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「消費者行政を一元化した新組織」に関する考え方

2008年3月24日
全国消費者団体連絡会
消費者行政のあり方検討会議

 これまで消費者団体では、長年にわたり消費者行政の充実強化を求めてきました。今般、福田内閣の政府方針において「消費者行政担当相の常設とその任所となる消費者行政を一元化した強い権限の持つ新組織の創設」という方向性が示される中、全国消団連「消費者行政のあり方検討会議」では、消費者重視社会を実現するために機能する消費者行政システムをつくり上げることが必要との観点から、消費者行政における司令塔としての「新組織」の創設に賛同するとともに、新組織に関連する以下の論点について6回にわたり論議を重ね、現時点での考え方をとりまとめました。

<論点>

1.「消費者行政を一元化した新組織」の創設

2.各省庁への消費者政策専任セクションの設置

3.施策についての新組織の対応の方向性(新組織と各省庁との機能分担)

4.新組織に付与する法執行権限について

5.消費者相談窓口の救済機能と情報収集機能について

<はじめに 〜検討にあたって〜>

 消費者政策に関わる分野を大別すると、「取引」と「安全」の2分野に分けて考えることができます。取引分野については、不当な表示・契約条項・勧誘行為等を規制し、市場環境の整備をはかることが主たる任務になります。安全分野については、危険性の高い商品・サービスが市場に出回らないように規制・チェックするなど、消費者の生命・身体に関わる危害を未然防止・拡大防止することが主たる任務となります。

 上記の2分野のうち、安全分野には食品の安全・医薬品・住宅・化学物質など、特に専門性や科学的知見が求められます。新組織には、消費者政策に関する広範な知識や実態把握が求められますが、そのうえ自ら高度な専門性を備えようとすると、組織の肥大化や、各省庁の機能との重複が避けられなくなります。

 したがって、新組織のあり方として、各省庁の業所管機能(許認可権限の行使や事業者指導等)は継続・活用しつつ、各省庁の政策起案・執行のあり方をチェックし是正しうる機能(担当省庁がない場合や緊急対応が求められる場合には自ら法執行を担える機能などを含む)を新組織に持たせるという方向で検討を行いました。
 

<論点>

1.「消費者行政を一元化した新組織」の創設

 消費者重視社会を実現するために、「消費者行政を一元化した新組織」を創設することが必要です。新組織は、消費者行政における司令塔として、以下に掲げる事業者監督機能と消費者支援機能の両面の機能を果たす必要があります。

  1. 総合的・省庁横断的な消費者政策の企画・立案・調整(消費者基本計画の策定と検証・評価・監視など)
  2. 各省庁に対して政策起案・執行を求める勧告権の発動(所管省庁が対応に消極的な場合、所管が複数省庁にまたがり対応が遅れる場合、緊急性を要する場合等)
  3. 直接的な法執行権限の発動(所管省庁が明確にならない場合、緊急性を要する場合、専管分野を持つ場合等)
  4. 消費者相談、被害情報等の一元的情報収集、調査研究
  5. 地方自治体・消費生活センターへの情報提供や研修等の各種支援
  6. 被害救済(違法収益の吐き出し、消費者訴訟支援等)
  7. 消費者教育、消費者への情報提供
  8. 消費者団体支援

 
2.各省庁への消費者政策専任セクションの設置

 「消費者重視の行政」を実現する上では、上記の「消費者行政の一元化した新組織」の創設とともに、日常的な個別施策の実施を担う各省庁が消費者の視点に立つことが重要になります。そのために、各省庁にも消費者政策専任セクション(例:経済産業省消費経済部、農林水産省消費・安全局)を設置し、かつ「一元化した新組織」が各省庁消費者政策専任セクションに対して政策起案・執行を勧告できる仕組みが必要です。

 各省内部においては、消費者政策専任セクションが消費者の視点で省にかかわる政策起案・執行を行うとともに、同セクションが省内の産業育成部局に対して、消費者の視点に立って施策(許認可権限の行使や事業者指導等)を行うよう促していく仕組みとする必要があります。

