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 全国消団連では、消費者運動ビジョン策定のための論議を行ってまいりました。8月に発表し、皆様からのご意見を受け10月に取りまとめました。11月18日の全国消費者大会でも紹介させていただきました。消費者保護基本法の改正が焦眉の課題になっている今、消費者のおかれている現状をあらためて確認し、自立した消費者・消費者団体として、主体性の確立と将来のあり方の論議に役立てていだける資料であると自認しております。
 広く消費者問題に関心をお持ちの方々にもご一読いただきたいと思います。




消費者運動ビジョン資料(確定版:2003年11月)

                           

<目 次>

消費者運動ビジョン

説明資料

第1章 消費者運動の到達点とビジョン作成の目的

 1.時代の変化に対応してきた消費者運動
 2.社会環境の変化と消費者団体の位置付けの高まり
 3.消費者運動ビジョン作成の目的

第2章 消費者運動の目指すもの

 1.消費者運動の果たしている役割
 2.「生活の基本的ニーズ」「健全な環境の中で働き生活する権利」に対応する広範な国民に共通の課題
 3.消費者の権利確立のための政策の実現を、消費者団体独自の活動として位置付けを強める重要性
 4.国際連帯の活動を強めることが必要

第3章 消費者団体の直面する課題と対応

 1.消費者相談の急増と多様化への対応
 2.企業の不祥事多発への対応
 3.政策決定過程における消費者の意見反映のための対応

第4章 消費者団体強化のために

 1.重点とする活動分野をさだめる。
 2.会員の増加をすすめる。
 3.運動の中心的な担い手育成のために
 4.財政強化のために
 5.ネットワークの力を発揮しよう

※参考1 消費者の8つの権利と5つの責任
※参考2 消費者団体の活動領域と消費者の権利
※参考3 団体訴権について
※参考4 「第3章 消費者団体の役割と課題」

全国消費者団体連絡会


 
消費者運動ビジョン

消費者運動の目指すもの

消費者の権利を確立し、くらしを守り向上させる。

そのために、運動の中で消費者団体を強化し、社会的位置付けを高める。

説明資料

 
<第1章 消費者運動の到達点とビジョン作成の目的>

1.時代の変化に対応してきた消費者運動

 戦後復興期の不良商品追放運動を萌芽として、日本の消費者運動は時代に応じて消費者に切実なテーマを運動課題としてきました。物価引き下げの活動から始まり、1957年の第1回全国消費者大会では、「私たち消費者大衆こそ主権者である」とたからかにうたった消費者宣言が採択されました。高度成長期には公共料金引き上げ反対や有害食品追放・食品添加物削減の取り組みをすすめました。1973年の第一次石油ショックの時には、品不足・物価値上げに対して抗議の活動をすすめ、翌年には灯油裁判を提訴しました。そして80年代には、円高差益還元や食品安全確保、ならびに消費税反対などの運動を展開し、90年代には、環境の取り組みや、PL法などの消費者生活に関連する法制定の活動を展開しました。

 PL法制定運動を通じて構築された、消費者団体間のネットワークと弁護士・相談員などの専門家との協力関係をベースとして、6年前に、全国消費者団体連絡会は時代にあわせて運営規則や運営方法を改革し、構成団体が大幅に増えました。その力で、消費者契約法の制定運動や、食品安全行政の改革などの運動を展開し、具体的な成果も生んできました。

 このように、消費者運動は、時代の変化に対応し、消費者の直面する新しい問題へと活動領域を広げ、消費者の権利の実現を目指してきました。
 

2.社会環境の変化と消費者団体の位置付けの高まり

 この5年間を振り返ると、社会環境の変化はいっそうそのスピードを増しています。科学技術の進歩、国際化、環境問題の顕在化、高齢少子社会到来といった変化に対して、日本社会の政治や経済のシステムが十分に対応できておらず、消費者をとりまく問題は多様化・複雑化しています。

