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司法制度改革推進本部が9月1日締め切りで、弁護士報酬の敗訴者負担に関する意見募集を行っておりました。
全国消費者団体連絡会では、事務局長名で意見書を提出いたしました。



2003年9月1日

司法制度改革推進本部事務局御中

全国消費者団体連絡会
事務局長 神田 敏子
住所 東京都千代田区六番町15 プラザエフ6階
電話 03−5216−6024
fax 03−5216−6036
電子メール webmaster@shodanren.gr.jp

 

「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての意見
 

(国民の利用しやすい司法の実現こそが、司法制度改革審議会意見書の考え方)

 2001年6月にとりまとめられた司法制度改革審議会意見書は、国民にとって利用しやすい司法の実現をうたっています。弁護士報酬の敗訴者負担についても、「裁判所へのアクセス拡充」の項で取り上げられています。
 弁護士報酬の敗訴者負担制度については、審議会の議論の場において議論が重ねられ、審議会中間報告では「基本的に導入」となっていたものが、意見書では「一定の要件のもとに・・・敗訴者に負担させることのできる制度を導入すべき」「この制度の設計にあたっては・・・これを一律に導入することなく」となっています。
 このことから、弁護士報酬の敗訴者負担制度については、原則導入として議論をすすめるのではなく、司法アクセスに資するかどうかを十分に検討し、慎重に取り扱わなければならないというのが、司法制度改革審議会の意見書の内容をふまえた議論のありかたであると考えます。

(司法アクセス検討会の議論のすすめ方は問題)

 しかし、この間の司法アクセス検討会では、弁護士報酬敗訴者負担制度の目的について十分な検討が行われず、同制度が司法アクセスに資するかどうかについて、訴訟の実状をふまえた議論も不足しています。当初から弁護士報酬敗訴者負担の原則導入ありきのような議論のすすめ方になっており、上述したような司法制度改革審議会の議論の経緯と内容を踏まえたものとは言えず、問題です。

(弁護士報酬の敗訴者負担制度に関する意見)

<両面的敗訴者負担=弁護士報酬の敗訴者負担と片面的敗訴者負担は性格が全く異なる>

 弁護士報酬の負担のあり方に関しては、原告・被告がそれぞれ自分の弁護士の報酬を支払う「各自負担」が原則となっています。これに対し、敗訴した側が、勝訴した側の弁護士費用を負担する「両面的敗訴者負担」の導入が検討されています。この制度が「弁護士報酬の敗訴者負担」と言われており、この意見書でもそのように記述しております。この他に、ある当事者が勝訴した場合には敗訴側が両方の弁護士費用の負担をするが、その当事者が敗訴した場合には自分の弁護士費用を払うだけでよい「片面的敗訴者負担」という考え方もあります。「弁護士報酬の敗訴者負担」については、司法アクセスを阻害してしまいますが、「片面的敗訴者負担」については、司法アクセスを促進する効果があります。この二つは名称は似ていますが、その効果は全く異なり、一緒に論じることは出来ません。
 以上の整理をふまえて、弁護士報酬の敗訴者負担制度に関する意見を申し述べます。

<弁護士報酬の敗訴者負担に反対>

 消費者が事業者や行政を相手に訴訟を起こす場合に、確実に勝てるという見込みが立つ訴訟は決して多くありません。消費者にとっては、事業者・行政との情報力などの格差が大きい上に、立証責任が重いため、裁判をやってみなければ勝ち負けはわからないということが圧倒的に多いのです。そのような状況であるにもかかわらず、もし敗訴した場合に事業者・行政側の弁護士費用まで負担しなければならないとなれば、訴訟提起を控えてしまいます。
 このように消費者の立場から考えた場合、弁護士報酬の敗訴者負担は、司法アクセスを阻害することになってしまうため、強く反対いたします。
 また、法制度は、現実社会の変化に対応して事後に整備されるものであり、新しい類型の消費者被害等について、裁判において当初から確実な救済がはかられるとは言えません。敗訴を繰り返す中で、世論も変化し、裁判所の判断も変わり、法律も変わっていくということを考えると、弁護士報酬の敗訴者負担制度が持つ提訴萎縮効果は、そのような制度変化の道も閉ざすものであり、導入には反対です。

<片面的敗訴者負担について>

 行政訴訟や国家賠償訴訟については、当事者間において情報格差や経済力格差が大きく、提訴する市民側の勝訴率も低いのが実状です。しかし、行政の違法性をあらそうためには、訴訟を行う必要があります。訴訟の結果、勝訴した場合には直接公益の増進に役立ちます。また敗訴しても世論の変化などを背景に法律や政策の是正に結びつく場合もあります。このように、行政訴訟や国家賠償訴訟の公益性を考えた場合、司法アクセスを促進する視点から、原告である市民が勝訴した場合に、被告である行政に原告の弁護士報酬を負担させる片面的敗訴者負担を導入することが検討されるべきと考えます。

(今後の議論について)

 今回の意見募集の結果については、寄せられた意見内容や件数を公表するとともに、その結果が今後の弁護士報酬敗訴者負担に関する議論にどのように生かされるのか、明らかにする必要があります。
 また、多くの訴訟経験者から提訴萎縮効果を懸念する意見が出されていることを踏まえ、訴訟の実状について当事者や市民団体からのヒアリングを実施されるよう求めます。