[このページについてのご意見、お問い合わせなどはメールにて webmaster@shodanren.gr.jp までお送りください。]
【お知らせ】 全国消費者団体連絡会では、2018年度より「地方消費者行政プロジェクト」を10年ぶりに復活し、都道府県の消費者行政調査を毎年行っています。2021年度の都道府県調査では、コロナ禍で生じた問題と業務遂行のための工夫や、ICT(情報通信技術)の活用・デジタル化の事業の進捗状況を把握する調査を行いました。また、2022年4月からの成年年齢引き下げに対応した消費者教育について、都道府県から区市町村への事業の支援状況や職員研修の状況について、消費生活相談等に係る施策などについても調査いたしました。特に今回は多くの項目を自由記載による回答とし、出来るだけリアルな自治体の声を集めることを重視しました。 【本編】【資料編】で125ページあり、一緒になっております。 ■2021年度「都道府県の消費者行政調査報告書」 ◆2021年度「都道府県の消費者行政調査報告書」から、『U.調査結果から分かったこと(ポイント)』を紹介いたします。 U.調査結果から分かったこと(ポイント) 1.都道府県の消費生活相談等に係る施策について 都道府県の消費生活相談に係る施策として「実施したい」という消費者行政推進の意欲があるにも関わらず、実施に必要なことが課題として明らかになりました。実施したいができていないことは、「SNSによる消費生活相談の受付」「メール・Webフォーム・FAXによる消費生活相談の受付」「消費生活相談におけるAI」「消費生活相談員へのメンタルケアなどのサポート」などが選択され、必要なこととして「予算額の増加」があげられています。施策の実施には先行事例や試行結果の分析に加え、区市町村の相談現場の実情を丁寧に把握することで、取り残される相談窓口がないよう十分な検討が求められます。 2.都道府県の成年年齢引き下げに対応した消費者教育について 成年年齢引き下げに向けての事前の取り組みが最終段階となる、本調査実施の2021年夏の時点において、取り組みの手法は、ほぼ出前講座・講師派遣がメインとして定着してきたようです。中学生から早期の教育実施に取り組んでいる例や、メールマガジン、学園祭などイベントでのチラシ啓発、テレビ・ラジオによる啓発など、またイベント性の高い企画を狙ったものや「見守り」の対象として教育委員会を取り込み「若者も見守りの対象」という発想の転換ともいえる施策をはかる例も見られました。これらの消費者教育は、成年年齢引き下げが実施された後も継続的に一層徹底して実施されるべきものといえます。 3.都道府県の法執行に係る施策について 行政処分件数が多い県では、行政指導件数もその数倍行っている例が多くありました。消費生活センターに複数件の苦情相談が寄せられている事業者について、広範囲に取り上げて調査・処理をする人的体制や消費生活センターとの効果的な連携が確保されているかという観点で、踏み込んだ実情の検討が必要だと考えられます。特定商取引法の行政処分(業務停止命令・指示、業務禁止命令)は、捜査手法にも似た特殊な行政手続であり、他の部署から転任した行政職員の専門性を高めることが求められます。多数の回答として、「国の行政組織(消費者庁・地方経産局)との連携」には、共同調査・同時処分による実務経験を蓄積することの期待を示していると考えられます。指導件数ゼロの県においては、ほとんどの県が、「職員研修の強化」「事務職員の増員」を要望としてあげており、人手やノウハウがあれば指導する意欲があることが伺われるがゆえに、その体制整備が強く望まれます。消費者被害の防止対策として、消費者への啓発・注意喚起も重要ですが、それと併せて悪質業者を市場から排除する行政処分・行政指導の重要性を再確認し、執行体制のさらなる強化が求められます。 4.都道府県内の区市町村の消費者行政の事務への支援(援助)について 消費生活相談の支援は、44県が「相談処理に関する助言」や「相談員研修」等を行っていました。新たに発生する被害態様や法律の改正・新設、決済の多様化等の研修の支援は不可欠です。消費者教育・注意喚起は、「情報や啓発教材の提供、出前講座、講師派遣」のほか、「消費生活相談員や教育関係者」に特化した研修等を行っている県が複数見られました。見守り活動の推進では、多くの都道府県が「消費者安全確保地域協議会」の設置の要請と支援を行っていました。消費者被害の未然防止・拡大防止のために、区市町村においてきめ細やかな対応が必要であり、協議会の設置やその機能発揮のために一層の支援が求められます。 5.都道府県内の区市町村行政職員の研修について 区市町村全体で専任の消費者行政職員数が減っている現状にあたり、消費者行政水準を維持・向上させるためには行政職員一人ひとりの意識・能力の向上がより重要となります。今回の調査では、コロナ禍で研修を実施できなかった6県を含めると、47都道府県中36県が区市町村向けに職員研修を実施していることがわかりました。参加対象区市町村の参加率は全体の合計では3割程度に留まりました。研修の内容は相談・トラブル・関係法規に関わるものが講座数・のべ参加人数ともに6割を占めました。ほかに「見守り体制強化研修」「消費者教育推進担当職員研修」といった個別テーマを名称に含む講座は一部に限られました。都道府県が相談・トラブル・関係法規以外の分野も研修テーマとして積極的に提起することで、区市町村で新たな消費者行政施策の展開が進むことが期待されます。 6.地方消費者行政強化交付金の活用について 強化事業メニューで多くの県、区市町村で活用されるのは「食品ロス削減の取組」「消費者教育の推進」「国の重要政策に係る消費生活相談員レベルアップ事業」で、特に成年年齢引き下げに関連して、41区市町村が「消費者教育の推進」を活用しています。