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消費者法制度のパラダイムシフトについて第2弾 学習会 報告
内閣総理大臣のからの諮問を受けて、内閣府消費者委員会は「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会(以下、専門調査会)」を設けました。
専門調査会は2023年12月から2ヶ年に亘ってヒアリングと論議を重ね、2025年7月に最終報告書をまとめました。そして消費者委員会は7月9日にその内容を確認して総理大臣への答申としました。報告書では、消費者は誰しも脆弱性を有するとの認識の下、デジタル化・超高齢化の中で、消費者契約法を中心に、既存の枠組みに捉われることなく消費者法制度を抜本的に再編・拡充するべきとして、今後の考え方を提示しています。
全国消団連は、去る4月24日に専門調査会中間報告(2024年10月公表)の内容を中心とした学習会を開催しました。今回、最終報告が完成したことを受けて、学習会第2弾を開催いたしました。

【日時】9月9日(火)14時00分〜15時40分 〔Zoom活用のオンライン学習会〕
【講師】消費者庁 消費者制度課長 古川 剛さん 内閣府消費者委員会 事務局長 小林 真一郎さん
【参加】77人
概要(事務局による要約)
消費者法制度の考え方の転換に向けた検討(パラダイムシフト)
内閣府消費者委員会 事務局長 小林 真一郎さんより
「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会(以下、専門調査会)」が設置された背景としては、消費者契約法の前回改正時の国会の附帯決議が深く関わっています。
◇消費者団体と消費者契約法の関わり
全国消団連ホームページの歴史コーナーの1998年※に「契約をめぐる被害の増加と消費者契約制定運動」があります。当時、消費者契約をめぐるトラブルが非常に増えていて、学者、専門家など幅広い方々で提言をまとめたり、学習会を行ったり、署名運動や国会議員への要請などを行い、民法の特別法として消費者契約法が2000年に制定されました。消費者契約法は消費者団体の運動の成果として出来たということを再認識しておきたいです。
※https://www.shodanren.gr.jp/about/pdf/history_13.pdf
◇検討の背景
それ以降、消費者契約法や特定商取引法などは、これまで累次の改正を繰り返してきました。一方、高齢化やデジタル化の進展等に伴い、消費者を取り巻く環境が日々変化している現代では、これまでのように消費者法を個別課題ごとに都度対応すべく改正を行っても、消費者取引の安心・安全を十全に実現するのは難しいと考えられます。
国会の議論では、消費者契約法の2022年(令和4年)改正時に、衆・参両院から「既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方について検討を開始すること」という附帯決議が付きました。
検討の第一弾が消費者庁「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」で、その成果を踏まえて消費者委員会に諮問があり、専門調査会がスタートしました。諮問されたのは、国会の附帯決議の内容も踏まえつつ、具体的には「消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者取引全体の法制度の在り方」「ハードロー的手法とソフトロー的手法、民事・行政・刑事法規定など種々の手法をコーディネートした実効性の高い規律の在り方」「デジタル化による技術の進展が消費者の関わる取引環境に与える影響についての基本的な考え方」等です。
専門調査会は、消費者庁の懇談会メンバーに加えて弁護士や経済団体の方にも入っていただいて、今年7月に報告書をまとめました。その内容をもとに、消費者委員会として答申書をまとめ、内閣総理大臣に提出しました。答申では、「消費者ならば誰しもが多様な脆弱性を有するという認識を消費者法制度の基礎に置き、既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定に向けて、種々の規律手法を目的に応じ有効かつ適切に組み合わせて実効性の高い消費者法制度を整備すべく更なる具体的な検討を行うなど、必要な取組を進めることが適当」としました。
今後は、報告書で整理された基本的な考え方をもとに、より具体的な制度改正や新たな法体系の構築に向けた検討が進められる予定です。
消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会報告書
消費者庁 消費者制度課長 古川 剛さん
◇報告書の概要
報告書「前文」にはエッセンス的なものが記載されていますので、読んでいただきたいです。
「超高齢化」「デジタル化」「コミュニティ希薄化」「消費社会の複雑化・個別化」などの社会状況により誰しもが単独で十全な意思決定が一層困難になっています。単独で取引する機会が増え、自ら対処するのが困難になり、周りにも気づきにくいトラブルにさらされる可能性が高まっています。
