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「エネルギー基本計画に関する学習会PART 2」開催報告

 エネルギー政策基本法に基づき政府が策定するエネルギー基本計画の見直しの検討が、大詰めを迎えています。2月に開催した学習会以後も、4月の気候サミットでの首相発言、5月にはグリーン成長戦略の「参考値」に基づくシナリオ分析の報告などの動きがありました。そこで今回は、最近の動向を踏まえ、2050年および2030年のエネルギー政策や電源構成などをどう考えていけばよいか、どのような視点を持ってみるべきか、学習、意見交換を行いました。

【日 時】6月22日(火)13:00〜15:00〔Zoomを活用したオンライン学習会〕

【講 師】高村 ゆかりさん(東京大学未来ビジョン研究センター 教授)

【報 告】村上 千里さん(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS) 環境委員長)

【参加者】49名

エネルギー基本計画の審議状況と論点

高村 ゆかりさん

1.エネルギー基本計画を取り巻く状況

 エネルギー基本計画は法律に基づき策定されるもので、その検討をする経済産業省資源エネルギー庁総合エネルギー調査会基本政策分科会(以下審議会)委員として2015年から関わっています。今回はパリ協定の温暖化目標の更新と同時期にあたり、特に大きな議論となっています。

 エネルギー政策と気候変動政策は同時期に議論されることが多いです。今回、非効率石炭火力についての検討、温暖化対策計画の見直しなど、様々な検討がなされているさなかの2020年10月、2050年カーボンニュートラルを目指すという宣言がありました。このためエネルギー基本計画についてもこの大きな政策の下で検討しています。さらに2021年4月の気候サミットにおいて日本は「2030年に2013年比で温室効果ガス排出を46%減、さらに50%減の高みを目指す」ことが表明されました。

 並行してカーボンプライシングの検討も始まりました。これは経済産業省、環境省のみならず国交省、金融庁などファイナンス面からも検討されています。最終的には11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)までに日本の温暖化対策目標が正式表明される見通しです。

①現在のエネルギーミックスが策定された2015年から変わったこと

 再生可能エネルギー(以下、再エネ)のコストが世界的に下がっています。日本でもこの10年間で約63%コストが下がり、国はコストをさらに下げる方針です。再エネは燃料費がかからないことから、長期的には発電コストの削減効果が期待できます。

 2013年度と比べてCO2排出量は減っていますが、その大きな要因は、エネルギー需要が減っていることと電力分野での脱炭素化が進んでいることにあります。特に原子力発電所が稼働していない2014年2015年にCO2排出が減っていることは再エネが貢献している証左と考えられます。今後は、発電事業を地域で行うことで、農業従事者の高齢化・荒廃農地、不法投棄の問題などの解決が期待できます。再エネが拡大したことによる課題のひとつには賦課金の問題があります。今の賦課金の負担は制度導入時2012〜15年に認定された分が大きく、これは20年払わなければなりません。しかしこの負担は時限的なもので20年経過後の2032年以後この額は急減します。これ以上負担が大きくならないよう、政府も見直しを進めつつあります。

 実は現在、電気代の変動への影響は、賦課金の増加よりも化石燃料の価格変動に由来する割合のほうが大きいのです。つまり今私たちは、うまく賦課金の上昇を抑えながら、再エネをできるだけ導入して、外から買っている電気料金の大勢を占める化石燃料の部分をどう縮減していくか、変動を抑えながら電気料金を抑えていくかに取り組んでいるのだといえます。

 送電線については、(再エネに限らず)あとから発電を始めた事業者にも使いやすいようにするという見直しをしています。また新たな送電線について、再エネが多くなることを想定し、どうすれば送電線がもっとも効率的に作れるか、どこを増強すれば再エネを最大限導入できるか、などを考慮に入れた送電線のネットワークを作ろうとしています。まずは出力抑制をしている九州と需要の多い関西を結ぶルートの強化が急がれます。

②自治体・企業の動き

 2050年カーボンニュートラルについては自治体も大きく動き出しています。408の自治体が2050年カーボンニュートラル宣言をし、長野や東京のように具体的な計画を立てている自治体もあります。自分たちが幸せになる脱炭素地域を、地域住民が作りそのハブとして自治体が関わる。こうして自治体がしっかり取り組むことが日本全体の脱炭素化には重要です。