各省庁の消費者政策専任セクション設置の優先順位

<優先順位1(カッコ内は扱うテーマの例)>

 厚生労働省(食品・医薬品・医療・介護)

 総務省(通信・放送・郵便)

 金融庁(全般)

 国土交通省(住宅・交通・自動車)

<優先順位2>

 文部科学省(教育・著作権・Codexの窓口)

 環境省(容器包装・廃棄物・省エネなど)

 財務省(為替・酒・たばこ)

 法務省(裁判員制度・法テラス・保険法・司法制度)

 外務省(WTO)

3.施策についての新組織の対応の方向性(新組織と各省庁との機能分担)

 新組織は消費者重視社会の実現に向けて、各省庁の上に立ちリーダーシップを発揮する必要があります。新組織では消費者基本計画(現行の消費者基本計画のあり方・作業工程等の抜本的改革を含む)などの省庁横断的な政策立案・総合調整を行うこととともに、具体的施策についても3つのステップ([1]情報収集と分析 [2]各省庁への勧告 [3]直接執行)に立って積極的に関与していくことが求められます。ただし、新組織の資源にも限りがあることから、施策については各省庁との機能分担のもとに対応を進める必要があります。

<ステップ1:情報収集と分析>

  • 専門性の高いテーマや科学的知見が必要なテーマ(食品の安全・医薬品・住宅・化学物質など)について、新組織自らで専門集団を抱えるとなると、新組織は相当肥大化することになることから、新組織には具体的施策のチェックと是正ができる程度の体制を持たせつつ、基本的には既存の省庁・組織を活用する方向で進める。
     
  • ただし、各省庁や企業にも提言を行っている東京都消費生活総合センターのように、新組織も、少なくとも被害情報や実態は網羅的に把握している必要がある。
     
  • 専門性や科学的知見が必要なテーマであっても当該省庁の対応が鈍い場合などには、新組織に専門家や民間委員も入れた検討会を機動的に設け、オープンに議論する中で有効な対処策を検討できるようにする。それによって新組織の情報収集と分析が深まる(ここでの情報収集と分析を当該省庁への勧告につなげることもできる)とともに、当該省庁の対応スピードも上がる効果が期待される。

<ステップ2:各省庁への勧告>

  • 消費者問題の発生・拡大防止のために、消費者被害が拡大しやすい行政の構造(a取締省庁がない、b問題が複数省庁にまたがるゆえに対応が遅れる、c担当省庁がはっきりしているが対応に消極的)を改善することが急務である。そこで、新組織に対しては、上記a〜cのような事態等における当該省庁への政策起案・執行に対する勧告権を付与する。
     
  • 勧告のあり方としては、政策起案や執行を求めるもの、状況を調べさせるもの(たとえば自動車不具合情報について、「こういう情報が寄せられているが、国土交通省は状況を調べよ」というもの)など、いくつかのパターンが考えられる。
     
  • 食品安全行政については、リスク分析の考え方に基づきリスク評価機関・リスク管理機関が切り分けられており、リスク評価機関である食品安全委員会がすでに情報を幅広く収集しつつ科学的評価ができる仕組みになっていることから、食品安全委員会の枠組みはそのままにし、新組織に食品安全委員会への諮問権を付与することも検討する。

<ステップ3:直接執行>

  • それでもなお、当該省庁の対応が鈍い場合には、新組織が直接法執行できるようにする。

4.新組織に付与する法執行権限について

 消費者問題の発生・拡大防止のために、新組織に対しては、当該省庁への政策起案・執行勧告権に加え、担当省庁がない場合や緊急対応が求められる場合などに自ら法執行を担える権限も付与することが必要です。

 新組織は、消費者行政における司令塔として、各省庁への勧告など消費者行政全体に目配りする業務を中心的・実効的に行っていく必要があり、さらには新組織自身が専管分野を持つことも十分に考えられます。

