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トーマス・ビリー、コーデックス前議長・消費者団体との意見交換会報告

 9月17日にアメリカ大使館主催でトーマス・ビリー前コーデックス委員会議長と全国消団連(食グループ)との意見交換会が開催されました。概要は以下の通りです。

日時:2003年10月17日 14:00-16:50

場所:消団連5階会議室

参加者(敬称略)

(消団連)高野、関根、(日消連)山浦、(東京地婦連)飛田、(東京連絡C)池山、(JA全中)小木
(日生協)鈴木【安全】、佐藤【渉外】、菅野【事業企画】、渡辺【事業支援】中野【組活】
(安全委員会)西郷リスクコミュニケーション官、西川技術参与
(米国大使館)T・ビリー前議長、クレイ・ハミルトン主席農務官、浜本農務部担当官

1.概要

 はじめに、T・ビリー氏から「農場から食卓までの食品安全性」と題して、OIE、コーデックスの勧告とアメリカ国内での法規制との関係の関する概要説明がパワーポイントを用いて行なわれました。説明の後、消団連が事前に提出した質問状(5点)に対する回答と設問に関連した質疑・意見交換が行われました。
 

2.質問状への回答概要(少し専門的で分かりにくいかもしれませんがご容赦ください)

【設問1】「リスク評価を行なう者(Risk Assessor)は、各専門家の専門範囲や関連する利害関係からの独立性に基づき、透明性を保ちつつ選ばれるべき」とありますが、アメリカ合衆国でのリスクアセスメント作業では、法制度等をはじめ、これをどのように担保しているでしょうか?

 
A: リスクアセスメント実施者や各専門家がどのように関わるかという事については、現在米国では政府の職員自らがエキスパートとなっている。職員とはいえ、株式や債権の保有等経済的な報告を毎年行い、これは公表される。本人だけではなく家族も対象となる。アドバイザーコミッティにも同様の制度がある。
 
特にアドバイザーコミッティに関わる人材は、特定利害関係を持っている場合や大学の先生が特定の企業からの研究費を提供されている場合にも妥協の可能性がある。もしそのような場合には、特定の利害が絡む議題には関われない。これらの必要条件は連邦アドバイザリー法で規定されている。
 
HACCPのプログラムの導入時は、実施まで2年間要した。まず、提案(proposal)を連邦官報(federal resister)に記載して、関係者からのコメントを受け付けた。コメントを受け付けると同時に、プログラムの実行の判断を見極めるため公聴会(public hearing)を合計で52回実施した。コメントは合計で8千件寄せられたが、これら全てに目を通し、最終案の提示の際には、全てのコメントに対する回答を提示した。これらのコメントの中には消費者からの良い提案もあり、最終案に反映した案件もあった。
 
科学的なアドバイザーは1人1人が透明性を持つことが前提である。手続き的には、例え利害を持っていたとしても全ての人に公開される。アセスメントが終了した時点で、公聴会を行い利害関係者との意見交換を実施する。また、何もないところからはアセスメントは始まらない。アセスメントを実施するべきかどうか、リスク管理側からも検討されなければならない。アセスメント終了後、リスク管理者は複数ある方法の内、どのリスク管理オプションを取るのかを公共の手続きに則って決めないとならない。アセスメント本体の作業ではなく、その前後の意見交換過程を政策に反映するために、作業終了までに全体として2年近く時間を要することになる。
 
 
【設問2】リスクアセスメントを実際に始める前の取り組みには何があったでしょうか?またリスクアセスメントを実行するために不可欠な取り組みであると思われたことは、何かあったかでしょうか?また、リスク評価の実施をはじめるにあたり、事前にリスクアセスメントの原則と基準を確立しましたでしょうか?特定の危害カテゴリーにおけるリスクアセスメントを実施するために、手引きとなる文章かマニュアルを作成しましたか?そして、それらの文章は、何時公表されましたでしょうか?
 
