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「エネルギー基本計画学習会③パブリックコメント案について」開催報告
(NACS、全国消団連共催)

 エネルギー基本計画は、エネルギー需給に関する政策について、中長期的な基本方針を示した、エネルギー政策基本法に基づき政府が策定するものです。おおむね3〜4年ごとに改定が行われ、2024年12月27日より1か月間、第7次エネルギー基本計画(案)に対するパブリックコメントの募集が行われました。

 今回、パブリックコメント(案)について、確認したいことなど、疑問点を明らかにして、一つでも多くの意見提出につながることを目標として、学習会を開催しました。

【日 時】1月20日(月)15:00〜16:45〔Zoomを活用したオンライン学習会〕

【講 師】疋田 正彦さん(資源エネルギー庁 長官官房総務課戦略企画室 統括補佐)
村上 千里さん(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会)

【参 加】35人

概要(事務局による要約)

第7次エネルギー基本計画(案)について

疋田 正彦さん

 第6次エネルギー基本計画策定以後、世界や日本の状況が大きく変化する中、エネルギー基本計画とGX2040年ビジョンと、NDC(国が決定する貢献)を定める温暖化対策計画の三本が一体となってやっていこうという方針が出されました。 エネルギー基本計画については、基本政策分科会で16名の委員が全14回の議論を重ね、政府案が取りまとまりました。

 東京電力福島第一原子力発電所事故後の歩みについて、福島の事故の経験や反省を肝に銘じて取り組むことが、エネルギー政策の原点であること、福島の復興再生に向けて最後まで取り組むことは政府の責務だというところは変わっていません。

 第6次エネルギー基本計画策定以後の状況変化として、ロシアによるウクライナの侵略や中東情勢の緊迫化などのエネルギー安全保障上の要請が高まっていること、電力需要上の増加が見込まれていること、各国が非常に野心的な脱炭素目標を維持しつつ多様かつ現実的なアプローチを拡大していること、エネルギーの構造転換を経済成長つなげるための産業政策と連動しながら行われていることの四点にまとめています。

 エネルギー政策の基本的視点(S+3E)(安全性+安定供給、経済効率性、環境適合性)の原則自体は、震災以降の第四次計画から変わっていません。

 2040年に向けた政策の方向性については、2040年のNDCと連動しています。DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の進展によって電力需要の増加が見込まれる中で、それに対応するエネルギーとして脱炭素電源を確保できるかが、国際競争力に直結します。日本は資源のない国ですし、国土を山や海に囲まれているという固有の状況の中で、安定供給と脱炭素を両立するという観点から再エネを最大限導入するとともに、特定の電源や燃料源に過度に依存しないようにバランスがとれた電源構成にしていくことが、今回の一つのテーマです。まずは徹底した省エネで使う量を減らしていくことです。また、ここが原発依存度低減からの変更点ですが、製造業の燃料転換なども進めながら再エネや原子力などの脱炭素電源を最大限活用していくというところです。 このこと自体はGX基本方針として2023年の2月に閣議決定されており、今回新しく加わったわけではありません。ほかに、2040年に向けて、さらに脱炭素を進めるにあたり、経済合理的な対策から優先的に講じていき、脱炭素化とともに、コスト上昇を最大限抑制することが重要としています。

 省エネ・非化石転換について、省エネの徹底は変わらないですが、電化やアンモニアに置き換えていくといった非化石転換が重要になります。最先端の技術を使いながらデータセンターなどの電力消費の効率改善、工場設備の更新支援、住宅の省エネ化 などが、大きなところです。

 脱炭素電源と系統整備について、総論としては脱炭素電源を増やし、日本内企業が脱炭素電源を確保して、世界で競争できるようにしていくことが何より重要と考えています。そのために再エネ、原子力ともに最大限活用すべきとしています。 再生可能エネルギー(再エネ)に関して、主力電源化を徹底し、最大限の導入を目指すところは変わりません。再エネ導入にあたっての課題ですが、 地域との共生をどうするのか、国民負担の抑制、出力変動への対応、イノベーションの加速、サプライチェーンの構築、太陽光パネルの廃棄・リサイクルの問題などがあります。イノベーションでは、ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力などが期待されます。原子力について、次世代革新炉の開発建設に関連して、例えばこれまで敷地Aで廃炉した場合、敷地Aでしか建て替えができなかったものが、同一の事業者の原発の別の敷地Bで建て替えができるようになる、と少し対象が広がりました。火力については、安定供給に必要な発電容量を維持しつつ、非効率な石炭火力を減らしていく方針です。脱炭素との関係で火力発電を減らすことが原則ですが、災害が多い国でもありますし、火力発電自体は維持します。次世代電力ネットワークの構築のうち、系統については、地域内、地域間連携ともに増やし、蓄電池も増やしていきます。

 次世代エネルギーの確保/供給体制です。次世代燃料は、水素、アンモニアとか合成メタンなどですが、水素については2024年5月策定の水素社会推進法の中で価格差支援をしながら国内需要喚起していく、また規制も交えながら、一体的にやっていくところです。

 化石資源の確保/供給体制について、化石燃料は安定供給の上では十分な役割を担っているのは事実ですので、特にCO2の排出量が比較的少ないLNGは支援をしていきます。

 CCUS(CO2の分離・貯留と利用)やCDR(CO2除去)は、ネットゼロを目指していく場合に必要な技術として取り組んでいきます。

 重要鉱物の確保に関しては、特定国に依存しすぎないよう、供給源の多角化や、備蓄を増やしていく、資源開発やリサイクルも進めていきます。

 電力システム改革に関しては、2016年の小売り自由化からの状況変化、例えば電力需要が増えてきている、脱炭素意識の高まりなどを踏まえた上で、発電では脱炭素電源を増やす、変動電源が増えてきたことによる系統整備、小売りに関してはある程度供給に対する責任を持っていただくなどが議論がされているところです。

