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「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」
に対する意見を提出しました

 政府は本年6月に大阪で開催されるG20前に、脱炭素社会に向けた長期削減戦略を策定する予定であり、総理大臣の下に設置された長期戦略懇談会の提言(4/2公表)をふまえた「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」をとりまとめ、意見募集を行いました。

 2018年10月にIPCCが発表した1.5℃特別報告書によると、気候変動の深刻な影響を回避するためには、2050年の温室効果ガス排出を実質ゼロにする必要があることが明らかになっています。

 温室効果ガス大幅削減の取組み強化をはじめ、真に脱炭素社会を実現する長期戦略とすることを求める立場から、以下の意見を提出しました。

(提出先:環境省「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」に対する意見募集担当)

2019年5月16日

パリ協定に基づく成長戦略としての
長期戦略(仮称)(案)に対する意見

一般社団法人 全国消費者団体連絡会

(8ページ第1章2.「我が国の長期的なビジョン」について)

(意見1)「脱炭素社会」の実現に向け、2050年の温室効果ガス排出目標を実質ゼロとしてください。

(理由)

 2018年10月にIPCCが発表した1.5℃特別報告書は、気候変動の深刻な影響を回避するためには2℃未満目標では不十分であり、1.5℃目標をめざす必要があること、またこの目標達成のためには2050年のCO2排出量を実質ゼロにする必要があることを明らかにしました。この水準をふまえた目標設定を行うとともに、目標達成のための具体的方策をとりまとめた戦略とすべきです。

(15ページ第2章第1節1(3)①「再生可能エネルギー」について)
(34ページ第2章第1節4「地域・くらし」について)

(意見2)再生可能エネルギーの2030年の導入目標を大幅に引き上げ、そのための方策をより明確化、具体化してください。地域の再生可能エネルギー導入の促進には特に注力してください。

(理由)

 現在の目標(2030年22〜24%)は、パリ協定の採択や(1.5℃目標を目指す)IPCCの特別報告書の公表より前に定められており、長期戦略の目標としては不十分です。

 国内でも、家庭用電力の自由化にともない電源構成についての関心が高まり、再生可能エネルギーを重視した電源構成へのスイッチングが進展しています。また、企業においても、化石燃料の輸入が不要になることや、世界的な発電コストの低下が進んでいることなどコスト面でのメリットがあることからも、「RE100」への加盟が進むなど再生可能エネルギー由来のエネルギー利用を求める動きが加速しています。

 今後この傾向はますます進むと見込まれることからも、再生可能エネルギー導入目標を大幅に引き上げるべきです。

 特に再生可能エネルギーの地産地消は、緊急時の分散型電源としての期待、農地の活用や里山など森林資源の保全、地域経済の活性化への寄与・雇用創出、など多くのメリットが期待されます。その導入促進にあたって、政策面からの強い支援を求めます。

(16ページ第2章第1節1(3)②「火力」について)
(72ページ第3章第3節(2)「政策・制度構築と他国への横展開の強化」について)

(意見3)1.5℃目標の達成に向けて、2030年までにすべての石炭火力発電所のフェーズアウトを目指すこととし、その施策を明記してください。また、石炭火力発電技術の海外支援等は行わないことを明記してください。

(理由)

 石炭火力発電は、高効率の発電方法でもCO2排出量はLNGの2倍以上になり、非効率な火力発電所のフェーズアウトだけでは脱炭素社会は実現できません。パリ協定や温室効果ガス削減目標との整合性を図るためにも、石炭火力発電所の新設は高効率発電所を含めて行わないこととしてください。

 また、海外諸国に対し「相手国のニーズに応じ、CO2排出削減に資するあらゆる選択肢を提示し」とありますが、いったん建設されると、40年以上の長期にわたり大量のCO2排出が固定化される石炭火力発電は、その選択肢に含めるべきではありません。

(18ページ第2章第1節1(3)③「水素」について)
(57ページ第3章第1節T2(4)③「水素」について)

(意見4)水素の製造は、国内で、再生可能エネルギーを利用したCO2フリー水素に限るべきです。

(理由)

 水素を脱炭素社会の実現に向けての選択肢とするには、CO2フリーの水素を利用することが必要です。

 戦略案で示している「国際サプライチェーンの構築」では、「安価」な水素の製造を目指すなかで、CO2の排出を伴う化石燃料からの水素製造が想定されています。また、海外からの長距離に及ぶ水素輸送においてもCO2を多く排出してしまいます。

 水素の利用を脱炭素社会の選択肢とするために、利用以外の部分(生産、輸送)のCO2排出が増えてしまう対策は取るべきではありません。

(19ページ第2章第1節1(3)④「原子力」について)
(61ページ〜第3章第1節T2(4)⑤「原子力」について)

(意見5)原子力の利用を長期戦略の選択肢とするべきではなく、その利用を速やかに低減させるべきです。

(理由)

 原子力発電については、すべての判断の大前提として安全の確保と国民の理解が最優先されるべきですが、現状はどの世論調査を見ても原発再稼働について反対が賛成を大きく上回っています。

 また、

  • 再稼働により現在も増え続けている放射性廃棄物の最終処分など、バックエンド問題の解決の見通しが立っていないこと
  • 現在、原発再稼働のための安全対策等に多額の費用が投入されていること、また事故処理・賠償費用、廃炉費用についても上昇の一途にあり、コスト面での課題も大きいこと

などの問題があります。

 このような状況でのさらなる再稼働や新増設は認められません。むしろ、原子力発電の依存度低減をこれまで以上に加速させるべきです。

(34ページ第2章第1節4「地域・くらし」について)

(意見6)長期戦略の達成に不可欠な、消費者の実践に関わる記述を充実させ、周知広報を進めてください。

(理由)

 本戦略の達成に向けては、施策を実践する国民の意識変革も大変重要です。しかし、本戦略案は全体を通して産業政策や技術イノベーションに関する記述が多く、日常に根差した消費行動に関わる記述が十分でありません。

 そもそも消費者への情報提供は、理解促進や主体的な行動につながる有効な手段です。しかし、募集期間が1か月足らずであった今回の意見募集に象徴されるように、世界的な重要課題でありながら、消費者など様々な主体とコミュニケーションを丁寧に行いながら戦略を策定しようとする姿勢が感じられません。

 脱炭素化に向けた消費者の実践に関わる取り組みの記述を充実させるとともに、すべての推進主体に対して本戦略の内容を丁寧に周知広報してください。

(46ページ第3章第1節「イノベーションの推進」について)

(意見7)「非連続なイノベーション」以上に、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入などの既存技術の活用を重視した戦略とすべきです。

(理由)

 本戦略案においては、気候変動問題の解決策として「従来の延長線上ではない、非連続なイノベーション」が重視され、CCSやCCU、ネガティブ・エミッション技術など将来的な技術対策が列挙されていますが、現段階では不確実性の高いものであり、また化石燃料利用の継続につながる面をはらんでいます。むしろ、省エネルギーや再生可能エネルギーに関わる既存技術の全面利用など、直近でできることを重視した戦略とすべきです。

以上