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「エネルギー基本計画(案)に対する意見を提出しました

 エネルギー基本計画は、中長期的なエネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づき政府が策定するもので、おおむね3年ごとに改定されています。
 2020年秋より経済産業省資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で見直しが検討され、2021年9月パブリックコメント募集が行われました。

 2050年の温室効果ガスの排出を実質ゼロ、2030年の温室効果ガスの排出を2013年に比べ46%減少させさらに50%減を目指す、という国の方針がある中で取りまとめられた計画(案)について、全国消団連は10月1日、意見を提出しました。

宛先:資源エネルギー庁長官官房総務課 パブリックコメント担当

エネルギー基本計画(案)に対する意見

1 該当箇所 9ページ283〜294行
1.東京電力福島第一原子力発電所事故後10年の歩みのポイント
(2)今後の福島復興への取組
意見内容 ALPS処理水の処分について289行目の「海洋放出を行う」という確定的な記載の削除を求めます。
理由 これまでの東京電力の廃炉処理の遅れ、風評被害賠償の不充分さ、柏崎刈羽原子力発電所の事故安全対応不備などから、被災者をはじめ国民と東京電力・国との信頼関係が構築できていません。ALPS処理水の海洋放出については、協同組合等を中心として反対運動が活発に行われています。283〜294行目に記載されている取り組みを着実に行い、漁業関係者をはじめとする関係者の合意を得ることが先決であり、今回の案のような記載は不適切と考えます。
2 該当箇所 11ページ335〜349行
2.第五次エネルギー基本計画策定時からの情勢の変化
(1)脱炭素化に向けた世界的潮流 ①地球温暖化の影響と世界の動向
意見内容 パリ協定と並び、IPCCについての記載を求めます。
理由 世界の動向においてはパリ協定並びに、IPCC報告書に基づき国際交渉が進められています。特に本年8月に発表されたIPCC第6次報告書についてもきちんと触れ、これらと整合性をもって本計画を進めていくことを明記すべきです。
3 該当箇所 41ページ1297行〜
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応
(3)需要サイドの徹底した省エネルギーと供給サイドの脱炭素化を踏まえた電化・水素化等による非化石エネルギーの導入拡大 ①徹底した省エネルギーの更なる追求(b)業務・家庭
意見内容 家庭部門の省エネルギーについては、より具体的な施策を立て周知に努めるべきです。
理由 家庭部門の省エネルギーの取組みは、節電から省エネルギー機器の購入・利用、ZEHなどの住宅建築に至るまで大変広範囲にわたります。そして、省エネルギーの取り組みにより、エネルギーの利用量そのものを減らすことはさらに重要です。これらについてできる限り具体的な施策を加筆して、国民がすぐに自分事として取り組むことのできるようにしてください。加えて広く着実な周知も必要です。
4 該当箇所 50ページ1562行〜
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応(5)再生可能エネルギーの主力電源への取組
104ページ3515行〜
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応(13)2030年度におけるエネルギー需給の見通し
意見内容 再生可能エネルギーの導入を最大限活用するための施策を実施し、2030年までに電力の50%以上の導入をめざし主力電源化を求めます。
理由 2030年までの短い期間での目標達成には再生可能エネルギーの最大限の導入、主力電源化が必須です。天候などに左右されるなどの安定性確保の対策も風力や地熱、バイオマス発電などの推進、蓄電池などの施設整備の促進など、今ある技術で対応可能です。
再生可能エネルギーの普及・拡大は、CO2排出削減のみならず、エネルギー自給率向上や将来的な発電コストの低減、化石燃料の輸送費用の削減や調達リスクの軽減など、多くのメリットも追求できます。また、地域分散型のエネルギー開発を進めることで、気候変動による災害の頻発に対するレジリエンス強化にもつながります。
再生可能エネルギー普及に合わせ、この間九州で実施されたような再エネの出力抑制をなくし、他の地域に安定供給できるような送配電施策を、再エネの普及に先んじて講じてください。
5 該当箇所 65ページ2096行〜
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応(6)原子力政策の再構築
104ページ3515行〜
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応(13)2030年度におけるエネルギー需給の見通し
意見内容 「可能な限り原発依存度を低減する」方針に基づき原子力発電の目標を見直し、「再稼働、新型炉開発の停止」「2030年代の原発稼働ゼロ」に向けた工程計画を求めます。
理由 可能な限り原発依存度を低減する(222行)とある一方、必要な規模を持続的に活用(717行)人材・技術・産業基盤の強化、安全性・経済性・ 機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発を進めていく(765行)とあり、原発への態度が一貫していません。原発については老朽化による安全性への不安、緊急停止時の代替電源確保の問題、使用済み核燃料はじめ今後増えてくる廃炉における放射性廃棄物の処分問題、安全対策費などの発電コスト上昇、など課題の多さを鑑みれば、原発再稼働及び、新型炉開発といった政策はとるべきではありません。
さらに、原発を扱う電力会社の地域住民との関係、トラブル発生時や安全対策の対応の不備など、原子力を扱う事業者として適正かについて、国民と東京電力・国との信頼関係が構築できておらず、原発の利用を続けられる状況になっていません。
