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司法制度改革審議会意見書についての全国消団連としての意見をまとめました。


2001年8月29日
内閣総理大臣
小泉純一郎様 

  『司法制度改革審議会意見書』に対する意見

全国消費者団体連絡会
              住所 東京都千代田区六番町15プラザエフ6F
              電話 03-5216‐6024  FAX 03-5216-6036

はじめに
  • 全体として具体化に向けた今後の検討が大きな意味を持っており、その過程をオープンにして国民参加型で進めるべきである。

  • 労働関係事件や行政に対する司法のチェックなど、検討の必要性が指摘された事項については、先送りにせず直ちに検討に着手すべきである。

  • l ADRについては「当事者の主体性と合意」を中核に据えた制度設計が必要であり、今後一層の検討の深化を図る中で立法化を検討すべきである。

  • 司法制度改革が十全に行うことができるよう、政策的に予算を別枠で用意するなど財政面で十分な手当てを行うべきである。

 去る6月12日に『司法制度改革審議会意見書−21世紀の日本を支える司法制度−』が公表されました。内容に関しては消費者・市民の立場から問題点も多分に含まれていると考えておりますし、今後の検討に委ねられた点も多々あります。しかし、この意見書は、司法制度改革審議会の2年間にわたる精力的な検討の成果であり、司法制度全般にわたって真摯な審議を積み重ね、一定の方向性を示したことについては、消費者・市民として敬意を表するものです。

 審議会意見書の中では、「法の下ではいかなる者も平等・対等であるという法の支配の理念」について、「ただ一人の声であっても、真摯に語られる正義の言葉には、真剣に耳が傾けられなければならず、そのことは、我々国民一人ひとりにとって、かけがえのない人生を懸命に生きる一個の人間としての尊厳と誇りに関わる問題であるという、憲法の最も基礎的原理である個人の尊重原理に直接つらなるものである」と述べられています。こうした精神については、消費者・市民として賛同するものです。しかし、情報量や経済力などの構造的格差が存在する現代社会において、法の下における実質的な対等を実現することは容易ではありません。そうした観点も踏まえながら、上に述べられた個人の尊重原理が、今後の司法制度改革の推進を貫く理念となっていくことを、消費者・市民として強く希望いたします。

 個別分野に関する審議会意見書の内容については、後で消費者・市民としての見解を述べますが、その前に全体に関わる問題として4点を指摘いたします。
 1点目は今後の検討の進め方についてです。先に述べた通り,審議会意見書の中には,大枠の方向性が示されているものの,具体的な制度のあり方については今後の検討に委ねている部分が多々あります。これらの点に関する検討については、検討過程をオープンにし、広く国民から意見を聴きながら行うことが必要です。そのことが、「国民の司法参加の拡充による国民的基盤の確立」を「今般の司法制度改革の1つ」とした意見書の趣旨にも適うものと考えます。

 2点目は今後の検討に委ねられた事項についてです。労働関係事件や行政に対する司法のチェック機能については、審議会として結論を示さず、「早急に検討を開始すべき」「本格的な検討を早急に開始すべき」としています。その他にも団体訴権など今後の検討に委ねられた事項が多々あります。これらの事項については、先送りすることなく、消費者・市民の代表も相当数参加する形で然るべき検討の場を設置し、直ちに検討を開始すべきです。
 3点目はADRについてです。ADRについては、消費者・市民として、当事者の主体性と合意を中核に据えた制度設計が必要と考えております。審議会意見書では「共通的な制度基盤の整備を推進すべき」と述べているものの、そもそものADRのイメージに関し、消費者・市民サイドとは根本的な考え方の違いを感じざるを得ません。ADRという概念そのものの社会的な認知度にも疑問があり、増して、そのあり方に関して社会的コンセンサスが十分に図れているとは言えません。制度整備については、今後一層の検討の深化を図る中で検討していくことが適切と考えます。

 4点目は改革のために必要となる財源に関する問題です。意見書では、「財政面での十分な手当てが不可欠」とし、「司法制度改革に関する施策を実施するために必要な財政上の措置について、特段の配慮をなされるよう求める」と述べています。この点に関しては、消費者・市民として賛同いたします。5月21日付けの毎日新聞で明らかにされた財務省の政治的動きなどに左右されることなく、半世紀に一度と言われる大改革を実現するために、政策的に予算を別枠で用意するなど財政面でも十分な手当てをすべきです。
1.民事裁判について
  • 全体として、具体化に向けた今後の検討に消費者・市民の声を十分に反映すべきである。

