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食中毒の原因となるカンピロバクターについて
最新知見と対策を学ぶための学習会を開催しました

 全国各地でカンピロバクターを原因とする食中毒の発生が増加しています。カンピロバクターとは、鶏肉(刺身・たたき・レバー等)の生食や加熱不十分な鶏肉の喫食で感染する代表的な食中毒菌で、少ない菌数で発症し、国内の細菌性食中毒の中では最も発生件数が多い原因菌です。その予防と対策が重要な課題となっている一方、消費者の認知度は必ずしも高いとは言えず、生食や加熱不十分な鶏肉の喫食に起因する食中毒事例が後を絶ちません。

 この学習会は、食中毒の最新動向から、カンピロバクターの基礎知識、予防対策などを学び、食中毒被害発生の抑止と、消費者の食品安全に対する認識を深める機会として実施しました。

【日 時】6月30日(火)14:00〜15:30
〔ウェビナー形式の配信による学習会〕

【参加者】367人

【内 容】①講演「カンピロバクター食中毒を防ぐために」
 講師:森田幸雄さん(愛知みずほ短期大学 特任教授)

②報告 「国産チキンの安全・健やか宣言(あんすこ宣言)」
 講師:今村彩貴さん(農林水産省 消費・安全局 食品安全政策課)

概要(事務局による要約)

「カンピロバクター食中毒を防ぐために」 

森田幸雄さん

●鶏肉消費の増加とカンピロバクター食中毒

 世界的にカンピロバクター食中毒の原因は食肉、とりわけ鶏肉に起因しています。鶏肉の消費量が多い国ほどカンピロバクター食中毒が多い傾向があります。牛や豚も無症状でカンピロバクターを腸管内に高率、高濃度に保有しています。しかし、食肉処理の工程で腸管内容物から肉への汚染を防ぐ対策が比較的実施しやすくなっています。鶏も無症状のまま高い確率でカンピロバクターを保菌しており、腸管内には多くの菌量のカンピロバクターが存在しています。鶏は体が小さいため、食鳥処理の過程で腸管が損傷しやすく、その際に肉の部分へ菌が付着するリスクがあります。また、牛や豚のように汚染部分を切除することが難しいため、調査によっては約2〜6割の流通鶏肉からカンピロバクターが付着しています。これは日本だけの問題でなく、世界各国でも共通の問題として対策がとられています。
 日本では近年、食肉の中で鶏肉の消費量が最も多くなっています。健康志向などを背景に鶏肉の需要は世界的にも増加していますが、経済的であることや食卓に取り入れやすい食材であることが理由と考えられます。
 しかし日本には古くから魚を生で食べる「刺身文化」が根付いており「新鮮なものは生で食べられる」という認識が残っているためか、鶏の生食に対するリスク感覚が薄れていると思われます。肉は魚とは異なり、新鮮であっても食中毒菌が存在することや、新鮮だから安全という考え方は誤りであることを、強く認識する必要があります。

●日本における鶏肉流通と生食文化

 日本のブロイラー(食肉用に大量生産される鶏)は48〜49日程度飼育されてから出荷されますが、海外では、より若齢で小さい個体が出荷される例も少なくありません。日本ではもも肉やむね肉などの部分肉として流通する割合が高く、歩留まり向上のため大型化が進んでいます。その一方で、ブロイラーは成長するにつれてカンピロバクターに感染する可能性が高くなることも知られています。当初は陰性だった鶏群でも、出荷前になると陽性率が上がる例が多く報告されており、長く飼育する日本の生産方式が保菌率の高さに影響している可能性があります。
 また、日本には南九州(鹿児島県や宮崎県)を中心とした鶏肉の生食文化があります。鶏刺しや鶏のたたきはもともと地域に根差した郷土料理であり、家庭で飼育した鶏(多くは卵を産み終わった鶏)を処理し、表面を炙るなどの工夫をして食べられてきた歴史がありました。しかし現在は「加熱用」として流通している鶏肉(ブロイラー肉)が、全国各地の飲食店などで生食や加熱不十分な状態で提供される例もあり、食中毒リスクが拡大しています。鹿児島県や宮崎県では、生食用の鶏肉に関する独自の衛生基準や目標が設けられており、カンピロバクター、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、糞便系大腸菌群が陰性であることを求めています。しかし本来、社会に流通している鶏肉は「加熱用」であり、それを示す表示もあって、厚生労働省も十分な加熱を前提とした取り扱いを求めています。
 飲食店で鶏の生食メニューが提供されている場合は消費者として「どのような方法で安全性を確保しているのか」を確認することが重要で、「新鮮だから大丈夫」という説明が返ってきた場合は、安全性への管理が不十分だと認識するべきです。

