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これから賃貸集合住宅の契約をする方に朗報!

「LPガスの取引透明化問題に関する学習会」2021開催報告

 LPガスについては、料金体系やその内訳の開示状況の低さや、無償配管やガス器具の無償貸与の商慣行などの課題が多く、全国消団連ではこれまでに学習会や意見提出などで改善を求め、今年3月には、行政だけでなく全国都道府県LPガス協会にも要請書提出やアンケートを実施していました。

 今年6月1日より、賃貸集合住宅でのLPガス契約に関し、消費者トラブルを改善する新たな取組み「賃貸集合住宅における入居前のLPガス料金情報提示」が始まりました。この取組みをはじめ、LPガス事業全般についての状況や、消費者団体によるLPガスの取引透明化に関する調査報告から、LPガスの取引透明化をさらに進めるための今後の取組みについて考えました。

【日 時】2021年8月5日(木)16:00〜18:00[Zoomを利用したWEB学習会]

【参加者】110名

概要(事務局による要約)

経済産業省の取組みについて:橋爪 優文さん(経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課企画官(液化石油ガス産業担当))

賃貸集合住宅への無償貸与問題について

 「無償貸与」は、かつてLPガス事業者が賃貸集合住宅へのガス供給契約獲得のための営業として、もともと販売していたガス機器を賃貸集合住宅のオーナーに無償提供したことが始まりといわれています。この取り組みが広がると、集合賃貸住宅のオーナーや建設業者からの要求により、エアコン、インターホンなどといった様々な製品もLPガス事業者が費用負担し、後日、LPガスの料金として入居者から回収されるという商慣行に変化してきました。賃貸集合住宅の消費者は、入居後にLPガス料金を知るので、不満があっても受け入れるしかなく、消費者には選択の機会が事実上ありません。また事業者にとっては無償貸与の大きさで賃貸集合住宅の契約が決まるという状況です。

 経済産業省が毎年行っているアンケートでは、LPガス事業者の約半数が、賃貸集合住宅のオーナーからの要求に応じて機器の無償貸与をしているとわかりました。問題の広がりに対して割合が少なく感じましたが、無償貸与は、LPガス事業者の事業規模に比例して行なわれている、つまり一定以上の規模の事業者により行われている比率が高いことが分かりました。

賃貸集合住宅における入居前のLPガス料金情報提示の取り組み

 賃貸集合住宅の空き物件にかかるLPガス料金の情報を関係業界の連携により、入居前の消費者に提示するよう、令和3年6月1日に経済産業省、国土交通省から関係業界に協力依頼を発出しました。

 すぐに無償貸与の商慣行を無くすことは難しいですが、入居前にLPガス料金を示すことで、消費者に納得して入居してもらう、つまり消費者が選択することができるようになります。ただ、不動産仲介業者はLPガス料金を伝えることはできても、その金額の根拠などを説明するのは無理です。それでも情報を伝えることはできるので、その点について国交省を通じて関係団体にも協力をお願いしました。今後は時間を要するとは思いますが、広く周知を進めていきます。

 また取引透明化については、令和2年度の地方LPガス懇談会で各県庁等から報告された料金関係の指導状況を確認すると、きちんと検査・指導がなされています。今後、さらに改善が進むものと期待しています。

LPガス取引適正化の到達点と課題:橘川 武郎さん(国際大学教授)

LPガス取引の問題点

 LPガス取引をめぐっては、大きく二つの問題があります。

 一つは狭い意味での取引適正化の問題で、賃貸住宅における「無償配管」「無償貸与」の問題については、北海道生活協同組合連合会の調査をきっかけに問題が明らかになり、今年の経産省や国の大きな動きをもたらしました。

 もう一つは、料金透明化(料金体系・内訳の不明朗さ)の問題で、これについては、最近大きな社会問題となっていますが、その背景には神奈川消費者の会連絡会の調査から、その実効性についての問題提起がありました。こちらも問題が顕在化してから全国で問題となり、そういう意味では、1年前に実施した(全国消団連の)LPガス学習会の意味は大変大きかったと思います。

 LP(液化石油)ガスは、①日本を支える基幹エネルギーの一つ、②熱量が高くガスとしての付加価値が高い、③分散型エネルギーの代表格として有事の際に素早く復旧できる、④防災上大きな役割を果たすと期待されている、の4つの大きな特徴があります。これだけの重要なエネルギーであるLPガスなので、その取引きが不透明であることは問題であると考えます。

