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「レコード輸入権」問題について

日本生活協同組合連合会
政策企画部長 小熊竹彦

1.経過報告

(1)知的財産推進計画

(2)著作権分科会法制問題小委員会の経過

(3)著作物再販制度問題の経過


2.内容上の問題点

(1)再販制度と輸入権の両方が導入されている国はない

(2)消費者利益の還元の保証は何もない

(3)多くの慎重意見、反対意見


3.経過上の問題点

(1)消費者団体を協議対象として認めず、「合意形成」と宣言

(2)法制問題小委員会の「多数」とは何か

(3)最終盤の「名称変更問題」の示すもの

おわりに

パブリック・コメントは最低限の措置、社会常識から遊離した「ムラ社会」



【解説資料】「レコード輸入権」問題について

日本生活協同組合連合会
政策企画部長 小熊竹彦

1.「レコード輸入権」問題とは

(1)レコード・CD販売の現況

 日本で販売されているレコード盤・音楽用CDのうち邦盤(日本語の邦楽)については、その多くが日本のレコード会社によって国内で製造され、日本の消費者向けに販売されています。

 日本では、一般の商品について独占禁止法において再販売価格維持制度(以下「再販制度」という)を禁止していますが、「著作物」についてのみ適用除外としており、「レコード盤、音楽用テープ、音楽用CD」は「新聞、書籍、雑誌」とともに「著作物」として例外的に再販制度が認められています。

 このため、これらの多くは小売店において「定価販売」が行われており、日本では一般に音楽用CD12センチが2500〜3000円という価格帯で販売がされています。とくに、もっとも売れている音楽用CD12センチ(新譜・新録音)の定価については、ほぼ2800〜3000円となっており、デフレが進んだここ数年のところでも、この価格が維持されています。

 日本レコード協会の統計によれば、2002年で邦盤CDの販売枚数が約2.5億枚となっていますが、1998年以降、大幅な減少を続けており、ピーク年である1998年の3.6億枚と比べると4年間で30%以上減少しています。とくに、2001年は前年比87%、2002年は前年比86%と減少傾向を強めており、2003年においてもこの傾向は変わらず、邦盤CDの枚数は前年を割り込む状況が続いています。なお、音楽用CDの主力である12センチは約1.7億枚ありますが、ここでも2001年、2002年と減少傾向が続いています。

  1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年
邦盤CD 3.58 3.64 3.41 3.34 2.90 2.50
前年比 106 102 94 98 87 86
12センチ 191 211 195 198 183 169
前年比 109 110 92 102 92 92
単位:枚数は億枚、前年比は%。(社)日本レコード協会資料より作成。

(2)アジア諸国で生産された邦盤CDなどの還流(逆輸入)

 一方、日本のレコード会社は、現在、中国、台湾、香港などのアジア諸国に対して、邦盤のCDなどを現地生産するための製造・販売の許諾(ライセンス)を現地のレコード会社に与えています。これを受けて、現地のレコード会社は当該国での販売を前提とする許諾内容に従ってCD等を現地生産して、生産したCD等を現地の消費者向けに販売しています。最近このうちの一部が日本に還流し、主にディスカウントショップの店頭やインターネット上の通信販売などで販売されるようになってきています。これは、アジア諸国で生産されたCD等が、通常日本で製造されたものよりも安い価格で販売されており、輸入コストを含めても、十分に安い価格で日本の消費者に販売できるからです。一般にアジア諸国で製造され、還流している輸入盤は、日本では1200〜1980円程度で販売されているといわれています。日本レコード協会が(株)文化科学研究所に委託した調査では、現在、約68万枚前後が還流していると推計しています。

(3)レコード輸入権とは

 こうした状況のなかで、日本のレコード業界は、日本で新たに「レコード輸入権」を創設すべきだと主張しています。

 レコード輸入権」とは、海外で正規に生産された邦楽のCDなどが販売許諾地域を越えて日本に還流する(輸入される)場合に、日本のレコード会社が当該CD等を日本では販売できないように差し止める権利のことをいいます。日本のレコード会社としては、安いCD等の還流する(輸入される)状況が拡大するのを恐れて、海外の事業者に対して邦盤CD等の製造販売の許諾を躊躇することから、こうした制度のないことが、海外への積極的な進出の妨げになっているというのです。アメリカやEUなどを含む他の主要先進国においても認められているので、日本でも認めるべきだと主張しています。

