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全国消費者団体連絡会 ホントのことを知りたい学習シリーズ

8月25日「日本のエネルギーの今後に向けて考えてみよう」開催報告

全国消費者団体連絡会

 全国消団連では「日本のエネルギーの今後に向けて考えてみよう!」と題して原子力発電所の安全性や持続可能性の観点から、専門家の方に日本のエネルギー政策について問題提起していただきました。その後、資源エネルギー庁、福島県の消費者団体の方も交えパネルディスカッションを行いました。この学習を通じて、消費者自らがエネルギー政策を考えるための手がかりにすることを目指しました。今回の学習会参加者数は66名でした。

<概況>

日  時: 8月25日(木) 13:30〜16:20
会  場: 東京都千代田区六番町15 主婦会館プラザエフ地下2階クラルテ
学習会: 日本のエネルギーの今後に向けて考えてみよう
講  師: 「原子力発電所の問題点と日本のエネルギー政策」
NPO法人 原子力資料情報室 共同代表 伴 英幸さん
  「環境問題から見たエネルギー問題」
NPO法人 気候ネットワーク代表 浅岡 美恵さん
パネルディスカッション:
  「東日本大震災後、これからの私たちに必要なエネルギー政策は何か?を考える」
パネリスト: NPO法人 気候ネットワーク代表 浅岡 美恵さん
  福島県消費者ネットワーク事務局長 佐藤 一夫さん
  資源エネルギー庁総合政策課戦略企画室長 定光 裕樹さん
コーディネート:全国消費者団体連絡会事務局長 阿南 久

<スケジュール>

開会挨拶   13:30〜   開催趣旨説明 阿南久 全国消団連事務局長
         
講演        
  講演(1)   13:45〜   「原子力発電所の問題点と日本のエネルギー政策」
NPO法人 原子力資料情報室 共同代表 伴英幸さん
  講演(2)   14:30〜   「環境問題から見たエネルギー問題」
NPO法人 気候ネットワーク代表 浅岡美恵さん
  講演質疑   14:30〜    
   
パネルディスカッション  
         
報告(1)   14:55〜   「東日本大震災・原発事故に向き合う福島県の現状と課題」
福島県消費者ネットワーク事務局長 佐藤一夫さん
報告(2)   15:05〜   「エネルギー政策を考える視点」
資源エネルギー庁総合政策課戦略企画室長 定光裕樹さん
         
ディスカッション   15:15〜
15:30
 
コーディネート: 阿南久 全国消団連事務局長
パネリスト: NPO法人 気候ネットワーク代表 浅岡美恵さん
パネリスト: 福島県消費者ネットワーク事務局長 佐藤一夫さん
パネリスト: 資源エネルギー庁総合政策課 エネルギー戦略推進室
定光裕樹さん

<内容報告>

開会挨拶要旨:全国消団連 阿南久事務局長

 「全国消団連は岩手県消団連や福島県消費者ネットワークなど会員からの悲鳴に近い被災地からの声に応え、ホームページやFAX速報で消費者の情報把握をサポートし、ともに学び、社会的責任を果たすために学習を積み上げ、理解と連帯の連帯の輪を広げるために、国際消費者機構総会で報告を行うなどの取組みを行ってきました。」と開会にあたり全国消団連がホントのことを知りたい!!学習シリーズで『大震災・原発事故関連』のテーマを取上げた理由を説明しました。

講演(1)要旨「原子力発電所の問題点と日本のエネルギー政策」
NPO法人原子力資料情報室 共同代表 伴 英幸さん

 「原子力資料情報室に20年間関わってきました。今回のような放射能を環境に放出する過酷事故のシミュレイトはしていたけれども、実際に起こってみると非常に複雑で、考えていた以上に深刻な事態をもたらしています。自分の想像力の不足を反省するとともに、現時点ではこれからも第二のフクシマが起こる可能性はあると考えています。その中で、原子力資料情報室では前から提案していたことなのですが、原子力にこれ以上依存して良いのか?新たな道を探るべきではないのか?また技術はあるのだから制度的に原子力に依存しない社会をつくろう、ということが、私の話しの結論部分ということになります。」と冒頭に話されました。

