらず、市場における情報・交渉力の格差を是正し、不適切な取引を抑止することを通じて、公正で健全な市場を確保するという役割を有しています。このため、法目的において当該観点を明確に位置付けることが重要です。
また、消費者契約において考慮すべきは消費者側の脆弱性であることから、「消費者の脆弱性への対応」を目的規定に加えることで、定義規定の見直しを行う必要性はないと考えます。
以上