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消費者契約法・消費者裁判手続特例法 どのように改正されるのか 「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」は、今年5月25日に参議院において可決され成立しました。6月1日に公布され、取消権の拡充や不当条項の追加など消費者契約法の一部については2023年6月1日から、上記以外の消費者契約法と消費者裁判手続特例法については2022年6月1日から1年半以内で政令で定める日から施行されます。 学習会では、消費者庁から今回の改正によってどのような消費者トラブルが救済できるのか、改正のポイントを説明いただきました。また、今回の改正時の附帯決議において、消費者契約法については、既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方を直ちに検討するべきであるとの意見が決議され、現在、有識者による検討会が始まったところです。 志部弁護士からは、消費者運動の視点から今回の改正を振り返り、評価と課題を示すとともに、消費者庁への期待と、今後の改正の展望について説明いただきました。 【日時】10月12日(水)14時00分〜15時30分〔Zoomを活用したオンライン学習会〕 【講師】玉置貴広さん 伊吹健人さん(消費者庁 消費者制度課) 【参加】62人 概要(事務局による要約) ■消費者契約法の改正について 玉置貴広さん ◇改正の概要 (1) 勧誘目的を告げずに、消費者が退去困難な場所へ同行して、勧誘した場合の取消権。「勧誘目的を告げていない」「退去困難な場所に同行する」がポイントです。 【志部さんより】例えば、情報商材の勧誘であることを告げず、ビルの一室などに連れられた場合などに使えるかもしれません。ただし、現行法の「退去妨害の対する取消権」でも認められるのではないかと思います。 (2) 威迫する言動を交えて、相談のための連絡を妨害して、勧誘した場合の取消権。「威迫する言動「連絡を妨害する」がポイントです。 【志部さんより】例えば、若者の就職セミナーの契約を親に相談しようとしたら、自分の意思で決めるようにと言われ、相談を妨害されて契約した場合。ペットショップで親に相談したいと言っても、親に相談すると反対されるので相談しない方が良いと言われ電話をするのを止められて契約した場合。また、ブライダルフェアで、今日契約しないと人気の日なのでなくなると言われ、親に相談することを巧みにさせないようにした場合などがあります。この条文のポイントは「威迫する言動」で強迫ではありません。電話をさせないよう迫る行為も含まれるレベルで解釈できないと使い勝手が良くないように思います。 (3) 契約前に、目的物の現状を変更して、原状回復を著しく困難にした場合の取消権。例えば、訪問購入で事業者が買い取り前に指輪の宝石を外してしまった場合などが該当します。現行法では、竿竹を買う前に切ってしまった場合の取消権があります。現行法は契約後に発生する義務を先に行ってしまうことで、今回の改正は契約の義務ではないことまで拡張した取消権になります。 【志部さんより】現行法の条文は契約後に行うサービスを契約前に行い、心理的にプレッシャーをかけて契約させてしまうものですが、今回の改正では、もともとある条文を少し拡張した形になっています。ただし、この規定により今ある消費者問題が解決できるのか、喫緊に対応しないといけない現実に起きている問題への対応が必要ではないかと思います。 解約料の説明の努力義務(第9条第2項) 現行法では、キャンセルの際に事業者に生じる「平均的な損害の額」を超えるキャンセル料は無効になります。「平均的な損害の額」や発生する損害がどのくらいなのか、消費者にはわかりません。改正では、消費者に対してキャンセル料の算定根拠の概要を説明する努力義務を規定しました。また、適格消費者団体の場合は、算定根拠(営業秘密を除く)を説明する努力義務となっています。 【志部さんより】諸外国ではキャンセル料は当たり前に請求されていますので、今後は当然なものになるかと思います。大事なのは、なぜそのキャンセル料になるのかということで、改正では算定根拠の概要を説明する努力義務が入りました。例えば、携帯電話の中途解約料を1万円に定めている理由は、料金や割引額、契約期間などで解約料を決めているという算定式を示すことで、算定根拠の概要を説明したということになります。 免責の範囲が不明瞭な条項の無効(第8条第3項) サルベージ条項と言われる不当条項で、改正では、免責の範囲が不明確な条項は無効になります。 【志部さんより】条項で「法令に反しない限り、1万円を上限として賠償します」は無効です。「軽過失の場合は1万円を上限として賠償します」は第8条第3項との関係では有効になります。免責をする範囲を明確に書いていないものは無効です。 勧誘時の情報提供における考慮要素の追加(第3条第1項第2号) 現行の知識及び経験に、新しく消費者の年齢、心身の状態を追加した上で、総合的に考慮することを明記しました。 【志部さんより】とくに高齢者や若者に対しては丁寧に説明をすることが必要になります。努力義務のため事業者が責任を負わないのですが、どうやって守らせるかが重要になります。 解除権行使に必要な情報提供の努力義務(第3条第1項第4号) 消費者の求めに応じて、解除権行使に必要な情報を提供することを努力義務としています。例えば、インターネットのサブスクリプション契約の具体的な解約手順を説明する努力義務があります。 