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農林水産研究成果に関する説明会 全国消団連事務局 昨年に引き続き、農林水産研究の最新の成果についての説明会を、全国消団連、農林水産省農林水産技術会議事務局の共催で開催いたしました。当日の参加者は60名でした。 日 時:2012年1月31日(火)13:30〜15:30 会 場:主婦会館プラザエフ(東京都千代田区六番町15) 講 師:徳安 健さん(農学博士) モデレーター:森田 満樹さん 概要 最初にモデレーターの森田さんより、最新の農林水産研究成果についても概説していただきました。「平成23年度農林水産研究におけるニーズ創出型情報発信事業」を以下の三分類にして、解かりやすい説明がありました。 (1)グリーン・イノベーションに向けて〜新たな農林水産研究基本計画〜 (2)身近な最新農林水産研究の紹介 (3)「遺伝子組換え農作物」について ○日本の農林水産研究に携わる独立行政法人は各都道府県に300機関以上を持ち、研究者の総合計では1万人以上が存在しています。 ○「高校生レストラン」で全国に知れ渡った三重県の相可高校が農林水産研究の学習を行った。BSE研究者の話しを聴き、高校側から松阪牛飼育の現場から牛の第一胃(ルーメン)の胃液観察などを行った事例の紹介を行った。これらが全国20箇所で取り組まれました。 ○グリーンイノベーションは食料問題の解決目指して品種改良などが取り組まれています。また、ライフイノベーションはカイコの絹糸で医療用新素材の開発に取り組んでいる事例などがあります。 ○2011年度の例えば放射性セシウムに汚染された農地除染研究、天然うなぎの産卵場、農作業用ロボットスーツの各研究など農林水産研究成果10大トピックスの説明がありました。 続けて、食品総合研究所の徳安健博士から「稲わらからバイオエタノール〜地域活性化に向けた変換技術の開発〜」と題した報告がありました。 1.バイオエタノール製造技術開発の背景 ○少し昔まで農林水産業を主体として、小規模な循環型社会の暮らしてきた。現代社会は化石資源使用による高い生活水準、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上があるが、資源枯渇、政治による供給ストップの可能性、地球温暖化の進行などから化石資源の大量消費については多いに考えておく必要があり、化石資源からの上手な脱却が求められます。 ○この時代に化石資源に加えて再生可能資源の活用が図られる必要がある。米国ではコーンエタノール、ブラジルではサトウキビエタノールという再生資源カードを持っています。 ○日本は石油を大量に輸入し、12%は燃やして電気に変えています。残りは好きな時に熱などに変換できる燃料や石油化学製品原料として使っています。震災の後にエネルギーと熱とどちらが大事かなどの議論が出てきたが、その違いについて考え整理してみました。 ○今回はバイオエタノールという燃料の話しをしています。燃やすものは有機物です。この燃料の供給方法としては事実上二つしかなくて、石油化学由来か、生き物由来となります。太陽電池(水素)などの例外はありますが、基本的に生き物由来の燃料は農林水産業由来のバイオマスから作られます。このバイオマスとは太陽と光合成の力で貯められた植物体のことです。 ○バイオマスの活用に向けて、脂質、糖質、熱化学の各プラットフォームがあり、本日話題のバイオエタノールは糖質プラットフォームに属しています。これは日本のお家芸の醗酵技術を活用し、植物体の糖を酵母が食べられる形に変える研究です。廃棄物利用の国産エコ技術は、アミノ酸やビタミン、生分解性プラスチック原料などの様々な醗酵生産物のもとを作ることにも応用できること、更には地域の特性を活かし適正規模での循環型産業を創り出すことで、地域の活性化にもつながる可能性があります。 ○化石燃料はCO2が地殻に取り込まれずに循環がストップすることからカーボンニュートラルではない。バイオエタノールはCO2循環型だが、LCA解析を行うと完全なカーボンニュートラルにはならない。稲わらの輸送や工場敷地の確保などでCO2を増やすとみなすためである。現在は化石燃料の約50%程度に地球への負荷を減らすことが目指されている。 ○バイオエタノール製造技術開発の背景としては温暖化防止とエネルギー安全保障、さらにはバイオエタノールの海外輸出などが構想されています。これらは「国産バイオ燃料の大幅な生産拡大」をうたった平成19年のバイオマス・ニッポン総合戦略推進会議の方針として定式化されています。 2.糖質プラットホームと稲わらの潜在能力 ○糖質プラットフォームの仕事では4種類の糖質、六炭糖の砂糖、澱粉、セルロース、五炭糖のヘミセルロースを対象にしています。このうち実用化されているバイオエタノール製造技術としてはブラジルなどのサトウキビ利用(砂糖)、アメリカなどのトウモロコシ(澱粉)があげられます。日本ではセルロースとヘミセルロースを糖化させる研究に取り組んでいます。これは稲わらからからのエタノール製造技術です。しかし、稲ワラの茎は非常に頑丈に出来ています。稲わらの構造はリグニンとヘミセルロースと無機塩が複雑に絡み合って、そのまま醗酵させることは出来ません。セルラーゼなどの繊維質酵素を使って前処理を行い、酵素糖化をしやすくします。このようにして稲わら25グラムからエタノール7mlを得ます。これは135ml缶ビールに相当します。 ○稲ワラの断面を電子顕微鏡で観察するとリグニンと澱粉粒が観察されました。いったん茎に溜め込まれた澱粉をいかに効率良く籾に移行させるかとの研究もあり、稲ワラ中に存在する易分解性糖質の積極的な利用が求められます。稲ワラの貯蔵法によって易分解性糖質の残存量が異なることも知られており、地際の茎部分や品種による糖質量の違いなどにも着目して研究を進める必要があります。 3.稲ワラからのバイオエタノール製造技術「CACCO法」Calcium Capturing by Carbonation ○CaCCO法のポイントは固液分離を行わないで、繊維質酵素を使った前処理による易分解性糖質の流亡除去を防ぐことです。CaCCO法は裁断・粉砕した稲ワラを水に浸漬し、水酸化カルシウム懸濁液を入れ、120度で1時間加熱します。その後、炭酸ガスを吹き付け中和させます。これに糖化酵素や醗酵微生物を入れて醗酵させ、エタノールを作ります。 ○RT-CaCCO法は前記の120度1時間加熱の工程を室温で7日間放置する方法に切替えたことにより、前処理加熱施設が不要となります。また、この方法は湿式貯蔵が可能です。湿式貯蔵により例えばサトウキバガスの細菌汚染による作業者の疾病原因を取り除くことが可能です。 ○CaCCO法の主な課題は(1)バイオプロセスの高度化(酵素糖化コストの低減、醗酵効率の向上)(2)資源循環システムとしての高度化(廃棄物処理、副産物利用等による持続的システムの構築)(3)原料特性に対応したプロセス全体の最適化(4)スケールアップ上の問題点の解明と解決(5)地域導入シナリオの構築です。 徳安博士からの話しのまとめ
参加者からの感想 ○食糧と競合しない稲ワラのバイオエタノール生産であることに研究の意義がある。 ○徳安先生の話しがとても整理されて、解かりやすく展開されたので良かった。 ○森田モデレーターの話しで農林水産研究の現状を概括的に捉えることが出来た。 |