 カーボンニュートラルへの企業の取組みは大きく加速しており、パリ協定と整合した1.5度目標(SBT)を目指しているのが100社以上、2050カーボンニュートラルを目指している企業も40社を超え、2050年までに再エネ100%を目指す企業(RE100)も50社を超えました。今年5月に電気事業連合の提言「カーボンニュートラルの実現に向けて」で取り組みの方向性に再エネの最大限の導入が初めて位置付けられたことも大きなことです。

 なぜ企業はカーボンニュートラルに動くのでしょうか?一つは近年、保険会社も毎年1兆円近くの支払いが続くなど、気候変動が原因の一つと考えられる被害や将来のリスクが高まっていること。もう一つはサプライチェーンにもCO2削減や再エネ利用を要請されるようになってきたこと。つまり環境エネルギー問題に取り組まないと、企業は取引先から選ばれない、受注ができなくなるかもしれない、カーボンニュートラルに動くことが産業政策に関わるからです。

2.エネルギー基本計画の課題と論点

 エネルギー基本計画の審議では、首相の2050年カーボンニュートラル宣言に照らし合わせて審議し、それを見据えた2030年の目標について審議してきたと理解しています。12月に策定されたグリーン成長戦略は、6月に関係各省の合意を経て改訂されました。グリーン成長戦略には今後の試算のためとして了承された「参考値」があり、5月には地球環境産業技術研究機構(RITE)がこれをもとにシナリオ分析結果を報告しました。エネルギー政策の大前提として気候変動・脱炭素化が据えられたことはとても重要だと考えています。企業に加え、若者や社会の危機感に合わせて2050年カーボンニュートラル、2030年CO2排出46%減、という意欲的な目標が引き出され、それが企業の行動変化も生み出しています。

 脱炭素化にむけて、2つの観点からエネルギー政策をチェックする必要があると考えます。一つ目は今ある技術を最大限活用した足下からの脱炭素化です。少しでも早くCO2を出さないことが、足元のリスクを減らすことにつながるので、今できる技術をすべて使って減らすことが重要です。コロナ禍からの復興のための需要・雇用・市場機会も創出できます。

 二つ目は2050年カーボンニュートラルとの整合的な長期的な移行(トランジッション)です。エネルギーインフラの更新には時間がかかるので2050年のインフラをどうするかの戦略を考え、2050年カーボンニュートラルに整合する判断をすることが必要です。その中間地点としての2030年のことをきちんと決めることも必要になります。

3.2030年の再エネ目標に関する検討状況

 資源エネルギー庁では2015年の電力需要想定に対して2030年再エネ30%以上は導入の想定ができていますが、40%を見通せるかが注目点になります。2030年については太陽光と風力の導入が考えられ、他の電源も2030年までに準備をして、2030年以後稼働していくことが必要です。

 再エネは火力その他に比べて土地単位当たりの発電量は低い(効率悪い)ので、どうやって土地を効率的に、地域共生型で使っていくか、自然保護と矛盾しない形で再エネを増やしていけるかが大きな課題です。電気で代替できない部分について、水素の役割は今後増えると思います。脱炭素でグリーンな水素が安く供給されるためには再エネコストを下げる必要があり、再エネコストを下げることは日本のエネルギーコストを下げるために非常に重要です。

 今後は再エネを主力電源とする電力システムをどう構築するかが重要になります。再エネ導入は以後も伸ばしていくことが必要で、そのためには事業に時間がかかる電源を含めて国がどの電源を増やすかという意思を明確にすることが重要です。その意味では、今回洋上風力の目標が定められたのは大きく、これにより国内の事業者が参入してきて、今後は投資やイノベーションが期待できます。

 既設の石炭火力発電は投資を回収済なので発電コストは安くとも、そこに炭素の排出を削減するためのコストは含まれていません。この社会的コストを、炭素を排出した人が負担する仕組み、炭素の価格付け、カーボンプライシングをしっかりする必要があります。現在、カーボンプライシング(炭素税)に当たる温暖化対策税は炭素排出に比例していないので制度改革が必要です。

 原子力については、6月の成長戦略改訂版ではその位置づけに少し変化があり、原子力を「最大限活用」という表現が消えました。脱炭素化の観点から、原子力を当てにしないで政策を作る必要があります。原子力の比率は現在6%ですが、これが早い時期に2〜3倍になるとは思えません。原子力の課題は、何らかの理由により止まった場合、脱炭素を維持するためのバックアップ電源が必要になることです。現状ではCCS(二酸化炭素回収・貯留技術)は高いので再エネを余剰に確保しなくてはなりません。その意味では原子力が脱炭素化に果たす役割は小さく、仮に停止した時に脱炭素化を維持するために再エネ大量導入とリンクする必要があります。

