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「農薬について考えよう」〜農薬のリスク評価の仕組み、再評価制度について〜
学習会 開催報告

 農薬とは、農産物などに発生する害虫や病気を退治したり、雑草を除いたりするために使われる薬剤のことです。日本で使ってもよい農薬は、人の健康や環境への影響などについて確かめられ、国に認められたものだけですが、食べるものに散布され環境中に放出されるものであることから、リスク管理を適切に行う必要があります。

 学習会では、農薬に関する基礎知識と、2021年度から優先度に応じて順次実施されている「農薬の再評価制度」について学び、農薬のリスク評価や安全の確保についての理解を深めました。

【日時】2021年12月22日(水)14時〜15時30分 〔Zoom活用オンライン学習会〕

【講師】内閣府食品安全委員会事務局 情報・勧告広報課長 都築 伸幸さん
内閣府食品安全委員会 委員 浅野 哲さん

【参加】132人

概要(事務局による要約)

■「農薬のリスク管理について」 都築 伸幸さん

◇農薬登録の全体像

 農作物を病害虫から守り、品質の良い農作物を効率よく安定的に生産し、なるべくコストを抑え市場に供給するために農薬が使われています。

 農薬は環境中に放出され、食べ物に直接散布するものなので、農薬を使用する生産者の安全、作物を食べたときの食品の安全、環境に対する安全、この3つの安全の確保が必要です。

 安全を確保するために農薬には登録制度があります。農薬は様々な試験成績に基づき、申請された使用方法における審査を行い、安全と認められる農薬だけを登録し、登録されていない農薬は使えません。また農薬を使用する農家は定められた使用方法を遵守する義務があり、これを破ると罰則があります。

 農薬を登録するためには、薬効があって薬害がないこと、人の健康への影響、農作物への残留、土壌や動植物の環境への影響など、多くの試験結果を専門家が総合的に評価します。評価をするうえでデータの品質を保つための監査制度(GLP制度)があります。

 農薬の登録に当たっては安全性が確認された農薬だけを登録するために、関係省庁が連携した役割分担で取り組んでいます。

 すべての省庁の審査をクリアすると農林水産大臣から農薬登録の認定が受けられます。

◇農薬の再評価制度

 平成30年(2018年)に農薬取締法が改正され、日本で登録されている全ての農薬を対象として最新の科学的知見に基づき15年毎に安全性等を再評価することとなりました。2021年10月から再評価のための資料が農林水産省に提出され、農薬の再評価がスタートしています。

 再評価制度が導入された理由は、科学の発展による農薬の安全性に関する新たな知見や、評価法の発達を、農薬の登録状況に的確に反映させるためです。それによって安全性の向上や、国際的な標準との調和、最新の科学的知見に基づく規制の合理化を図っていくことが目的です。再評価制度の導入と併せ農薬の安全性について様々な審査の充実が図られ、必要に応じて随時登録の見直しが並行して行われます。

 再評価の優先順位は、我が国で一番多く使われているものを真っ先に評価し、使用量は少ないが許容一日摂取量等が低い(毒性が高い)ものの優先度を高くしています。今年度中にネオニコチノイド系農薬など14有効成分についてデータが提出され再評価が行われる予定です。基準の見直しについては再評価の結果次第で、現時点では未定となっています。

■「農薬のリスク評価について」 浅野 哲さん

◇リスク分析の枠組み・体制、ハザードとリスク

 農薬の安全性確保はリスクアナリシスの枠組みとして

@リスク評価
(どんな危険がありどのくらいなら食べても安全か決める:食品安全委員会)

Aリスク管理
(安全に食べられるようルールを決め監視する:農林水産省・環境省・厚生労働省)

Bリスクコミュニケーション
(すべてのステークホルダーによる意見・情報交換)の3つの要素に従って行われています。

 ハザードとは有害な影響を起こすもの(農薬・重金属・微生物・カビ毒など)を言い、リスクとは有害な影響が起きる確率とその強さでハザードと摂取量の両者を掛け合わせたものを言います。ハザードが小さくても摂取量が多ければリスクは大きくなり、逆にハザードが大きくても摂取量が低ければリスクは下がります。

◇残留農薬のリスク評価

 残留農薬によるリスクには、残留農薬を含む様々な食品を食べ続ける「長期摂取によるリスク」と、1日に残留農薬を含む食品をたくさん食べた「短期摂取によるリスク」の2つのタイプがあります。残留農薬のリスク評価は、長期ばく露・短期ばく露ごとに毒性評価(毒性の性質と強さ)とばく露評価(摂取量)を比較し、科学的にリスクの判定が行われます。

 長期摂取によるリスクの評価は、一生涯摂取し続けても有害影響が認められない量としての許容一日摂取量(ADI)、短期摂取によるリスクの評価は、一度に大量の食品を摂取したとしても有害影響が認められない量としての急性参照用量(ARfD)で示します。

 毒性と摂取量の関係で言えば、例えば砂糖も農薬も同様に、使う量によって有害にも無害にもなる(リスクが大きくなったり小さくなったりする)と言えることから、多くの化学物質は使う量をきちんと決めて使えば安全であり、リスクとうまく付き合うことが大事ということになります。

 毒性評価とは、様々な動物実験により何ら有害影響が認められなかった用量レベルの無毒性量(NOAEL)を求めるもので、最も小さい値を示した試験のNOAELをADIやARfDの根拠に採用します。短期・長期の投与による毒性や、発がん性、DNAへの傷害性など、あらゆる毒性試験のデータをもとに、最も低い無毒性量をさらに安全係数(通常100)で割ってADIやARfDの数値を厳格に導いています。

 ばく露評価とは、毒性評価とは異なる作業で、ヒトへのリスクの大きさを知るために、農薬の残留濃度、その農薬の代謝物、その農薬を含む食品の消費量などを考えあわせて評価を行います。調査結果に基づき残留基準を設定した場合の農薬の摂取量を推定し、ADIやARfDを超えないことを確認したうえでリスク判定を行っています。

◇科学をアップデートする取り組み「農薬の再評価」

 農薬取締法の改正により農薬の再評価が2021年度から始まりました。毒性学は常に進歩していることからアップデートした科学で評価し直すことが重要です。新しい規範や指針を常に刷新し、最新の科学を導入した評価が共通にできるような仕組みを目指しています。

以上

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