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消費者契約法 第3次改正に向けて「前編」基礎学習 開催報告

 日々のくらしでは、賃貸住宅を借りたり、旅行でホテルを予約したり、月額制の音楽配信を利用するなど様々な契約を行いますが、中には望んでもいないのに事業者にしつこく勧誘され、契約内容をよく理解しないまま契約をし、「こんなはずではなかった」と後悔するケースもあります。

 消費者と事業者との契約では、持っている情報の質・量や交渉力に格差があり、何かトラブルが起きた時に消費者は弱い立場に立たされることが多くあります。このような状況を踏まえ、消費者の利益を守るため、2001年に「消費者契約法」が施行されました。その後、社会情勢の変化に対応するため、2016年、2018年に改正が行われました。

 現在、消費者庁で行われている「消費者契約に関する検討会」は、9月中に報告書がまとめられ、2022年度の通常国会にて3回目の改正が行われることが期待されています。

 消費者契約法第3次改正に向けて、「前編」「後編」の2回に分けて学習します。

 今回は、「前編」基礎学習として「消費者契約法とは」から始まり、これまでの改正と積み残された課題や今後の法改正への期待について、お話いただきました。

【日時】2021年9月24日(金)14時00分〜16時00分
〔Zoomを活用したオンライン学習会〕

【講 師】志部 淳之介さん(弁護士)

【参加】123人

概要(事務局による要約)

消費者契約法第3次改正に向けて 「前編」基礎学習

志部 淳之介さん(弁護士)

■最近の消費者相談の概要

 最近の消費者相談では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、インターネット通販でのトラブルが増加しています。マスク、体温計、パルスオキシメーターなどの保健衛生用品や医療機器、衣料品、健康食品、化粧品などの相談が多くあります。また、結婚式場の解約や延期、スポーツ教室の会費などに関して、キャンセル料が高額であるなどの相談も多くありました。

■消費者契約の基礎

 消費者契約法は、消費者と事業者との間の契約であれば、労働契約以外のあらゆる契約が対象になります。民法の特則を定めており、不当な勧誘を受けた時に契約を取り消したり、無効にすることができます。また、たとえ締結した契約書に約束事が書かれていたとしても、悪質なものはその全てや一部が無効になります。消費者契約法では、消費者と事業者には構造的な格差があるとの考え方から規定されています。

■不当な契約勧誘の取り消し

「不実告知」(嘘を言われた場合)・・重要事項について事実と異なることを告げて勧誘をした契約は取り消しができます。重要事項とは、商品、サービス、料金、取引条件、契約の動機になるところで、ほぼ全てに当てはまるのではないかと思います。

「断定的判断の提供」(必ず値上がりすると言われた等)・・提供された断定的判断の内容が確実であると誤認させて勧誘した契約は取り消しができます。情報商材関連の事案では、このような加入が多くみられます。

「不利益事実の不告知」(不利になることを言われなかった場合)・・不利益となる事実を故意に告げなかっただけではなく、重大な過失によって告げなかった場合にも取り消しが認められます。

「不退去」(お願いしても帰ってくれない)・・消費者が退去するように意思を示したのに事業者が退去しないで勧誘をした契約は、取り消しができます。

「退去妨害」(帰りたいのに帰してくれない)・・消費者が退去する意思を示したのに事業者が退去させないで勧誘をした契約は、取り消しができます。

「不安をあおる告知」以下の3つの類型があり、不当な勧誘として取り消しができます。

①願望の実現への不安をあおる告知(就職セミナー商法等)・・消費者が社会生活上の経験が乏しいことから願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、不安をあおること。

②判断力低下による不安をあおる告知(高齢者等が不安をあおられる)・・加齢や心身の故障により判断力が著しく低下し、生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、不安をあおること。

③霊感等の知見によって不安をあおる告知(霊感商法等)・・霊感等の特別な能力により、重大な不利益が生じることを示して不安をあおること。

「好意の感情の不当な利用」(デート商法等)・・消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、勧誘者に好意の感情を抱き、かつ、勧誘者も同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、契約しないと関係が破綻すると告げた場合の契約は取り消しができます。恋愛感情に限らず友人や先輩・後輩などのあらゆる人間関係における好意の感情も該当すると考えられます。

「契約前の債務内容の実施」(契約前に実施した代金を請求される等)・・契約締結前に契約による義務の全部または一部を実施し、実施前の現状の回復を著しく困難にした場合の契約は取り消しができます。

「契約前に実施した行為の損失補償請求」(契約前の事業活動の代金を請求される等)・・契約締結前に、契約締結を目指した事業活動を実施し、生じた損失の補償を請求する旨を告げた場合の契約は取り消しができます。

「過量な内容の契約の取消し」(通常の量を著しく超える物の購入を勧誘された)・・消費者にとって通常の分量を著しく超えることを知りながら勧誘し契約をした場合の契約は取り消しができます。

◇消費者契約法による取消権の行使には、期間制限があります。短期では、追認をすることができる時から1年間、長期では、契約の締結の時から5年間です。取消権が行使された場合、消費者は契約した物の返還義務を負いますが、物が残っていない場合は、今あるものを返せばよいことになっています。

■契約条項の無効

「事業者の損害賠償を免責する条項」・・たとえば、「損害賠償一切の責任を負いません」などの損害賠償責任を不当に免除したり制限する条項は無効になります。

「消費者の解除権を放棄させる条項」・・たとえば、「販売した商品については、いかなる理由があっても、ご契約後のキャンセル・返品はできません」などの消費者の解除権を放棄する条項は無効になります。

「消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等」・・たとえば、「結婚式場等の契約で、実際に使用される日から1年以上前の場合、契約金額の80%とする条項」など、違約金や損害倍書が一定の限度を超える条項は、その超えた部分について無効になります。

「消費者の利益を一方的に害する条項等」・・たとえば、「掃除機の購入時、頼んでもいないのに同封されて送られてきた健康食品について、消費者から継続購入しない旨の連絡をしない限り、健康食品の継続購入をするものとみなす旨の条項」など、一方的に契約承諾の意思表示をしたものとみなす条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、は無効になります。

■これまでの改正と積み残された課題

 2016年度改正では、過量契約の取り消し、重要事項の範囲の拡大、取消権の行使期間の延長や、契約条項の無効の規制などが規定されました。

 2018年度改正では、成年年齢引き下げとして若年者の対策や高齢者対策などが入り、条文が増えています。ただし、キャンセル料はいくらまでならよいかなど、まだ改正が不十分であるとして附帯決議が付いています。つけ込み型不当勧誘の取消権、情報提供として年齢や生活及び財産の状況を事業者の考慮要素とすること、約款の事前開示の在り方などについて、必要な措置を講じるよう、宿題になっています。

■今後の改正への期待

 現在は、様々な事例を解決するための条文改正になっていて、後追いで新しい被害が生じている状況です。あらかじめ、「合理的判断ができない人につけ込んだら取り消せる」くらいの包括的な規定を設けてほしいと思っています。

 検討会報告書では、不当勧誘の取消権では「困惑類型の脱法防止規定」や「消費者の心理状態に着目した規定」「消費者の判断力に着目した規定」、平均的な損害の額の立証負担の軽減、不当条項などについて、消費者保護の強化に向けてまとめられています。

以上

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