 一方、消費者・市民の参加と情報公開が、行政運営において重視されるようになり、消費者団体に対する社会的期待が高まっています。

 これらの要因により、消費者団体の活動領域はいっそう広がっています。そして、内容的にも専門性が必要になっています。

 同時に、環境や福祉の分野を中心に、専門的な活動をすすめるNPOや地域住民団体が発展してきたのも、この間の特徴です。

 消費者団体は、消費生活にかかわる多くの課題の中で、時々に焦点化するテーマで運動を展開してきました。さらに、重点とする活動領域をさだめ、専門家などとのネットワークを広げ、みずからも専門性を蓄えながら、政策提言をすすめていく運動スタイルを構築しつつあります。このことは同時に、日常の活動分野が広がることにつながり、事務局体制の拡充が困難な中で、活動の負担が大きくなる側面があります。
 

3.消費者運動ビジョン作成の目的

 ヨーロッパにおいては、消費者組織が労働組合とならぶような社会的ポジジョンを確立しています。上記のように日本においても、消費者団体への社会的期待が高まっており、この時期にビジョン論議を通じて、消費者による運動と組織を一つの社会的セクターと言えるようにしていくための、展望を築いていくことが必要です。

 今回、消費者運動ビジョンによって、あらためて、現在の消費者をとりまく状況を共有し、消費者団体が重点として活動をすすめる活動領域について明確にすることが作成の目的です。そして、そこに私達の持っている資源を重点的に配分し、専門家や関連NPOとのネットワーク拡大、専門的な力量を持った人材の育成をすすめ、運動の広がりと、組織・財政基盤の発展を目指します。

 この消費者運動ビジョンは、そのような消費者運動の前進を、むこう5年間をめどにどう実現していくかを念頭におきつつ、全国の消費者運動にたずさわっていらっしゃる皆さんにも論議をよびかけ作成したものです。
 

<第2章 消費者運動の目指すもの>

 これまでの消費者運動の成果を引き継ぎ、消費者の権利の確立とくらしを守り向上させていくことを、私達の基本的な共通する目標としたいと考えます。

 その目標の実現のためには、今日的重点課題を明確にし、運動を発展させる中で、消費者団体自身の強化と社会的な位置付けを高めていくことが不可欠です。

(※消費者の権利については、ケネディの4つの消費者の権利や、消費者団体の国際的ネットワーク組織であるConsumers International (CI)の提唱する、消費者の8つの権利と5つの責任などがあります。今回の議論における消費者の権利は、このCIの消費者の8つの権利を参考に議論をすすめていきます。 参考1「消費者の8つの権利と5つの責任」参考2「消費者団体の活動領域と消費者の権利」参照)
 

1.消費者運動の果たしている役割

 多くの消費者団体が、消費者の権利確立をかかげ、いのちやくらしを守るために活動をすすめています。全国消団連でも、消費者の権利の確立とくらしを守り向上させることをめざしています。

 消費者運動は、この間、それぞれの団体によって重点としてきた課題は異なりますが、消費者としての自主的学習活動や、調査活動、消費者相談の実施、消費者への情報提供などを、日常的な活動としてすすめています。また、活動の目的を達成するために、生活にかかわる広範なテーマについて、行政や企業に対して意見を表明し、政策提言を行なうといった取り組みをすすめてきました。
 

2.「生活の基本的ニーズ」「健全な環境の中で働き生活する権利」に対応する広範な国民に共通の課題

 CIの消費者の権利では、第1の権利として「生活の基本的ニーズ」を位置付けています。これは、途上国における基本的生活基盤の確立が、消費者の権利として重要であるという考えに基づいています。第8の権利として「健全な環境の中で働き生活する権利」が位置付けられています。

 日本社会において考えた場合、第2から第7までの権利がもっぱら消費者団体に特有の課題を提起していることと性格を異にし、第1と第8の権利が示している内容は、より広範な諸団体との国民的な連携にもとづいて実現していく基本的政策課題をより多く含んでいるといえます。

 また、第1の権利である「生活の基本的ニーズ」は、他の権利と並列する性格のものではなく、基礎的な生活の基盤確保という、多くの諸課題の前提となる考え方を示していると言えます。これは、これまでの日本の消費者運動でいえば、くらしを守るという視点で様々な課題の中で語られてきた考え方です。そして、今後数年間を考えた場合には特に「社会保障の確保と充実」といった課題として浮上することが考えられます。

