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個人情報保護法改正案への意見

 2025年12月24日のデジタル行財政改革会議で、内閣総理大臣は2026年通常国会に個人情報保護法改正案の提出を指示し、個人情報保護委員会は2026年1月9日に「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」を論議して確定し、最終的に年度の替わった4月7日に、改正法案が閣議決定されました。今後、国会での法案審議が始まります。

 改正法案が「個人情報保護法3年見直し検討会報告書」にある消費者保護、被害救済、権利回復に関わる内容を正しく反映しておらずいくつもの抜け漏れがあることから、全国消団連としての意見を作成しました。

 意見書は連名を募り、八団体からお返事いただきました。そこで、九団体の連名として、4月27日に「内閣総理大臣(個情委所管)、デジタル大臣、消費者担当大臣、衆参両院の内閣委員会委員長と消費者問題に関する特別委員会委員長、個人情報保護委員会委員長、デジタル監、消費者庁長官、消費者委員会委員長、国民生活センター理事長」に発送いたしました。

(宛先)内閣総理大臣(個情委所管)、デジタル大臣、消費者担当大臣、衆参両院の内閣委員会委員長と消費者問題に関する特別委員会委員長、個人情報保護委員会委員長、デジタル監、消費者庁長官、消費者委員会委員長、国民生活センター理事長

2026年4月27日

個人情報保護法改正案への意見

一般社団法人 全国消費者団体連絡会
一般財団法人 日本消費者協会
神奈川県消費者団体連絡会
群馬県消費者団体連絡会
消費者団体千葉県連絡会
主婦連合会
全大阪消費者団体連絡会
前橋市消費者団体連絡会
山梨県消費者団体連絡協議会

 2026年(令和8)年1月9日に公表された「個人情報保護法制度改正方針」(以下、R8方針)は、4月7日に個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案として閣議決定されましたが、個人の権利利益保護の観点から多くの重要課題が存在します。本意見書では、「個人情報保護法3年見直し検討会報告書」(以下、R6報告書)で示された論点と比較しながら、制度設計上の問題点を整理し、今後必要となる改善方向を述べます。
 総論として、R8方針と改正法案はR6報告書が示した「デジタル社会における個人の権利保障」という基本方向から大きく後退しています。課徴金制度・差止請求制度・集団的救済制度という権利保護の基盤的仕組みが弱体化または消滅し、本人同意制度や要配慮個人情報の扱いにおいても緩和が進んでいます。AI・プロファイリングに関連する現代的な権利侵害への対応も不十分であり、制度全体の実効性に強い懸念があります。

 第一に、課徴金制度の後退です。R6報告書では、課徴金の役割を「不当利得の剥奪」と位置付け、悪質性ではなく利得の有無で判断するべきと明確に整理していました。「安全管理措置義務違反」についても、本来投資するべきコストを回避している点で利得が生じるため対象とし得ると分析されていました。しかしR8方針と改正法案では課徴金対象が「悪質な事業者」に限定され、安全管理措置義務違反は対象外となりました。漏えいの多くは杜撰な安全管理に起因するため、この後退は大規模漏えいへの抑止力を大きく弱める結果となっています。

 第二に、差止請求制度の削除です。R6報告書では、不特定かつ多数の消費者の個人情報が不適正に利用される場合など、適格消費者団体による差止請求制度が不可欠と整理されていました。違法なデータ利用を迅速に停止する仕組みは、被害拡大を防ぐうえで重要な役割を果たします。しかしR8方針と改正法案では制度案が完全に削除され、導入見送りの記述となっています。これでは、現行制度で最も脆弱な領域が放置されることになります。

 第三に、被害回復制度(集団的救済)が消滅しています。個人情報被害の多くは少額多数であり、被害者本人が訴訟に踏み切ることは現実的ではありません。R6報告書ではこの点を踏まえ、集団的救済制度が不可欠であると整理されました。しかしR8方針と改正法案では制度化の方向性が示されず、被害者が救済されない構造が続く危険があります。