 以下、いくつかの項目から上記の結論を考察していきます。

 原子力発電は電気を作り出すというメリットはあるが、放射能を作り出すデメリットをもたらします。この人工的につくられる放射能と私たちは共存できるのか?共存するのは難しいと思っています。今回事故時に大量に放出されることがわかったのですが、原発の放射能はそれ以外にも環境に出ています。第一に管理放出として日常的な放出があります。これについては日本では疫学調査をしていないのではっきりしたことは言えませんが、問題ないとは言えません。例えばドイツにおける疫学調査では原発のない地域と原発周辺半径5kmでの範囲の子どもたちの白血病が有意に高いことが報告されています。これまでの知見からはそうしたことが起こるとは考えられなかったので実際に起きているということで、追加的調査が行われています。その地で生まれて20年、30年40年と住む住民には問題がないとは言えないのではないでしょうか?第二に将来の漏洩という問題があります。放射能の寿命は非常に長く、10年前から処分地を公募しているが決まらないという現実があります。世界的にも処分地未定のままで放射能のゴミが溜まっています。フィンランドは処分場の候補地も決まり調査が行われていますが、最終的には国会承認を必要としています。ウラン核燃料1トンの核分裂により、約1億倍に放射能が増えます。処理をしなければ元のウラン鉱石のレベルに戻るまでに1億年ほどかかるわけです。将来放射能が漏洩した場合には核分裂で電気を得るという恩恵を全く受けることのない世代が原子力の悪い影響のみを受けることになるわけです。こうした事態がもたらされるのは必然ということです。

 第三に原発事故時の放射能放出の問題があります。福島第一原発の事故について述べます。ここの原発は沸騰水型です。原子炉内で蒸気が作られ、それでタービンを廻すタイプのものです。ここで使われた蒸気は海水で冷やされて、また水に戻り、原子炉で再び蒸気となって再利用されます。2号機では約80万kWの電気出力がありますが、原子炉内部では240万kWの熱を出しています。差の160万kWの大部分は海へ熱として捨てられている分けです。今回の地震によって原子炉が自動停止しました。原子炉内は高熱を保っているわけですから、原子炉を冷やすために送電網から電気を得ようとしましたが、鉄塔が地震で壊れて、外からの電源はもらえなかった。その場合に緊急用のディーゼル発電機が作動して必要な電力をカバーし始めましたしかし、その後の津波によって電源を全部失われてしまう。もっとも恐れられていた「全電源喪失」という事態が起こったのです。バッテリーで何とか持つのは4時間ぐらい、しかしこれも使えず、原子炉を冷やすことが出来なくなりました。炉内では水位が下がって、燃料が大気中に顔を出し、そして熔ける状況になりました。熔ける過程では水素が出ますので、原子炉から外側の格納容器へ、さらにここからも漏れ出て、または格納容器が破損したのかは判りませんが、結果として水素が外にもれ出て、水素爆発が起きました。そして大規模な放射能の放出になりました。放出量は570PBq(ペタベクレル)10の17乗の桁が出たのではないかといわれています。

 地震と津波の影響ですが、政府は津波がこなければ大丈夫だったとの立場のようです。しかし、元・原子炉を設計技術者の推測では地震で配管等がダメージを受けたと推測していますし、津波だけだというのは安易な解釈と思われます。