(1)社会保障制度のあり方

 少子高齢社会を迎えた今、税財政の在り方を含め、持続的な社会保障制度の構築がくらしを守るための大きな政策課題となっています。このテーマはひとり消費者団体だけの課題ではなく、労働団体や社会福祉組織などをはじめ、広範な国民的合意形成がもとめられるものといえます。財政支出と税収入が不均衡である現状を抜本的に見直し、福祉の分野への財政支出を重視するという基本的な方向性について、国民的合意形成をすすめるなどの運動が必要です。

 なお、特に消費者の視点から見た場合、社会保障の確保や充実とあわせて、多様な福祉サービスが選択できる環境がどう整備されるか、サービスの対価は適正な価格が実現されているか、サービスに対する苦情・相談が解決されているか、といった視点での取り組みが強められる必要があります。

(2)環境問題への対応

 くらしを守るという点から考えても、環境問題への対応は重要な政策課題であり、全地球的な課題です。環境税のあり方や、環境保全のための財政支出の重視など、この点についても、国民的合意形成を呼びかけていくという地道な取り組みが必要であり、特に環境団体との連携、国際的連携が重要です。

 なお、消費者の視点から考えると、商品選択時に環境に関する情報を考慮し選択するグリーンコンシュマーとしての役割が大切です。そのためには、環境負荷や環境配慮に関する開示された情報にもとづいて、商品・サービスが選択できるように条件整備をさらにすすめる必要があります。

 
3.消費者の権利確立のための政策の実現を、消費者団体独自の活動として位置付けを強める重要性

 第2から第7の権利を確立する課題については、その性格から消費者団体が中心となって問題を提起し、運動を展開する必要があります。加えて、この時期に、これらの課題のもつ緊急性・重要性は次ぎのように考えられます。

 日本社会はこれまで、産業優先で政策決定が行なわれていました。しかし、たとえばBSE問題でも明確になったように、消費者の安全・安心が確保されなければ、関連する産業も立ち行かなくなることが明白になりました。また、輸出産業においても、消費者への情報提供や苦情対応、安全性確保などが実現されなければ、各国の市場においても競争力を有しないことが明白です。

 このように、消費者の安全やくらしを守り向上させるという目的のために、経済の健全な発展があるという視点から、消費者政策が重視されなければならない時代が到来しつつあります。消費者運動が、消費者の立場から、様々な分野での発言を期待されている所以です。

 これまでのように事後的・部分的・対症療法的に消費者政策を考えるのではなく、国の基本的政策として消費者政策を位置付けるべき時代です。今般の21世紀型消費者政策の議論も、このような社会的背景のもとにその検討が必要になったと考えるべきです。そして、消費者の権利を確立していくのは、企業・行政・消費者といった各セクターの責務・役割であり、消費者運動が担う役割も大きく、相応した社会的ポジション確保が必要です。

 消費者運動は、さまざまな事業活動や政策に対して、消費者重視とはどのようなことなのか、消費者の権利実現の視点から、具体的に提言し、実現させていくだけの力が必要になっています。そのための制度整備も実現させていかなければなりません。次章に指摘する直面する課題を解決できるように、消費者団体自身が力をつける必要があります。

4.国際連帯の活動を強めることが必要

 経済活動の国際化や地球規模の環境問題の深刻化などを背景に、消費者の直面する問題を解決するためには、消費者団体間の国際的な連携がかつてなく重要になっています。

 WTOやISOといった国際機関の政策決定過程に消費者団体として関与していくことが、欧米ではすでに積極的に行われていますが、言語の壁や経済的問題もあり、日本の国際的責任に比して日本の消費者団体が果たしている役割は、残念ながら微々たるものです。国際的な機関での発言力を強め、食の安全や製品安全の確保、企業の消費者対応の改善、国際的な消費者被害からの救済といったことを実現していく力量が求められています。

 また、日本は経済先進国でありながらアジアに位置するという条件を持ち、日本企業はアジアに多数進出しています。アジアの国々の消費者の権利を実現するという点から見ても、日本の消費者運動が国際連帯の活動を強めることは重要です。

<第3章 消費者団体の直面する課題と対応>

1.消費者相談の急増と多様化への対応

 この10年来、地方自治体の消費生活センターに寄せられる消費者相談は、増加の一途をたどっています。内容的には契約被害が増えています。また情報通信分野のような新しい産業分野における苦情も増えています。

