全国消団連 ホントのことを知りたい!!
放射性物質汚染とわたしたちのくらし1
全国消団連では2011年5月12日(木)16:00〜19:00プラザエフ地下2階クラルテにおいて緊急学習会をおこないました。参加62名でした。
講師は(独)放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター長 明石 真言(まこと)さん、厚生労働省医薬食品局食品安全部 監視安全課長 加地 祥文さんにお願いしました。
≪放医研 明石先生から≫(事務局の聞き取りによる概要です)
- 被ばくということが、自分でもわからず、滅菌や殺菌や中和ができないなど、とても特殊であり、私たちのイメージにあるようなことは被ばくが原因で起こらない。
- 私たちの身体の中にも放射性物質は体重が60キロの人で4000ベクレルはいっている。自然界にも放射性物質は存在していて、日本の平均は0.99ミリシーベルト/年であり、世界平均よりは低い。
- α線、β線、γ線は透過力がちがう。α線は紙1枚で止まり、β線はアルミニウム、プラスチィックで止まる。γ線は鉄や鉛やコンクリートでとめることが出来る。
- 庭や家の屋根に降った放射性物質から放射線を浴びるのが外部被ばく、放射性物質が身体に付着するか、体内に摂取することが内部被ばくである。一定の放射線量を浴びても大丈夫なのは放射線によってDNAが破壊されても修復するからである。
- 国際放射線防護委員会の新しい“しきい値”は1/100人の人に明らかな症状が出る線量である。
- 100mSvの被ばくというのは「悪性新生物による死亡率が0.5%増加」するという程度の影響があることで、ここからが意味のある数字になる。
- 放射性物質が放射線を出す能力が減っていく物理的半減期と放射性物質が人体に入って排泄などで出て行ってしまう生物学的半減期の両方を考えあわせて身体への影響を考える。○○ベクレルの物を食べて、実効線量係数を掛けると○○シーベルトの被ばく線量がわかる。国際放射線防護委員会がこの実効線量係数を決めている。
- 原子力安全委員会は成人と幼児と乳児でわけて係数を決めている。又飲食物の摂取量も調べて係数が決められている。ヨウ素は甲状腺、セシウムは全身に与える線量で考えられている。食品のカテゴリーをわけ、摂取量を考慮し暫定基準値が導き出された。
- 追加で「安定ヨウ素剤予防服用の考えかたと実際」についてお話いただいた。
≪厚生労働省 加地監視安全課長から≫
- 暫定制限値の設定の考えかた(ヨウ素-131とセシウム-134+137(+ストロンチウム))
- 原子力災害対策特別措置法と食品衛生法の違い、原子力災害対策特別措置法の基づく出荷制限と摂取制限の考えかた
- 追加として肉の生食の流通について、また保健所の立ち入り検査はどういう物か説明いただいた。
≪参加者から事前に頂いた質問のいくつかの事例にお答え頂きました≫
1.放射性物質について
(1) |
α線、β線、γ線の違いを教えて下さい。 |
(2) |
内部被爆と被爆線量について教えて下さい。 |
(3) |
今後更に悪い事態になった時に放出される放射性物質は、ヨウ素・セシウム以外にどんなものがあり、影響はどういうものか教えて下さい。 |
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A: |
・ストロンチウム、プルトニウム等です。
・ストロンチウムはβ線をだし、骨のCaと置き換わります。
・プルトニウムは消化管から吸収されにくく、肺からの吸入が問題となります。
・α線を出し半減期が長く、骨と肝臓に蓄積します。 |
2.基準値について
(1) |
浴びた放射線量(放射性物質の量)の積算値の安全基準はどう定められているのでしょうか。 |
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A: |
外部被ばく線量 + 体内被ばく線量 |
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線量限度 |
区分 |
実行線量限度 |
組織等価線量限度 |
放射線業務従事者 |
100mSv/5年
50mSv/年
女子:5mSv/3ヶ月
妊娠中の女子
(出産までの間の内部被ばく):1mSv |
水晶体:150mSv/年
皮膚:500mSv/年
妊娠中の女子
(出産までの腹部表面):2mSv |
(緊急作業) |
100mSv |
水晶体:300mSv
皮膚:1Sv |
一般人 |
1mSv/年 |
水晶体:15mSv/年
皮膚:50mSv/年 |
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職業被ばくのための指標 |
