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7月1日全国消団連 PLオンブズ会議報告会「自動車リコール制度にメスを入れる」開催報告
 

自動車リコール制度にメスを入れる
2010年度全国消団連 PLオンブズ会議報告会
 

 2010年7月1日(木)に全国消団連 PLオンブズ会議(以下同会議)は東京の主婦会館プラザエフ7階で、表記報告会を開催し、116人が参加しました。

 この報告会開催にあたり同会議で独自に取り纏めた「消費者自動車リコールアンケート」から言えること、日本と米国のリコール制度の違いから見えてくること、日本の自動車リコール裁判をめぐる具体的な問題点など、幅広いテーマで報告・討論が行われました。

 開会挨拶は長見萬里野さん。総合司会は長田三紀さんが担い順次5名の報告がありました。

 (1)国土交通省自動車交通局技術安全部審査課リコール対策室課長補佐の古川一美さんから「日本の自動車リコール制度について」、(2)自動車メーカーOBの西園寺剛行さんから「自動車関連のリコールに関する話」、(3)自動車メーカーOBの山際登志夫さんから「日本におけるUSA車の事故例とリコール制度の課題」、(4)帝塚山大学法学部教授のタン・ミッシェルさんから「欧州・豪州の自動車リコール制度」、(5)宮本一子さんから「米国の自動車リコール制度」についてそれぞれ報告がありました。

 この報告を受けて中村雅人弁護士がコーディネートを担い、「自動車リコール制度にメスを入れる」として意見交換会を行いました。この後、太田吉泰さんが「日本の自動車リコール制度の改革に関する提言」を発表し、清水鳩子さんが閉会挨拶を行いました。

 以下は報告と意見交換会の概要です。

1)日本の自動車リコール制度について

日本のリコール制度はメーカーによる自主的な実施が基本であり、国に事前の届出が必要。届出義務違反の場合は厳しい罰則がある。また、安全上問題があると国が認める場合は、国の権限によりリコールをさせることができる。リコール以外の改善措置として、改善対策とサービスキャンペーン(エアコンやステレオの故障等)がある。不正行為再発防止のため、情報収集体制、監査、技術的検証体制を強化した。不具合情報ホットラインを活用し、リコールやユーザーからの不具合情報を公開している。
今回実施した独自アンケートでは不具合情報ホットラインについて、回答者の8割が知らないと答え、書き込み実績は皆無(0人)である。前に国土交通省で実施した1,200名規模の調査でも同様の傾向があり、少ない経費・人員のもとで、寄せられた情報から危険性・多発性などの要素を考慮して懸命に調査対応している。
ホットラインの情報更新は情報いただいてから載せるまで1ヶ月が目安。少ない対応人数で誹謗中傷情報などを精査するのに時間を要している。以前は2〜3ヶ月かかっていたことに比べれば、早くなってきているが、今後も努力していきたい。寄せられた情報の中から、危険性・多発性などの要素を考慮して調査対応している。寄せられた情報が端緒となって調査に入るケースは増えてきている。
ユーザーから寄せられる情報はメーカーからの情報とほぼ重なっている。メーカーには4半期ごとに保有するすべての不具合情報の報告を求めている。事故・火災発生案件などは直ちに情報寄せてもらい注意喚起のために公表している。メーカーから寄せられた不具合情報をそのまま公表することはなく、ネガティブ情報を出すことのデメリット・影響も考慮しているのが現状。ただし事故情報はすべて公表している。
国土交通省は技術的検証のために独立行政法人交通安全環境研究所を設けている。独自に自動車リコールの原因究明を行い、メーカー情報に疑義があれば技術的裏づけを取るべく、同研究所に対応してもらっている。機密情報もあり一般の研究機関に委ねるのは難しい。