  • 団体訴権については各法ごとの具体的検討を直ちに開始すべきである。

  • 弁護士報酬の敗訴者負担制度については導入に反対する。少なくとも、一般の消費者・市民が行政、企業、専門家を相手取って行う訴訟については適用しないものとすべきである。

  • 計画審理を画一的に適用することには反対である。証拠開示制度は、証拠偏在型の訴訟において実質的対等を実現するものとすべきである。

 全体的に見て、審議会意見書において一定の方向性は示されているものの、具体的な制度が公正なものとなる上で、各事項の具体化に向けた今後の検討が大きな意味を持っています。したがって、具体化に向けた今後の検討に消費者・市民の声を十分に反映すべきと考えます。
 個別項目に関しては、団体訴権、弁護士報酬の敗訴者負担制度、民事裁判の充実・迅速化の3点について意見を述べることといたします。

 団体訴権について、審議会意見書は「法分野ごとに、個別の実体法において、その法律の目的やその法律が保護しようとしている権利、利益等を考慮して検討されるべき」と述べています。消費者契約法の制定や私的差止制度の導入に係る独占禁止法の改正の際に、団体訴権が検討されたときには、個別の実体法に則した検討以前に、訴訟法との関係や法体系との適合性によって検討が先送りされてきたという経過があります。今回の審議会意見書の結論を踏まえ、各法ごとの具体的な検討を直ちに開始すべきです。

 弁護士報酬の敗訴者負担制度について、審議会意見書は「一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべき」としながら、「不当に訴えの提起を萎縮させないよう」に、導入しない訴訟の範囲や取扱いのあり方等について検討すべきであると述べています。この件に関しては、消費者・市民として一貫して反対して来ましたし、社会的にも批判が極めて強かったにもかかわらず、導入の方向として審議会意見書がまとめられたことについて遺憾に思います。消費者・市民としてこの制度の導入に強く反対することを重ねて申し上げます。

 民事裁判の充実・迅速化について、審議会意見書は「原則として全事件について審理計画を定めるための協議をすることを義務付け」るべきとしながら、証拠収集手続の拡充については「新たな方策を検討し、導入すべき」とするに留まりました。そもそも証拠の構造的偏在のもとで行われる訴訟などでは、計画審理の画一的推進は弱者の権利の切捨てにつながりかねず、消費者・市民として危惧いたします。証拠収集手続については、例示されているものを含めて一層の拡充が不可欠であり、証拠偏在型の訴訟において実質的対等を実現することができるような制度とすべきです。
2.刑事裁判について
  • 全体として、警察・検察庁と裁判所の現状から見て市民的自由の抑圧につながる危険性が大きく、消費者・市民として危惧する。

  • 身柄拘束や取調べについては、現状の問題点を正しく見据え、国連人権規約委員会の勧告をもとに直ちに現行のあり方を見直すべきである。

  • 画一的な計画審理は人権侵害の更なる進展につながるおそれがあり反対である。充実・迅速化は証拠の全面開示が前提とされるべきである。

 全体的に見て、審議会意見書は、公的費用による被疑者弁護制度の導入に関する部分を除き、消費者・市民として賛同できる内容になっていません。日本の刑事司法が抱える深刻な問題点については、様々な立場から再三再四指摘されているにもかかわらず、審議会としてきちんと認識するに至らなかったことが最大の問題点です。審議会意見書の内容は、警察と裁判所の現状から見て市民的自由の抑圧につながる危険性が大きく、消費者・市民として危惧いたします。

