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「消費者契約に関する検討会報告書」に関する意見を提出しました

 消費者庁「消費者契約に関する検討会(以下、検討会)」は、2019年12月24日から開催され、取消権等の規律の在り方や、平均的な損害の額の立証負担の軽減、契約条項の不当条項(サルベージ条項や消費者の権利を放棄するものとみなす条項)、定型約款の情報提供の在り方などについて論議が行われ、9月7日の検討会で報告書がまとめられました。

■「消費者契約に関する検討会報告書において示された考え方」について意見募集がされています。(締め切り:10月21日)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=235030042&Mode=0

 全国消団連では10月4日に以下の意見を提出いたしました。

2021年10月4日
一般社団法人 全国消費者団体連絡会

消費者契約に関する検討会報告書に関する意見

 事業者と消費者の間には、情報の量的・質的な格差があり、消費者の誰もが脆弱性を持っています。とくに近年は、高齢化がさらに進み、社会のデジタル化も急速に進展し、オンラインでの取引が拡大するなど、消費者を取り巻く環境が大きく変化しており、脆弱性につけ込まれる要素も増えてきています。また、来年度には成年年齢引下げの施行が迫っており、若年者の消費者被害の予防や救済措置は重要な課題となっています。
 こうした中、消費者庁において「消費者契約法に関する検討会」が設置され、情勢の変化に対応し、消費者契約法の機能強化をはかるべく、1年9カ月に渡って議論されてきました。
 消費者契約法は消費者が事業者との健全な取引を行う上で、安全・安心な生活を送るためのセーフティネットとして重要な機能を担っている、としてまとめられた、「消費者契約に関する検討会報告書」の「考えられる対応」の方向性に賛成し、次期通常国会にて報告書に沿った法改正を求める立場から、以下の意見を申し述べます。

1.消費者の取消権について (1)困惑類型の脱法防止規定

(意見の内容)
 「困惑類型の脱法防止規定」を設けることに賛成します。

(意見の理由)
 消費者契約法の第4条第3項には8つの類型が列挙されていますが、本来、消費者契約法は、消費者契約に対する包括的な民事ルールであり、細かく類型ごとに規定されても、すき間が生じてしまうため、できるだけ包括的な規定とすることが望ましいと考えます。
 そのため、必ずしも類型に該当しない行為であっても、実質的に同じ程度の不当性を有する行為については、受け皿規定として脱法防止規定を設けることに強く賛成します。
 8類型の中の、不退去(第1号)、退去妨害(第2号)、契約前の義務実施(第7号)及び契約前活動の損失補償請求(第8号)の4つに対する受け皿規定として、消費者に心理的な負担をかけるなど事業者に不当性のある行為により、契約を締結するつもりがないのに困惑して契約をしてしまった場合の取消権の付与は大変重要であり必要な規定です。また、今回の受け皿規定に該当するような行為は、そもそも大変悪質なものであり、正常な事業活動を何ら阻害するものでもありません。
 なお、今後に向けて、悪質な事業者から消費者をより保護していくためには、今回受け皿規定の対象とされた4つの類型以外についても、より汎用性のある包括的な規定が必要であり、消費者が安心して生活するためのセーフティネットを整備する考えを基に、将来の課題として検討する必要があります。

(2)消費者の心理状態に着目した規定

(意見の内容)
 消費者の心理状態に着目した規定を設けることに賛成するとともに、改正法案の策定においては可能な限り包括的な規定とすることを求めます。

(意見の理由)
 消費者が通常であれば契約を締結しないのに、不当に働きかけられることで正常に判断できる状況を歪められ、冷静に検討する機会を奪われてしまう場合の消費者の取消権を設けることに、強く賛成します。消費者が取引において冷静な判断ができるようにサポートする規定こそが、消費者契約法において最も重要であると考えます。
 また、報告書の趣旨の通り消費者契約法に規定されたとしても、事業者の正常な営業行為を妨げるものではなく、あくまで消費者に不当に働きかけ、消費者の判断を歪めるような、過度な勧誘行為や勧誘手法の組み合わせなど、悪質な行為を捉えた規定であることも重要であると考えます。報告書を踏まえ、できるだけ包括的な規定とすることが必要です。

(3)消費者の判断力に着目した規定

(意見の内容)
 消費者の判断力に着目した規定を設けることに概ね賛成します。

(意見の理由)
 そもそも判断力が著しく低下した消費者に対して、その先の生活が成り立たなくなるほどの支障を及ぼすような契約を締結させること自体に問題があると考えます。報告書では、こうした契約を事業者が悪意や重過失によって締結した場合に取消権を設けることされたことは、これまでよりも保護の範囲が広がる前進した規定として賛成します。
 しかし、今回の規定により保護できる消費者は限定的であると感じており、判断力に着目した保護規定としては、一部の高齢者に限らず、広く判断力の不足した人が救済されるように検討を進める必要があります。

2.「平均的な損害」について (1)「平均的な損害」の額の考慮要素の列挙

(意見の内容)
 「平均的な損害」の額を算定する際の考慮要素を列挙することで、明確化していくことに賛成します。

(意見の理由)
 「平均的な損害」の額の算定根拠を明確化することで、消費者が具体的に何を立証すればよいのか、よりわかりやすくしていく必要があります。また、事業者にとっても違約金条項等を定める際の参考にもなるため、有益ではないかと考えます。そのため、主要な考慮要素として、当該消費者契約における商品、権利、役務等の対価、解除の時期、当該消費者契約の性質、当該消費者契約の代替可能性、費用の回復可能性などを列挙していくことに賛成します。

