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「特定商取引法・預託法の改正法案における書面交付義務の電子化を
認める条文案の削除を求めます」意見を提出しました

 政府は、今年の3月5日、特定商取引法と預託法の改正法案を国会に提出しました。
 この改正法案には訪問販売やマルチ商法、預託取引などについて、消費者の承諾があれば契約書面の交付に代えて電子メールなどを送信すればよいとする「書面交付義務の電子化」を認める改正案部分が突然盛り込まれています。

 書面に記載すべき事項について電磁的方法により提供することが可能になれば、現状よりも高齢者の消費者被害を増大させる危険性が高く、来年の成年年齢引下げも相まって若年者の消費者被害の増大も懸念され、悪質商法による消費者被害を防止・救済するための書面交付義務とクーリング・オフの意義を損なうものであり、別途慎重な論議を行う必要があります。

 全国消団連では、改正案から削除を求める意見書を4月15日に提出しました。

【送り先】
内閣総理大臣、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、消費者庁長官、内閣府消費者委員会委員長、独立行政法人国民生活センター理事長、衆議院議長、参議院議長、自由民主党総裁、公明党代表、立憲民主党代表、国民民主党代表、日本共産党幹部会委員長、日本維新の会代表、社会民主党党首、れいわ新選組代表

2021年4月15日

一般社団法人 全国消費者団体連絡会

特定商取引法・預託法の改正法案における
書面交付義務の電子化を認める条文案の削除を求めます

1 意見の趣旨

 政府は、今年の3月5日、特定商取引法と預託法の改正法案を国会に提出しました。

 この改正法案のうち、特定商取引法の「詐欺的な定期購入」や「送り付け商法」に対する規制を強化する改正、および預託法の「販売を伴う預託等取引」を厳しく規制する改正については、早期の実現を求めます。

 しかし、この改正法案には訪問販売やマルチ商法、預託取引などについて、消費者の承諾があれば契約書面の交付に代えて電子メールなどを送信すればよいとする「書面交付義務の電子化」を認める改正案部分が突然盛り込まれました。

 書面に記載すべき事項について電磁的方法により提供することが可能になれば、現状よりも高齢者の消費者被害を増大させる危険性が高く、来年の成年年齢引下げも相まって若年者の消費者被害の増大も懸念され、悪質商法による消費者被害を防止・救済するための書面交付義務とクーリング・オフの意義を損なうものであり、別途慎重な論議を行う必要があるため、改正案から削除を求めます。

2 意見の理由
(1)悪質商法被害と書面交付義務の重要性

【悪質商法被害の実態】
 訪問販売においては、販売業者が突然訪れて巧妙・強引なセールストークで勧誘し、一気に契約することを承諾させる悪質商法の被害が多発しています。全国の消費生活センターに寄せられた訪問販売の相談件数(2019年度)は、79,026件となっています。
 また、連鎖販売取引(マルチ商法)は、知り合いを誘って会員を増やせば大きく儲かると言って誇大な儲け話で誘い、不要な商品を買わせる被害が繰り返し発生しています。連鎖販売取引の相談件数(2019年度)は、11,612件となっています。
(参照:国民生活センターPIO-NETにみる2019年度の消費生活相談の概要(kokusen.go.jp))。
 販売預託商法は、和牛預託商法やジャパンライフ事件に見られるように、数千人・数万人と大規模での被害を繰り返しています。

【書面交付義務及びクーリング・オフの重要性】
 こうした悪質な勧誘方法による消費者被害を防止・救済するために、契約した直後に重要な契約内容とクーリング・オフの存在を記載した契約書面の交付を義務付け、消費者に自らが結んだ契約内容の重大性やクーリング・オフの存在を積極的に気付かせ、頭を冷やして考え直す機会を与えるのが、書面交付義務とクーリング・オフ制度です。

