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学習会「改正食品衛生法と液体ミルクについて」開催報告

 食品衛生法が15年ぶりに改正され、2018年6月13日に公布されました。改正の背景には、食を取り巻く環境の変化や、国際基準との整合的な食品衛生管理が求められるようになったこと等があげられます。改正概要及び施策の進捗状況と、最近のトピックスとして「液体ミルク」や「ゲノム編集技術応用食品」についても話していただきました。

【日 時】6月19日(水)13:30〜15:30

【会 場】主婦会館プラザエフ 5階会議室

【参 加】30名

【講 師】道野 英司さん(厚生労働省 医薬・生活衛生局 食品監視安全課 課長)

食品衛生法の改正について

 2003年の食品衛生法改正は、食品安全基本法の制定や食品安全委員会の発足があわせて実現し、国民の健康保護に関わる大きな改正となりました。今回の改正は、高齢化や世帯構成人数の減少、国際化への対応等、食を取り巻く環境変化を背景に行われたもので、以下の項目について改正されます。

−広域的な食中毒事案への対策強化について

 2018年の食中毒の発生件数は1,330件、患者数は、17,282人で死亡者が3人でした。これは保健所に届け出られた件数で、医師から届けられなかった場合や家庭で治ったものは入っていません。推定すると数百万人単位の患者が発生しているというデータもあり、昨年はアニサキスが多かったです。死亡例はここ数年、自然毒(山菜やきのこ、ギョウジャニンニク)で発生しています。広域的な事案としては、埼玉、東京、茨城、福島で感染が報告されたO157や同系列ハンバーガー店によるO157、同系列の寿司店における腸炎ビブリオ事案が発生しました。

 2017年に関東を中心に発生した食中毒事案の課題を踏まえ、次のような対応を行うこととしました。

  • 国と関係自治体の食中毒事案対応などの連携や協力の場として、地方厚生局のブロックごとに広域連携協議会を設置
  • 厚生労働大臣は、協議会を活用して、広域的な食中毒事案への対応を行う

−HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化

 HACCPとは、事業者自らが食中毒汚染等の危害要因を把握し、原料入荷から製品出荷までの工程で危害要因を除去低減させるための管理を行い、製品の安全性を確保する衛生管理手法のことです。日本では1995年の改正時に任意の承認制度としてスタートしましたが、中小企業にとってはハードルも高く、なかなか普及が進みませんでした。海外では義務化も進んでおり、日本の制度化に向けて、業界団体に手引書を作ってもらい、それに沿って各事業者が取組むことで、国際基準に則った取り組みができると考えています。現在のところ42業種で手引書が作られており、漏れがないように取り組んでいます。

−特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集

 2003年の改正の時に、通常食べているものでも濃縮したものを摂取して健康被害が起きたときは、暫定的に流通規制ができる仕組みは作りました。しかし、最近は多様な成分が使われるようになり、製造方法を間違うと健康被害が想定されるものも出てきました。「プエラリア・ミリフィカ」を含む健康食品は、5年間で223事例の健康影響が出ましたが、健康食品による健康被害情報の収集が法的に制度化されていなかったために十分な情報収集ができませんでした。この事案を受け、

  • 食品事業者等は、健康被害があった場合には、その情報を都道府県等に届け出る
  • 食品事業者に、適正な製造管理・品質管理の遵守を求める

という制度を導入し、2020年6月の施行に向けて、詳細が現在厚生労働科学研究・調査事業において検討されています。

−国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備

 食品に接する器具や食品を包んでいる容器包装は、食品衛生法の規制の対象になっています。今回はその規制のあり方を改正します。現行制度は、原材料は基本的に何を使ってもいいが、使用を制限する物質を定める(有害物質が一定の量以上溶出しない、鉛やカドミウムが含有していてはいけない等)ネガティブリストの制度です。改正後のポジティブリスト化は合成樹脂を対象とし、原則使用禁止とし、安全性が確認できたものについて使用ができるという制度です。原材料メーカーから容器等製造事業者、容器等販売事業者、食品製造販売・販売事業者まで、合法的なものが使用されているということを確認できる仕組みです。