 国際協力と国際協調については、安定供給の確保のほか、アジアにおける脱炭素化を日本の技術を使い、願わくはそれが日本企業の成長につながる形で貢献していきます。

 国民各層とのコミュニケーションは、重要だと思っています。エネルギーは国民生活や経済活動に不可欠です。皆さんも使うエネルギーについて、幅広い層と双方向でコミュニケーションを充実していく必要があります。

 2040年度におけるエネルギー需給の見通しについて、エネルギーミックスという数字が報道されるのはこちらです。 現在の自給率が15%で2040年には3〜4割になると見通しています。温室効果ガスの削減目標が2013年比で73%減。電源構成に関しては、再エネが4〜5割程度、原子力は2割程度、火力は3〜4割程度です。ただここで想定されている火力は、水素混焼ですとか、アンモニア混焼、脱炭素措置がついた火力を想定しています。これに関しては、専門機関から示された複数のシナリオを参考にしています。

質疑応答より

Q:2040年の原子力の割合は20%と、これまでと変わらないのに、あえて「原子力の依存度を可能な限り低減」というのを削除しなければならない必要性を感じられない。

A:震災以前の原発比率約3割からの依存低減という考え方自体は変わっていません。化石燃料を特定国に依存したり、特定の燃料に依存することが、エネルギー安全保障上の問題につながるので、原発だけでなく特定の燃料源に過度に依存しない考え方が入ってきたということだと思います。

Q:第七次計画では省エネ目標の具体的な数値がありますか?

A:省エネだけの数字は出ていません。今後は省エネと非化石転換をセットで進めるのが基本的な方向性です。

Q:石炭火力について、非効率高効率の具体的な基準がありますか?

A:具体的な基準はありませんが、超臨界や超超臨界発電は比較的高効率だとの理解でいます。

基本政策分科会の審議に参加して課題だと思っていること

村上 千里さん

 2020年から基本政策分科会に委員参加しています。今回は第七次エネルギー基本計画の審議に参加して、課題だと思っているところをお話しします。

 基本政策分科会の初回では、国民との対話や意見を聞く方法をバージョンアップしてほしい、意見箱の結果を共有するだけでなくどういう意見が多かったのかなど分析して示してほしい、議論のプロセスの大まかなスケジュールを示してほしいと発言したほか、討論型世論調査の手法の活用などを提案しました。意見箱の分析は難しいという事務局回答でしたが、「ワタシのミライ」というNPOネットワークが独自に集計・公表した結果を、最終回に私から紹介しました。議論のプロセスについては12月の末までにまとめたいというゴールは示されましたが、議論のタイミングや、NDC策定やGX2040ビジョン策定との関係などのプロセスは示されませんでした。また、再エネの導入に積極的な企業や若年層へのヒアリングが行われたことは一歩前進でしたが、その内容が議論に組み込まれ、成果に反映されたか、という点では不十分でした。

 電源構成のうち、原子力について依存度を可能な限り低減する方針を転換するのであれば、国民的な議論が必要ということを申し上げました。ほかの委員からも、原子力の活用については若者団体を始め意見が分かれていることをきちんと書くべきとの意見があり、その点は反映されました。今後始まるであろう新増設に向けた政策議論においては、その前に国民的な議論をしてほしいと、主張したいと思います。

 次に需給見通し、電源構成についてですが、再エネが4、5割というのはあまりにも低いと考えています。基本政策分科会で示された複数の専門機関のシナリオから、少なくとも6割ぐらいまでは上げられるというのが、私の感触です。火力に関して、2040年の火力は水素やCCSなどを導入したものなので、CO2排出係数は低いとご説明がありましたが、それらの発電コストは非常に高いとされており、3〜4割も脱炭素火力を入れて、電気代への影響は大丈夫だろうかという懸念もあります。

 そのほかNDCについて、2030年度の温室効果ガス60%減が示された目標値ですが、これは日本が一番CO2を排出している2013年度比です。IPCCが示している目標値は2019年比60%減で、それと比べると削減目標が低いということが環境省と経産省の合同審議会でも指摘されており、その点も課題だと思っております。

とりまとめ案策定に関わった立場からのコメント

日本消費者協会理事の河野康子さん

(当日ご欠席のためコメントをいただきました)

 第7次エネルギー基本計画策定は、環境省でのNDC策定や政府のGX2040ビジョン策定と相互に連携補完しつつ取りまとめられています。ありたい姿と目標数値に加えて、それらを実現するための具体的な戦略と必要な財源の調達やかかる時間などについて整理されており、三本合わせて国民生活全体を視野に入れた計画であることを前提に考える必要があります。

 S+3E基本原則のうち、環境対策と経済成長と安定供給という3Eは時としてトレードオフの関係になります。私たちは2040年にどのような社会で暮らしを営んでいるのか、この計画によって安心してエネルギーを利用し、経済を回す生活が確保できるのかどうかを尺度とするべきです。

 2028年頃までに気候変動対策として導入が予定されているカーボンプライシングやカーボンクレジットは経済社会や消費者が負担増の形で背負うことになるコストです。また、公正な移行の観点では、日々の暮らしに近いところへの影響なども考える必要があります

 安心してエネルギーを確保できる生活を実現するために、学習会や全国で開催される説明会等に積極的に参加して、エネルギー問題を自分事として考えていただければと思います。

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