【書面の電子化により発生する事態】
 細かな文字の契約書面を手のひらサイズのスマートフォンなどにデータ送信することで契約手続きが進めば、不利な契約内容やクーリング・オフの存在に気付く可能性が大きく減少してしまいます。また、デジタルリテラシーの高くない人においては、スマートフォンやパソコンの操作に不慣れなため自分で契約内容に係るデータを確認することができず、家族や見守りを行う者が契約の存在に気付くことが困難となる場合があります。仮に、契約の存在に気付いたとしてもその内容を確認することもできず、解約しようとしてもその機会を逃してしまうことにもなりかねません。

(2)不当な勧誘行為下における「消費者の承諾」は被害を深刻化させる

 改正法案を提案した事務局は、「スマートフォンやパソコンの操作に慣れている消費者が増えており、消費者が納得して積極的に電子データの送付を承諾することを要件とするのだから、消費者の利益にもなる」と指摘しています。しかし、これは特定商取引法や預託法における消費者の実態を全く無視するもので、書面の電子化による消費者の不利益を十分に考慮していません。

 訪問販売や連鎖販売取引(マルチ商法)、預託商法などは、不当な勧誘行為により消費者が不本意な契約を結ぶおそれが強いために、書面交付義務やクーリング・オフを定めています。問題のある勧誘行為のもとで交わされた契約においては、消費者が契約内容を十分に理解し承諾したとは言えず、同時にそうした状況下では、電子データの提供についても納得・承諾したと評価することはできないはずです。不利な契約内容やクーリング・オフの存在を知らないままに、「メールで送りますよ」と言われて「はい」と答えたことが「承諾した」とされるならば、被害の未然防止や救済に資することにはならないばかりか、被害を拡大・深刻化することにもなりかねません。

(3)デジタル社会の推進の名の下に対面取引まで含める不当性

 今回の契約書面等の電子化における議論は、2020年11月9日開催の規制改革推進会議成長戦略ワーキンググループ会議で具体的に提案されました。ただし、この会議では、オンラインによる英会話指導契約の事例を紹介し、書面の交付義務があるためにオンラインで契約が完結しないため支障があるという理由から、書面の電子化を検討することが要請されました。

 ところが、今回の改正法案は、訪問販売など常に対面で契約する取引類型や、連鎖販売取引(マルチ商法)など営業所にて対面で契約するケースを含む取引類型を、全て区別することなく電子化を認めようとするものです。

 対面の契約ではその場で契約書面を直ちに交付できるため、電子化によって取引が迅速になるわけではありません。それどころか、その場で直接契約書面を交付する機会があるにもかかわらず、電子データでの提供を勧める意図としては、消費者に契約内容やクーリング・オフの存在を知らせないためであるとしか考えられません。

 このような不当な事態が当然想定されるにもかかわらず、対面取引まですべて含めて書面交付義務の電子化を認める改正法案は、あまりにも乱暴な提案です。

(4)立法の必要性が全く議論されていない

 今回の改正法案のうち詐欺的定期購入被害や販売預託商法被害などは、被害実態と規制の必要性について消費者庁の検討委員会できちんと議論を重ね、事業者側委員も参加して規制する対象範囲と規制内容について合意したうえで改正作業を進めました。しかし、書面の電子化は、2020年11月9日の規制改革推進会議の要請のみで、消費者・事業者・学識経験者等による議論の機会を設けることなく、いきなり改正法案が提案されました。

 2021年1月20日、消費者委員会で行われたヒアリングの場では、日本訪問販売協会の役員は、これまで書面の電子化について要望や議論をしたことはなく、政府が提案する書面電子化は「青天の霹靂」であると述べています。業界関係者でさえ驚くような事態であり、立法の必要性が全く論議されていないまま改正法案を進めることについては強く憤りを感じます。その一方で、全国の消費生活センターで消費者の相談を受けている消費生活相談員をはじめ、多くの消費者団体や弁護会が、書面の電子化について反対の意見を出しています。

(5)結論

 このように消費者被害の防止・救済に逆行する書面の電子化の改正法案部分については削除し、改めて関係者による検討委員会を設け、電子化の必要性や不利益防止の制度的措置を検討することを求めます。

以上