 福島第一原発の現状と今後ですが、原発は冷やしつづける必要があります。半年経っても数万kwの熱があります。何らかの形で冷却を続けなければならないのです。それで当初は水を使っていました。水がなくなって海水を使いました。しばらくしてダムから水が取れるようになりました。原子炉へ水を送っていてもそれが、もれていきます。爆発による格納容器の損傷があるのかも知れません。隣のタービン建屋で非常に高いレベルの放射能で汚染された水が見つかっています。そして一部は海に漏れ出していました。今はタービン建屋から水をくみあげてもう一度原子炉に戻すことを行っているようです。循環して使用するのですが、除去装置を取り付けて放射能を減らしながら原子炉に戻しています。除去した後のものは高レベルの放射線の強い廃棄物になりますから、この処理・処分はいずれ大きな問題となってくると思われます。除去装置の初期の性能はあまり良くありませんでした。原子炉の冷却は続けていかなければなりません。いま、私が心配しているのは余震のことです。向こう5年間、マグニチュード7レベルのものは起きてもおかしくないと言われていることから、傷んだ原子炉建屋が余震で壊れてしまう可能性があります。あるいは台風や豪雨が来たとき建物の健全性はどうなるのかなど心配があります。とにかく冷却は続けなければならず、数年あるいは10年もかかるのではないかと思います。最終的に原子炉の中の様子がわかり燃料を取り出せるまでには10年以上かかります。1979年スリーマイル島事故の際は燃料の取り出しに10年以上かかりました。フクシマは4基ありますから、最終的な廃炉には20年以上かかると思われます。

 そうすると作業員の被曝が数や線量でも深刻になってくるのではないでしょうか?

 さて、「第二のフクシマ事故は起こりうる」と言いましたが、2010年6月のエネルギー基本計画では原子炉14基の新・増設、設備利用率90%以上を目標にしています。また、福島事故後も十分な安全面での見直しはなく、地震・津波は軽視されています。そしてかわらない原子力ムラの体質があります。

 フクシマの事故が起きてから本当に安全な対策はとられているのか、目下進行中ではありますが、とても心もとない。私の見るところでは十分に安全とは言えないと思います。

 耐震性については2008年頃から見直しがされて来ました。どの原発でも耐震安全性については計算をして、動いている原発を止めなくて良いという結論を導いています。津波についてはこれから検討をしようということです。まず、耐震安全性の見直しから始めなければならないはずなのに、原子力安全・保安院が運転継続ありきの姿勢ではおかしいと思います。地震・津波によってこれだけの重大事故が起こったのですから耐震性・安全性の総合的な見直しが出来るまでは、原発を動かすべきではないとの判断が必要と思います。もう一つは依然として、原子力ムラの体質が残されていることです。津波対策さえすれば日本の原発は安全ですとか、専門家が多少は反省しているのかも知れませんが、深い反省が見られる状況ではないし、相変わらず広告宣伝を行ない、運転再開へ圧力をかけるなど原子力ムラの体質がある。ここが変わらなければ駄目だとの思いがあります。

 次の図は4月段階のセシウムの調査結果です。もっとも高いところで、300万〜3,000万ベクレルという数値です。

 およそ30万ベクレルであれば、私たちは1時間あたり1マイクロシーベルトを浴びることになります。300万〜3,000万ベクレルとすれば10〜100マイクロシーベルト/時ということになります。薄いブルーの区域でも、1マイクロシーベルト/時、こんなところで1年間外にいたとすると8ミリシーベルトを超えてしまいます。チェルノブイリなどでは1ミリシーベルトを限度として、限度をこえた場合には避難する権利があるとする扱いです。4月の調査では少し数値が下がっていますが、地図上の薄いブルーのところ含めて避難する権利がある地域と思います。その他ホットスポットの存在があります。福島県内各地の空間線量率の変化を示しました。飯舘村は3号炉の爆発の後に高くなっています。また、東京都の空間線量も3号炉の爆発後に高くなりました。またその後、雨の影響を受けました。放射能汚染の拡大は爆発による直接的放出に雪や雨がともない土壌汚染や瓦礫などの汚染がもたらされました。1kgあたり8,000ベクレルまでは埋め捨てて良いことになりました。

 基準以下の農作物は全国へ流通しています。基準が甘いので、どの程度移染があるのかも調べなければなりません。汚染は長期に渡ります。避難も長期に渡ります。その結果地域社会が崩壊する事態となりました。後処理費用は20兆円とも言われています。チェルノブイリでは500の村が廃村となりました。最後に一言だけ、被曝による健康影響が直ちに表れないとしても、これ以下なら安全という被曝線量はないのです。日本では国際放射線防護委員会の勧告を受けて1ミリシーベルトの被曝を年間の限度としています。この数字は10,000人・ミリシーベルトに1人の割合でガンが発生する目安ということです。300万ベクレルが30万ベクレルで1ミリシーベルトに低下するまでに70年以上かかります。