レコード業界が、レコード輸入権を創設によりもたらされる効果として主張しているのは、以下の点です。

レコード産業が日本の幅広い音楽文化をアジアに紹介することによって、日本への理解の促進とイメージアップが図られる。その結果、映画、アニメ、ゲームソフトなどのコンテンツ産業の発展とあいまって、日本の産業界全体に経済的波及効果をもたらす。(波及効果については「アジアにおける日本音楽ソフトの需要予測」報告書・三菱総合研究所を参照。)

正規商品の流通拡大により、アジア諸国で氾濫する海賊版の抑止効果が期待できる。

国内においても、著作者(作詞/作曲家など)、実演家(歌手/演奏家等)及びレコード製作者(レコード会社)による健全な音楽創造サイクルが維持されることにより、多様な音楽を国民に提供していくことが可能となる。

(4)レコード輸入権の検討の経過

 主要にはこうしたレコード業界からの要望を踏まえて、2003年7月8日に知的財産戦略本部が決定した「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」(知的財産推進計画)では、「レコード輸入権」について以下のような整理がなされ、検討が開始されています。

レコード輸入権
 海賊版対策としても有効である海外企業との正規ライセンス締結を促進するため、音楽CDなどの日本への還流を止める「レコード輸入権」の是非について、関係者間で協議が進められているが、関係者間協議の結論を得て、消費者利益等の観点を含めて総合的に検討を行い、2004年度以降必要に応じ著作権法の改正案を国会に提出する。
(文部科学省)

 この知的財産推進計画を踏まえて、このテーマについては、文部科学省・文化庁の文化審議会・著作権分科会に論議が委ねられ、具体的には著作権分科会の下にある「法制問題小委員会」で検討が行われることになりました。

 2003年9月25日に開催された第4回法制問題小委員会においては、小委員会の生野秀年委員(社団法人日本レコード協会常務理事)より、「レコード輸入権」の創設に関する協議状況などについて説明が行われました。小委員会の議事録では、説明後の質疑において積極意見と慎重意見がそれぞれ出されています。11月14日以降、このテーマについては、小委員会において3回論議され、12月3日の第8回小委員会で小委員会としての報告書がまとめられました。

 この報告書については、他の小委員会からの報告書とあわせて、12月8日に予定されている第11回著作権分科会に提案され、審議の上、第12回分科会(12月17日予定)において、最終的に分科会全体の報告書として取りまとめられる予定となっています。

 このテーマについては、長年に渡りレコード業界が主張をしてきましたが、これまでは日本経団連が導入に反対の姿勢をとってきたため、具体的な検討の遡上にのぼることがありませんでした。ところがこの間、日本経団連が態度を同意の方向へと転換しはじめたことから、「関係者間協議」の合意ができる条件ができたと判断されました。また、経済産業省もこれにあわせて同意の方向といわれており、関係省庁では、公正取引委員会が慎重な検討が必要としています。こうしたことから、レコード業界はこの期をのがすことなく、2004年の通常国会での著作権法改正をめざして取り組みを進めており、文化庁もこのまま合意されれば、法改正の準備に進めるとしています。

2.消費者団体としての考え方

(1)基本的前提

 そもそも日本のレコード・音楽用CD等は、法的に再販制度で保護されていることから、日本の消費者は邦楽のCD等について高い価格のものを買わざるを得ず、レコード輸入権のない現時点でも、業界利益が保護され、消費者利益が損なわれている現状にあります。世界的に見ると、レコード盤・音楽用CD・音楽用テープについて法的に再販制度を認めている国は他にありません。

 著作物の再販制度のあり方については、ここ数年激しい論議が行われてきました。1998年1月に公正取引委員会の研究会でまとめられた報告書「著作物再販適用除外制度の取扱いについて」(公正取引委員会・再販問題検討のための政府規制等と競争政策に関する研究会)においても、「音楽用CD等」については、「諸外国の動向をみても、音楽用CD等に再販制度を認めている国は存在せず、音楽用CD等の再販制度を廃止した場合に我が国で特に問題が生じるとはいえないと考えられる」とし、「まとめと提言」では、以下のように整理しています。