 原発は、稼働時にCO2は排出しませんが、老朽化への対応、事故リスク、廃棄物の最終処分の解決策が見いだせていません。もし国の支援がなかった時に銀行は原発に融資をしてくれるのか、原発の事故リスクは市場で担保できるのか、特に新増設については事故リスクの経済的な評価、廃棄物処理の問題等についての国民的議論なしに判断できないと考えています。

4.私達にできること

 再エネ比率を高めるために、量的なポテンシャルがあるのは日本では太陽光と風力です。その時に私達にできることは二つあります。一つは地域主導型の再エネ普及にシフトしていくことです。自分の住む場所で、どうやって企業と一緒に取り組みを進めていけるか、生協などの協同組合への期待は大きいです。具体的には農地転用で、自給率も考慮しながら地域環境を改善できる取り組みになることを期待しています。

 もう一つは住宅、事業所など建築物に係る脱炭素化です。住宅やビルを建てると50年使い続けることになるのですぐにでも進めるべきです。またZEH(ゼロ・エネルギーハウス)はエネルギーコストを下げるだけでなく、住む人の健康にも好影響を及ぼすなどメリットが多く、建築時にコストが高い以外のマイナス面が見当たらないので、あとは政策の後押しが欲しいものです。

エネルギー基本計画見直しに関する審議会についての報告

村上 千里さん

 2019年から消費者の立場で基本政策分科会の委員を務めています。審議会では昨年10月13日から以下の3ステップで検討が進めてられています。

①3E+S(エネルギーの安定供給、経済効率性、環境への適合、安全性から成り、日本のエネルギー政策の基本となる概念)を目指すうえでの課題を整理

②今世紀後半の出来るだけ早期に「脱炭素社会」を実現するための課題の検証

③(2050年の見通しを立てたうえで)2030年目標の進捗と更なる取組の検証

 ②は10月26日の菅首相による2050年脱炭素宣言で、より明確に「2050年に脱炭素社会を実現する」となりました。長期展望における再エネ検討では、「大きな課題があり、増やすのはとても大変」との意見が強調され、再エネ大量導入は可能とする意見は軽視されていたように思います。他の電源についての課題抽出もふまえ、昨年12月には2050年の電源構成の参考値が示され(再エネ50〜60%、CCS火力+原子力30〜40%、水素+アンモニア10%)、それをもとにシナリオ分析を行うとの事務局案に、委員からは再エネ100%を含む複数のシナリオを検討するよう意見が出される場面もありました。

 2月には需要側へのヒアリングが行われ、経団連や連合などと共に、全国消団連が消費者としての意見を述べました。3月頃より③2030年目標の議論に入り、再エネ導入のポテンシャルの確認のため供給側のヒアリングが行われました。そのようなタイミングで政府は4月22日、2030年GHG排出46%削減を表明。これまで審議会では、50年は野心的な数字を掲げる、2030年は実現可能な数字を積み上げて目標を立てる、と整理されていましたが、先に2030年の野心的な目標が出され、今はこの目標に向けて、省エネや再エネどう積み上げるかが検討されています。

 5月には第6次計画の骨格案(目次案のようなもの)が示されるとともに、(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)によるシナリオ分析結果が報告されました。RITEはシナリオ分析からの示唆として、(1)2050年再エネ100%シナリオについては非現実的、(2)再エネ、原子力など確立した脱炭素技術を確実に利用していくことが重要、(3)特定の分野に偏ることなく水素・アンモニア、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯蔵の技術)などあらゆる分野のイノベーションの実用化に向けた政策対応が必要、の3点を示しましたが、とりわけ(1)に対し、コストや需要側の前提への異論から、その示唆は当たらないとの批判が複数の委員や研究機関などから示されています。6月30日には複数の機関によるモデル分析のヒアリングが予定され、2050年に向けた課題がより多面的に議論されると思われます。そして2030年のエネルギーミックスを含む第6次エネルギー基本計画案が夏中には取りまとめられ、パブコメにかかる予定です。

 審議会ではこれまで、再エネ最大限導入、原子力推進には信頼回復が進んでいないことをふまえ国民的議論が必要、審議プロセスへの次世代の参画を強く主張してきました。今後は大幅な需要の削減のための政策、炭素税などによる脱炭素経済への誘導などとともに、パブコメに寄せられるであろう多くの意見を審議会でも検討する必要性について、強く主張していきたいと考えています。

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