また、SDGsへの関心の高まりから「食品ロス削減の取組」「エシカル消費の普及・促進」の活用が、特に区市町村で増加しています。「配慮を要する消費者(高齢者、障害者、外国人等)への対応力強化」「消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)の構築」のメニューにおいても区市町村での活用が増えており、様々な人の消費者被害の未然防止、救済に取り組む意欲がうかがえます。新設された「SNSを活用した相談受付を行うための体制整備」を活用する県は一桁でしたが、コロナ禍が収束した後も必要とされる体制の一つとして事業メニューが継続されるか注視する必要があります。 7.コロナ禍への対応について コロナ禍では対面による業務継続が難しくなり、電話・メール・FAX・オンライン等の非対面への移行が進みました。非対面への移行が難しいものは、コロナ感染対策の徹底などを行いながらの実施が多くを占めました。消費生活相談では、一部の区市町村で相談員の出勤制限・在宅勤務化や相談の急増等により、相談員に過度な負担(メンタルヘルス含む)が掛かった可能性があります。「消費者教育・注意喚起」「職員・相談員の研修」はオンラインによる研修の回数が増えたと回答した県もありました。「消費生活相談」は、相談者がデジタルに不慣れな方も多いため、相手に合わせた対応が必要となり、電話・メール・FAXへの移行までは進んでいるものの、一律のオンライン化は難しいと考えられます。同様に「見守り活動の推進」も、相手が主に高齢者のため、オンライン化が困難な状況が伺えました。コロナ禍での対応によって、自治体間にバラつきが生じる可能性があります。 8.ICT(情報通信技術)の活用・デジタル化について デジタル化社会への促進と新型コロナウイルス感染対策の面からも消費者行政の業務でもICTの活用が進んでいます。現在行っているICTの活用の事例では、「Web会議システムによる職員・相談員の研修」「Webサイト・フォーム、メールによる消費者教育・注意喚起」などが多く、さらに、「動画投稿サイトによる消費者教育・注意喚起」「Webサイト・フォーム、メールによる消費生活相談」などがありました。しかし、まだICTの活用に取り組めていない県は多くあり、次年度の交付金においてもメニューが用意されているものの、実施のためには何が課題になっているか、国として詳細に調査をしたうえで、現場に沿った支援が必要だと考えます。 今後の消費者行政業務においてICT活用やデジタル化の必要性があると考えている県が多くあり、特に消費者教育・注意喚起、相談員や職員向けのオンライン研修や講座などの活用については、今後大きく期待されるところですが、その一方で相談員の処遇改善の意見も出されており、勤務時間内にこうしたオンライン研修や講座を受けることができるための処遇の改善も同時に行う必要があると考えられます。 また、県によっては、通信環境の整備やトラブルへの対応、セキュリティ対策等が課題となっており、それらの課題解決に財源確保が求められている様子も伺えました。こうした業務のデジタル化に向けた各課題に、丁寧に対応・支援していくことが求められます。 9.広域連携について 広域連携を実施する自治体が全国的に広がってきており、なかでも中心市町村集約方式によるものが最も多くありました。広域連携によって、単独設置が難しい地域でも消費生活相談員の配置や消費生活センターの設置が可能になり、住民が安心して相談できる環境が整えられると期待しています。調査によると、実施している事務では昨年度同様、消費生活相談のみの地域が多く、消費生活相談と共に消費者啓発や消費者教育を実施している地域は限られていました。消費生活相談の情報を端緒として、消費者啓発や消費者教育に活用するとともに、事業者指導・法執行、法令・制度改善への提言などを含めた消費者行政全般の連携を創っていく必要があると考えます。様々な状況に対応するためにも、都道府県が立ち上げ時に関わるだけでなく、その後も広域連携の状況を把握し、さらに踏み込んで支援・関与していくことが必要と考えられます。都道府県が積極的に区市町村の広域連携に関わることで、地方消費者行政の充実が図られることが期待されます。 10.要望について 交付金等財政に関する要望として多いのは昨年度同様に、継続的・安定的、長期的な財政支援でした。特に推進事業については、活用期限の延長、撤廃、継続的財政支援が挙げられています。強化事業では、メニューの柔軟性、使途の拡充、補助率2分の1の引き上げを求める声が根強くありました。特徴的な要望として、今年度は、地方消費者行政推進事業の必要額(総額)の確保を求める県が半数を占め、昨年度の約2.5倍にもなっています。これは、今年度で県における消費生活センター等整備事業の活用期間が終了することが影響しているとみられます。また、活用しにくい交付要件の変更や補助率引き下げ(3分の1)に反対する声も多くありました。 その他の要望として、昨年度同様、消費生活相談員の処遇改善や人材確保、消費生活センターの認知度の向上、若年者への消費者教育の強化、行政処分等の充実強化などがあげられています。コロナ禍で相談業務のAIの活用やデジタル化を求めるもの、消費生活相談員の在宅勤務やPIO-NETの入力業務の軽減との意見もありました。また、行政処分等の充実・強化と被害増加を抑止するための法改正の検討、個別事案に対する法令解釈に関する相談窓口の設置、社会情勢の変化に対応する体制強化といった、相談体制強化につながる要望が出されています。 ■2020年「都道府県の消費者行政調査報告書」もデータで提供しております。 ■2018年度「都道府県の消費者行政調査報告書」および2019年度「都道府県の消費者行政調査報告書」は、1冊500円(税込)にて頒布しております。 |