 個別項目に関しては、身柄拘束に関する問題、刑事裁判の充実・迅速化の2点について意見を述べることといたします。

 身柄拘束に関する問題について、審議会意見書は、代用監獄、接見交通、令状審査など様々な点で問題の指摘があることを認めながらも、「そうした指摘をどのように受け止めるかについては、現状についての評価の相違等に起因して様々な考え方がありうることから、直ちに具体的結論を得ることは困難である」とし、「今後とも、刑事手続全体の中で、……改革、改善のための検討を続けるべき」と結論づけています。取調べの適正化についても、「書面による記録を義務付ける制度を導入すべき」としているものの、取調べ状況の録音、録画等については「将来的な検討課題ととらえるべき」と述べるに留まっています。このように、現状の問題点と真摯に向き合わず、いたずらに改革を先延ばしにする態度については、消費者・市民として遺憾に思います。現状を正しく見据え、国連人権規約委員会の勧告に沿って直ちに見直しを行うべきです。

 刑事裁判の充実・迅速化について、審議会意見書は、審理計画を立てるための「裁判所の主宰による新たな準備手続を創設すべき」とし、「裁判所の訴訟指揮の実効性を担保する具体的措置を検討すべき」とする一方で、証拠開示の拡充に関しては「証拠開示の時期・範囲等に関するルールを法令により明確化する」と述べるに留まっています。この記述からは、裁判所の訴訟指揮権を強化し、計画審理を画一的に行うことによって刑事裁判を迅速化するという基本的な考え方が窺われます。これは、現状の警察・検察庁と裁判所の実情に照らせば、適正手続の観点からも、真実を明らかにするという観点からも、極めて問題を含んだ考え方と言わざるを得ません。そもそも警察・検察庁サイドと被告人サイドでは証拠の収集能力に大きな構造的格差があり、それを埋めるには証拠の全面的な開示が基本とされるべきです。計画審理の一律化や裁判所の訴訟指揮権の強化についても、適正手続のもとで真実を明らかにするという刑事司法の基本的な機能に照らし、被告人の権利を不当に侵害するおそれがあるため、消費者・市民として反対いたします。
3.法曹人口と法曹養成について
  • 法曹人口や裁判官・検察官の数を含む裁判所・検察庁の人的体制については、意見書の方向に沿って実現を図るべきである。

  • 法科大学院を中心とする法曹養成制度については、法曹への途が様々な人に対して開かれたものとなるように、具体化していただきたい。

 審議会意見書では、法曹人口について「平成22年ころには新司法試験の合格者数の年間3,000人達成を目指すべき」「おおむね平成30年ころまでには、実働法曹人口は5万人規模に達することが見込まれる」と述べています。裁判官と検察官については「大幅に増員することが不可欠」としており、裁判所職員や検察庁職員についても、「適正な増加を図っていく必要がある」と述べています。これらの点は消費者・市民としても基本的に賛同いたします。意見書の方向性に沿って具体的な施策を進めていくことが必要と考えます。

 法曹養成制度について、審議会意見書では、新たに設置する法科大学院の課程を修了することを新司法試験の受験資格とする方向で、法科大学院のあり方について詳細にわたる提言が行われています。法科大学院については、「公平性、開放性、多様性の確保を旨」とし、法学部以外の学部の出身者や社会人等を一定割合以上入学させるべき」と述べている他、夜間大学院や通信制大学院の整備や、奨学金・教育ローン・授業料免除制度など各種の支援制度の整備についてもふれています。また、「経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも、法曹資格取得のための適切な途を確保すべき」とも述べられています。消費者・市民としては、他の職業に就いて働きながら,あるいは子育てをしながら法曹を目指すことができる途が開かれ,社会のあらゆる層に対して開かれた法曹養成の仕組みとなるようにすべきと考えています。審議会意見書の具体化に向けた今後の検討は、そうした観点を踏まえて行われるべきです。
4.弁護士制度について
  • 弁護士会は審議会意見書を真摯に受け止め、法律相談センターの推進、弁護士情報の公開、弁護士会運営への市民参加、苦情処理の適正化、弁護士会自体の情報公開など自主的な取組みを一層進めるべきである。

 全体的に見て、審議会意見書の内容は、消費者・市民の要望について受け止めたものとなっていると考えます。他方、指摘されている事項の中には、公務就任制限や隣接法律職種の問題など法制度に関わる問題もありますが、弁護士会の運営において実現されるべき事項も数多く存在します。弁護士自治に対する公権力の介入が基本的人権の保障の上で問題があることから、そうした事項については、弁護士会として審議会意見書を真摯に受け止め、自主的な取組みを一層進めるべきと考えます。