 子どもを放射能から守る必要があります。環境中のセシウムは減らし、そして飲食物からの摂取を避けようにするべきです。そして健康増進に心がけ必要があります。

 まとめとして第2のフクシマを起こさないように働きかけていくべきです。一番良いのは原発からの撤退です。そのためには省エネルギー再生可能エネルギーを増やす取組みをしていかなければなりません。いくつかの制度改革が必要と思います。まず電力の自由化を進めなければならないと思います。

講演(2)要旨「環境問題から見たエネルギー問題」
NPO法人 気候ネットワーク代表 浅岡 美恵さん

 化石燃料は地球温暖化をもたらし、原子力は放射能汚染のリスクがあります。化石燃料のなかでも、石炭のCO2排出量は天燃ガスの約2倍で、それだけ環境負荷が大きいのです。日本は化石燃料への依存度が高く、なかでも近年、石炭の消費が増えており、温暖化対策に逆行したエネルギー政策がとられてきました。原子力事故の深刻さはいうまでもありません。日本にある54基の原子力発電のうち、30年以上経過した老朽原発が4割を占めています。日本には世界有数の地震国で原発には特に危険な立地環境にあります。

 フクシマの事故を経て、国民意識は新増設・再稼動に慎重となり、7割が依存からの脱却を求めています。

 ドイツなどと比べると、再生可能エネルギー拡大の政策がとられず、電力供給に占める割合は1%、大規模水力を含めても8%で、まだまだ少ないのです。その中で原子力とどう向き合うのかが問われています。日本の原発安全・安価・安定供給神話は崩れました。安全面では「制御不能」、経済面では安く見せて来ましたが、これまでも高くついていたことが明らかになりました。被災者への賠償や最終処分は別立て勘定です。供給の安定性は、これまでも不祥事や地震などで稼働率は6割程度で低迷しています。石炭火力発電でこれを補い、CO2削減にも貢献して来ませんでした。停止原発の代替として石炭火力を推進したからです。

 今回の事故で、原子力から脱却しなければと考える国民が随分と増えましたが、具体的にどのように脱却していくかはこれからの段階です。まず、これまでのエネルギー基本計画と原子力政策大綱の見直しが必要です。いったん白紙にし、子どもたちの将来のために、安全・安心が何よりも大事との方向性を確認して、原子力依存からの脱却と震災被災地の復興を、「温暖化対策」と一体で、国と地域が連携して行うべきです。

 原発事故は一瞬にして、温暖化は20年,30年かけて徐々に進行していくのですが、原発震災と地球温暖化のもたらす被害の姿とその対策はとても似通っています。どちらのリスクも回避すべきで、原発を止めていくとともに、CO2を減らすための計画性が求められます。2050年までに世界でCO2排出を90年比で半減させる必要があることは、国際社会で共通認識になってきていますが、これでも全球の平均気温で2℃程度の上昇は避けられません。原発を火力発電(石炭火力発電)に代替させるということでは最終的な解決にはならないのです。

 脱原発依存のためにも脱温暖化のためにも、豊かさとは何かについても見直す必要があります。対策としては、「省エネ」「省電力」がなにより大切です。家庭でも、電気製品などは効率のいい器機を選択し、適切な温度設定でエアコンを利用するなどで節電でき、電気代も減らすことができます。8月26日に再生可能エネルギーによる電気の固定価格買取り制度の法律が成立しましたが、買取価格・買取期間は、これからの検討にかかっています。再生可能エネルギーは地域によって異なります。政府は、電気料金の上乗せとなる賦課金を抑えるために、太陽光発電だけを優遇し、その他は投資回収が見込めない買取条件を考えてきました。しかし、太陽光、風力、地熱、木質バイオマスなどあらゆる再生可能エネルギーを拡大していく必要があります。特に、震災の被災地は風力やバイオマス、地熱などの自然資源が豊富です。被災地の再生の原動力となるよう、買取価格や期間が設定されることが重要です。