(2)解約時の説明に関する努力義務の導入

(意見の内容)
 事業者に違約金条項について不当でないことを説明する努力義務規定に賛成します。

(意見の理由)
 消費者が違約金条項に疑問に思い説明を求めた場合に、事業者が不当でない旨を丁寧に説明することは、支払いを請求する側の責任として当然であると考えます。そのため、今回の報告書のように、事業者が「平均的な損害」の額の考慮要素や算定基準に沿って算定されたことの概要について、違約金が「平均的な損害の額」を下回っていることの考えを説明する努力義務を規定する必要があります。
 なお、今後法改正されても、違約金への説明が十分になされないような事例が多くある場合には、消費者が求めた場合の説明を義務規定として検討する必要があると考えます。

(4)立証責任の負担を軽減する特則の導入

(意見の内容)
 消費者の立証責任の負担軽減のため積極否認の特則の規定を設けることに賛成します。

(意見の理由)
 「平均的な損害」に関する違約金条項の効力に係る訴訟において、事業者が、その相手方が主張する「平均的な損害」の額を否認する場合に、積極否認の特則の規定を設けることにより、算定根拠が明らかにされることで、解決に向かう事例が増えることを期待します。また、この規定の活用主体としては、秘密保持義務が課され、厳格な情報管理体制の基で運営されている、適格消費者団体及び特定適格消費者団体に限定することで、事業者の心配する情報の不正利用は防止できると考えます。

(5)将来の検討課題

(意見の内容)
 「平均的な損害」の額の立証責任の転換については将来的課題として検討してください。

(意見の理由)
 今回、「平均的な損害」に係る立証責任の負担を軽減するための措置として積極否認の特則の規定が盛り込まれることにより、解約に関するトラブルが減ることを期待します。
 しかし、そもそも事業者と消費者の間には大きな量的・質的な格差があり、消費者に「平均的な損害」の額の立証を求めること自体に問題があると考えます。また、報告書には事業者の意見として、「平均的な損害」だけでなく商品・サービスの価格設定の在り方から考慮すべき、と概念の見直しを求める声もあります。このように、商品・サービスの価格設定の在り方から検討されるのであれば、消費者が違約金条項の不当性を主張することがさらに困難になっていくと思います。将来課題として「平均的な損害」という概念自体を見直していく場合においても、違約金条項の合理性を事業者が主張しなければならないものとして検討されるべきです。

3.不当条項等について (1)サルベージ条項

(意見の内容)
 事業者の損害賠償責任の範囲を軽過失の場合に一部免除する旨の契約条項を、明示的に定めなければ効力を有さないこととする規定を設けることに強く賛成します。

(意見の理由)
 免責に関する条項において、「法律上許される限り」といったサルベージ条項の文言が記載されると、消費者が免責の範囲がわかりにくいうえに、契約法8条で定められている、事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効に関する規定の目的が損なわれてしまいます。事業者の損害賠償責任の範囲を軽過失の場合に一部免除する旨の契約条項については、その内容を明示的に定めなければ効力を有さないこととする規定を設けることは、消費者にとって理解しやすく、大変有効であると考えます。

(3)消費者の解除権の行使を制限する条項、(4)消費者の解除権に関する努力義務

(意見の内容)
 消費者が解除権の行使を円滑に行えるよう、消費者の解除権の行使を制限する条項を無効とし、契約の解除に関してわかりやすい情報提供や、様々な手法による配慮を含め、努力義務とする規定を設けることに賛成します。

(意見の理由)
 消費者が契約を解約しようとした際、解約方法の記載がわかりにくい場所にあったり、契約締結時とは異なる手法に限定されることなどがあります。これらは、消費者にとって過大な負担となり、解約の時期が遅れる、あるいは解約を諦めるなどの不利益が生じるおそれがあります。とくに最近は、インターネット上にて定額での登録制によるサービスの契約が増えていますが、解約の手続きがわかりにくくなっている事例が多くあります。契約を締結するときと同様に解除に関しても、消費者に過剰な負担がかからず、円滑に解除権の行使ができることが求められます。消費者の解除権を意図的に妨げることは、悪質であると考えますので、消費者の解除権の行使を制限する条項を無効とし、解約の情報提供や手法については、より丁寧に提示いただく必要があります。

4.消費者契約の条項の開示について (2)適格消費者団体の契約条項の開示請求

(意見の内容)
 適格消費者団体の契約条項の開示請求をできるようにすることに賛成します。

(意見の理由)
 これまで適格消費者団体が不当条項を含む疑いのある契約条項について事業者に開示を求めても、拒否されることが多々ありますが、契約条項が開示されなければ、それが不当であるのか確認すらできません。不特定かつ多数の消費者との間で使用している契約条項の開示請求ができるようになることにより、事業者との協働の中でより良い契約条項を作るよう促すことが期待できると考えます。

5.消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務における考慮要素について

(意見の内容)
 消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務における考慮要素として、「年齢」を加えることに賛成します。

(意見の理由)
 消費者被害は、依然として高齢者の被害が多く、また来年には成年年齢引き下げが施行され、若年者に対するトラブルにも懸念があります。高齢者、若年者の被害防止の取り組みが特に重要となっています。前回改正時の附帯決議にも、情報提供における考慮要素の検討を行うよう提起されています。消費者の「年齢」は理解の不十分さを伺わせる1つの手がかりになることから、「知識及び経験」に加えて、「年齢」についても情報提供の努力義務における考慮要素とすることに賛成します。

以上