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8月セミナー

インターネット取引の消費者トラブルと課題 第2弾 報告

 インターネット上のショッピングモールやマッチングサイト等、プラットフォームを介した取引が拡大しており、インターネット利用者は急増し、それと共に様々な消費者被害も増加しています。

 この問題については、消費者保護の視点で、経済産業省・公正取引委員会・総務省で「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」が12月に策定され、公正取引委員会で「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査」が1月から始まるなどの動きがあります。内閣府消費者委員会も、取引の素人である消費者が安心して取引を利用することができるよう、必要なルール・仕組みについて調査・検討が必要であるとして「オンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会」で3月に報告書をまとめました。これらを踏まえ、今後オンラインプラットフォームに対する法規制の検討が進められる見込みです。

 全国消団連では、5月28日に森 亮二弁護士に講演いただき、学習会を開催いたしました。今回は、その第2弾として、課題となる論点について解説をいただくとともに、意見交換を行いました。

【日時】8月23日(金)13時15分〜15時15分

【会場】主婦会館プラザエフ 5階会議室

【参加】39人

【講師】土田和博さん(早稲田大学法学学術院 教授)
加瀬川晃啓さん(公正取引委員会事務総局経済取引局総務課 課長補佐)

概要(事務局による要約)

■公正取引委員会で実施したデジタル・プラットフォーマーの取引実態調査報告
 加瀬川晃啓さん

 インターネットは、買い物や検索サイトでの調べものなど、生活が便利になるメリットがある反面、様々なトラブルも指摘されており、現在、公正取引委員会では、デジタル・プラットフォーマーに関する実態調査を行っています。

①オンラインモールを利用または利用申請をしたことがある事業者に対してのアンケート結果

 オンラインモール運営事業者との規約が利用事業者にとって不利益な内容に変更されてしまったり、一方的に変更されてしまうとの回答が多くありました。また、出店・出品の審査が不承認だった場合にその理由の説明がなかった、販売価格や品揃えについて他のオンラインモールと比較して同等または優位にするよう指示されたなどといった回答も見られました。また、オンラインモール運営事業者の行為によって、深刻またはある程度の影響を受けたにもかかわらず取引を継続する事業者は、その理由として、全売上高に占める当該オンラインモールの売上高の割合が高いためなどいった理由を挙げています。

 公正取引委員会としては、オンラインモール運営事業者と利用事業者との間の取引条件の透明性が確保されていることが望ましいと考えており、今後、オンラインモール運営事業者側の事情も含め、更なる実態の把握を行い、独占禁止法・競争政策上の考え方の整理を進めていきます。

②アプリストアを利用または利用申請をしたことがある事業者を対象に行ったアンケート結果

 ①のオンラインモール利用事業者と同様に、規約に不利益な内容があったり、一方的に変更されてしまうとの回答がありました。また、アプリ審査に関する問題点としては、規約の内容が曖昧である、担当者によって規約の解釈や裁量に幅があるとの回答がありました。

 公正取引委員会は、今後、アプリストア運営事業者側の事情も含め、更なる実態の把握を行い、独占禁止法・競争政策上の考え方の整理を進めていきます。

③デジタル・プラットフォームサービスを利用している消費者のアンケート結果

 検索サービスなど、無料のデジタル・プラットフォームサービスを利用できる代わりに、自身の個人情報を提供している認識はあるかとの問いには、約8割があると答えています。また、その情報に経済的な価値があると思うかとの問いには、約6割半があると答えています。さらに、その中で、「デジタル・プラットフォーマーが個人情報や利用データを勝手に利用することはやめてほしい」との回答が約5割ありました。その他、どんな情報を収集しているかについては約4割が、どのように利用されているかは約5割が、その情報を誰と共有しているかについては約6割が「あまり知らない」「知らない」と回答しています。また、約7割半は「個人情報や利用データの収集、利用、管理等に懸念がある」と回答しています。