 弁護士会における自主的な取組みとして、消費者・市民が期待するのは、主として法律相談センター等の設置など法律相談活動の充実、弁護士情報の公開、弁護士会運営の公正性・透明性・信頼性の確保の3点です。
 法律相談活動について、審議会報告書は「弁護士過疎問題への対応の視点も含め、弁護士会の『法律相談センター』等の設置を進めるべきである」と述べています。弁護士の地域的分布はかなり大都市に偏っており、この傾向は今後も継続すると考えられます。そうした状況のもとで弁護士へのアクセスを改善するには、法曹人口の増加だけでなく、弁護士会による法律相談センターの設置などを一層推進することが求められます。消費者・市民として、取組みの一層の強化を要望するとともに、国や地方自治体による財政的負担の導入についても検討を求めます。

 弁護士情報の公開について審議会報告書は、広告対象の拡大とともに、弁護士情報の開示の一層の推進について述べています。消費者・市民が弁護士に依頼する際には弁護士に関する情報の収集が不可欠ですが、客観的な情報を消費者・市民が入手することは難しいのが実情です。広告だけではなく、各弁護士の経歴や手がけた事件、著書など客観的なデータを掲載したデータベースを作成し、消費者・市民が自由にアクセスできるようにすることを要望いたします。

 弁護士会運営の問題について審議会意見書は、綱紀・懲戒手続の透明化・迅速化・実効化、苦情処理の適正化、倫理教育や倫理研修の問題についてふれています。弁護士自治の重要性については言うまでもありませんが、懲戒手続における当事者への説明や、苦情処理のあり方など、消費者・市民の立場から見た不満も根強くあります。弁護士会運営を透明化して改善を図り、市民の信頼を高めていくことが必要となっています。そうした見地から、綱紀委員会に専門家以外の市民が関与できるようにすることを含めて、審議会意見書において指摘された事項に早急に取り組むとともに、弁護士会自体の情報公開についても推進することを求めます。
5.裁判官制度について
  • 全体として、審議会意見書に示された問題意識を踏まえ、消費者・市民の声も反映させながら真摯に具体化を図るべきである。

  • 判事補制度の改革については、最低でも3年間の弁護士経験を裁判官任命資格として制度化すべきである。

  • 裁判官の任命手続の見直しについては、地域別下部組織を整備するとともに、諮問機関や地域別下部組織に消費者・市民の代表を相当数参加させるべきである。

  • 裁判官の昇給制について大胆に簡素化するとともに、人事評価の透明性・客観性を実質的に担保できる仕組みをつくるべきである。

 全体として、審議会意見書は、消費者・市民の視点からは不十分ながらも改革の方向性がある程度示されていると考えます。しかし、具体化に向けた今後の検討如何によっては、現在指摘されている裁判官に関わる問題を解決する上で全く役に立たない改革になってしまう危険性もかなりあると思われます。したがって、審議会意見書に示された問題意識と消費者・市民から指摘されている問題点を真摯に受け止めて、具体化に向けた今後の検討を進めていくことが不可欠と考えます。

 個別項目については、判事補制度の改革、裁判官の任命手続の見直し、裁判官の人事制度の見直しの3点について意見を述べることといたします。

 裁判官への任用について、消費者・市民としては経験を積んだ弁護士から裁判官を選任する法曹一元を要望してきましたが、審議会意見書では判事補制度を維持した上で「原則としてすべての判事補に裁判官の職務以外の多様な法律専門家としての経験を積ませることを制度的に担保する仕組みを整備すべき」と述べています。いわゆる判検交流がかなり活発に行われている現状からすれば、審議会意見書にあるように「多様で豊かな知識、経験等を備えた判事を確保する」ためには、検事ではなく弁護士としての経験を相当程度長期、少なくとも3年以上は積むことを判事の任命資格とすべきです。

 裁判官の任命手続について、審議会意見書は、最高裁判所のもとに諮問機関を設けるとともに、諮問機関が適任者の選考に関する実質的な判断を行えるようにするために、「下部組織を地域ブロックごとに設置することなど、適切な仕組みを整備すべき」と述べています。この方向性については、消費者・市民として基本的に賛同いたします。司法に関して「国民からの幅広い支持と理解を得て、その国民的基盤」を確立するという、審議会意見書の基本的立場からすれば、裁判官の任命手続に消費者・市民の意見を代表する者が相当数関与することを制度的に担保すべきと考えます。そうした観点から、地域ブロック別下部組織の整備は不可欠であり、加えて、諮問機関や地域ブロック別下部組織に消費者・市民の意見を代表する者を相当数含めるべきです。