 多様なサービスや、高度な技術を活用した製品などが次々と販売される中で、消費者と事業者の情報格差がいっそう広がっていることが背景にあります。事業者の消費者に対する情報提供が不充分な場合が多く、消費者が適正な選択を行なうことが困難になっていると言えます。

 また、不況が長期化する中で、内職商法や資格商法など手段を選ばず、消費者の弱みに付け込むような悪質な商法が手を変え品を変え、行なわれています。また、サラ金などの高金利問題やヤミ金融の横行によって多重債務問題が深刻化しています。

 消費者相談は増加を続けているにもかかわらず、消費生活センターの体制整備は十分ではありません。むしろ、地方自治体の財政危機の中で、都道府県における消費者行政の後退傾向が顕著です

 また、トラブルに巻き込まれた消費者のうち、消費生活センターに相談するのは、3.7%程度という調査結果もあります。(国民生活動向調査)

 消費者が相談できるよう消費者センターの体制強化が必要です。また、消費者団体をはじめとした民間の相談機関をふやす等、相談先の選択肢を広げ、消費者問題を顕在化させることが必要です。そして、消費者の被害救済をすすめなければなりません。

 消費者被害の拡大を防ぐためにも、実際に消費者の権利を行使できる消費者が増えることが大切です。商品・サービスに関する十分な情報のもとに、主体的に選択する消費者が増えていけば、よりよい商品・サービスの充実とそれを提供する事業者が発展し、悪質な事業者の活動の余地が狭められることが期待できます。また、消費者の被害救済が保障されれば、悪質な企業に不当利得を許さず、悪質行為の繰り返しを防ぐことにつながります。

 消費者の権利が行使できる環境整備の一環として、行政が相談体制を拡充し、被害救済をはかるとともに、消費者教育をすすめることは当然、強められなければなりません。

 消費者団体としては、行政に対してこのような環境整備を求めると同時に、消費者団体自身の活動として、抜本的に消費者支援を強める必要があります。団体間の協力・協同や専門家などとの連携によって、消費者の権利行使を支援するために、消費者団体として以下のような役割を果たすことが必要になっています。(注1 消費者団体の役割

(1) 消費者からの相談に対応する役割

 できるところから、消費者相談を受け付け、消費者が主体的に事業者に解決を求められるような支援を行っていくことが必要です。具体的に支援をすすめるためには、消費者行政や専門家等との連携が重要です。

(2) 団体訴権を活用し、不当約款や不当な勧誘行為を是正、少額多数被害の救済をはかる役割

 団体訴権の制度化が検討されています。はやければ、2005年にも制度化される可能性があります。専門家との協力関係を構築し、団体訴権を行使できるような消費者団体側の準備が必要です。 ※参考3 団体訴権について

(3)広範な消費者への情報提供を行うとともに消費者教育をすすめる役割

 相談事例や、例えば国民生活センターや消費生活センターからの情報を活用するなど、信頼できる情報を整備し、ホームページや機関紙で紹介したり、セミナー開催を拡大するといった広範な消費者への情報提供機能を強めることが必要です。

 また、消費者の権利を主体的に行使できる消費者が増えていくように、消費者教育について、学校教育・社会教育の場での取り組み等がすすめられる必要があります。消費者団体もさまざまな機会を活用し、消費者教育の充実に関与していきます。

 以上の役割を消費者運動全体としてどう果たしていくか、具体的な検討を開始しなければなりません。各団体での対応強化の検討だけでなく、多くの団体の協力・共同と専門家との連携によって、このような役割を果たし得る体制整備をすすめることが重要です。
 

2. 企業の不祥事多発への対応

 原子力発電所の検査データ改ざん、多発した食品表示偽装、自動車メーカーのリコール隠し、未認可食品添加物の使用など、企業の不祥事が次々と明らかになりました。一部の悪質な事業者だけではなく、各業界のトップといわれるような大企業も事件をおこし、消費者はいったい何を信頼できるのかといった不信と怒りを持たざるをえませんでした。このような企業の不祥事は、多くが内部告発によって明らかにされています。

 一方、企業サイドでは、自主行動基準を策定し、法令遵守や内部告発者保護などを社会に明言するところも増えています。自主行動基準の制定過程、内容、ならびに実施状況と改善という一連の企業行動を注視し、消費者が企業を評価できるよう情報提供をすすめる活動も、消費者団体の新しい活動分野として期待されています。

