昨年8月から続いているコメ問題では、供給不足、価格上昇、備蓄米の放出の遅延、生産調整による需給バランスなどの課題が浮かび上がりました。この間全国消団連では、この間コメの価格と供給等の動向について会員団体の協力を得ながら調査を続けてきました。
2025年9月となり、2025年産の新米が市場に出回り始めましたが、深刻な水不足や虫害など、今年度産米の動向も楽観視できない状況です。また、キャンセルが発生したとはいえ、備蓄米の在庫量は大幅に減少しています。今後消費者として安心してコメの利用を継続できるようにする必要があります。
全国消団連では、この間のコメに対する国の対応に対して消費者と生産者の生活の安定を求める観点から、日本国政府に対してコメの政策に関する意見を述べます。特に2025年産米供給が本格化するにあたり、早急に対策を講じることについて強い要望を行うため、理事回議を経て以下の通り、9月12日に内閣総理大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、消費者庁長官、内閣府消費者委員会委員長宛に意見・要望書を提出しました。
2025年9月12日
一般社団法人 全国消費者団体連絡会
事務局長 郷野 智砂子
「安定供給と価格の適正化などコメ政策についての改善を求める意見書」
全国消団連は、この間のコメに対する国の対応に対して消費者と生産者の生活の安定を求める観点から、日本国政府に対してコメの政策に関する意見を述べます。2025年産米供給が本格化するにあたり、早急に以下の措置を講じることを強く要望します。
T.コメの流通量と価格に対する消費者の不安解消に向けた施策
1.コメの流通及び価格高騰の原因検証、供給不足・価格上昇への対応について具体的な施策を計画的に立て、広く消費者に周知してください
猛暑による高温障害の影響で精米の歩留まりが悪化し、店頭販売量が減少しました。また、消費者の購入量増加やインバウンド需要拡大が価格高騰を招いたとされます。しかし、農林水産省は需要減少の従来傾向を見直さなかったため状況の認識が遅れ、備蓄米の放出も遅れる結果となりました。
農林水産省は、生産現場や多様化が進む米流通の現状について継続的に分析を進め、米不足の原因を徹底解明し、価格高騰への対応策とともに安全で安心な供給体制の再構築を進めてください。また、継続的な検証と適切な対策についても講じてください。
2.2025年産米の需給見通しと価格情報を早期かつ定期的に公表してください
今年の猛暑や雨不足、線状降水帯の影響で、コメの流通と価格が不透明な状況が続いています。このため、迅速かつ実態を踏まえた主食用米の需要見通しの公表を求めます。
農林水産省は、速報値で、今年の主食用コメの作付面積は過去5年間で最大の136万3,000ha、収穫量は前年より56万t増の735万tとの見込みを公表しました。しかし、猛暑や渇水、冠水被害や害虫被害などの影響が懸念されています。例年7月下旬に示される需要見通しの公表も見送られる中で、消費者としての不安は募るばかりです。需給の調査・把握は必要です。今後これまでの算定方法を見直した上で、新たな方法で改めて需給見通しを公表するとのことですが、現状を検証して、実態を踏まえた需要見通しを早期に公表してください。
3.消費者に不安を与えないよう、正しい情報を分かりやすく発信してください
昨年8月、コメの供給量に関して、社会の中で消費者の不安をあおるような情報が発信され拡散されて、社会的な不安感が醸成される中、政府からは、コメの供給量と生産量に関する情報が小出しに公表されました。その結果、消費者はそれらの情報に左右されて冷静な判断を取ることが困難となり、自己防衛のための買い急ぎや過剰な購買行動などの事案が見受けられるに至りました。このような事態を防ぐためには、政府として、発生した事態が何を原因としたのかについて正確かつ正直に発信することが重要です。価格や品質、安全性に加えて、生産者の努力や米の価値についても伝えることが何より大切です。
併せて消費者に近い中小小売業者にも正確な情報を提供し、供給不足や価格上昇時に消費者が冷静に対応できる環境を整えるべきです。不安を解消する正確な情報を定期的かつ統一的に発信してください。
4. コメの価格と供給量の地域間格差の是正に向けた対応を検討してくださ
全国消団連は、2024年9月11日週から現在まで継続してコメの価格と供給等について調査しています。そして調査結果から、米の価格に地域間格差が存在することを確認しました。農水省の7月28日発表分でも、都道府県別の中央値の最高値は滋賀県で4,380円、最低値は茨城県と沖縄県で2,980円でした。
加えて、備蓄米については、地域毎の取り扱い開始時期に差が生じていました。
米価格の格差解消とともに、流通していない地域を発生させない、流通量が不足した場合に速やかに地域間での在庫の移送を行えるなど、公平で公正なコメの流通ルール化作りの促進を卸も含む事業者に働きかけ、政府として点検を進めてください。
5. 備蓄米の管理・放出を適正化し、迅速な対応を可能にする制度を再構築してください
2025年5月に備蓄米の放出について、随意契約方式に切り替え、古い備蓄米を大量に放出することで価格は下がりました。しかし2025年3月、入札方式で始まった備蓄米の放出には中小小売事業者の参加は困難で、流通の偏りや消費者への供給問題が生じました。
価格変動や市場の不透明さが続く中、公平で透明性のある供給を確保するためには、災害時等の有事以外においても放出を行うか否かを含めた判断基準の明確化や迅速対応が可能な制度整備が必要です。また、備蓄米制度の目的について改めて確認を行い、運用基準面での整備とあわせて、放出先に関する優先順位(病院、介護施設、学校、フードバンク等)についても検討をしてください。
さらに、円滑な流通と追跡調査の仕組みを構築すること、この二か年の混乱を教訓として、コメ流通不足発生に速やかに対応できる制度整備につとめ、迅速に実行してください。
併せて、価格鎮静化のために放出した備蓄米の補充について、確保計画を早急に立て、調達を進めてください。
U.食料安全保障と長期的視点
1.生産政策の見直しと拡大、価格調整機能を検討してください
日本政府は2025年8月、米の増産に踏み切ることを表明しました。従来の生産抑制政策を再評価し、食料安全保障を強化するため、新たな基本計画の重点に沿って確実な米の増産と国内生産力拡大が求められています。
課題として、農業従事者の高齢化や多様な担い手の確保、低収入、農地の確保、猛暑の影響が挙げられますが、生産者への直接的な支援も含めて、これらの課題解決のために長期的な計画を立案し、それを着実に実行してください。加えて、価格の安定については、「価格安定基金」の創設などを検討して下さい。農家が安心して農業を継続できるための農産物価格と、消費者が購入しやすい価格の両立は、持続可能性と食の安定供給のために不可欠です。
最後に、コメの供給面のみならず、日本の農業・環境を守るため、また食品の安全性と主食としてのコメを守るためにどのような対策を取るべきか、広く国民の声を聴きそのうえで国として真摯に対応することを心より期待します。
以上