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特定商取引法の契約における書面交付の電子化についての
意見を提出いたしました

 内閣府規制改革推進会議の第3回成長戦略ワーキング・グループ(2020年11月9日)では、オンライン英会話コーチの取引が書面の郵送交付の義務があるためオンラインで完結しないという例を取り上げ、特定商取引法における特定継続的役務提供について概要書面及び契約書面の電子交付を可能とすべきではないか、との問題提起がありました。この点に関し、消費者庁は書面の電子化をする方向で検討する旨説明をしました。さらに業界紙によれば、消費者庁はオンラインでの特定継続的役務提供に限らず、訪問販売や連鎖販売取引等についても書面の電子化を検討していると報道されています。

 本件は、本年8月19日に報告書がとりまとめられた、消費者庁の「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」においても、全く触れられていない内容であり、今後、公開の場でしっかりと論議すべきと考えます。

 全国消団連では、特定商取引法の契約における書面交付の電子化について慎重に検討すべきとして、12月25日に以下の意見を提出いたしました。

【提出先】内閣府規制改革推進会議議長、成長戦略ワーキング・グループ座長、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、消費者庁長官、消費者委員会委員長、国民生活センター理事長

2020年12月25日

特定商取引法の契約における書面交付の電子化についての意見

一般社団法人 全国消費者団体連絡会

 内閣府規制改革推進会議の第3回成長戦略ワーキング・グループ(2020年11月9日)では、オンライン英会話コーチの取引が書面の郵送交付の義務があるためオンラインで完結しないという例を取り上げ、特定商取引法における特定継続的役務提供について概要書面及び契約書面の電子交付を可能とすべきではないか、との問題提起がありました。この点に関し、消費者庁は書面の電子化をする方向で検討する旨説明をしました。さらに業界紙によれば、消費者庁はオンラインでの特定継続的役務提供に限らず、訪問販売や連鎖販売取引等についても書面の電子化を検討していると報道されています。

 特定商取引法は、消費者と事業者間でトラブルを生じやすい訪問販売などの取引類型を対象に、事業者による違法・悪質な勧誘行為を防止し、消費者の利益を守ることを目的に策定されています。こうした法律の趣旨からすれば、社会のデジタル化が進む中においても、書面による契約書の交付の意義を踏まえて、慎重に検討されるべきです。

 全国消団連では、このような論議が行われている状況を受けて、以下の意見を申し述べます。

1.特定商取引法に規定されている取引類型における書面交付の電子化について、十分な論議がなされていない現状での法改正は拙速であり、規制の実効性や消費者保護の確保、電子書面の交付を認めた場合の弊害などについて慎重に検討してください

 特定商取引法は、消費者が望んでいないのに不意打ち的な勧誘により承諾を迫られる訪問販売や電話勧誘販売など特定の取引について、契約書面の交付により消費者が冷静になって考え直す機会を与え、無理由・無条件で契約を解消できるクーリング・オフの権利を与えています。また、連鎖販売取引や業務提供誘引販売取引は、取引に不慣れな消費者を儲け話で誘い込み、不利な契約を勧誘するトラブルが多数生じています。そして、英会話指導などの特定継続的役務提供は、実際に受けてみなければ判別できない不明確な継続的サービス提供を長期間かつ多数回まとめて契約させるため、説明と実際の内容が違うというトラブルが多発しています。そのため、連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引、特定継続的役務提供の3つの取引類型については、契約書面の交付義務だけでなく、契約締結前の勧誘段階にも契約内容の重要事項を記載した概要書面を交付させ、消費者が契約内容を冷静に確認しながら契約締結の判断ができるように義務付けています。

 このように概要書面や契約書面の交付義務が消費者保護のための重要な意味を持っていることを考えれば、事業者にとって取引が円滑化できるという理由で書面の電子化を認めることは、法律の趣旨を無視するものです。契約の内容の理解や確認に多少時間がかかったとしても、消費者が概要書面や契約書面を読み込み、冷静にしっかりと考える時間の確保は必要であり、特に継続的にサービスを受ける契約や儲け話に誘われて不要な商品を購入する契約には慎重さが必要です。

 そのように考えると、現時点で想起される範囲でも、以下のような点が指摘できます。例えば、対面で契約を締結する場合には紙の書面を直接交付することができるため、あえて電子データで送信する方法を認める必要性はありません。また、電話勧誘販売については非対面であるものの、被害者の多くが高齢者であることを踏まえると、書面を電子化した場合に契約自体の認識を持つことが困難になります。そのため、概要書面や契約書面の交付の電子化については、本人の同意を丁寧に確認することなく、デフォルトで同意とするような方法には強く反対します。この他、スマートフォンなどの小さな画面の端末しかない場合や印刷環境がない場合に詳細な契約内容が確認できるか、双方の記名押印した契約書面がない場合の紛争時の確認方法をどうするかなど、技術的な検討も必要です。

 今後もオンライン上の契約による商品・サービスの取引は広がっていくと考えられますが、書面の交付だけでなく契約内容の重要事項を提示したうえで説明義務を課すことや、電子データで提供された契約内容が確実に保存され、いつでも再確認できる措置など、オンライン契約における消費者保護の制度のあり方を講じることが不可欠です。

 以上より、特定商取引法に規定されている取引類型における書面交付の電子化について、十分な論議がされていない現状での法改正は拙速であり、特定商取引法の法趣旨を損わないよう、規制の実効性や消費者保護の確保、電子書面の交付を認めた場合の弊害などについて、消費生活や法律の専門家などから広く実情や意見を聴き、公開の場で審議するなど慎重に検討してください。

以上