−営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設

 1972年以来の見直しです。現行制度は許可がいる業種と許可がいらない業種という2分類だったものを、許可がいる業種、届け出だけでいい業種、許可も届け出もいらない業種の3分類に見直します。目的としては届け出を増やし、許可と届け出の対象となっている事業者はHACCPの義務化の対象とします。昭和の時代は、許可が必要な業種は1工場や1店舗で限られた種類の食品を作っていましたが、現在は、消費者や流通の要請を受け、1工場で様々な食品を作っています。1つの食品ごとに許可が必要なので、1施設でたくさんの許可をとらなくてはなりません。

 また、各県や中核都市によって許可の条例が違うので統一してほしいという事業者からの要望もあり、1つの施設に適した許可をとればいいように、営業許可業種の見直しを行いました。新設する業種の例としては、漬物製造業、食品の小分け業。統合して1業種での対象食品を拡大する業種の例としては、みそ・醤油製造業(加工食品を含む)、許可から届け出に移行する業種として、乳類販売業、コップ式自動販売機等、食品産業の実態に合わせて見直しを行っています。

−食品リコール情報の報告制度の創設

 現在、事業者による食品のリコール情報は社告や都道府県の条例で報告を求め、公表されてきました。今回の改正で食品衛生法違反のおそれがある食品については行政への届け出を義務化としました。合わせて食品の安全に直結する表示(期限、食べ方、保存方法、アレルギー等)の不備で回収するものも届出義務対象とするため、食品表示法も改正し、同時施行となりました。リコールと届け出の仕組みについては、厚生労働省でシステム開発をしていますが、消費者庁ホームページからも相乗りできるようにします。また、危険度についてもクラス分けした情報提供の要望もあり、成分規格不適合等の食品はCLASSUに分類し、健康被害や死亡の原因となりうるものをCLASST、ほとんど健康被害がないものをCLASSVと分類する予定です。

−その他(輸入食品の安全性確保)

 輸入食品の安全を確保するために、輸出国において検査や管理が適切に行われた旨を確認し、HACCPに基づく衛生管理や乳製品・水産食品の衛生証明書の添付を輸入要件とします。

最近のトピックス
−乳児用液体ミルク(調整液状乳)について

 海外では乳児用液体ミルクは既に流通していますが、日本では今年になって2製品が商品化されました。粉ミルクは、かつて健康被害があったので使用原材料や製法を審査し、厚生労働大臣から承認を出しています。液体ミルクについても規格基準が策定されたので製品ごとに承認をしていきます。災害対応が先に立つので、市場の予想がつきにくく乳業メーカーも最初はポジティブではありませんでしたが、先日のニュースによると育児の負担軽減から利用が進んでおり、マーケットもありそうだということです。一方、災害用だと賞味期限一杯まで置かれるので、品質の問題などリスクも上がるという面もあります。紙パックのLL牛乳タイプ(殺菌した後充填、コストが安い)、缶詰タイプ(充填してから殺菌、賞味期限が長い)等ありますが、様々な試験を行い、製造基準・保存基準・成分規格・その他の基準(許可を受けた施設、容器包装)添加物等審査をして問題ないものを承認しています。

−ゲノム編集技術を利用して得られた食品等について

 ゲノム編集技術応用食品としては、芽が出てもソラニンやチャコニンができないジャガイモ、肉厚のマダイ、甘くて長持ちするトマトなどが開発されています。ゲノム編集技術は狙ったところを切断、修復し、効率的に変異を起こすというものです。外来遺伝子を入れないでできるものは、遺伝子組み換え技術応用食品と同様の規制をしなくてもよいという整理がされました。様々な意見があることは承知しています。

以上