 再生可能エネルギーが十分に拡大していくまでの間、化石燃料の使い方がポイントになります。石炭火力から高効率の天燃ガス発電へとシフトさせるべきです。政府のエネルギー・環境会議では来夏のピーク時の電力不足をカバーするために、停止中の原発を火力発電で代替するとすれば、その費用が3兆円、電気代が約2割上昇と試算していますが、省電力を勘定にいれていないものです。

 ドイツでは1990年代の10年間に亘って、原発と再生可能エネルギー買取制度の普及をめぐる闘いがありました。電力会社は「批判的に問うならば、とても反原発ではいられません。」「再生可能エネルギーは長期的にも4%をまかなうことしか出来ません」などと展開したチラシをまいていましたが、今の日本の状況と似ています。福島の事故後、ドイツ政府は2022年までに脱原発を決め、今年夏には再生可能エネルギーは20%にまで達しています。再生可能エネルギーや省エネへの投資は私たちの未来社会への投資です。消費者もそのための費用を負担していくこと必要です。

パネルディスカッション
「東日本大震災後、これからの私たちに必要なエネルギー政策は何か?を考える」
パネルディスカッションコーディネート:阿南事務局長

被災地からの報告 〜被災地の今〜
福島県消費者ネットワーク事務局長 佐藤一夫さん

 天候と風向きから、毎日の洗濯判断を行います。報道では何とかなりそうではないかとあるが「私たちから見て安心材料はありません。」第一ステップをクリアとは何を根拠に言うのかという思いです。3号基がもし爆発という事態になったら、首都圏含めて大変なことになるでしょう。補償には大きな陰があります。また、自主的避難への補償はないわけです。

 農業・漁業・畜産での風評被害があります。かつお漁は450kmもはなれた漁場です。それが小名浜では買い手がつかず、銚子なら可能という事態です。野菜、果物にも影響がでています。発ガンのリスクが検討され暫定基準ではなく「基準」を定めることが必要です。

 8月時点で17651人の子どもたちが県外の学校に転校しました。理由としては4人中3人が放射能への不安を挙げています。この数字は3月から増えつづけているのです。

 土壌除染は待ったなしの状況です。国は現在までに具体的には何も決めていません。今のままでは利益がらみの公共事業になりかねません。本格的な除染へと国への働きかけが必要です。

 次に原子力災害における避難や被害をめぐる倫理問題があります。第一は「避難をめぐる葛藤」です。原子力建屋が爆発した際にその光景は極めてショッキングで、一刻も早く逃げなければならないという心理に多くの人々がとらわれましたが、鉄道もバスも不通のために、避難の脚は自動車にガソリンがあるかどうかが分かれ目になりました。そして、幼児や子どもを差し置いて、自分だけがいち早く避難することがはたして許されるのかという避難をめぐる心理的葛藤がありました。第二は「規制値とは何か」という悩ましい問題です。政府から被曝線量の暫定規制値が示されましたが、低線量被曝が健康に及ぼす影響については、まだはっきりとは判っていません。「閾値」がはたしてひけるのかどうか、それがはっきりしないのであれば、出来るだけ放射線を浴びる量をゼロに近づけるのが正しい選択と思えます。

 そうであれば福島県の中通りの学校は全て県外疎開しなければなりませんが、子どもだけでは可哀想と親も一緒に疎開することになれば数十万の福島県民が家や仕事を捨てることになります。その場合の社会的・経済的・精神的被害はまことに大きいものです。物理学者であり随筆家の寺田寅彦氏は「物事を必要以上に恐れたり、全く恐れを抱いたりしないことはたやすいが、物事を正しく恐れることは難しい。」との名言を残しました。放射能を正しく理解し、正しく怖がるためには「暫定」ではなく、「通常」規制値を早めに設定する必要があります。第三に「農業者の抱える悩み」です。福島産の農産物が場所によっては暫定基準内に収まっていても相対的に他県より高くなる場合があって、その時に「福島県産」には手を出さないという消費者も中にはありますが、これを単に「風評被害」と片付けられるのか議論があるところです。さらに本当の「風評被害」が起これば消費者が加害者になってしまいます。ほんとうの加害者は東電であるにも関わらずということです。風評被害とは放射能汚染の問題を生産者と消費者の対立に矮小化しようとする戦略の一環かとも思ってしまいます。

