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「エネルギー基本計画に関する学習会」開催報告 エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示すもので、2002年にエネルギー政策基本法の施行から約3 年ごとに改定されています。次期(第6次)に向けた計画見直しの検討が、昨年より経済産業省 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で始まっています。 また、国が2050年温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを表明し、2020年末にはグリーン成長戦略が策定されるなど、エネルギーをめぐる動きが慌ただしくなっています。 消費者団体としても、エネルギー政策についての知識を深め、エネルギー基本計画見直しにむけて、意見提出・要請活動を強く推し進めていきたいと考えます。 そこで今回は、エネルギー基本計画の見直しに向けた審議の状況のほか、特に重要な論点である再生可能エネルギーについて、学習しました。 【日 時】 2021年2月9日(火)14:00〜16:00 【開催形式】Zoomを利用したオンライン学習会 【参加者】 66名 概要(事務局による要約) 〇脱炭素社会へのエネルギー戦略−2030年までの10年が未来を決める 大野 輝之さん(自然エネルギー財団) 1.エネルギー政策選択の時 エネルギー政策に関しては2030年に向けて今年が大事で、それには2つの大きな意味があります。 1つ目は東日本大震災、そして福島第1原発の事故からちょうど10年がたつということです。当時は、東日本壊滅の危機を肌で感じたことを覚えています。その後原発は再稼働されましたが、現在でも政府、電力各社は原発を使い続けようとしている。この選択は本当に正しいのだろうか、ということです。 もう一つは2021年11月のCOP26(締約国会議)に向けて、世界全体の気候変動対策、CO2排出削減の目標を高めていかなくてはならない時期に来ていることです。 これらに対し、国はエネルギー基本計画と、地球温暖化対策計画の改正を行っていますが、エネルギー基本計画については、単なる定期的な改定にとどまらず、前述の節目に当たって大変重要な意味を持っています。再び原子力の事故が起こるリスクがないように、また気候変動のリスクから解放されるような政策転換をしなくてはならないからです。 気候変動の話ですが、2015年のパリ協定での目標は、世界全体の平均気温上昇を産業革命前と比べて2度を十分下回る水準にすること、今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることで、1.5度を努力目標としました。 ところが3年後の2018年IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書では、気温上昇を1.5度以下に抑えないと気候危機がいっそう深刻化してしまう、温室効果ガスを実質ゼロにする時期も、2050年でやらなくてはいけないことが明らかになりました。もう一つ、2050年間際になって急に減らすのではなく、2030年までに大幅な削減をしなくてはならない、と提言したことで、これが世界で共有されました。 しかし、今各国政府がコミットしている(提出している)削減目標を足し合わせても2.5〜3.2度の上昇になってしまうので、これまでのコミットをもう一段引き上げることが各国政府に求められています。にもかかわらず、日本政府は2020年4月初旬に、これまでの目標を変えずにそのまま出してしまった問題となっています。 2.「グリーン成長戦略」に見る政府戦略の問題点 2050年カーボンニュートラルを菅総理が示したことは、大きな前進でした。ただ、それが本当にエネルギー政策の転換につながっていないのが実態だと思います。2020年12月政府は「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表しました。これはいい点も入っているのですが、不十分な点がいくつもあります。例えば、2030年削減目標や自然エネルギー目標強化の方向を盛り込んでいない、2050年の自然エネルギーの目標を5〜6割にとどめている、石炭を含む火力発電や原発の利用継続を掲げている、カーボンプライシング(炭素価格付け)について極めて消極的である、産業部分で一番大きなウエイトがある鉄鋼などの素材産業のCO2削減について触れていないなどです。そしてこれは経産省で作られたもので、政府全体で議論されておらず、国民的議論も全くされていない、手続き的にも極めて不十分です。 このうち、電力については2050年の段階で自然エネルギーが5〜6割、原子力か火力発電が3〜4割で、残りの1割は水素といっています。そもそも3〜4割が火力と原子力という点について、本当に現実性があるのかという問題です。 まず、原子力発電ですが、これまでに再稼働した9基に加え、柏崎刈羽や浜岡など問題のある原発も含むすべてを再稼働し60年運転する、さらに建設が中断しているものを再開して稼働する、という、実際あり得ないような想定をしたとしても2050年には23基しか残らず供給量は1割くらいです。2050年に3〜4割を原子力+火力発電とすると、3割以上、場合によると4割すべてを火力発電でするということになります。