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学習会「ゲノム編集技術を利用した食品の取り扱いについて」
開催報告

 2018年9月から、厚生労働省にて「薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 新開発食品調査部会 遺伝子組換え食品等調査会」が開催され、12月5日の調査会で「ゲノム編集技術を利用して得られた食品等の食品衛生上の取り扱いについて」報告書がまとめられました。現状と論点について学習し理解を深める目的で学習会を開催しました。

【日時】12月14日(金)13:30〜15:30

【会場】主婦会館プラザエフ 5階会議室

【参加】33名

【プログラム】

①「新たな育種技術について」
国立医薬品食品衛生研究所 生化学部長 近藤 一成さん

②「新たな育種技術を利用して得られた食品の取り扱いについて」
厚生労働省医薬・生活衛生局 食品基準審査課新開発食品保健対策室長 森田 剛史さん

③質疑応答・意見交換

概要報告(事務局による要約)

「新たな育種技術について」 近藤一成さん

従来の育種

 従来の育種の改変は、食料不足を解決させるという背景で生まれてきた。例えば放射線をあてて稲とか作物を処理し、突然変異を起こさせる「突然変異育種」と呼ばれるものである。これだといろいろなところに変異が起きるので、ほしい性質を持った作物が得られる確率は低かった。

 その後、1996年から遺伝子組換え作物が作られるようになった。これまでは、味はいいが乾燥に弱い作物の場合、乾燥に強い種を掛け合わせて交配を繰り返し、育種に何年もかかっていた。これに対し遺伝子組換え技術は、味のいい作物に乾燥に強い遺伝子だけを入れて、短期間で効率的な育種ができる。初期は除草剤耐性や害虫抵抗性を示すような、生産者のメリットとなるものが作られてきた。次に、ビタミンA強化米のような栄養を改変した、消費者にメリットがあるもの。その後、乾燥地帯でも育つなど、環境耐性のある作物など研究が進められている。

新たな育種

 遺伝子組換え技術は外から遺伝子を入れる技術だが、ゲノム編集技術は、内在する遺伝子や同類の遺伝子を入れたり、少し削ったりして新たな形質を持たせる等の技術である。ゲノム編集技術ではZFN、TALEN、CRISUPR/Cas9などの酵素が使われるが、最近では簡便という理由でCRISPR/Cas9がよく使われている。ゲノム編集技術は、目的の植物や動物の持っているDNAの2本鎖を望むところで切り、その修復時に、1塩基〜数塩基削れたり、短いDNAの配列が置換されたり、従来のように外から遺伝子を入れることで、全く違う機能が現れたり、なくなったりすることを期待するものである。「日持ちがいいトマト」「ギャバを高濃度で含んでいるトマト」「ソラニンを低減したジャガイモ」「黒変防止のマッシュルーム」や「スギ花粉対策米」が開発されている。

 最近では、切らずに塩基を変える技術など新規の育種法は次々に研究されている。新規育種法の食品衛生法上の取り扱いについては、安全性審査など十分なデータを集め、安全性の確認をしていくことが重要である。

「新たな育種技術を利用して得られた食品の取り扱いについて」 森田 剛史さん

 まず、前提として、遺伝子組換え食品等の安全性に関する審査の現状、食品衛生法上の規格基準、ゲノム編集技術の取り扱いに係る諸外国の状況(EU、オーストラリア・ニュージーランドともに検討中。アメリカは企業からの相談に応じて対応するなど、現状では各国バラバラ)、高度精製添加物の安全性審査の現状等を説明していただいた後に、報告書案について説明していただきました。

 https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000459131.pdf

1.検討に至るまでの経緯

 昨今、新たな育種技術として、ゲノム編集技術を用いて品種改良された農産物が開発され、食品として流通できる段階まで来ている。2018年6月に閣議決定された「統合イノベーション戦略」においてゲノム編集技術応用食品等の食品衛生法上の取り扱いを2018年度中に明確化することが求められた。

2.調査会での検討の内容

 現状のゲノム編集技術応用食品は、「DNAの塩基配列を切断し、自然修復時に変異が生じるもの」から「切断の際、酵素とともに一部変異したDNAを導入し、それを手本にした修復を誘導させるもの」、「修復する際に外来遺伝子を導入するもの」等あるが、タイプにとらわれずに、従来の育種技術と比べた安全性について議論を行った。

 その際、食品衛生法上で留意すべき事項として、遺伝子の欠失や、標的部位以外への塩基配列の導入(オフターゲット)は自然界でも起きている事なのか、見極めることは可能なのか、発がん性を促進するものではないか、等の論点も含めて議論された。

3.ゲノム編集技術応用食品の食品衛生法上の取り扱いに係る考え方

○ゲノム編集技術応用食品の中で、導入遺伝子及びその一部が除去されていないものは、規格基準に基づく安全性審査を受けなくてはならない。

○導入遺伝子及びその一部が残存しないことに加えて切断箇所が修復する際の塩基の欠失、置換、自然界で起こりうるような遺伝子の欠失、さらに結果として1〜数塩基の変異が挿入される結果となるものは遺伝子組み換え技術には該当しない。

○従来の育種技術を利用して得られた食品と同等の安全性を有すると考えられることの確認と今後の状況把握を行うために、法的な義務とはしないが、開発者等から必要な情報の届出を求め、遺伝子組換え食品等調査会への報告、届出情報を含む概要の公表を行うことが妥当。

○添加物についても同様の考え方だが、成分規格が公定されているという前提で、食品と同等あるいはそれより緩和した取り扱いとする。例えば、高度精製添加物等は情報提供の必要はない。

4.その他必要な取り組み

 安全性に関する消費者の十分な理解を深めるために、育種技術の動向に関する情報提供やリスクコミュニケーションの充実を促進し、諸外国の取り扱いの検討状況に中止するとともに、国内外の新たな科学的知見が得られた場合には見直しの検討もすること。

≪意見交換≫

 「ゲノム編集技術の安全性について」、「届出制度の義務化や方法について」、「従来の育種技術も含めた安全性審査について」、「輸入食品や海外での取り扱いの整合性について」等活発に意見交換が行われました。

≪今後のスケジュール≫

 新開発食品調査部会(12月18日)⇒関係団体ヒアリング(12月下旬)⇒部会報告書(案)とりまとめ(1月)⇒意見募集(2月)⇒新開発食品調査部会 報告書のとりまとめ(3月)⇒年度末までにゲノム編集技術応用食品等の食品衛生法上の取り扱い明確化する予定です。

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