 音楽用CD等については音楽用CD(新譜・新録音)の定価について狭い価格帯に価格が集中しており、再販制度を利用しなくても流通している輸入盤のようなレコード店の工夫による多様な価格設定が行われる余地が封じられている。また、音楽用CD等のような趣味・し好性の強い商品についても、値下げをすれば需要を喚起する余地があると考えられるにもかかわらず、レコード店での価格設定の変更が行われないまま返品・廃盤されるという状況もある。

 ここ数年、デフレの進行をはじめとした経済環境の変化においても、音楽用CD等は、再販制度の下で高い価格を維持してきました。その結果、販売枚数が減少しているということもできます。価格の多様性を認めないことが、音楽の普及の妨げとなっていることも否定できません。

 この間、日本政府が全体として進めてきた規制改革・構造改革では、自由な市場経済における消費者選択の拡大と消費者利益の増大、それらを通じた経済の活性化に向けた努力がはかられてきましたが、そうした中でレコード業界はきわめて特別な法的扱いが認められてきたといってよいでしょう。

 その結果として日本の消費者は、高い値段を払わなければCDを買えず、消費者利益が現在においても損なわれているということを踏まえておく必要があります。

(2)「レコード輸入権」の問題点

 上記のような音楽用CD等の再販制度が維持されたまま、「レコード輸入権」が創設された場合、輸入による価格競争もなくなることから、日本の消費者は安い邦楽の輸入盤についても購入できなくなり、国内では安価なCD等を購入することがまったくできない状況におかれます。他方、アジア諸国の消費者は邦盤のCDを現在でも1000円前後で購入できます。したがって、レコード業界の主張のように、輸入権が制度化された後にアジア諸国で生産拡大がはかられるとすると、アジア諸国の消費者は1000円程度で購入できるのに、同じ邦盤CDを日本の消費者だけが2500〜3000円でしか買えないという矛盾がさらに大きく広がることになります。

 これまでも世界に例をみない音楽用CD等への再販制度の適用という状況の下で日本の消費者利益が侵害されてきたわけですが、このまま「レコード輸入権」の創設を認めるとすると、日本の消費者だけが同一商品ついて2倍以上の価格でしか買えない状況をさらに法的に強化していくことになるわけです。これは、日本の消費者利益を著しく侵害するものといわざるを得ません。レコード主張では、「他の主要先進国における導入されているから」というのがありますが、それを根拠とするのであれば、まず論議の前提として世界的に例のない再販制度についての廃止を先にすべきです。

 再販制度と輸入権をセットで認めることは、その国の消費者にとって、事実上価格による選択権を奪い、同一商品に対する極端な内外価格差を法的に是認することといわざるを得ません。日本で一般に販売されている商品のほとんどは、外国において安価な生産が可能な条件があれば、海外に生産拠点を移すことでより安い商品が生産され、それによって現地での市場の拡大がはかられるとともに、日本にも輸入され安価に販売されることで市場の拡大がはかられてきました。日本の消費者にのみ高い価格を法制度で維持しながら、アジアでは安く販売して自らの市場を広げようという発想は、日本の消費者利益を無視した手前勝手な姿勢といわざるを得ません。

 CD等にこのような輸入権を認めると他の商品にも拡大するおそれがあります。また、邦楽の輸入盤を対象とした検討といわれていますが、法律上は洋楽の輸入盤も対象に含まないとする立法は不可能とされており、洋楽の輸入盤の輸入制限につながるおそれがあるとの指摘もあります。

 農業分野などにおいても、自由貿易を進める立場から、輸入制限的な措置の見直しが迫られている今日、どうしてこのような制度が、レコード・音楽用CD等についてのみ認められるのかも問われます。

 いずれにしても、再販制度を前提として輸入権の設定を認めることは、消費者利益を著しく損なう措置であることは明白であり、消費者の立場から絶対に認めることはできません。