 福島県の生産者に「危険な農産物をつくるな」とのクレームがきます。これに対しては「真の敵と対峙してください。東電と政府に抗議してください。」と言いたいのです。

 第六に「公式情報」を信じるかどうかの問題です。スピーディ(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)情報は当初2,000枚以上の試算図のうち僅か2枚を公開しただけでした。放射能は目に見えない分、情報の信頼性が決定的です。

 200万県民の思いと160日あまりの苦難の日々、いつ終わるとも知れない福島県民の悩みを10分間で語ることは出来ませんでした。語り尽くせない部分は資料を参照してください。

 最後に一言地域とは「そこで生まれ、生き、死ぬ」という場所です。ここから導き出されるテーマは「人がちゃんと生きているか?人らしく生きているか?満足して死んでいるか?」ということです。

(2)エネルギー政策を考える視点
定光裕樹さん(資源エネルギー庁総合政策課戦略企画室長)

 2010年6月に化石燃料への依存度を減らし、エネルギー自給率の大幅向上を図ることがエネルギー基本計画で決まり、2030年までに原子力53%、再生可能エネルギー20%にという目標を立てました。しかし、震災・原発事故を踏まえこれは白紙から見直すこととなりました。もはや原子力が現行計画のとおり、26%→53%へ増えることは想定し難い。しかし、26%→26%なのか26%→10%なのか26%→0%なのか今後の検討が必要です。さらに、これまで原発が担ってきた約3割の電源をどうまかなうのか、これについても論議が必要です。再生可能エネルギーははたしてどこまで増やせるのか?化石燃料による埋め合わせは天然ガスが望ましいしいのか?省エネも同時に進めなければなりません。これらのバランスがとても重要です。バランスを見る指標として三つのEすなわち(1)エネルギーの安全保障、(2)環境負荷、(3)エコノミー(消費者等にとってのコスト)が言われています。

 次にエネルギー自給率とエネルギーミックス(発電の電源構成)について考えます。米国との比較では化石燃料比率が日本はより少なく、欧州との比較では日本は再生可能エネルギーの割合が低いといった若干の差はありますが、全体としてみると、欧州・米国と似た構成になっています。欧州は国毎にみると電源構成は多種多様で、例えば、ドイツとフランスを比較すると原子力比率は、ドイツは欧州の平均に近いがフランスは原子力が76%を占めています。欧州の特徴は電力・ガス供給網の連携接続が進み、全体でエネルギー安全保障を確保していることです。また、国ごとのエネルギー自給率を比較すると、再生可能エネルギーや化石燃料などの国内資源に恵まれない国は原子力依存の比率が高い傾向にあります。

 ゼロベースでの議論ですから、今後、日本でも、中国、ロシア、韓国と送電網を繋ぐなどの議論も出てくる可能性があります。

 当面の電力需給の安定化も大きな課題です。現在(8月時点)日本では15基の原発が動いていますが、仮に停止中の原発の再起動がない場合、来年5月には全ての原発が停止という事態を招く可能性があります。この場合、来夏には10.4%のピーク電力の不足が発生すると試算しています。この分のギャップを省エネ・節電の取り組みや原子力に変わる電源の増強でカバーする必要があります。

○ここでコーディネートから「来年の夏の電力需要は具体的になるのでしょうか」との質問が出されました。

○定光さんから→マイナス10%ギャップは昨年夏の最大需要をベースにしています。今年の夏は関係各方面のご努力もあり、東電・東北電力管内では10%を上回る節電を行ないましたので、来年もこうした努力により10%より小さく押さえることができる可能性はあります。政府としては、できるだけ不自由を強いるような節電は回避したいと考えており、ビルや工場での節電・省エネ型の設備を導入した場合の補助等の施策の強化を補正予算等を活用して実施していく考えです。