緊急時活動の種類 |
線量指標値 |
救助活動* |
人名救助、重度の障害を防ぐこと、あるいは大災害への発展を防ぐ行動
多数の人々への障害や大線量を防ぐための放射線以外の即座で緊急の行動 |
原則として、他人への利益がはっきりと救助者自身のリスクを上回る場合のみ、線量制限は勧告をしない。その他の場合、あらゆる努力が健康での確定影響を避けるようにするべきである。(即ち、1000mSv以下の実行線量であれば重度な確定的健康影響を回避するだろう。以下に示した1年間の最大線量限度の10倍以下は他の確定的健康影響を回避するだろう) |
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* |
標準の職業被曝限度を超える線量につながる条件下では、作業者はボランティアであるべきで、放射線災害を扱うのに際し、詳細な情報を得た上での決断をするように指導を受けるべきである。妊娠しているかもしれない、あるいは授乳中の女性作業者はこれらの作業に参加させるべきではない。ICRP Pburication 96より |
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(2) |
被ばくの上限値が「作業を行なうため」のような理由で、引き上げられることがありますが、安全であるならば、何故初めからその値に設定しなかったのかが疑問です。引き上げて本当に大丈夫なのでしょうか。 |
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A: |
ICRP勧告(1977)のALARA「すべての被ばくは、経済的及び社会的な要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く保たれなければならない」との考えかたに従い、職業人及び周辺公衆の被ばくをできるだけ低く保つよう適切な対策。今回の事故対応に関して100mSvが上限では、充分な対応が不可(作業量、緊急性、重要度) |
3.放射性物質の身体への影響
(1) |
子供は甲状腺の影響がおこりやすいと言われますが、子供の場合の目安となる数字はあるのでしょうか。 |
(3) |
文科省が発表した小学生が許される放射線量はどう考えるか。 |
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A: |
・ |
8時間の屋外活動、16時間の屋内(木造)の生活パターンを想定します。 |
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・ |
20mSv/年に到達する空間線量率は、屋外3.8μSv/時間、屋内(木造)1.52μSv/時間であると計算します。 |
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|
・ |
物理的半減期を考慮していません。 |
4.放射性物質の検査について
(1) |
放射性物質検査の具体的な方法を教えて下さい。 |
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A: |
個人線量計、ホールボディカウンター、肺モニタなどがあります。 |
(2) |
暫定規定値を越えた放射能が検出された農水産物の出荷制限とその後の測定に用いられる測定方法について教えてください。 |
5.食品摂取による放射性物質の影響
(1) |
食べる時に洗う、ゆでる、ほすなど、行なう効果はあるのか、意味がないのでしょうか。
放射性物質の値を減らす料理方法など、あればポイントを教えて下さい。 |
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A: |
野菜などは洗うことで表面の汚染は落とせます。
ヨウ素やセシウムなどの水溶性のものは、ゆでた水をすてることで汚染を減らすことは可能です。 |
(2) |
水産物は、海水の中の放射性物質の濃度や、一度体内にとり込まれた量の影響がすぐには下がらないような気がするのですが、どうなのでしょうか。 |
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A: |
放射性物質の量は「はらわた」を含んで測定しています。多くの場合、「はらわた」を除去するので、実際に接収される放射性物質は少なくなります。 |
(3) |
具体的にどれだけの量を摂取すると人体に影響を及ぼすのか教えて下さい。 |
≪会場からの質問と回答≫
Q |
・ |
