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個人情報保護法案に関する声明を発表しました。


2001年5月17日

  個人情報保護法案に関するアピール

全国消費者団体連絡会
              住所 東京都千代田区六番町15プラザエフ6F
              電話 03-5216‐6024  FAX 03-5216-6036

   情報通信技術の飛躍的な発展を含めて、社会の情報化が急速に進展しています。全く関係のない事業者からダイレクトメールが届くなど、不正な取得や第三者提供の横行が推測される事例は多く、従業員等による個人情報の不正な漏洩が問題となるケースもあります。個人情報がどのように使用されているか本人が把握することは不可能と言っても過言ではない状況です。
 その一方で、個人情報保護に関する制度については、1988年に制定された「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」しかなく、公的部門に関するルールも不十分な状況にあります。民間部門に至っては法制度がなく、明確なルールが存在しません。こうした中で個人情報の保護に関する法制度を早急に整備することは非常に重要であり、消費者団体としても積極的に求めるところです。
 しかしながら、本国会への上程を目指して閣議決定されている「個人情報の保護に関する法律案」については、本人の権利の尊重の不十分性や行政の裁量に基づく広範な権限など重大な問題点をいくつも抱えており、その制定によって個人情報の保護が本当に進展するのか、弊害はないのか、といった点について危惧を感じています。具体的な問題点については以下に記述するとおりですが、昨年10月に発表された大綱からの変更点も多く、国民的なコンセンサスの形成という意味でも疑問が残るところです。
 以上の趣旨から、本法案の審議に関しては十分な時間を確保するとともに、国会での議論を通じて市民の声を法に反映させ、大幅に修正を加えることが必要と考えます。

  1. 本人の権利の尊重に関する問題点

    1. 本人同意について
      法案では、あらかじめ特定した利用目的を超えて個人情報を利用する場合や、第三者に個人情報を提供する場合に、原則として本人の同意を義務付けています。そのほか、利用目的の変更については、原則として「本人に通知し、又は公表」しなければならないとしています。
       しかし、ここで言う「公表」とは、起案当局の説明によれば、1回限りの新聞への掲載やインターネット上での公開でも良いということであり、本人が認識しないうちに利用目的が変更される恐れが強いと言わざるを得ません。また、本人の同意についても、個別に同意をとるのではなく、一定期間内にNOという返事がなければ同意とみなすという方式が認められています。
       しかも、上述した原則に対する例外は、「……当該個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合」「国の機関又は地方公共団体が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、……当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき」など数多く規定が設けられており、その範囲についても抽象的で不明確です。事業者サイドの恣意的な判断で、本人の同意を得るというプロセスが省略されたりする恐れもないとは言えません。
       以上のような規定の状況から言えば、現法案の規定によって「本人が本当に同意して個人情報の利用を認める」という状況を実現することができるか否かは疑問であり、単に現状を追認することになる恐れもあります。

    2. 本人の開示、訂正、利用停止等の請求について
      法案では、原則として本人に対して個人情報の開示や訂正、利用停止などの請求権を認めています。しかし、これについても、「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」などは開示をしなくて良いとされ、「多額の費用を要する場合その他利用停止を行うこと(第三者への提供を停止すること)が困難な場合であって、本人の権利利益を保護するため必要なこれに代わるべき措置をとるとき」に利用停止や第三者提供の停止をしなくて良いとされるなど、例外規定が設けられています。これによれば、事業者の都合によって開示を拒まれたり、利用停止や第三者提供の停止を拒まれることになりかねません。
       しかも、開示、訂正、利用停止を拒む場合の理由の説明についても、努力義務に留まっており、事業者には理由の説明に関する法的義務がありません。開示などを拒まれた場合に理由が説明されないとすれば、正当な理由に基づくものかどうかを、本人が確認することはできません。
       こうした規定によって、本人の開示、訂正、利用停止等の請求が公正に扱われることになるのかどうかは、疑問が残ります。