そして、発電したときの排ガスのCO2を抜き出し、回収して地下あるいは海底に貯留するCCSという方法を使うから火力発電を使い続けられる、というのが政府の主張です。ただこれは、実証実験中の技術でコストや規模の面でも現実的ではありません。 3.2030年、2050年へのエネルギー戦略の提案 自然エネルギー財団では、これまで政府の提示した化石燃料が中心の時代のエネルギーミックスから、我々は脱炭素社会に向かうということを前提に、日本にある自然エネルギーを使ってエネルギーの安定供給を図っていくことが、これからのエネルギーミックスの基本だと考えています。 それが本当に可能なのかと、いろいろと検証しました。中心になるのは太陽光と風力発電です。電力ミックスの中で見ますとエネルギー効率化もやって電力利用量が減ります、原子力発電について我々は使うべきではないと思っていますので、提言の中ではゼロにしています。石炭火力についても使わないという想定をして、45%強を自然電力で供給し、残りの50数%は火力発電の中では一番CO2排出が少ないガス火力で供給する、これが可能だと8月に公表しました。これによってCO2削減についても43%程度の削減が可能であると考えています。 化石燃料に依存しないので、おそらく安定供給ができる。それから原発を使わないので様々なリスクが低減される。それから、発電用の化石燃料の輸入が1兆円程度削減できるとみています。 去年の8月に供給可能性や意義について公表した後、自然エネルギー45%、天然ガス55%というモデルで現実的に24時間365日日本中安定的に供給できるかと、電力コストと電気料金がどうなるかの検証を行いました。その結果、2030年の夏と冬の電力の最大の需要時でも安定的に供給できるとわかりました。再エネ電力を増やすとコストがかかるではないかという点や、ほかに実現に必要となる、システムの改革や、カーボンプライシングの導入などについては、公表のレポートをご覧ください。2050年の話についても自然エネルギー100%を提言しますので、ご覧ください。 URL https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20210210.php 4.脱炭素社会への転換の開始―動きがかなり始まっている 1月に、気候変動イニシアチブに参加する大手企業約90社が、2030年の自然エネルギーの目標を40〜50%にするという提言を行いました。企業も急速にこういうレベルの提言を言うことが広がっています。 自治体についても人口9,500万人分の自治体が2050年カーボン排出ゼロという声をあげています。ですが、どうやって実現するかという戦略は、まだほとんど持っていません。今後目標を実現できる政策を持つことが自治体に問われるのだと思います。もちろん国にも要求されます。意味ある削減のためには2030年までにどこまで減らすかという目標を掲げて、そのために必要な政策を導入する。これをやらなければ2050年カーボンニュートラルという非常に高い目標も、実は意味を失ってしまいます。ですから今後10年間がこれからを決める大事な時期になります。 〇気候変動対策に関わる環境団体からの報告① 冨永 徹平さん(Fridays For Future Tokyo/Japan) FFFの運動は、当時15歳のグレタ・トゥーンベリさんが気候変動に対する行動の欠如に抗議するために、一人でスウェーデンの国会前に座り込みをしたことをきっかけに始まりました。それが金曜日だったのでFFF(未来のための金曜日)といいます。 FFFの目標は、「政策立案者に道徳的な圧力をかけ、科学者に耳を傾け、世界経済を急速に脱炭素化するための強力な行動をとること」というものです。若者だけでは、社会を変えて気候変動問題を解決することはできないので、政策立案者に声をかけていこう、というのが世界のFFFの方向性です。それをふまえて日本のFFFは、世論に働きかけつつ、環境大臣との意見交換、経産省への声明発出やスタンディングアクション、首相官邸へのアクションなど、エネルギー政策を立てているところに道徳的圧力をかけていく、という活動をしています。 FFFJapanは、各地にあるFFFをまとめる統括型の組織ではなく、国に向けて行動したいときに集まって行動するためのプラットフォームです。中には、審議会のウオッチをする国政班、インスタグラムなどから世論に働きかけをするSNS班、COPについて意見を交わす班などがあります。 今はコロナの関係でGDCA(Global Day of Climate Action:マーチ)やデモができなくなったので、オンラインの活用など、工夫をして活動を続けています。昨年4月のGDCAでは海外の活動を参考に靴を並べるアクションを、32都道府県75か所で行いました。また、「気候も危機」というキーワードでツイートストームという活動を行い、人を集めることができました。 最近はSNSでの発信というのが一番大きく、インスタグラムのほか、facebook、ツイッター、note、ユーチューブもやっています。新しくできる地域の立ち上げを紹介して、活動に加わっていただけないかと考えています。 国政と世論の両方へのアプローチを期待して作成したのがエネモンカードです。資源エネルギー庁基本政策分科会について、なるべくわかりやすく伝えていこうと、24名の委員の発言や主張を背景などで表現し、ポケモンカード風に紹介しました。