小女子から放射性物質が出たという情報がありますが、食物連鎖により、より大きな魚に蓄積されていくということはないか? |
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・ |
「ただちに影響するものではない」という言葉がわかりにくい。考え方を教えてほしい。 |
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・ |
防護服やマスクの処分方法は? |
A |
(加地) |
魚自身の生物学的半減期があり一定量は魚の体外に出る。食物連鎖の影響はあるが、ダイオキシンや水銀などより低い。10倍位にしかならない。生物濃縮という考え方にはいたらないような濃縮の程度である。 |
|
(明石) |
「ただちに〜」という意味は、2つの意味で使われているように思う。
ひとつは、放射線の影響はすぐには出ないという意味。ただ、もともと健康影響が出ないようなものについても「ただちに〜」という言葉を使っているので、科学的には間違った使い方ではないかと思う。もうひとつは、大丈夫という意味。もう少し、正しい言い方をすべきだと思う。
防護服は、日本では、事業者が引き取ることになっている。 |
Q |
・ |
今、お茶ときのこから放射性物質が検出されているが、加工品の基準値は今後どうするのか。 |
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・ |
と畜場では生食用の管理を行っているということだが、生食用の表示を行うと生食は大丈夫と消費者が思ってしまうのではないか。この点をどう考えるか。 |
A |
(加地) |
現在は、どの地域の生産物を止めるべきかを確認するために一次産品について行っている。加工品になると、産地がわからなくなる。そもそも今の規制値は、暫定規制値である。
事故が起こって1年かもう少しぐらいの期間はこの規制値で差し支えない。しかしその後は、食品全体の規制値を決める作業に移っていく。これには今回の事故が終息し、事故で出た放射線物質の種類・量について推計できるようなデータが必要。
と畜場から出荷する肉は、用途は明記されていないが、どこが処理したのか書くようにする。飲食店はトリミングをしなければならない。これは交差汚染を防ぐためだ。
ただ、これで100%防止できるわけではないので、警告は厚労省や消費者庁も引き続き行う。 |
≪参加者アンケートから“あなたがまわりの人に伝えたいことは何ですか”≫
- 放射性物質が体内に入ると検出が出来なくなるので、体内に入る前の規制値が重要
- 規制値の設定は低い値で設定されている。
- 冷静に対処しなければならないということ。つまり、実際の生活面ではそれほど心配する必要はないということを。
- 放射線の影響があっても、軽い場合は修復遺伝子が働くこと。
- むやみに、こわがらない方がいいよと伝えたいです。政府の言うことも信じられない人もいますが、日本の暫定基準値はかなり厳しいことがわかったので、それも伝えたいです。みなさん、何だか、わからないので、よりいっそう恐怖を感じるのではないかと思います。
- 子どもの20mSv、食品の規制値の考え方。厳密にはうまく説明できないが、今の世の中の考え方の中のきびしい方の水準でつくってあるんだということはわかった。とにかく、今は(残念ながら)緊急時なのだ。その水準で考えるしかないという状況であることもわかった。
≪事前に出されたご質問の中で今後学習会や意見交換会等で考えていくもの≫
○ |
原子力保安院は、電力会社や官庁からもっと独立した存在であるべきではないか。 |
○ |
フランスの原子力発電所に事故が起こっていないことをどう考えるか。科学技術の違い、ノウハウの違いがどうあるのか。 |
○ |
広島・長崎で直接被爆にあった以外の、その後、移り住んできた人達の放射線の影響はどうだったのか。 |
○ |
東京電力から「想定外のリスク」という言葉で説明がなされているが、プレートがせめぎあう不安定な地殻の上に存在する私たちは、そのリスクを直視し生きなければならないということを思い知らされた。あらゆる事態を想定した国づくりの長期戦略を政府が真摯に国民に示し、それに基づいて私達は未来を選択していかなければならない。情報公開は十分になされているであろうか。 |
○ |
原発に未来はあるのか? |
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事前の質問に答える
明石さん(右)、加地さん(左) |
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