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《学習会 実施報告》
新たな「食料・農業・農村基本計画」について学びましょう!

 改正食料・農業・農村基本法に基づく新たな「食料・農業・農村基本計画」のポイントを学び、食料の安定供給、食料自給率の向上、食料安全保障、環境と調和した食料システムの確立についてなど、様々な視点から考えるための学習会を以下の通り開催しました。

【日 時】9月4日(木)15:30〜17:00
〔Zoomを活用したオンライン学習会〕

【参加者】53名

【内 容】「改正基本法に基づく初の食料・農業・農村基本計画」

【講 師】農林水産省 大臣官房政策課 課長補佐 島本 健一さん

概要(事務局による要約)

1,食料・農業・農村基本計画とは

 食料・農業・農村基本法に基づき政府が策定する計画で、概ね5年ごとに変更することとされています。昨年25年ぶりに改正された食料・農業・農村基本法に基づく、初の「食料・農業・農村基本計画」が、今年の4月に閣議決定されました。国際情勢の変化、気候変動、人口減少、高齢化など複合的な課題に対応するための重要な政策指針となる本計画は、食料の安定供給を中心に、農業の持続可能性、地域振興、環境との調和を図ること等を施策に盛り込み、消費者の視点も重視した構成となっています。

2,食料供給をめぐる情勢

 食料の安定的な供給は、国内の農業生産の増大を基本に、安定的な輸入・備蓄 の確保、これらの適切な組み合わせで図るべきものと考えます。近年、異常気象の頻発化、家畜伝染病や病害虫 の侵入まん延、地政学的リスクの高まり、輸入競争の激化など、食料の安定供給を不安定化させるリスクが、未だかつてないほど高まっています。また、昭和40年のカロリーベースの食料自給率は73%でしたが、令和5年では38%となっています。一番大きな要素としては食生活が豊かになると共に、国内で自給できるお米の消費が減り、 畜産物など輸入に頼らざるを得ないものに消費が変化していったことが背景になっています。
 また、我が国の農地については、国内で消費される食料生産に必要な面積の約3分の1しかなく、基幹的農業従事者の令和6年の平均年齢は69.2歳、現役世代の農業者は全体の2割しかいない状況です。
 そのような中、農業経営体数は20年間で半減しましたが、法人等団体経営体は増加し、これら大規模な農業の担い手が、離農農地の受皿として、地域の農業生産を支えています。
 こうした中、平時からの食料安全保障を実現するには、基本計画に基づく初動5年間の取組みが重要で、この期間に農業の構造を大きく転換する必要があります。この基本計画では、課題解決のための具体的な施策を整理した上で、目標の達成に向けたKPIを設定し、毎年目標の達成状況の調査・公表とKPIの検証を行いながら、PDCAサイクルによる見直しを実施することが一番の特徴になっています。

3,新たな食料・農業・農村基本計画のポイント

 農業の持続的な発展輸出の促進国民一人一人の食料安全保障の確保環境と調和のとれた食料システムの確立農村の振興、大きく分けてこの5つの柱を掲げています。

  • 我が国の食料供給と生産性の向上について
     カロリーベースの食料自給率を38%から45%に向上させていく目標を掲げています。農地の維持には法人化や大規模化が不可欠であり、生産性の抜本的向上のために地域計画を更に進化させ、農地の集約化、大区画化、スマート農業技術の導入による効率化、多収化、高温耐性などに資する品種の開発などを進めます。また水田政策の見直しを行い、作物ごとの生産性向上等への支援へ転換します。農業には熟練の技術が必要であり、既存農家のノウハウをDX(デジタルトランスフォーメーション)に融合させることが重要です。農業の新規参入者への支援としては、研修制度や法人就業支援、政策金融による長期投資支援などが整備されており、持続可能な農業経営の出口戦略も含めた支援体制が構築されています。
  • 輸出の促進について
     人口減少局面に入っている我が国にとって、国内生産を維持するためには、海外への市場を確保し、海外から稼ぐ力の強化が必要です。お茶、ホタテ、牛肉、りんごなど、農作物によっては、既に輸出が欠くべからざる要素と なっている品目もあり、国内の食料安全保障の観点からも重要です。
  • 国民一人一人の食料安全保障、持続的な食料システムについて
     25年ぶりに改正された基本法においては、食料安全保障の定義を変え、国民一人一人が安定的に食料を入手できる 、物理的アクセス、経済的アクセス、不測時のアクセスという視点を持ちました。今年成立した「食料システム法」では、コストを考慮した合理的な価格形成と、食品産業の持続的な発展を一体的に推進し、持続可能な食料システムを確立することを目的としています。
  • 環境との調和と多面的機能の発揮について
     水源涵養機能や景観保全など、農業の有する多面的機能の維持を図り、有機農業の推進、バイオマス、再生可能エネルギー利用等、食料システム全体で環境負荷の低減を目指します。
  • 計画の運用とKPIによる検証について
     本計画の大きな特徴は、各政策に対して目標と施策の有効性を示すKPIを設定し、毎年の検証とPDCAサイクルによる改善を行う点です。検証は「食料・農業・農村政策審議会企画部会」で行われ、有識者の意見を反映しながら、客観性・透明性をもって政策の実効性を高めていく仕組みが導入されています。このように、計画は単なる目標設定にとどまらず、実行・評価・改善のサイクルを通じて、現場の課題に即した柔軟な対応が可能となっています。

4,質疑応答より(抜粋)

Q:農地の企業組織化や大規模化をすれば、食料自給率の向上につながるのでしょうか。

A:それらは自給率向上の手段 であって目的ではありません。人口減少の局面の中で食料の安定供給の確保が大事であり、そのための生産性の向上を図る手段の一つがこれら大規模化や法人化になります。色々な手段や対策を以て目標達成を目指していきます。

Q:バイオマスプラスチックの原料としてコメ活用の動きがありますが、食用米との競合はないのですか。

A:コメの消費が減っていく中、主食用のコメの確保を前提とした上で、水田を有効利用し、食用にならないコメをバイオマスプラスチックの原料として活用しています。

Q:日本の農業は今後どのようになっていくのでしょうか。

A:日本の農家はこのまま何もしないと今後の10年間で半減する見通し ですが、いかに少ない人数で生産性を向上させ、なるべく農地を減らさずに食料の安定供給を図っていくかが重要な課題になります。そのための施策(スマート農業、DX化等々)を着実に進めていきます。

以上

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