 公正取引委員会では、サービスを利用している消費者の認識も踏まえ、独占禁止法の優越的地位の濫用の適用の考え方について、検討を進めていきたいと考えています。

■デジタル・プラットフォームと独占禁止法・競争政策〜消費者の視点から〜
 土田和博さん

◇独占禁止法の目的

 公正かつ自由な競争を促進すること、そして究極の目的は、一般消費者の利益を確保すると共に、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としています。

◇デジタル・プラットフォーム

 デジタル・プラットフォームとは、ユーザーグループがインターネットを利用する際の共通基盤、また共通基盤を提供する事業者を言います。例えばGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)、BAT (Baidu、Alibaba、Tencent)、楽天、YahooJapan、LINE、婚活サイト、ペット仲介サイトなどがあります。デジタル・プラットフォームは、①取引型デジタルプラットフォーム(アマゾン、楽天トラベルなど)と、②非取引型デジタルプラットフォーム(情報検索、フェイスブック・LINE等のSNSなど)に分類されます。

 独占禁止法の規制対象には企業結合がありますが、デジタル・プラットフォーム間(平成27年度:ヤフー(株)と(株)一休)での株式取得が検討された事例がありました。独占禁止法10条では、「他の会社の株式を取得することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、株式取得をしてはならない」となっていて、「一定の取引分野」「競争を実質的に制限することとなる」とはどういうことかが問題になりましたが、このケースでは、公正取引委員会は10条に違反しないと判断しました。

 一般に言えば、デジタル・プラットフォームが消費者にもたらすかもしれない弊害は見えにくく、あるとすれば、起こるはずのイノベーション(新しいサービス)を阻害することやプライバシー保護の水準を引き下げることなどが考えられます。

◇秋の陣 その1「消費者に対する優越的地位の濫用」

 独占禁止法2条9項5号は不公平な取引方法について規定していますが、公正取引委員会は「優越的地位の濫用」を企業と取引先との関係など事業者間で適用してきました。消費者との関係では、海外事例としてドイツ連邦カルテル庁は、「市場支配的地位の濫用」としてユーザーの認識や同意なしにデータを収集していたFacebookに対して禁止を命じました(結論は未確定です)。公正取引委員会のアンケート結果(③)にあるように、個人ユーザー(消費者)はSNSの対価を金銭ではなく個人データで支払っているとすると取引があると言え、「優越的地位の濫用」をSNS事業者に適用することができると考えられます。個人情報保護法に違反する行為であれば優越的地位の「濫用」と言いやすいと思います。

◇秋の陣 その2「企業結合ガイドライン」の改定

 現在、GAFAなどのドミナント既存デジタルプラットフォームが、将来有望なスタートアップ企業を先回りをして買収している状況があります(GoogleとYouTubu。Facebook とInstagram。YahooとGYAOなど)。公正取引委員会は、買収は企業の取引分野が違うことやスタートアップ企業の競争力が小さいなど、直接競争に関係せず問題はないとしてきました。しかし、今後は、公正取引委員会で企業結合ガイドラインの改定や新しい法制整備がされるのではないか、注目されるところです。

◇来年の話

 経済産業省・公正取引委員会・総務省の合同で行われた「デジタルプラットフォーマーを巡る取引環境の整備に関する検討会」で7つの基本原則が打ち出され、それを受けて様々な検討会でルール整備の準備がされています。2019年6月21日に閣議決定された「成長戦略実行計画」によると、来年の通常国会に透明性・公平性を確保するためのルール整備として「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称)」案が提出されることになっています。その法案の内容をワーキンググループの議論経過から推測すると、共同規制(まずは自主規制、不十分なら法規制)との考え方になる可能性があります。また、「データ・ポータビリティ」(現在のデジタル・プラットフォーム事業者にある個人データを他の事業者に移行して使用できるようにする)についても検討が進んでいます。

 今後は、政府の動きを注視して、公正取引委員会の消費者に対する優越的地位濫用の適用可能性に注目をすることと、「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称)」の内容について消費者の観点から問題があれば、声を上げることが重要です。

以上

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