 取引透明化に対して、国はいち早く2017年2〜6月にかけて、「取引適正化ガイドライン」の策定や液石法一部改正、関係省令改正などの対策を講じました。そのポイントは、標準的な料金メニュー等の公表、液石法第14条書面についての説明、料金変更の際の事前通知、苦情及び問合せへ対応です。一方、実効性が十分ではないことや、賃貸住宅の「無償貸与」問題への掘り下げが弱いなどの課題が残されました。

賃貸集合住宅における入居前のLPガス料金情報開示をめぐって

 2021年6月に、賃貸住宅における入居前のLPガス料金情報提示の取り組みが始まり、LPガス料金情報の流れができました。これに際し、経産省・国交省が連携したことは大変重要で、大きな前進です。また、提示されたひな形が三部料金制(基本+従量+設備)の表記になっていることも良い点です。今後実効性を上げていくにはLPガス業界と他の業界、特に都市ガスとLPガスのどちらも選ぶことができる地域での競争関係と、賃貸住宅をめぐる取引関係、特に住宅メーカーや物件オーナーやLPガス販売事業者との関係に注視していく必要があります。

LPガス問題への消費者の取組みについて

 LPガス販売においては、多くの地域で独占的企業が存在しており、輸入価格の下落に対して小売料金が高止まりしている傾向がみられます。また一部の地域では保安意識の薄いブローカーが、電話で料金を聞き出し少し安い価格を提示し顧客を奪うなどの激しい顧客争奪戦があり、料金透明化への抵抗感の一因となっています。

 これから特に消費者は、政策が本当に機能しているかを見続けてほしいのです。例えば「政府の行政指導+業界の自主規制」方式の有効性について、ただ改善のスピードが遅いだけなのか、何か滞る原因があるのか、またLPガスを管轄する行政機構の検査体制は十分か、などです。

 1年前のこの学習会がヤマを動かす1つのキッカケになったように、これからも消費者が主役となって関わってほしいと思います。

消費者団体からの調査及び活動報告①:矢野 裕美さん(神奈川県消費者の会連絡会)

 神奈川県は、人口およそ924万人、425万世帯のうち約32%にあたる135万世帯がLPガスを利用しています。電力自由化をきっかけに調べたところ、LPガスについてもともと自由料金であることを知らない、LPガスを「契約した」と認識している人が少ない、などがわかったことから、神奈川県消費者の会連絡会では、2017 年より神奈川県内の一部のLPガス事業者を対象に 料金公表の実態調査を進めてきました。2019年からはその対象を県内の全事業者に広げ、今年は神奈川県消費者団体連絡会とも協力して調査を実施しました。

 2021年は5月に県内全事業者(約700件)に、一般の消費者として電話で基本料金・m3単価(従量単価)をお聞きしました。(今回の調査結果で「公表」とは、電話で聞き取りをした際に料金を教えていただけたかどうかで判断しています。)

 その結果、2021年の公表率は65.1%で、2019年(33.5%)、2020年(48.2%)から増加しました。この3年間で公表率が増加したことは評価できます。県のLPガス協会からの継続的な働きかけが効果を発揮していると考えられます。ただし、3分の1の事業者が料金を公表しない(問合せに回答しない)という結果は、「料金透明化」が課題とされ、料金情報の積極的な開示が求められている現在の状況からすれば、まだまだ低いと評価せざるを得ません。

 調査を行った担当者からは、LPガス事業者は料金情報について積極的に提供する姿勢が弱いとの声が多く寄せられました。橘川先生がお話しされたように、神奈川県は契約者の切り崩しなども多く、電話での問合せに警戒を強め、硬直した対応もありました。このことは、消費者においても「料金透明化」について理解が不足していることの反映だという側面もあります。行政と事業者・業界団体、消費者・消費者団体それぞれが役割を果たしていくことで「料金透明化」を進めることが大切です。自分たちでより良い生活に向けて行動していきましょう。

消費者団体からの調査及び活動報告②:川原 敬伸さん(北海道生活協同組合連合会)

 今回は北海道生協連を含めて複数の団体で活動しているLPガス問題を考える会として報告いたします。初めに継続して実施している2つの調査について報告します。

1)2020年度北大生協斡旋賃貸物件LPガス料金調査

 北大生協が斡旋仲介している、学生向け賃貸集合住宅を対象として、オーナーから料金表を集約して分析しています。2020年秋は111件の料金表について調査しました。その結果、5m3当たりの業者間の価格差は、最大で月4,533円差(年間54,396円)でした。これは、2016年と比べても拡大傾向にありました。同一地域・同一業者内での差額も、月あたり最大3,080円(年間36,960円)の差がありました。