 第四に、データの利活用に関する本人同意の原則が弱体化しています。R6報告書では、同意の形骸化を防ぎ、本人関与を強化する必要性が指摘されました。しかしR8方針と改正法案では、AI開発・統計作成や「権利利益を害するおそれが少ない場合」など、幅広い名目で同意不要例外が拡大されています。要配慮個人情報についても同意不要とされ得る点は、本人の知らないところでセンシティブ情報が扱われる危険を高めます。

 第五に、漏えい通知義務の緩和です。R8方針と改正法案では、本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合は、本人への通知不要となっています。漏えいの早期把握は二次被害防止の基盤であり、通知不要範囲の広がりは制度目的と整合しません。

 第六に、AI・プロファイリング・アルゴリズムによる差別的取扱いや不利益誘導に関する規制が欠落しています。R6報告書では、属性推定やスコアリングなどが新たな権利侵害を生むとして対策の必要性が整理されていましたが、R8方針と改正法案では対応が限定的であり、現代的リスクへの対策が不十分です。

 第七に、子どもの個人情報保護の不十分さが挙げられます。「個人情報保護法 3年見直し検討会」ではあまり議論されず、R6報告書では子どもの保護について検討を進めるとまとめられ、「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について(R7.3.5)」においては、子どもの個人情報は最善の利益を優先的に考慮すべきとされました。R8方針と改正法案では16歳未満の個人情報について、法定代理人関与を明文化し、最善の利益を考慮すべき責務規定を新設することを盛り込みましたが、成人年齢と対比して16歳未満を対象としたことや法定代理人の選定について論議が不十分ではなかったかと考えます。

 第八に、要配慮個人情報の扱いが緩和されている点も問題です。本来最も慎重に保護するべき情報であるにも関わらず、AI・統計名目で同意不要扱いとされる内容となっています。差別的利用を防止する観点からも再検討が必要です。

 第九に、私たちに寄せられた、消費者からの異議申し立てについて述べます。スーパーマーケットのセルフレジに顔モニターが設置されているにもかかわらず、顔データの取得有無を事業者に尋ねても回答を拒否されたというものです。来店者がモニターの前に立つだけで顔が映り込み、黙示的同意とみなされ得る状況に不安を感じたこと、顔データは銀行口座認証などに利用される極めて機密性の高い情報であり、一度取得されると利用の実態が把握できないということを非常に懸念される声です。
 改正法案では、「顔特徴データ等」の取り扱いについての規定を設けますが、この問題は本人同意の透明性の欠如、要配慮個人情報としての生体情報保護の不足、AI・プロファイリングへの規制欠如、差止請求制度の不存在など複数の制度的課題に関わっています。よって、個人情報保護法を改正するのであれば、即時破棄の場合も含めて取得の有無を回答する義務、生体情報の厳格な規律、AI利用時の説明義務、差止請求制度の導入などが不可欠です。

 以上の通り、R8方針と改正法案は個人情報保護法の目的である「個人の権利利益の保護」と整合しているとはいえず、制度の抜本的見直しが求められます。今後の改正に向けて、課徴金制度の再構築、差止請求制度の創設、集団的救済制度の導入、同意不要例外の厳格化、要配慮情報・子ども情報の保護強化、AI・プロファイリング規制の整備、漏えい通知義務の強化など、現代的リスクに対応した制度への転換が必要です。
 個人情報保護委員会は、個人情報保護法3年見直し検討会で初めて、消費者団体を論議の場に加えましたが、最終的な改正法案の確定に向けては、消費者団体の声を求めませんでした。これからの個人情報保護法改正検討の場には、個人データ利活用の直接的な恩恵を受ける側だけでなく、必ず消費者団体の参加を位置づけ、その声を活かすことが重要であると考えます。

以上

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