[このページについてのご意見、お問い合わせなどはメールにて webmaster@shodanren.gr.jp までお送りください。]

全国消団連・トップページへ戻る


「消費者契約法の見直しに関する意見」を提出しました

 消費者契約法は、消費者と事業者の情報力・交渉力の格差を前提とし、消費者の利益擁護を図ることを目的として制定された法律です。昨年の通常国会で法制定以来の改正が行われましたが、その検討の際に積み残された論点について、内閣府消費者委員会「消費者契約法専門調査会」で継続審議が行われ、本年8月に報告書がとりまとめられました。

 この報告書の内容をもとに、消費者庁では現在「消費者契約法の見直しに関する意見」を募集しています。(2017年9月1日現在)

 全国消団連では、消費者庁の意見募集対象である「規定案」には各項目とも賛成しつつも、民法の成年年齢の引き下げの動きもある中で、

○事業者の情報提供に関して、考慮すべき要因となる個別の消費者の事情に「当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験」に加えて、「当該消費者の年齢」も明記すること

○高齢者・若年成人・障碍者等の知識・経験・判断力の不足に乗じて、過大な不利益をもたらす「状況利用型のつけこみ型勧誘」についても不当な勧誘とし、取消権を付与すること

等については制度的対応が必要と考え、9月1日に意見を提出しました。

消費者庁消費者制度課 消費者契約法 意見募集担当 御中

2017年9月1日

消費者契約法の見直しに関する意見

(一社)全国消費者団体連絡会
東京都千代田区六番町15
(電話)03-5216-6024
webmaster@shodanren.gr.jp

<意見の要旨>

●1 法第3条第1項関係

(1)本規定案に賛成します。本来的には「条項使用者不利の原則」の明文化を求めます。

(2)本規定案に賛成します。加えて「当該消費者の年齢」を明記したうえで、今回の法改正で規定してください。

●2 法第4条第2項関係

本規定案に賛成します。

●3 法第4条第3項関係

  • 本規定案に賛成します。
  • 電話勧誘に限らない執拗な勧誘行為等について、速やかに検討を進めてください。

●4 不当条項の類型の追加関係

(1)本規定案に賛成します。ただし、「審判を受けたことのみ」の「のみ」という文言は不要とすべきです。

(2)本規定案に賛成します。

  • いわゆる解釈権限付与条項・決定権限付与条項、サルベージ条項、軽過失による人身損害の賠償責任を一部免除する条項について、速やかに検討を進めてください。

●5 法第9条第1号関係

本規定案に賛成します。ただし「平均的な損害の額」については、事業者が立証責任を負うべきです。消費者が立証する際には、事業者は必要な算定根拠資料を提供すべきと考えます。

●その他

  • 約款の事前開示に関する義務規定を定めてください。
  • 法第4条に、知識・経験・判断力の不足に乗じて過大な不利益をもたらす、いわゆる「状況利用型」の「つけこみ型不当勧誘」についても不当な勧誘として、今回の法改正で規定してください。

<意見本文>

●1 法第3条第1項関係(1)について

(意見) 消費者契約の条項を定めるにあたり、「条項の解釈について疑義が生じることのないよう」という趣旨の文を加える本規定案に賛成します。本来的には、「契約条項においてその意味を一義的に確定することができない場合には、条項の使用者に不利な解釈を採用すべき」とする「条項使用者不利の原則」を明文化することを求めます。

(理由) 消費者契約の条項を定めるにあたっては、その内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるように配慮することが事業者の努力義務とされていますが、消費者にとって契約の内容を完全に理解することはなかなか容易ではありません。もともと事業者と消費者の間には情報等の格差があることを踏まえると、消費者が事業者から不利な解釈を押し付けられるおそれも考えられます。本来的には、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残る場合には、条項の使用者に不利な解釈を採用すべきとする「条項使用者不利の原則」を明文化すべきです。