2)斡旋物件オーナーと納入業者へのアンケート調査

 2021年春に、北大生協が斡旋している物件の一部のオーナーと、その物件にLPガスを納入しているLPガス販売業者にアンケート調査を行いました(オーナーアンケート回収率71% 、業者アンケート回収率87%)。

 オーナーアンケート調査では、LPガスを導入した理由の上位に、建設業者やLPガス販売業者から設備コストを負担するといわれたからとの回答がありました。また、LPガス料金の透明化、適正取引に関する問題について知っており、現状のLPガス利用に、不安と不満を持っているオーナーからは、LPガス料金についての情報がほしいとの回答も多くありました。

 業者アンケート調査では、100%が基本料金+従量料金の二部料金制度を採用していました。その料金(基本料金と従量料金)については、物件により異なるとの回答が最多(80%)でした。その理由として「設備投資分を基本料金または従量料金に反映」「値下げ交渉に対応したため」との回答が複数ありました。本来LPガス料金とは別建ての、機器投資分を基本料金・従量料金上乗せが慣習化 していること、また、契約主体の入居者でないオーナー・管理会社との料金交渉が実態としてあり、このことが不透明性の要因と考えられます。

 橋爪さんから説明のあった6月からの取組みについて、エネ庁主導で国交省・消費者庁との協議を踏まえ、LPガス協会も参加しての発表という、一年前には考えられなかった状況の変化は高く評価できます。ただまだ中央行政から地方行政機関への周知が弱いので、特に消費者行政を担う消費者庁にもっと動いてほしいと思います。今後は三部料金制度導入を進めると同時に、不動産取引の重要説明事項の一つとして、LPガス関連情報記入の義務化を追求していきたいと思います。

 このように経済産業省エネ庁の動きで、潮目が変わる可能性が出てきました。また行政・業界は、「不透明性問題」の存在を認めLPガス販売改革の必要性を感じてきています。一方問題点の社会と消費者への周知は遅れています。今後は、行政・業界・消費者の協働が必要で、「潮目の変化」を法的措置で確実なものにしていきたいと思います。

消費者団体からの調査及び活動報告③:中本 純子(全国消団連)

 昨年開催の学習会を受けて都道府県LPガス協会へ向けて今年3月に実施した、情報公開の実態を把握するためアンケート調査結果概要は次の通りです。

  • 回答いただいたすべての協会が、事業者に向けて「取引適正化ガイドライン」について、説明会をはじめとする周知活動を実施。県と共催のガス事業者向け保安講習会時や業務主任者講習時に時間を確保し、毎年周知を継続しているとの回答もあった。
  • 多くの協会で、標準的メニューを公表している事業者を把握していた。
  • 一方地域の事業者の、液石法14条書面(LPガス取引を始める際に、LPガスの種類、料金構成やその内容、設備の所有権などが書かれた書面)の記載交付状況や、事業者が検針票でのLPガス料金内訳(基本料金、従量料金、単価など)の開示状況、LPガス販売指針に基づく3部料金制度の採用状況については「把握していない、今後調査の予定はない」との回答が最多。その理由として、行政による検査項目は、その結果を行政と情報交換をしており、協会としては調査を実施していないため。

 今回の調査では、取引透明化に向けての協会の活動状況、大まかではありますが、事業者の情報公開の状況を知ることができ、また、行政との連携状況についてもうかがい知ることができました。ただ、すべての事業者にまで取引透明化に向けた取り組みが浸透しているかを知るには、今回の調査では限界があったと感じています。今後は今回の調査と地域で実施した調査結果の比較・分析なども進めていければと思っています。

今後の取組みについて:並木 静香(全国消団連)

 学習会を通して見えてきた課題を踏まえて、以下の呼びかけを行いました。

①LPガス事業者・不動産事業者への要望

  • 賃貸住宅契約前のLPガスに関する情報開示の徹底
  • 住宅物件オーナー、不動産事業者、LPガス事業者の関係性改善

②LPガス事業者・協会への要望

  • LPガス「取引適正化ガイドライン」の順守

③行政への要望

  • LPガス「取引適正化ガイドライン」の周知、啓発、監視・監督強化

④消費者への呼びかけ

  • 住宅の賃貸契約を結ぶ予定のある方は、契約締結前にLPガスに関する情報提供を求める。
  • LPガス料金制度や料金表示の正しい理解をすすめ、契約を確認するなど関心を持つ。
  • 消費者団体の活動として、LPガス業界・業者との対話、調査活動などを進め、引き続き取引透明化への取組みの継続を。

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