    3. 目的規定との関係について
      1・2で述べた本人の権利保護の不徹底については、法の目的に示された個人情報の性格に関する基本認識が大きく影響しています。法案の第1条では、「……個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする」と定めています。ここで表現されている「個人の権利利益」とは、プライバシーに関する人格的な権利ではなく、財産権的なものを意味しています。つまり、個人情報の不適正な扱いによって、本人の意思と関係なく個人情報が利用されていたとしても、そのことによって融資が受けられないなどの財産的損害が発生した場合にはじめて、本法による保護の対象となるということです。
       個人情報について消費者として問題と考えているのは、個人情報の不正な利用によって生ずる財産的損害に限りません。自らが与り知らないところで自分の情報が利用されていることに対する不安、それによって日常生活に何らかの悪影響が及ぶかもしれないという不安そのものが、消費者にとって大きな問題なのです。そうした意味で、プライバシーに関する権利を自己情報のコントロールに関する権利として法の目的の中で明確に位置付けることが必要です。
       なお、起案当局は、法案に関する説明の中で、「情報について所有権は成立しない」ということを繰り返し述べていました。そもそも所有権は財産権の一種であり、人格的利益に関する権利に属するプライバシー権とは性格が異なるものです。こうした性格の違いを無視して利害調整を図るという基本的な考え方が、1・2に見られる本人の権利保護の不徹底につながっているのではないでしょうか。


  2. 行政の権限に関する問題点

    法案では、原則として事業を所管する大臣を主務大臣とし、主務大臣に関して、報告徴収、助言、勧告、命令といった監督権限を規定しています。主務大臣に対する報告を怠ったり、措置命令に違反した場合については、罰金による制裁についても規定されています。
     しかし、こうした行政の監督権限の行使については、行政の裁量の余地が広く、司法によるチェックが働きにくいという特性があります。つまり、行政の胸先三寸で事業者の監督のあり方を事実上決めることができる、というのが現法案の監督の仕組みになっているわけです。行政と業界とが実態として相互依存的関係にある場合には、馴れ合いによる事業者の実態容認につながる恐れがあります。逆に「気に入らない」場合に強権を発動して介入することができる余地もあり、公権力による介入の強化を招くのではないかという危惧もあります。こうした問題点は、個人情報の保護というセンシティブな問題に関する実効性の確保を、主務大臣の監督という従来型の業法と同様の手法で行おうとした発想自体に由来するものと言わざるを得ません。
     1999年の検討部会当初から、消費者代表委員や日弁連などは、独立した第三者的機関の創設を主張してきました。それは、個人情報保護について従来型の業法による規制手法を採用することが不適当であるという判断によるものであり、法の制定に際してはこうした問題意識をきちんと踏まえる必要があります。


  3. その他の問題点

    1. 公的部門に関する規定について
      法案は、民間部門と公的部門を問わずに適用される基本法的な部分と、事業者に対して具体的な義務を課する部分の両方を持っています。しかし、公的部門に関しては何ら具体的な義務を課する規定を設けていません。行政機関における個人情報の扱いについても従来から問題が指摘されていますが、それに対する回答は先送りされています。1988年法を抜本的に見直し、行政機関における個人情報保護についてOECD8原則を踏まえた現代的な制度を構築していくことは緊急の課題であり、早急に実現される必要があります。

    2. 宗教団体・政治団体に関する適用除外について
      法案では、宗教団体や政治団体について、宗教活動や政治活動に「付随する活動」の用に供する目的で個人情報を利用する場合にも、適用除外を認めています。確かに、宗教や政治についても公権力による少数者の抑圧につながる恐れがある分野です。しかし、「付随する活動」まで適用除外とするのは、適用除外の範囲を不必要に広くするとともに、法の適用範囲をあいまいにするものであり、適切ではありません。

なお、本法案は全ての業種に対して適用される一般法的性格を持ちますが、金融、医療、福祉、電気通信、教育など、個人情報について一層慎重な取扱いが求められる領域が存在します。これらの領域については個別の立法を行う必要があり、一部では検討に入っておりますが、一般法による保護では不十分な領域が何か、それらの領域に関する個別立法の検討をどのように進めるか、といった点について、トータルなビジョンを明らかにする必要があります。そうした意味で、本法が制定されたとしても、未だ重要な課題が残っていることを付言しておきます。
以 上