●1 法第3条第1項関係(2)について

(意見) 事業者の情報提供に関して、考慮すべき要因となる個別の消費者の事情に「当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験」を加える本規定案に賛成します。加えて、「当該消費者の年齢」も明記したうえで、今回の法改正で規定してください。

(理由) 今回、成年年齢の引下げ対応検討ワーキング・グループの報告書の内容を踏まえて、配慮に努める義務が検討されていたにも関わらず、考慮要因として年齢が明示されませんでした。若者の消費者被害については、未成年取消権がなくなる20歳を境に急激に増えています。成年年齢の引下げを盛り込んだ民法改正案が秋の臨時国会に提出される可能性がある中、若年成人の消費者被害の防止・救済のための制度整備が手当されることなく引き下げが実施された場合、消費者被害が増えることは明らかです。本論点は消費者委員会からの答申書にも付言として特記されており、喫緊の課題として「年齢」も明記することを求めます。

●2 法第4条第2項関係について

(意見) 不利益事実の不告知の規定において、事業者の主観的要件に「重大な過失」を追加することに賛成します。

(理由) 不利益事実が告げられていなかったことによって生じた消費生活相談において、「故意」に告げなかったことの証明は困難でしたが、「重大な過失」を規律の対象に含めることにより、重過失を証明する客観的な状況を示すことで交渉が進み、消費者被害の救済につながると考えます。

●3 法第4条第3項関係について

(意見) 事業者の一定の行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときに取消権が認められる行為として、(1)から(4)の趣旨の規定を追加して列挙することに賛成します。

(理由) いずれの趣旨の規定も、事業者が消費者に対し不安をあおり合理的な判断ができない状況に追い込んだり、威迫的な言動で消費者を困惑させるもので、このようなケースで取消権が認められることで消費者の利益が守られると考えます。

●3 法第4条第3項関係について

(意見) 今回消費者委員会専門調査会報告書で「その他の今後の検討課題」などと整理された、電話勧誘に限らない執拗な勧誘行為等についても、速やかに検討を進めてください。

(理由) 今回の規定案で追加される困惑類型の規制によっても、消費者が、事業者による執拗な勧誘ないし威迫的な勧誘により望まぬ契約を締結させられた類型の救済は十分にできません。そこで、このような場合に契約を取り消すことができるという規律を新たに設けるべきです。

既に全国の消費生活条例において、「消費者に対し、執ように又は威圧的若しくは脅迫的な言動等を用いて消費者を困惑させること」等が禁止行為とされています。したがって、既に規制されている行為により締結された契約に取消しを認めるだけですので、事業活動に不当な影響を及ぼすものではありません。

●4 不当条項の類型の追加関係(1)について

(意見) 不当条項の類型に、消費者の後見、保佐または補助開始の審判を受けたことを理由として事業者に解除権を付与する条項を追加し、無効とする旨の規定を設けることに賛成します。ただし「のみ」という文言は不要とすべきです。

(理由) これにより成年被後見人、被保佐人または被補助人の契約トラブル防止の一助になることや、成年後見制度の利用促進という観点からも有効と考えます。ただし、「当該消費者が後見開始、保佐開始又は補助開始の審判を受けたこと『のみ』を理由として」という要件は、同規定の適用範囲を不当に狭めるおそれがあるので、法制化に当たっては、この「のみ」という文言は削除すべきです。

●4 不当条項の類型の追加関係(2)について

(意見) 不当条項の類型に、ア〜ウの条項を追加し、無効とする旨の規定を設けることに賛成します。

(理由) 事業者の債務不履行や不法行為などにより消費者に不利益が生じるケースは現に存在します。消費者に損害が生じた場合の責任の所在について、その要件の一切の決定権限を事業者に与えるという条項は、消費者の不利益につながります。こうした条項を無効とすることで消費者の権利が守られると考えます。