6 該当箇所 75ページ2458行〜
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応(7)火力発電の今後の在り方
104ページ3517行〜
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応(13)2030年度におけるエネルギー需給の見通し
意見内容 火力発電については、燃料ごとの対応を分けて記載し、特に石炭火力発電のフェードアウトを加速させる施策を明記するべきです。
理由 化石燃料(石炭、LNG、石油)は、それぞれの燃料環境への影響(CO2排出量)や調整力などが異なるため、火力発電の在り方については、化石燃料それぞれについて、具体的な対策とその時期を明記するべきです。
特にCO2排出量の多い石炭火力についてはLNGや石油よりもフェードアウトのスピードを速める必要があります。加えて、アンモニア、水素等の脱炭素原料の活用は、高温熱を利用する一次エネルギーの分野の利用を優先させるべきで、これらの技術の実用化を待つという名目で、石炭火力発電を使い続けることはあってはなりません。
7 該当箇所 78ページ2563行〜
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応
(8)水素社会実現に向けた取組の抜本強化
意見内容 水素については、産業利用を優先し、その生成に当たっては国内の再生可能エネルギーを利用するべきです。
理由 現段階では脱炭素化が難しい高温熱を利用する産業などで活用が期待される水素は、すでに代替策のある発電よりも優先して研究・活用すべきです。この際、製造段階からCO2を排出しない施策を講じる必要があり、生成過程でCO2排出のある石炭火力由来の水素は利用するべきではありません。
8 該当箇所 93ページ3139〜3142行
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応 (11)エネルギーシステム改革の更なる推進 ①脱炭素化の中での安定供給の実現に向けた電力システムの構築に向けた取組(a)供給力確保のための強化策及び枠組の検討
意見内容 容量市場については、公正な取引の実現と、再生可能エネルギーの拡大に資するために、2024年度負担分を含めての制度再考を求めます。
理由 2020年7月実施初回オークションの結果、2024年度の小売電気事業者の費用負担(容量拠出金)は、相当数の新電力事業者の事業継続が困難となりかねない水準となりました。このままでは「電力会社や電力プランを自由に選べる」電力自由化が大きく後退することが懸念されます。消費者にとっては負担増につながり、電力会社及びサービス内容の変更を迫られるおそれがあります。
また、石炭火力発電や原子力発電の維持につながる仕組みが取り入れられており、「脱炭素社会の実現」「再生可能エネルギー主力電源化」「非効率石炭火力のフェードアウト」「原発依存度を低減」という方針と逆行しています。2024年度分も含めて、制度設計の見直しが必要です。
9 該当箇所 93ページ3143〜3147行
5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応
(11)エネルギーシステム改革の更なる推進 ①脱炭素化の中での安定供給の実現に向けた電力システムの構築に向けた取組(a)供給力確保のための強化策及び枠組の検討
意見内容 非化石価値取引市場においては、消費者が選択するための分かりやすい情報提供と、再生可能エネルギーの拡大に資する制度設計を求めます。
理由 2016年の電力小売自由化の本旨は、消費者が電気の売り手やサービスを自由に選択できるという点にありました。しかし、現在の電力市場はベースロード市場、容量市場、非化石価値取引市場など多くの市場のそれぞれが複雑な制度設計となっており、消費者にとっては理解困難な状態になっています。
非化石価値取引市場においては、原子力・廃プラスチックについても非FIT非化石証書の対象とされ、これらは取引上「非化石証書(再エネ指定なし)」という表示がされていますが、(再エネ指定なし)という表示では、実際は何の電源由来なのかが分かりません。消費者の誤認を招かないためにも、「原子力」「廃棄物」など発電源を明確にする必要があります。
また、非化石証書を購入しても社会全体の再エネ普及に必ずしもつながらない制度設計を、再エネの開発・投資およびCO2高排出電源のフェーズアウト(段階的廃止)につながる仕組みに見直すべきです。
10 該当箇所 123ページ4161行〜
6.2050年カーボンニュートラルの実現に向けた産業・競争・イノベーション政策と一体となった戦略的な技術開発・社会実装等の推進
<カーボンプライシング>
意見内容 排出した炭素量に比して負担する形のカーボンプライシングの導入を求めます。
理由 本案に記載のあるJ−クレジット、非化石証書ともカーボンプライシングの一種ではあるものの、脱炭素エネルギーを利用する権利に対する負担となっています。今後はカーボンニュートラルに向けて、CO2など炭素の排出量に比して排出主体が負担する制度とするべきです。
11 該当箇所 124ページ4193行〜
7.国民各層とのコミュニケーションの充実
意見内容 国民各層特に若年層や環境団体などのコミュニケーションに意欲的に取組むことを求めます。
理由 2030年の温室効果ガス排出削減目標、2050年カーボンニュートラルの達成のためには国民一人一人が積極的に取り組む必要があります。
しかし、市民参加・若者参加の場は大変少なく、自分ごととして受け止め、取り組んでいこうとする意識を持ちにくい状況になっています。例えば今後気候変動の影響を大きく受ける若者や、発電に伴う環境影響やリスクを享受する発電所の近隣住民の意見を聞く機会を持ち、それを施策に反映する必要があります。
一方、今回のパブコメ募集においても参考資料や説明資料がないなど、施策の発信についての取り組み方も不十分です。国民が積極的に関わるためには、生活と関連付け、取り組みがQOL向上につながると感じられるような発信が必要です。