 消費者団体としては、企業行動に問題がある場合は、これまでのように、その責任を追及し被害救済を要求していきます。さらに消費者重視経営をどう実現させていくかという視点から、(1)自主行動基準を評価する、(2)個々の企業活動に関する評価を行う、(3)消費者が監視役として運営に参画していくような企業内の仕組み(例えば倫理委員会)に第3者として関与し影響力を発揮していく、といった取り組みが考えられます。これらの活動について、どう考えていくのか、論議を深めていく必要があります。
 

3. 政策決定過程における消費者の意見反映のための対応

 政府や地方自治体で、さまざまな政策テーマに関するパブリックコメントや意見募集が行われています。行政が、提出された意見を政策に生かしているのか、形式的に行っているだけではないのか、疑問に感じることも少なくありません。そのような視点でチェックをしていくことが必要です。同時に、説得力のある具体的な政策を意見として出せるよう、消費者団体側の力量をさらに向上させていくことも課題です。そして、具体的な政策提言を行う場として、これらの制度をこれまで以上に活用し、行政のその後の政策展開を監視していくことが必要です。

 政府や地方自治体の各種審議会・研究会なども、政策決定への消費者の参画の重要な機会です。審議会・研究会などの運営を形骸化させず、十分な政策検討の場として機能するよう、よく準備して消費者としての意見を述べることが必要です。

 また、食や環境の分野ではリスクコミュニケーションへの消費者の参画が具体化されはじめています。

 環境の分野では、PRTR制度(注2)によって、地域で排出されている化学物質のデータが公表されはじめました。行政や業界団体によるリスクコミュニケーションの実践もスタートしています。地域住民や環境団体とともに、消費者団体もリスクコミュニケーションへの参画が求められています。

 食の分野では、食品安全基本法が成立し、今後、リスクコミュニケーションが本格的に展開されます。この分野では、特に消費者団体の果たす役割が大きいと言えます。

 以上のような政府・自治体といった行政に対する消費者の意見反映の機会があります。これらの機会を形骸化させず充実強化をはかるとともに、消費者が参画できる仕組みの構築・整備を求めていきます。

 また、国会や地方議会を通じた政策への意見反映も重要です。

 消費者団体が、これまで以上に政策決定過程において消費者意見を反映させるためには、消費者団体サイドの政策提言力の強化をはかることが重要です。消費者団体は、それぞれの団体によって、活動を蓄積してきたテーマを持っています。各団体の関心に応じて、消費者意見を反映させていく重点分野を明確にし、系統的に政策的蓄積を持っていくことが大切です。そして、消費者団体間のネットワークによって、各団体の政策的蓄積を交流するなどそれぞれの強みを生かして、消費者団体全体の政策提言力の向上をはかります。また、系統的に政策的蓄積をはかるためには、専門家・専門団体とのネットワークをひろげることや、消費者のくらしの中からの意見を集約する調査力の向上をはかることが大切です。

 なお、地方議会や国会などの議会に意見反映をすすめるために、全ての党派の議員に対して、消費者問題への情報提供をすすめ理解を広げていく、日常的取り組みを積極的にすすめることが必要です。

 
注1 消費者団体の役割

 今回の消費者運動ビジョンでは、消費者の権利という視点から、消費者団体の役割の整理を図りました。

 これとは異なる視点で、消費者団体の役割を整理したものとして、平成15年5月内閣府国民生活局発行の「消費者組織に関する研究会報告書」の「第3章 消費者団体の役割と課題」が参考になります。(※参考4

 その中では、消費者団体の役割として、(1)市場における監視者の役割、(2)被害救済の支援の役割、(3)情報発信の役割、(4)消費者教育・啓発、(5)消費者政策への関与、の5つを提起しています。

 
注2 PRTR制度

 PRTRとは、有害性のある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表する仕組みです。

 対象としてリストアップされた化学物質を製造したり使用したりしている事業者は、環境中に排出した量と、廃棄物として処理するために事業所の外へ移動させた量とを自ら把握し、行政機関に年に1回届け出ます。

 行政機関は、そのデータを整理し集計し、また、家庭や農地、自動車などから排出されている対象化学物質の量を推計して、2つのデータを併せて公表します。

(環境省ホームページより転載)