A: リスクアセスメントは、科学的なデータに基づいて行なわれるが、ハザード(危害)は曝露のデータが十分存在するものが条件である。アセスメントの前にデータの必要性をまず考える。そのため、データを取得することを先にし、アセスメントを後にすることが適切な場合もある。
 
リスクアセスメントの手法について出版されているものもある。FSISは「指令(directive)」という形で、FDAは「グリーンブック」「レッドブック」という名称でリスクアセスメントに必要なデータや手法についての記述が明文化している。また、「JIFSAN」がリスクアセスメントについてのクリアリングハウスを持っており、モデルケース等の情報もホームページで記載している。
 
 
【設問3】アメリカ合衆国におけるリスクアセスメントとリスクマネジメントは、どう連携しているのでしょうか?リスク管理者は、リスクアセスメントを依頼することを決めるための理由についてはどのようにしているのでしょうか。リスクアセスメントポリシーを、リスクアセスメント実施前に、どのように確立しているのでしょうか?
 
A: FSISに所属していた経験からは、事故の発生や諸外国からの通報により、問題の発生が判明した場合、リスク管理者は判断樹(decision tree)に基づいて判断を行なう。
 
迅速に対応を行なう場合には、公衆衛生が優先し、その他の事象は考慮されない。例えば、輸入食品が違反品であった場合には、貿易政策は考慮されない。
 
1996年に米国で行なった病原菌対策を例にとると、病原菌に着目してから次のステップとして、病原菌と対象食品の組み合わせ事例を100種類近く提示し、パブリック・コメント等の意見交換手続きを経て5種類まで絞込みを行った。絞り込んだ対象については、それぞれの組み合わせに対するアセスメントを継続して実施している。しかし、この作業は米国だけで行なっているものではない。
 
 
【設問4】「リスクアセスメントの結果は、リスク管理者が理解しやすく、利用しやすい形で伝えられ、他のリスク評価者や利害関係者がレビュー可能なように開示されるべき」とありますが、アメリカ合衆国におけるリスクアセスメント作業では、これをどのように保障しているのでしょうか?またその内、どの作業範囲までが行政手続法等の法律・規則として定められているのでしょうか?
 
A: 1つ1つのリスクアセスメントについて、詳細な報告書を提出し、その報告書を公表する機会を公聴会(パブリックヒアリング)として持つ。公聴会で利害関係者間の協議を行い、理解を進めるようにしている。また、データは不確実性が前提条件ということが参加者にも理解されて進められている。
 
もう1つ、ここのアセスメント結果の検証手法として、ピュアレビュー制度がある。これは全米科学アカデミーが実施している。
 
非公開情報については公聴会の中でも「政府が守るべき情報がある」旨を開催案内時や開会時点で繰り返し説明している。公聴会は公開情報だけを用いて行うようにしている。
 
 
【設問5】「効果的なリスクマネジメントに必要な全ての情報と意見が、決定を下す過程に確実に反映されるようにすることがリスクコミュニケーションの主要な機能となるべきである」とありますが、アメリカ合衆国の場合、その作業の内、どの作業が行政手続法等の法律・規則として定められており、履行しなくてはならないことになっているのでしょうか?
 
A: 一般的な行政手続き規定は、「連邦管理手順法」により規定されている。また、大統領特別命令も出されている。農務省関係では、1994年に農業再編法(Agriculture reorganization act)が定められ、この中でリスクアセスメントを実施する義務が定められた。これらの手続きに則って法律が制定されないと、法規制そのものが無効になる。
 
 
【設問6】FDA、USDA、と数々の食品安全機関に携わってきた経験から、食品安全に携わるリスク管理者に、必要な要件・素質は何であると考えますか?特に専門性の発揮については、どのように考えますか?
 
A: バックグラウンドとして、工学、科学、法学等の知識がある方が仕事の手助けにはなる。
 
リーダーシップが取れること、マネージメント(人に対する)の経験が豊富なこと、コミュニケーションスキルに長けていること、「人の健康を守る」ということがよく理解していることであろう。これらの要件は概して痛みを伴うものである。
 
2年前にFSISの長官をしていた時には、リスクアセスメントに関わる人材は、本当に「リスクアセッサー」といえる人材が2〜3人、数学・統計的な推測を行なうモデラーが2〜3人、その他疫学、物理学、工学等のトレーニングを積み、理解できる人材が450人所属していた。FSIS全体にはその当時10,500人の職員がいた。なお、この人材とは別に、獣医が約1200人所属していた。

 以上の説明で、予定時間を超過して、意見交換会は終了しました。

参加者たち 説明を聞く参加者
説明するトーマス・ビリーさん トーマスさんと浜本担当官