●4 不当条項の類型の追加関係について

(意見) 今回消費者委員会専門調査会報告書で「その他の今後の検討課題」などと整理された、いわゆる解釈権限付与条項・決定権限付与条項、サルベージ条項(ある条項が強行法規に反し全部無効となる場合に、その条項の効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する趣旨の条項)、軽過失による人身損害の賠償責任を一部免除する条項についても、速やかに検討を進めてください。

(理由) 事業者と消費者の間の条項に関する情報や理解の差は大きく、消費者が不利益を受けるおそれがないよう、速やかに検討を進めてください。

●5 法第9条第1号関係について

(意見) 本規定案には賛成しますが、そもそも「平均的な損害の額」については、事業者が立証責任を負うべきです。消費者が立証する際には、事業者は必要な算定根拠資料を提供すべきと考えます。

(理由) 消費者契約において消費者と事業者のもつ情報量には格段の差があり、消費者が「平均的な損害の額」を立証することは困難ですが、現状では消費者が立証責任を負うこととされています。そもそも、事業者が損害賠償の額を予定しまたは違約金を定める条項を定める際には、合理的な根拠をもって「平均的な損害の額」を算定しておくことが当然期待されており、トラブルが起きた場合も算定根拠を示した説明が容易なはずです。今回の報告書では、消費者が「事業の内容が類似する事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合には、その額が「当該事業者の生ずべき平均的な損害の額」と推定される旨の規定を設けるとのまとめがなされましたが、判断が明確に行われるような類似する事業者を選定し、根拠資料提供を受けることも容易とは思えません。「平均的な損害の額」についての立証責任は事業者が負うべきです。

●その他

(意見) 約款の事前開示に関する義務規定を定めてください。

(理由) 改正民法で定型約款が定義され、相手方の請求があった場合には条項準備者は定型約款の内容を示さなければならない規定が設けられましたが、これにより事業者に請求されなければ事前に開示する必要がないという誤解を生ずる恐れがあります。またこの開示請求権を消費者が行使することは現実的には期待しがたく、こうした状況に対応するために、消費者契約法において約款の事前開示に関する義務規定または努力義務規定を置くべきです。そもそも消費者契約法では事業者の努力義務として、事業者が消費者契約の内容について必要な情報を消費者に提供する旨を定めており、「契約締結の前に、消費者契約の条項を容易に知ることができる状態に置く」ことを求めているにすぎず、事業者に過重な実務負担を求めるものではありません。

●その他

(意見) 法第4条に、高齢者・若年成人・障碍者等の知識・経験・判断力の不足に乗じて過大な不利益をもたらす、いわゆる「状況利用型」の「つけこみ型不当勧誘」についても不当な勧誘として、今回の法改正で規定してください。

(理由) 高齢化社会が進み認知症も増える中、高齢者の判断力の不足につけ込み不必要な契約をさせられたという被害が多く発生しています。また知的障碍者が高額な商品を買わされるという被害も出ています。平成28年の法改正で過量契約に関しては規定が設けられましたが、違うものを次々と買わされたり、安いものを高く買わされたりなど判断力の不足につけ込んだ被害は後を絶ちません。また、若者の消費者被害は未成年取消権の適用がされない20歳を超えると急激に増えています。成年年齢の引下げ対応検討ワーキング・グループの報告書の中で制度整備の必要性が報告されましたが、制度的対応がとられず成年年齢が引き下げられると、さらに被害数が増えるおそれがあります。

今回の見直しを検討する際の視点にも書かれているように、近年の消費者を取り巻く社会情勢が急激に変化する中で、合理的な判断をすることができない事情を利用されて契約を締結させられたという事例も多数存在します。本論点は専門調査会報告書で「重要な課題として、民法の成年年齢の引下げの存否等も踏まえつつ、今後も検討を進めていくことが適当」と記述されるとともに、消費者委員会からの答申書にも「喫緊の課題として付言する」と特記されており、このような消費者被害に対処するための法整備を早急に行い、その実効性を確保する必要があります。

以上