●カンピロバクター食中毒の特徴と予防のポイント

 カンピロバクターは非常に少ない菌数でも発症する細菌です。数百個程度の菌で感染することもあり、感染力が強いことが特徴です。また潜伏期間が2〜7日程度と長いため、何を食べたことが原因だったのかを特定しにくい特徴もあります。主な症状は下痢、腹痛、発熱ですが、回復後に「ギラン・バレー症候群」を発症する場合があることも知られています。これは手足のしびれや運動障害を引き起こす疾患で、重症化することもあります。また、カンピロバクターは一般的な細菌とは異なり、大気中では増殖しない性質があります。そのため、汚染された鶏肉の中、または放置することで菌が大量に増えるというよりも、「最初から菌が付着しているかどうか」が重要になります。加熱によって死滅するため、十分な加熱調理(75℃、1分間以上)が最も有効な予防策です。
 さらには、家庭内での二次汚染にも注意が必要です。生の鶏肉を扱ったまな板や包丁を介して、サラダや加熱済み食品に菌が移ることがあり、こうした二次汚染が原因となる事例も少なくありません。

●市販鶏肉の汚染実態と今後の対策

 私たちの研究報告では関東で流通している鶏肉の約2割はカンピロバクター・サルモネラに汚染されていました。別の報告では市販鶏肉の約6割が汚染しているという報告もありますが、これは日本の鶏肉が特に汚染されているわけではなく、多くの先進国で同様な状況です。その上で、食鳥処理場における衛生管理の向上や、カンピロバクター陰性群と陽性群を分けて処理する「区分処理」、腸管損傷の低減などの対策が有効です。また、近年は外部検証制度によるデータの蓄積が進み、日本の鶏肉の衛生水準は欧米諸国と比べても大きく劣るものではないことが分かってきています。
 しかし、日本には前述のような生食文化が存在し、加熱を前提とした流通システムの中で、鶏刺し・鶏わさ等の加熱不十分な鶏肉の食習慣があることが大きな課題です。その点から、飲食店営業者と、消費者への教育がとても重要であり、家庭では十分な加熱と二次汚染防止を徹底すること、そして飲食店で提供される生食メニューについても消費者はリスクを理解したうえで喫食の判断をすることが求められます。科学的根拠に基づいた正しい知識をもち、適切な行動をとる飲食店営業者・消費者になることが最も大切です。

「国産チキンの安全・健やか宣言(あんすこ宣言)」

今村彩貴さん

●カンピロバクター食中毒の低減に向けて社会全体の意識を向上させていく取り組み

 国内では2003年以降、細菌性食中毒ではカンピロバクターによるものが最多となっています。しかし消費者の認知度は低く、調査結果でも「カンピロバクターをよく知らない」と回答した人が大多数を占めました。
 カンピロバクター対策にはフードチェーン全体での取り組みが不可欠です。生産農場では衛生的な飼養管理、食鳥処理場では衛生的な処理、小売や飲食店では適切な情報提供と取り扱い、家庭では十分な加熱と二次汚染の防止が求められます。またカンピロバクターは「つけない」「増やさない」「やっつける」という食中毒予防三原則のうち、「やっつける」、すなわち加熱による殺菌が最も重要な細菌です。
 カンピロバクター食中毒対策を進めるためには、消費者を含む社会全体の理解と行動が重要であるとの観点から、日本食鳥協会におる「国産チキンの安全・健やか宣言(あんすこ宣言)」の取り組みが立ち上がりました。カンピロバクター対策は、フードチェーン全体の関係者が役割をしっかり認識して、自分たちのできることを実行していくという意識が最も有効です。
 この「あんすこ宣言」は、生産者や食鳥処理事業者などが取り組んでいる衛生管理を広く発信し、消費者や事業者の理解向上につなげることを目的としています。安全性を保証する認証制度ではなく、公衆衛生上の課題であるカンピロバクター食中毒について、社会全体で認識を高めるための取り組みで、フードチェーン全体で参画できる仕組みになっています。まだまだ周知が行き届かず、賛同者が少ない状況ですが、カンピロバクター食中毒の低減につなげていくため、応援サポーターとしての登録を含め、あんすこ宣言への理解と協力をよろしくお願いします。

質疑応答より (抜粋)

Q:国産鶏肉と輸入鶏肉との間でカンピロバクター検出率に違いはありますか。

A:若干輸入鶏肉が低いというデータがありますが、それは輸入鶏肉が冷凍流通が主体であり、冷凍によってカンピロバクター数が減少するためと考えられています。

Q:十分な加熱が必要と言われても鶏肉は火を入れ過ぎるとパサつきます。安全においしく調理するには?

A:鶏肉は中心部まで十分加熱することが最も大切です。一方で加熱し過ぎると肉汁が失われ、パサつきやすくなります。厚い部分の中心温度が75℃で1分以上(またはこれと同等以上の加熱)になるよう加熱し、その後数分間余熱で火を通すと、安全性を保ちながら、やわらかくジューシーに仕上げることができます。

Q:カンピロバクターの食中毒を減らすための処理場の改善は昔と比べて進んでいますか。

A:進んでいます。内臓摘出時に内臓破損が少ない内臓摘出機の導入が進んでいます。また、HACCP制度化により、衛生管理計画、記録、検証、外部検証の考え方は以前より整備されました。ただし、カンピロバクターは少量感染で、鶏肉汚染率も高いため、処理場改善だけで食中毒をゼロにするのは難しいです。最終的には飲食店・家庭での加熱(食品工場や飲食店では、加熱工程はHACCPの重要管理点(CCP)となることが多い)が必要です。

以上

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