従前の法制度では、消費者と事業者には情報・交渉力の格差があり、その格差を是正すればひとりで立っていける個人(強い個人)が想定されていました。自由な意思決定は合理的で、幸福な社会状態であり社会の最適化が図られると捉えていました。ただし、この捉え方は限界があり、この格差是正にプラスして、消費者ならば誰しもが多様な脆弱性を有するという認識を消費者法制度の基礎に置く考え方が示されました。これを基軸として具体的には、「多様な『消費者の脆弱性』に対応した消費者法制度の基本理念の刷新(脆弱性に対応して包括的な視野に立ち消費者取引を規律する)」「意識改革を通じて様々な関係主体が各々の役割を果たすことで健全な市場を共創・協働(全ての消費者は他者からのサポートなしには単独での選択が難しい状況である。様々な関係主体が役割を果たして連携することで健全な市場を作ることが重要である)」「アテンション・エコノミーなど取引の在り方の変容を受けた規律対象・射程の変革(個人の情報や時間・注目・関心などに経済的に価値があり取引される)」が示されています。
この検討は、消費者契約法の2022年改定を発端としていることを踏まえ、消費者契約を中心に既存の枠組みに捉われることなく、消費者法制度を抜本的に再編拡充するべきと報告書ではまとめています。また、事業者の法規範に対する対応のグラデーションを考慮し、事業者が法規範の尊重が期待できる場合には、事業者の創意工夫を活かす仕組みと併せて制度設計をし、他方で、悪質事業者や悪質商法には、官民総力をあげて消費者取引の市場から排除すべきと指摘されています。
◇消費者法制度における『脆弱性』概念の捉え方
例えば、認知症の高齢者が増加していることを踏まえれば、認知機能が不十分な方々を取引の場から除外するのは難しく、また、デジタル化により多くの方がスマートフォンにより世界中と取引ができるようになっています。単身世帯の増加でコミュニティの希薄化が生じています。消費社会が複雑化し、また、各消費者には個別化された価格表示がされる場合もあります。
脆弱性には、「類型的・属性的脆弱性(年齢、教育水準、貧困、障がいを持つ方など集団で捉えられるもの)」「限定合理性による脆弱性(「認知バイアス」など全ての人が持っているもの)」「状況的脆弱性(例えば悪質事業者により合理的、限定的になるような状況を作出したもの)」があります。脆弱性とは、判断がばらつく、ゆがむ、ゆらぐような認知の在り方の特性を広く捉えるものであり、脆弱性だけで法介入ができることにはならず、ほかの要素と組み合わせて具体的な介入の必要性を考え、「自律的な意思決定の確保」「深刻な結果の回避」「事業者による脆弱性の利用の規制」ができているのかを踏まえ、ハードとソフトのグラデーションの中で規律を作っていくことになるかと思います。
◇消費者取引の安心・安全を確保するための介入の在り方
これまでは、他者からの介入がなく自立的な決定を保障し、情報交渉力の格差が是正することで、消費者取引の安心・安全を確保できるとしてきました。しかしながら現代社会では、他者のサポートがなければ単独で選択することが困難です。そのことを踏まえると、他者との適切な関係性の中で、自らの価値観に基づく「自分自身の選択」であると納得できるような決定を重視することが重要と示されています。消費者と事業者の情報交渉力の格差是正の考え方は継続しつつ、これに加えて選択の実質性を重視し、消費者の取引の安心・安全を確保していく考え方です。
◇アテンション・エコノミーへの対応
インターネットの普及による情報過多社会では、人々が払える関心・注目・注意・認知コスト(「アテンション」)や消費時間が情報量に対して圧倒的に貴重となるため、これらが経済的価値を持って取引されています。
消費者はサプライチェーンの最下流で商品・サービスを購入する主体ですが、情報や時間、アテンションなどの原材料を提供していると考えると、実はサプライチェーンの上流にも存在しているのではないかと言えます。消費者政策では消費者を広く捉えることが必要ではないかと考えます。
◇デジタル取引の特徴
デジタル空間は誰でも、いつでも、どこでも取引可能です。「ダークパターン」も拡大しています。消費者の取引環境の個別化との関係では、「ターゲティング広告」「パーソナライズド・プライシング」があり、それらを用いた情報の搾取や不公正な取引が不健全となります。また、自分が見ている広告や価格が自分に対して個別化されたものなのか、他の消費者にどのように表示されているのか分からないという透明性に関する問題の対応も課題です。
◇種々の手法をコーディネートした実効性の高い規律の在り方
消費者法制度の目的設定は、「保護」から「自立」そして「自律」を目指したものに刷新の必要性があると示されています。そして規律の対象を広げていきましょうと示されています。様々な規律手法の活用では、「民事ルール」「行政規制」「刑事規制」「ソフトロー」などで整理されています。例えば、民事ルールの多様な規律手法の在り方として、「契約の取消しに限られない契約からの解放手段の可能性」「損害賠償制度の活用可能性」「努力義務・配慮責任の活用可能性」「正当化のための要素を組み合わせた行為規範・契約内容規範」「消費者契約の履行・継続・終了過程に関する規律」「消費者被害の事後救済における手続遂行に関する規律」が示されています。
今後の進め方
専門調査会報告書は、消費者契約法の見直しのための土台となり、今後は具体的な議論を進めていきます。みなさまと意見交換をさせていただき、具体化するための知恵をいただきたいと思っています。この報告書の中身の実質をうまく入れ込んで消費者政策を行うようにしたいと思っています。国民・消費者のみなさまのご理解とご支援が不可欠です。
以上
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