【志部さんより】事業者は契約時のみではなく、解約時にも丁寧に説明する必要があります。 適格消費者団体の要請に対応(第12条の3〜5) 不当条項を含む契約条項・差止請求に係る講じた措置として努力義務で対応します。例えば、スポーツクラブでの怪我に補償を求めたが一切責任を負わないと規約にあると拒否された消費者からの情報提供を受け、適格消費者団体が、不当条項が含まれている可能性があるとしてスポーツクラブに規約の提出の要請を行うことが考えられます。 ◇有識者懇談会(消費者法の抜本的な見直しに向けて) 法改正後に、消費者法の抜本的な見直しが必要であるとして有識者懇談会を開催しています。消費者概念の見直しやAI等の技術が果たす役割など、広い視野で検討を進めています。 ■第3次改正の総括と今後について 志部淳之介さん ◇どんな問題が起きているのか 消費者相談は90万件前後で推移していますが、特徴として70歳以上の高齢者の高額被害と若者の被害が増加しています。 ◇改正の概要 ◇消費者契約法第3次改正の評価すべきポイント 今回の改正で評価すべきポイントは以下の3つです。 ①消費者契約法は、今までは契約する時に気を付けることが規定されていましたが、今回、契約途中や解約時の努力義務を明示して、適用範囲を契約締結過程だけでなく、契約履行過程や契約解約過程に広げる道筋を付けました。 ②部分的ではありますが、サルベージ条項になる不明確な情報や消費者にわかりにくい条項について無効規定を定めました。 ③罰則などのサンクションがなく不十分ではありますが、事業者の努力義務を拡充し、相談業務における説得の手がかりを規定しました。 ◇第3次改正の問題点 第2次改正(2018年)時に改正しきれなかったこととして、「つけ込み型不当勧誘の取消権」「キャンセル料の算定の仕方を事業者が開示すること」「困惑類型の追加」などの宿題がありました。 第3次改正に向けた、消費者庁「消費者契約に関する検討会(以下、検討会)」は、令和元年(2019年)12月から令和3年(2021年)9月まで合計23回の議論が重ねられました。検討会報告書では、不当な契約の取消しとして「脱法防止規定」「心理状態に着目した取消権」「判断力不足に着目した取消権」がありましたが、今回の法改正では十分に実現できていません。また、不当な契約条項として「サルベージ条項の無効」は、軽過失免責について一部実現しました。「高額なキャンセル料条項への対応」は、一部努力義務のみ実現に留まっています。 第3次改正の問題点として以下の3つがあります。 ①改正法案は、社会の要請(超高齢社会、成年年齢引き下げ等)に十分応えていません。 ②消費者契約法が、包括的な民事ルールとしての役割から離れた法律になってきています。 ③検討会報告書が求めた提案内容の多くが実現しなかったことは大変残念です。 今後の改正法においては、検討会や専門調査会の結論を尊重した改正がされるべきです。そうでなければ、検討会や専門調査会の存在意義がありません。有識者の労力や時間が無駄になるような結果となってはいけません。 ◇今後について(消費者法の抜本的な見直しに向けて) 高齢者や若年者の消費者被害への対応やAI、デジタル化に伴う新たな消費者被害への対応などについて、既存の枠組に捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方の検討として、広く他分野の有識者のヒアリングが実施されており、有識者懇談会の完成図がどうなるのか、注視していく必要があります。また、相談現場で実際起こっている消費者の生の声を伝えていき、今後の改正にズレが生じないようにしなければいけません。 せっかくできた法律をできるだけ活用するとともに、消費者契約法が本来の役割を果たすことができるように、引き続きよりよい改正に取り組んで行きましょう。被害回復訴訟制度を積極的に活用して行きましょう。 ■消費者裁判手続特例法の改正について 伊吹健人さん ◇消費者団体訴訟制度とは 消費者ひとりひとりでは解決困難な消費者被害について、国から資格を与えられた消費者団体(適格消費者団体、特定適格消費者団体)が、被害の予防(差止請求)と救済(被害回復)を担う制度です。 今回の改正に該当するのは、特定適格消費者団体が行うことができる被害回復についてで、多数の消費者に共通して生じた財産的被害を集団的に被害回復ができる制度です。 ◇被害回復裁判手続の追行実績 大学の医学部入試試験に関する事案①:出願者の事前説明なく属性を不利に扱う得点調整を行ったとして、一定の出願者を対象として提訴された事案では、2段階目の手続きで和解が成立しました。現行法で対象外の慰謝料は請求内容に含まれませんでした。また、該当者に通知する際、被告からの情報開示は一部にとどまってしまい、案内が限定されてしまいました。 情報商材に関する事案:1段階目の手続が係属中です。 大学の医学部入試試験に関する事案②:2段階目の手続が係属中です。 給与ファクタリングに関する事案:出資法の規制を超える利息で貸金業を営んだとして提訴された事案です。2段階目の手続で届出債権の内容が確定しています。提訴に先立ち、仮差押え(被告側の財産の散逸等を防ぐために暫定的に財産を確保するための手続)の手続が取られましたが、十分な財産が確保されなかったとのことです。 ◇改正の概要 対象範囲の拡大
和解の早期柔軟化 1段階目で様々な和解が可能になりました。現行法では、責任を認めるか否かの和解しかできませんでしたが、一定の解決金を支払う和解などが可能になりました。2段階目の手続を踏まずに解決も可能になります。 ほかに、消費者への情報提供方法の充実、特定適格消費者団体の負担軽減などが改正されます。 以上 |