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成年後見制度の見直しに対する意見書について

 法務省の法制審議会において、「成年後見制度」が検討されています。急速に高齢化社会に向かっている日本社会において、高齢者の消費者被害の増大は構造的な問題となっており、高齢者をサポートするしくみを整備することは重要な課題となっています。全国消団連では別紙意見書を法制審議会宛てに提出しました。


1998年7月21日

成年後見制度の見直しに対する意見書

全国消費者団体連絡会

 わが国では、世界に類例のないスピードで高齢化が進んでいます。1970年には7%だった65歳以上人口は、1996年には15%と倍以上になり、2050年には国民の3人に1人が65歳以上という超高齢社会を迎えると予想されています。

 こうした中で、高齢者の消費者被害も多数にのぼっています。豊田商事事件の被害者の6割が60歳以上の高齢者であったことは記憶に新しいところですが、それだけでなく、羽毛布団、着物、健康食品など日常生活に関する取引においても、高齢者の被害は数多く報告されています。この背景には、高齢者が老後の備えとして一定の貯えを持っている場合が多いこと、知識の陳腐化や判断能力の衰えにより悪徳商法にひっかかりやすくなっていることなどがあると思われます。つまり、高齢者の消費者被害の増加は高齢化に伴う構造的な問題としてとらえるべきではないかということです。

 年令を重ねるとともに身体機能や判断能力が衰えることは避けられません。激動する今日の経済・社会環境において、高齢者の知識が陳腐化し、現実の判断に支障を生ずることも無理からぬことです。こうした中で、判断能力が十分でない人々のくらしをサポートするシステムの整備が必要になっています。いくつかの地方自治体において、財産管理サービスの取組みが自主的に行われていることは、こうしたニーズに応えようという努力の現れと考えられます。

 他方、禁治産制度・準禁治産制度を核とする現行の成年後見制度は、『成年後見制度の改正に関する要綱試案補足説明』の中でも述べられている通り、制度の硬直性や社会的偏見を助長する点など、こうしたニーズに応えられるものになっていません。成年後見制度の改正に関する今回の提案は、「自己決定の尊重」の理念と「本人の保護」の理念との調和を基本的な指針として、成年後見制度を柔軟かつ弾力的な措置ができる利用しやすい制度に改めようというものです。この提案内容については、急速に進む高齢化の中で必要不可欠な制度的インフラの整備であり、消費者としても基本的に賛成するものです。そうした立場から、いくつかの点について意見、要望を述べることとします。

 なお、年金の管理等、簡易な財産管理の代行については、判断能力の程度による保護を旨とする成年後見制度にはなじまないとされています。この点については止むを得ないと思いますが、低コストで気軽に利用できる仕組みを別の場で検討していただきたいと考えます。

1.悪徳商法から本人を守ることができるような制度にすべきと考えます。

 提案では、後見類型において、日常生活に関する取引については取消権の範囲から除外することになっています。これは、後見類型の保護を受ける方が、自分だけでは日常生活上の取引も何一つ行えないという、現行制度の問題点を解消するための提案であると理解しており、部分的には賛同いたします。しかし、上に述べた通り、悪徳商法は日常生活に関する取引にも及んでおり、衣服、布団など物品の種類としては日常生活に属するものでありながら、被害が相当な金額にのぼる場合もあります。こうした取引についても全て取消権の範囲から除外するとすれば、十分な判断能力のない人々へのサポートとしては不十分な制度になってしまいます。以上のことから、後見類型において取消権の範囲から除外するのは日常生活に関する取引のうち軽微なものに留め、それ以外については取消権の範囲に含めるよう要望いたします。

 また、補助人の取消権については検討事項とされています。補助類型において保護の対象となる範囲は、本人の同意に基づいて、判断能力が十分でないため保護に付するのが妥当であると裁判所が認めた行為に限定されます。補助類型において保護の対象となる範囲は、相当重要な法律行為に限定されることが予想されるでしょう。したがって、本人保護の実効性確保という要請を重視し、補助人の取消権を認めるべきだと考えます。

2.本人のプライバシーを保護し、社会的偏見を助長しない制度にすべきと考えます。

 成年後見開始決定の公示については、新たな登録制度を創設することの適否を含めてなお検討するとされています。この件で重要なのは本人のプライバシー保護であり、取引に関係のない第三者が公示制度を悪用することのないようにすべきです。その意味からは、戸籍への記載という現行の制度は適切でなく、例示されている「成年後見登録機関」のように、別途の登録制度を創設するよう要望いたします。

 併せて、各種の資格制限についても、必要最小限なもののみを残す方向で積極的に検討をお願いいたします。

3.成年後見人の不正行為をチェックするシステムを確立すべきと考えます。

 成年後見の対象者は判断能力が十分でない人々であり、成年後見人が対象者の財産を私用するなど不正行為を行った場合に、本人によるチェックを期待することには無理があります。したがって、成年後見制度を安心して利用できるものにするためには、成年後見人の不正行為をチェックするシステムを確立することが不可欠です。調査、摘発の機能を持つ公正・中立の機関を、行政を主体に市民の参加も得ながらつくるなどの方法が考えられますが、この点についても積極的な検討をお願いいたします。

以 上