 
<第4章 消費者団体強化のために>

 消費者運動が、以上のような役割を果たしていくことを考えると、消費者団体の現状は、担い手の問題や財政の問題等多くの困難な課題をかかえています。それぞれの消費者団体が、次のような視点から組織・財政面の強化計画を持ち、着実にすすめる必要があります。

1.会員の増加をすすめる

 各団体が重点とする活動分野で、日常的な消費者の要望に基づいて、政策提言をはじめとした活動を展開し、広報などを通じて広範な消費者に運動の理念と政策内容をしらせていけば、そのような活動に関心を持つ消費者とのつながりが広がり、運動に参加する層も広がっていきます。80年代まで主要には主婦によって消費者運動がになわれてきました。その後、専門家とのネットワークが広がり、運動の担い手も広がってきました。さらに、学生や勤労者も含めて運動に参加する層を意識的に広げます。

 また、関心を持った消費者が、団体に加入しやすいように、各団体の目的や運営、ならびに入会方法に関する情報提供を強めます。

2.運動の中心的な担い手育成のために

 運動の中心的な担い手の育成は、それぞれの団体の具体的な日常活動の中で図られていくことが基本ですが、あわせて、育成の必要性を再認識し、そのための独自の取り組みが具体化される必要があります。特に、消費者運動をめぐる状況が、大きく変化していることをふまえて、現時点で共有すべき情報や技術を明確にして、育成のプログラムを持つ必要があります。

 また、若い世代の運動参加を広げていくために、運動の中心を担う層が世代構成の点でバランスがとれている組織にしていく必要があります。役職の任期制など、それぞれの団体の実状に応じた検討が求められます。

3.財政強化のために

 会員の増加によって会費収入を伸ばすとともに、事業収入を確保し、自主的な財源を確立することが基本です。とくに、資料発行やセミナーなどの企画・開催にあたっては、明確に収入を意識した事業計画を持ち、ひとつひとつの事業計画が、財政面でも成功をおさめるようにしていく必要があります。賛助会員制度の導入や拡充についても計画的にすすめることが有効です。

 また、重点とした活動分野について、どのような行政や民間の活動支援メニューがあるのか確認し活用していきます。

4.ネットワークの力を発揮しよう

 以上のような取り組みをすすめ、それぞれの団体が力をつけていくとともに、地域ごと、課題ごとに消費者団体間や専門家との連携をはかることが、社会的発言力をいっそう強めていく道です。消費者団体間や専門家との連携によって、運動をひとつひとつ成功させていくことが、個々の団体も強めることになります。

 

※ 参考1

消費者の8つの権利と5つの責任
(国際消費者機構 CONSUMERS INTERNATIONAL)

消費者の8つの権利

(1) 生活の基本的ニーズが保証される権利(Basic needs)
(2) 安全である権利(Safety)
(3) 知らされる権利(Information)
(4) 選ぶ権利(Choice)
(5) 意見を反映される権利(Representation)
(6) 補償を受ける権利(Redress)
(7) 消費者教育を受ける権利(Consumer education)
(8) 健全な環境の中で働き生活する権利(Healthy environment)

消費者の5つの責任(消費者憲章)

(1) 批判的意識(Critical awareness)

----商品やサービスの用途、価格、質に対し、敏感で問題意識をもつ消費者になるという責任----

(2) 自己主張と行動(Action and involvement)

----自己主張し、公正な取引を得られるように行動する責任----

(3) 社会的関心(Social responsibility)

----自らの消費行動が、他者に与える影響、とりわけ弱者に及ぼす影響を自覚する責任----

(4) 環境への自覚(Ecological responsibility)

----自らの消費行動が環境に及ぼす影響を理解する責任----

(5) 連帯(Solidarity)

----消費者の利益を擁護し、促進するため、消費者として団結し、連帯する責任----

 
※ 参考2

消費者団体の活動領域と消費者の権利

 消費者運動のビジョンについて考える際に、消費者運動の領域について共通の認識をもっておきたいと思います。

 全国消団連の運営規則では、会の目的を、「消費者の権利の確立とくらしを守り向上をめざすため、全国の消費者組織の協力と連絡をはかり、消費者運動を促進することを目的とする。」としています。つまり、運動の領域については、「消費者の権利の確立」「くらしを守り向上をめざす」と考えているわけです。