(3)経過上の問題点

 今回のテーマは、消費者利益に直結するテーマであることが明白であることから、先に見た知的財産推進計画でも、「消費者利益等の観点を含めて総合的に検討」を行うとされています。

 ところが、「著作権分科会」には消費者団体の代表が委員として参加しているにもかかわらず、直接的な検討の場である「法制問題小委員会」には含まれていません。法制問題小委員会の構成も20名の委員のうち、4名の学者、1名の弁護士、1名の図書館関係者を除くと、著作権者側の立場にある事業者団体などの代表が多数(14名)を占めるという構成になっています。さらに、2003年7月に知的財産推進計画が発表されて以降も、10月下旬になって日本生協連から事務局に説明を求めるまでは、消費者の立場からの意見聴取も予定されていませんでした。10月までの論議の中でも、レコード業界の主張は「消費者利益等の観点」の具体的な言及がありませんでした。

 本来であれば、音楽用CD等を愛好する消費者にとってきわめて重要な問題であり、社会的に論点が明らかにされる中で多くの国民が参加して論議すべきテーマであるにもかかわらず、マスコミ報道がほとんどなく、多くの国民・消費者が問題の存在すら知らないまま、法改正だけが決められようとしています。

 圧倒的多数の国民・消費者も知らない状況の下で結論を出そうとするのは、推進計画の趣旨そのものからも逸脱した乱暴な進め方といわざるを得ません。第7回小委員会では、弁護士の松田委員より、本件を広く国民から意見を求めるパブリックコメントに付すべきとの意見が出ましたが、実際にパブリックコメントにかけられるかどうかは、まだ確定していません。

 小委員会では、第6〜8回に消費者団体の代表者として日本生協連よりオブザーバー的な位置づけで審議に参加し、学識者や弁護士などの意見なども含めて、激しい論議の末、報告書は積極意見と慎重意見、反対意見が表記をされましたが、結論では何らかの措置を取るべきとする意見を「多数」としています。もともとメンバー構成上、多数になるようになっている委員会で「多数」とする結論を得ています。

 さらに、消費者こそもっとも主要な関係者であるにも関わらず、「関係者間の協議」の具体的な枠組がレコード業界と日本経団連とされ、ここでの協議がまとまれば「合意」が形成されるという「合意」形成の枠組そのものに重大な問題が内在しています。日本生協連より「関係者間協議」の対象に消費者団体を加えるべきとの意見も、文化庁事務局は拒否をされました。

 今日、経済産業省や農林水産省など産業所管官庁を含め、政府全体として「狭い業界内利害調整で問題を処理しようという古い枠組」から「消費者や国民の参加が保障され、開かれた論議に基づく検討の枠組」への転換が大きく進んでいますが、法制問題小委員会の構成にせよ、消費者団体を協議対象として認めないことにせよ、時代に逆行していると言わざるをえない状況にあります。

 少なくとも検討のプロセスそのものについての見直しをはかり、いかなる方向となるにせよ、消費者・国民が問題を認識し、開かれた場において慎重に結論をまとめることが求められます。

 また、小委員会の審議過程では、第7回小委員会において突如タイトルそのものを『レコード輸入権』から『「日本販売禁止レコード」の還流防止措置』に変更する事務局提案がなされました。日本レコード協会より変えるべきとの要請があり変更したというのが説明でした。審議の最終盤にはいり、突如業界からの申し入れで名称を変更すること自体、異例のことであり、なおかつ「日本販売禁止レコード」という名称そのものについても、誤解を招く恐れがあると考えられますが、結局小委員会報告では名称変更がなされて表現されています。

3.今後の予定

 文化庁の著作権分科会では、他の小委員会からの報告書とあわせて、12月8日に予定されている第11回分科会で法制問題小委員会報告が提案され、審議の上、第12回分科会(12月17日予定)において、最終的に分科会全体の報告書として取りまとめられる予定となっています。

 本件をパブリックコメントにかけるかどうかは、第11回分科会の場で検討される予定になっています。もし、パブリックコメントに付された場合には、第12回分科会を1月上旬に延期し、そこで結論をまとめることになります。