 裁判官の人事制度について審議会意見書は、評価権者や評価基準の明確化・透明化、評価内容の本人開示、不服申立手続など「可能な限り透明性・客観性を確保するための仕組みを整備すべき」とするとともに、「裁判官の報酬の進級制(昇給制)について、現在の報酬の段階の簡素化を含め、その在り方について検討すべき」と述べています。消費者・市民としては、この範囲の施策で最高裁判所事務総局による統制をなくしていくことはできないのではないかという危惧を抱いておりますが、少なくともこの方向性を損なわないよう、具体的な施策が講じられることが不可欠であると考えます。特に、裁判官の昇給制については大胆に簡素化することが必要であり、人事評価の透明性・客観性の向上とあいまって実効性が確保されることを望みます。
6.国民の司法参加について
  • 全体として、審議会意見書に示された問題意識を踏まえ、消費者・市民の声を反映させながら、国民の主体的な司法参加を実現する方向で具体化を図るべきである。

  • 裁判員制については、裁判員の数を裁判官の数倍とし、裁判員が主体的に裁判に関わる条件を整えるべきである。

  • 最高裁判所裁判官の国民審査については、信任する裁判官に○をつける方式に改め、消費者・市民に分かりやすい形で情報提供を強めるべきである。

  • 判例情報については利用者が検索しやすい形でデータベース化し、インターネットで公開すべきである。

 全体として、審議会意見書は、消費者・市民の視点からは不十分ながらも改革の方向性がある程度示されていると考えます。しかし、具体化に向けた今後の検討如何によっては、国民の主体的な司法参加を実現するに至らず、「お飾り」的な参加に留まってしまう危険性もかなりあると思われます。したがって、消費者・市民から指摘されている問題点を真摯に受け止め、審議会意見書にも記されているように「司法の分野においても、国民が、自立性と責任感を持ちつつ、広くその運用全般について、多様な形で参加する」という観点から、具体化に向けた今後の検討を進めていくことが不可欠と考えます。そのためには、国民=素人=信頼できない、法曹=プロ=信頼できるという従来の見方を改め、司法に関する国民の関心を喚起し、主体性の発揮と責任を持った参加を促していくという方向で、今後の検討が進められなければなりません。

 個別項目については、裁判員制度、最高裁判所裁判官の国民審査、判例情報の公開の3点に関して意見を述べることといたします。
 裁判手続への国民の参加については、消費者・市民として陪審制を求めてきましたが、審議会意見書では刑事訴訟手続に限定した上で、裁判官と裁判員が共同して事実認定と刑の量定を行う制度を導入すべきとしています。この制度が「国民が、自立性と責任感を持ちつつ、……参加する」という審議会意見書の基本的立場に沿ったものとして機能するか否かは、職業裁判官との共同においてアマチュアである裁判員の主体性が確保できるかどうかにかかっています。こうした観点からは、裁判官と裁判員の数や表決の方法が重大な意味をもっており、消費者・市民としては裁判員の数を裁判官の数倍とすることが必要と考えます。

 最高裁判所裁判官の国民審査について、審議会意見書は「国民による実質的な判断が可能となるよう審査対象裁判官に係る情報開示の充実に努めるなど、制度の実効化を図るための措置を検討すべき」と述べています。そうした観点から言えば、国民審査については信任しない裁判官に×をつける現行の方式から、信任する裁判官に○をつける方式に改めることが必要です。加えて、情報開示の充実が重要であることは言うまでもありませんが、消費者・市民に分かりやすい形での情報提供を強めるという視点も不可欠です。

 判例情報について、審議会意見書は「プライバシー等へ配慮しつつインターネット・ホームページ等を活用して全面的に公開し提供すべき」と述べています。その際、消費者・市民が容易に検索できるよう、キーワード、法令名、裁判官名など、多様な形で検索できるようにすることが必要です。
以 上