 この考え方は、そのまま、CIの8つの権利にあてはまると言えます。「くらしを守り向上をめざす」活動分野(社会保障、税制のあり方など)は、8つの権利の中では、「(1)生活の基本的ニーズが保証される権利」として表現されていると考えることができます。「消費者の権利の確立」は、そのまま、8つの権利の確立と捉えられます。

 日本でいえば「(1)生活の基本的ニーズが保証される権利」は、憲法の25条で根拠づけられ、社会福祉法などをはじめとした法律で規定されているといえます。

※ 憲法25条
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、全ての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」

 この間、消費者保護基本法改正論議の中で、団体訴権や自主行動基準に対する評価の役割など消費者団体への期待が高まっています。これは、消費者法で規定する分野である「(2)安全である権利」「(3)知らされる権利」「(4)選ぶ権利」「(5)意見を反映される権利」「(6)補償を受ける権利」「(7)消費者教育を受ける権利」についてのものになっています。(2)から(7)の権利については、憲法13条や25条に根拠を持つと考えられますが、憲法制定当時には、消費者の権利という認識そのものがなく、現在、あらためて消費者保護基本法に消費者の権利をどのように位置付けるか議論がされています。

 なお、諸外国においても、消費者政策の対象とされているのは、主に(2)から(7)の権利となっています。

※ 憲法13条
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

 わたしたちは、引き続き、「消費者の権利の確立とくらしを守り向上をめざ」して運動をすすめます。その中でも、新しい消費者政策の中で、この数年具体的な取り組みを強めならなければならない活動領域として、消費者法で規定される(2)から(7)の消費者の権利を確立する課題が浮上していることを確認しあいたいと思います。また、これらの活動領域は、消費者団体しか取り組みを行わない分野であり、消費者団体の社会的責務と考えて、これらの活動領域を重視したいと思います。
 

※参考3

団体訴権について

1.団体訴権とは

(1)消費者被害が明るみにでる時には、被害者は多数発生しています。

 消費者被害が明らかになるケースは、同じ内容の消費者被害が多数発生してからです。どうしても一人一人の消費者は、自分だけが被害にあったような気になるものです。不公平な契約内容等による消費者被害が明るみに出たときには既に多くの被害者がいるというのが消費者被害の現実です。
 

(2)消費者被害を未然に防ぐには

 消費者被害の予防、拡大を防ぐには、被害消費者個人による問題が発生した後の事後的な救済だけでは不十分であり、被害が発生する前に不公平な契約内容を使わせないようにしたり、是正させたりする必要があります。現在の法律では、被害が発生する前に不公平な契約内容を使わせないようにしたり、是正させることはできません。また、現実には消費者と事業者では「力」の差がありすぎて、一人ひとりの消費者が事業者に対抗するのには多くの困難があります。

 そこで、一定の条件(*1)を満たす消費者団体に事前に違法行為の差し止めや是正を求める訴えを提起したり、被害にあった消費者を救済するための権利を与える制度が消費者団体訴訟制度(団体訴権)です。
 

(3)消費者自身の力で被害の防止と救済を行う

 こうした権利を消費者団体に認めることによって、消費者自身の力で被害の拡大を防ぐことができるようになります。先日のEUの消費者団体とのシンポジムで事例が報告されていましたが、諸外国では、団体訴権をもつ消費者団体が不当な契約条項を見つけたら被害が発生する前に、その使用を中止するよう事業者に警告したり、実際に不当な契約条項が変更されるなどして、消費者被害を未然に防ぐことに役立っています。消費者団体の団体訴権は、消費者に代わって裁判に訴えるだけでなく、事業者の不当な行為を"食い止め"、それを改めさせる力になっています。

(*1) 現在、団体訴権制度の導入されるとどのような消費者団体に団体訴権を与えるかは、まだ審議の途中ですが、例えば、日本弁護士連合会(日弁連)では、団体訴権を付与する消費者団体の要件を以下のように考えています。
 
(1) 啓発あるいは相談等による消費者の権利擁護を目的に掲げ、かつ実際に当該目的に従った活動等を行っている
 
(2) i 法人か ii 自然人(=人)の構成員が100人以上の社団か B上部の社団を構成する自然人と(株)の社団の構成員である自然人の総数が100人以上であること