委員への「私たちは皆さんを見ています」という意味も込めました。様々な機会で使っていきたいと思っています。 今後は、3月に行うイベントに向けて準備を進めています。皆さんからお声がけいただいた活動に参加することもあります。今後衆議院選や、COP26にむけて活動の機会は多いので、お声がけや、アドバイスをいただければと思っています。 気候変動対策に関わる環境団体からの報告② 時任 晴央(はるひさ)さん(Fridays For Future Sendai/Japan) 日本でも各地にFFFという運動体が存在していて、仙台はその一つです。主なメンバーとして、高校生、大学生、大学院生で形成されていて、現在の活動メンバーは約20名です。 略歴ですが、2019年の9月にFFFSendaiが立ち上がり、9月と11月にマーチを行いました。また毎週金曜日に仙台駅前で垂れ幕、横断幕や段ボールに自分の伝えたいことを書いてスタンディングアクションを行いましたが、現在はコロナが蔓延しているので、休止しています。 2020年の4月には、先ほど冨永から説明がありましたマーチに、オンライン参加しました。また、オンライン学習会を5回開催し、気候変動とは直接は関わらないような問題も実は気候変動と関わっている、ということを紹介しました。 また東北大学の図書館で気候変動特集についてブース展示をしました。今後は、仙台市を中心とした書店への展開についても検討しています。 現在FFF仙台は、宮城県が抱える石炭火力やパーム油、原子力発電所に関わる問題に焦点を当てて、県や自治体、企業に向けて実効性のある対策を求めています。 今後はダイベストメント(非倫理的または道徳的に不確かだと思われる株、債券、投資信託を手放すこと)や、また同じ石炭の問題を共有している横須賀や神戸のFFFと連携してアクションを行うことなどを考えています。 〇エネルギー基本計画に関わる審議会についての報告 村上 千里さん(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会) 今日は、委員を務めている基本政策分科会(以下、分科会)を中心にご紹介させていただきます。 2015年のパリ協定にむけて、政府が作ったのが長期エネルギー需給見通しです。ここでは2030年のエネルギーミックスが公表されて、CO2を21.9%、エネルギー全体でGHGを26%減らそう、という数値目標がだされました。 第5次の基本計画は2018年7月に見直しがされましたが、このときエネルギーミックスは見直さないという方針が最初に出されたこともあり、このまま維持されています。そして昨年開催予定だったCOP26(今年に延期)に向けて、日本がNDC(国別目標)を改定せずに出す、ということが昨年の4月にありました。このとき、エネルギーミックスとの整合性を持った目標をできるだけ早く改定します、という内容の約束を出しており、今年の夏に向けて、本当に大切な議論がスタートしている状況です。 分科会では2020年10月から具体的に基本計画見直しの議論がスタートしています。これまで私からは「NDCを見直し、より高い目標を掲げ、世界の脱炭素の動きをけん引できる日本を示してほしい」「NDC策定までの、全体のスケジュールを示してほしい」「検討プロセスには市民や、特に若者の参加の場を設けるべき」「原子力推進の発言が多いが、それには信頼回復がカギなのではないか」などの意見を申し上げています。 12月14日には自然エネルギー財団含め4つの団体から2050年のシナリオを提案いただく場がありました。12月21日には政府から、今後の議論を進めるために、2050年のエネルギーミックスの参考値が提案されました。このときの再エネ50〜60%というのはあくまで参考値であり、再エネ100%とか80%といったより野心的な提案もあったことを踏まえて、複数のシナリオ分析を行ってほしい、という意見が多くの委員から出されました。 現在、再エネ100%などを含む5つのシナリオの分析を行うことになっていますが、その分析自体も複数のシミュレーションモデルを使って行うべき、という意見が複数の委員から出されています。 それから、エネ庁のHP上に意見箱を設置し、国民からの意見を聞きます、という説明があり、実際にサイト上に意見箱ができています。ここでの声は審議会資料になりますが、それがどう活用されるのかはまだ見えていません。 2月から2030年目標の進捗とさらなる取り組みの検証に議論が進んでいこうとしています。 最後に、目標の決め方についての提案を紹介します。2011年3月の東日本大震災後、2021年に民主党政権は「革新的エネルギー・環境戦略」を策定しましたが、このプロセスでは「国民の意見を聞く」ことが大切にされました。政府は専門家会合などを経て「2030年代に原子力発電ゼロ」「15%」「20〜25%」という3つのシナリオを示し、世論調査や地域での公聴会などを開催、それに加えて討論型世論調査というものを実施したのです。これは無作為抽出で選ばれた市民が2日間、様々な専門的知識を勉強し、ディスカッションをし、参加前と参加後のタイミングでアンケート(世論調査)に回答する、というものです。そして、それらの結果をふまえ、政府が最終的な判断(この時は原子力をゼロシナリオを採用)を行いました。今回の基本計画は私たちの未来を左右する重要な目標が盛り込まれます。それゆえに、私はこのような国民参加のプロセスを組み込んでもらいたいと、強く提案しています。 |