○コーディネート→「原発が全部止まったとしても何とかなるのでは」との問いがありました。

○定光さんから→そうした事態も想定して手を打つ必要があります。強制的手法は避けて、合理的な形で省エネを進め、ご不便のないようにしたいが、一方で、原子力発電を天然ガスや石油等の火力発電に代替する必要があるため、燃料費の上昇で約3兆円の電気料金の上昇のリスクがあります。これをそのまま価格転嫁することのないよう、電力会社には、ご努力をお願いしているところですが、仮に、電力は足りたとしても、電気代の上昇という影響が生じる可能性は否定できません。

○浅岡さんから→この電力問題は、ここ2、3年の短期的課題と、今後、中長期的な方向性とに分けて考える必要があります。原発の再稼動や新増設問題は、こうした中長期的視点で判断する必要があります。今後、原子力への依存を下げていく基本的道筋を確認し、そのために省エネ省電力や再生可能エネルギーを拡大する政策を今から立ち上げていくことが重要です。政治の混乱で方針も混迷したままとすれば不幸なことです。省エネも再生可能エネルギー拡大のために必要な政策も、10年にわたって議論されてきており、震災を受けて、今はやるべきことに早く取組むということだと思います。

○コーディネート→東電の電気が東京で使われていることについて

○佐藤さん→双葉地方の原発振興は破綻しました。それを認めた上での再出発ということになります。原発への回帰という選択肢は福島では消え去っています。世界の先進国の流れも「脱原発」ということでないでしょうか、直ちに止めるか、廃炉していくかであって、原発か脱原発かという構図ではないと思います。朝日新聞では7割がやめる・減らすといっているが、26%は続けるという選択でした。生きていく上で仕事が必要だということでしょう。これについては自治体も住民も考えていかなければいけないし、東京電力も原発以外の産業復興で双葉地方に寄与するようにしていただきたいのです。日本世論調査会の調査結果でも直ちに、定期検査に入ったもの、電力需給において廃炉にするとした人が82%です。現状維持の14%を上回っています。再生可能エネルギーを発展させるには発送電分離でしょうか。太陽光も風力も地熱も初期コストは高いですが、普及すれば液晶テレビと同じく安くなるとも言われています。米国ではソフトバンクの孫社長によると原子力と太陽光発電のコストがクロスオーバーしたとのことです。地方で作った電気を都市に売ることで地方にお金が落ちる。このようにして再生可能エネルギーを福島の地でつくる。いまだに原発が必要だという人がいたらそれならばあなたの住んでいる地で作りなさいと言いたいのです。もう誰かの犠牲の上にたつエネルギーはあり得ないと思います。

○コーディネート→再生可能エネルギーで地域振興という件では

○定光さん→その通りでして、来年の7月からより広い買取制度が始まると第一歩になります。メガソーラ、風力、地熱、水力などについて新規参入しようという事業者も現れるでしょうし、地域でも事業組合やNPOなどを作って一緒にこの町で風車を置こうじゃないかということも可能になってくると見ています。その中で働く場が増え、関連備品の産業が育つということが急な効果は見えないかもしれないが、3年、5年、10年の間には広がっていきます。菅総理からも再生可能エネルギー比を13%から20%まで20年かけてやっていこうというのでは遅すぎると号令がかかっていますので、この方向性は確実に前に進んで行くと思います。

○伊藤さん→北海道の泊原発再稼動について

○浅岡さん→政府の数え方では泊原発は定期点検中ではなく、商用運転中の原発に分類されています。我々の資料では定期点検に入れています。それで数が合わないのでしょう。
これまでの安全基準は不十分なものであったことが明らかになっていますので、見直しが必要です。そして原発の全てを直ちに止めるというのは現実的でないとすれば、原子力安全委員会で安全基準を見直し、安全性の順位をつけて国民にその根拠を説明し、納得を得る等の責任があるのではないでしょうか。特に事故の影響が想定される地域には、十分な説明と納得していただく必要があります。

○定光さん→泊原発については知事がゴーサインを出した後に国が正式に再起動を認めました。今後、全ての原発についてストレステストを行い、リスクにどの程度余裕があるのかどうか見ていきます。全てに優先順位がつくということにはならないかも知れませんが、それぞれの発電所ごとに安全性の一定の目安にはなると思います。さらに、国としての、再起動についての考え方を示し、安全規制・体制の見直しも進めることになります。

○浅岡さん→知事には何の法的権限もないのです。法的には国が判断することですから。

○コーディネート→もういらないということになりますか?