 

2.団体訴権の行使のために

 団体訴権を行使するためには、消費者団体としてもそのための制度を活用できる人的資源や消費者被害を救済するための日常的な活動が必要です。

(1)市場を監視し不当や契約条項や消費者被害の把握

 消費者の視点からの市場の監視やチェック、消費者に対する情報発信、消費者政策の形成に関与など、社会的な役割を消費者団体が一層発揮することが必要となります。

 消費者相談機能の充実も一層重要な課題となります。

(2)人的資源の確保、専門家との協力関係

 消費者被害の実態把握し事業者に対し不当な契約条項の差し止め求めるには、弁護士など法律の専門家との協力も必要となります。消費者団と専門家との協力関係をどのように作りあげていくのかも課題といえます。

(3)消費者情報の提供や消費者教育の充実など消費者の行動をサポートする行政の施策は一層重要となります。

 
※ 参考4

「消費者組織に関する研究会報告書」平成15年5月 内閣府国民生活局発行 より

第3章 消費者団体の役割と課題 −消費者団体訴訟制度検討の前提として−

 消費者団体訴訟制度の検討において、その制度を担う消費者団体が、どのような役割を担うべきなのか、またどのような現状にあり課題があるのかということは、その前提となる検討課題である。このため、本章では消費者団体の役割と課題について検討する。

 ただし、消費者団体の活動は、自主的かつ多様なものであり、本章で検討する役割を包括的に果たすのではなく、その一部の役割を専門性をもって担うといったことも考えられることから、本章における検討が消費者団体の在り方を限定するものでないことに留意する必要がある。

第1.消費者団体の役割

1.消費者団体の役割の重要性

 消費者個人は、経済社会の中で自立的かつ主体的に活動することが期待されるが、現実には、自ら必要な情報を入手したり、消費者取引において合理的な選択をしたり、被害の救済を求めたりすることには限界がある。

 そのため、消費者主体の社会を形成していく上で、消費者団体が消費者の権利を実現し、その利益を擁護していく役割を消費者の視点に立って果たすことが必要である。

2.役割の具体的内容

 消費者団体が担う役割としては、具体的には、以下の5つの役割等が考えられる。

(1) 市場における監視者の役割

消費者は、市場での経済活動において事業者に対するもう一方の当事者として位置づけられるが、個々の消費者と事業者との間には情報収集力及び交渉力において構造的格差があり、個々の消費者が、不当条項の使用、不当な勧誘行為、生命・身体を害する危険な商品の販売行為を、事業者が行った場合にこれを止めさせることは、実際には困難である。このため、消費者に代わって事業者が不当な行為を行っていないか監視し、事業者がそうした行為を行っている場合には適切な対応をとるなど、消費者の視点に立った市場の監視者としての役割を消費者団体が担うことが期待されている。

(2) 被害救済の支援の役割

前述のように、被害が少額であること等のため、消費者個人では自ら自己の被害回復を図ることは困難であることから、消費者団体は、消費者全体の利益を擁護す るために消費者の被害救済の支援の役割を積極的に担う必要がある。

(3) 情報発信の役割

消費者個人が、自己が行動するに当たって十分な情報を得ることは困難であり、消費者団体が消費者の求める情報を収集・分析し発信する役割を担うことが求められている。特に現在では、商品・サービス内容の多様化、複雑化やIT化の進展による情報量の増加等により、消費者が必要な情報を自ら収集して合理的な意思決定を行うことが難しくなっている面もあり、これまで以上に消費者団体による情報発信の役割が重要となっている。

(4) 消費者教育・啓発

消費者が、自主的かつ合理的に行動するために、自ら十分な知識を習得することを促進するため、消費者に対する教育、啓発が必要不可欠である。このため、公的機関のみならず消費者団体も消費者教育・啓発活動の一翼を担うことが期待される。

(5) 消費者政策への関与

消費者政策には、消費者取引の実態が踏まえられ、かつ消費者の意見が反映されることが必要であることはいうまでもないが、消費者個人が政策立案過程に参加し、その意見を実現させることは難しい。このため、消費者団体が消費者の意見を集約し、行政に対する政策提言や審議会等への団体の代表者の参加等を通じ、消費者の権利実現・利益擁護の立場から消費者政策に関与していくことが求められる。