<考え方>

  • 公取が、タテ割りでなく業種横断的に法適用が可能ということから、取引(契約・表示)規制全般に業務領域を拡大する意欲を示している(詐欺的な商法、悪質な勧誘、虚偽表示、不当な契約条項など)。取引分野についてはこうした考え方も参考にしながら、既存の担当省庁に加え、新組織も直接執行を担えるようにすることが必要。
     
  • 安全分野は特に専門性が問われることから、各省庁が専門性を活かして対応することが基本となる。ただし、安全分野について新組織が専門的な対応を行うことは難しくても、横串を刺せるようにしておくことは重要。そこで、全ての業種に適用できるタイプの法律(取引分野でいうところの独禁法・景表法など)の安全分野版をつくり、新組織が生命・身体への危害のある問題を察知した場合などに、この法律を執行するという案が考えられる。
     
  • 新組織自身が専管分野を持つことも十分に考えられる。ただしその場合でも、専管分野の業務だけに特化するのではなく、消費者行政における司令塔として、各省庁への勧告など消費者行政全体に目配りする業務もあわせて実効的に行う必要がある。
     
  • 消費生活条例で自治体に持たせているような、事業者に対する資料提出・立証要求権(立証責任を事業者に転換し、事業者の商品・サービスの安全性や取引の適正性について疑義がある場合、事業者からの立証がない場合には事業者に法令違反行為があったものとみなす)や、立入調査・公表・業務停止命令等の権限は新組織に持たせることが必要である。

5.消費者相談窓口の救済機能と情報収集機能について

 消費者にとって分かりやすい相談窓口を整備することが必要ですが、相談窓口に寄せられた相談については、相談者個人の相談解決・被害救済がなされることと、寄せられた情報が一元的に集約され、各省庁や地方自治体の政策起案・執行につなげられることの両面が必要です。相談窓口と情報収集体制を効果的に連携させることが肝要です。

 したがって、新組織での相談窓口は、相談・紛争解決・救済機能を充実すること、集まった情報を分析し施策に反映させること、地方自治体や消費生活センターへの情報提供機能を充実することが必要です。

<考え方>

  • 「相談窓口の一元化」と「情報の一元化」を分けて検討する必要があるが、まず前提として、情報の一元化は必要。今後、各省庁・国民生活センター・消費生活センター・新組織に設ける一元化窓口のどこに寄せられた情報であっても、共通のデータベースに収録され、各省庁や全ての消費生活センターから参照できるようにする必要がある。
     
  • 現状の各省庁に置かれている窓口は、寄せられた情報を政策に反映させるために必要性があり、この機能は今後とも必要である(消費生活センターや新組織の一元化窓口は救済機能、各省庁の窓口は企画・立案・執行につなげる情報収集機能ということで、主たる機能が異なる)。
     
  • 仮に、窓口を新組織に一元化することとしても、各省庁(消費者政策専任セクション)の持つ情報を共通データベースに入れさせることが必要。その場合、各省庁(消費者政策専任セクション)は日常的にこの共通データベースをチェックし、各省庁での消費者視点に立った政策起案・執行につなげることが必要。
     
  • 相談については、消費者にとって最も身近な相談窓口は地域の消費生活センターであり、対応においても電話対応にとどまらず資料等をもとにした面談での対応がより重要になることなどから、消費生活センターの相談・あっせん機能を充実することが前提になる。
     
  • 新組織に設ける一元化窓口は、単なるコールセンターでは不十分であり、相談・紛争解決・救済機能を持つことが必要である。基本的にはここで一定の回答が得られるようにする必要があるが、専門的な内容の相談への対応が各省庁に割り振られることはやむをえないと考える。
     
  • 地方と国との関係で言えば、新組織に設ける一元的窓口が、直接相談も担いつつ、地方自治体や消費生活センターへの情報面等における支援機能を果たすことが必要である。

以上