○伊藤→トイレのないマンションといわれていますね‥

○浅野さん→本を読んで日本では原発を扱えないと思いました。日本では岩盤で500〜600ガル。地上で1,000〜1,500ガルに耐えるように設計されているようですが、阪神・淡路では800、新潟は2,000ガル等想定をはるかに超えた数字で地震が起きています。今回も震度5程度で女川原発など非常用電源に切り替わるなど危なっかしいわけです。日本では電力の逼迫は真夏の数時間のピークのために何十万年も管理の必要な原子力に頼る必要はないと思います。省エネとアメリカでは電力自由化が進んでいるのでエアコンと他の配線を分けて5分間だけ止めることで減らすことが出来る。

○那須さん(資源エネルギー庁へ)→今年は停電で脅し、来年は電気代が上がると脅されるのではないのですか?例えば3.16兆円を日本の人口で割ると650円/月/人となり、4人家族では2,600円/月になる家計防衛のうえでも大変なことです。東京電力など原料代を即価格に反映させないように強い指導が必要です。

○富山さん→日本では原子力発電は建ててはならないと思います.理由橋の肺です.フィンランドにオンカロという隠された場所ということのようですが、100年分の放射能に対して10万年の管理が必要で、それだけの年月をかけないと安心できないなんて「命とは決して共存できない」と考えます。国としてエネルギー政策の転換を迫りたいと思います。

○定光さん→円高で不況ですし、経済状況の悪い中、電気代をあげる選択は避けたいと考えます。よりスマートな省エネの社会に切替えていく必要があります。電力会社にも安定供給の責任を果たしてもらうために様々に工夫していただく必要があります。これからの議論のために2つほど頭の隅においていただきたいことがあります。1つ目は、企業は電気のコストが数%あがるだけで中国、韓国、台湾等との競争上不利になり、日本に立地できなくなる恐れがあります。働く場がなくなると生活が成り立たなくなります。2つ目は、日本は「脱原発依存」の方向ですが、中国、インド、韓国などはこれから原発を大増設していく予定で、中国・韓国だけでも60基以上の増設計画があります。こうした中で、日本として福島で経験したことを生かして、アジアの原子力安全に協力貢献する道を全て手放して良いのか、といった点について、国民に開かれた場や政治で大きな議論をして判断をしていく必要があると思います。

○佐藤→高速増殖炉が実用に至らない時点で、原子力は高々数十年の資源なわけです。それが使用後は10万年にわたって管理しなければならないというまことに不合理な話しがあるのかなと思います。電気は都会で使うのに原発は農漁業のゾーンに立地されます。農漁業の経営難につけ込んで「札束攻勢をかける。警察権力を投入する。しかもやらせがある。」こんなことはもう止めにしませんかと言いたいです。エネルギーは電力会社任せにせず人々の協同の力でより安心できる方向でまかなっていくべきと強く思いつつ、福島県民の不条理感を是非理解いただければと最後に発言しました。

○浅岡→ウランは準国産エネルギーとはいえません。福島第一原発、第二原発は廃炉とする他ありませんし、他にも止めるべきものは止める、新増設もできないことを、国民に明らかにし、今後の方向性を共有していくことです。再増設の可能性もあるかのような、もやもやしたままでは省エネもしっかり出来ない。地震のためだけではなくて、ドイツは地震のないところですが止めていくことにしました。日本でも同じように廃炉へのプロセスを示しながら、可能な再稼動はつなぎとして位置付けるなど、納得できる説明を国民にしていくこと、そうしたやり取りを早くやっていただきたいのです。
事業者が原発を止めるわけに行かない理由として、電気代が上がるとか、工場が海外に行くといっていますが、これは円高などがより関係している話しで、本当は繋がらない話です。国は信頼できるデータを出し、信頼関係を築いたうえで十分な話合いを行なうことです。私たちも、省エネの努力や再生可能エネルギーに投資をするなど、お金の使い方を工夫していくことが大事です。

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