2)日本と米国等の自動車リコール制度の違いについて

日本のリコールの届出は不具合事象が保安基準に適合していないものであるが、アメリカのリコール届けは不具合事象が基準適合状況に関係なく、安全でないと判断したものはすべて届出る。例えば、二輪の乗員保護エアバックに関して、日本では、保安基準がないため、不具合があれば、改善対策として届出をする。アメリカにおいても基準は無いが、不安全なためリコールの届出を行なう。メーカーとしては矛盾を抱えながら対応している。リコール見直しの私案として、ユーザーに目線を合わせることが大切ではないか。不安全を伴う不具合は欠陥と認め、速やかに隠さずごまかさず公表することが重要ではないか。
リコールの原因や対策内容はメーカー任せで問題が多い。クライスラー社製のチェロキーのリコールでは、日本ではアメリカの2.5ヶ月遅れとなり、対策処理後に102件の不具合が発生し、再リコールをした。日本政府側の原因解明や事故原因の追求システムが不足しており、アメリカの上下院公聴会や国家道路交通安全管理局(NHTSA)と同等の機能が必要である。
自動車リコールでは米国には独立した権限のある行政機関があり、様々なことを調査、発表等している。その機関の中に、ODI欠陥調査局があり、苦情を受け付け、追跡のためのコールバックも行う。この欠陥調査局は、スクリーニング、調査申し立て(誰でも欠陥があるかどうかの分析依頼ができるが、実際は専門家でなければ資料を整えられない)、調査分析、リコール分析、リコール要請を行っている。この間米国でのアクセルに関する苦情はトヨタがもっとも多かったため、リコール問題につながった。米国の場合行政からの自動車リコールは25%、自主回収は75%(ただし、62%は行政が調査に入っていた)であり、ほとんど行政が関与したリコールだと言える。米国の行政は消費者情報を積極的に活用し、リコールに積極的に関与している。全新車の衝突テスト(100台以上/年)を行い、コンシューマー・レポートが車の特集を組むときの参考にしている。
行政の役割として、EUでは各国に市場モニタリングを担当する機関を設置する義務があり、危険な製品を把握し、リコールがあった場合にEUに報告する。罰則規定も設けられている。豪州では、行政がリコールのガイドラインにそって行われているかを監視する。リコールの措置が不十分な場合、国は回収命令等ができる。

3)日米の自動車リコール制度をめぐる意見交換

日米での行政のかかわり方の違いとして、アメリカでは消費者情報を、日本では企業情報を重視している印象がある。日本では行政予算・人員の制約もあって消費者情報が十分活用されていないのではないか。
日米のリコール制度の違いについて、日本の行政スタンスは業界保護が優先、消費者保護は二の次。日本では2、5ヶ月はそのまま車が走っている。アメリカでは原因究明や対策は後でよい、先ずは消費者に安全上の問題があることをいち早く知らせる。
チェロキーの例ではアメリカでは1回でリコールが済んでいるのに対し、日本では2回リコールを打っている。どうしてこういうことになるのか?リコールを打つごとにメーカーの対策が変わっていく。原因究明と対策にあたり、メーカーでの判断が異なる。この点は国交省としても厳しく見ていく必要があると思う。
同じ車でなぜ日米で対策内容が違うのか。対策・タイミングとも同じにすべきではないか。アメリカではPL訴訟が大変なのでメーカーの対策も慎重にならざるをえない。
同じ原因なら対策も同じであるべきだが、部品等の構造によって対策の内容も違う。対策を変えているから再リコールが起こる、というのが実態ではないか。
依命通達(注:別添)を変えてもらってアメリカに近づける必要がある。ユーザーにとっては「アメリカでは対策を打っているのに日本ではしない」というのは不安感がある。ただ、根本的には道路運送車両法を変える必要がある。
日本のリコール制度の問題点として、消費者への情報提供に時間がかかりすぎる。その間はリコールが必要な自動車が走っている状態にあるということ。アメリカでは5営業日以内に報告する必要があるが、日本では原因究明や改善措置、修理部品の準備等が必要ということで時間がかかっているのではないか。また、日本ではリコールに膨大な費用がかかるので、リコールしやすいような環境整備が必要となる。
日本で1年もかかるというのは、メーカーが不具合の発生を認知してから消費者への情報提供までの期間ではないか。また、不具合の原因究明は時間を要する。制度改善の必要もあると思うが、不具合情報を扱う立場の者がユーザー目線に立った対応を取ることが重要。今日のご意見も参考に今後の対応を検討したい。
本日クライスラー製のチェロキーの高裁判決があり、控訴棄却という判断が出た。1審の判決以外に新しい判断も加えていない残念な結果となった。
物証がない中で裁判を行うのは困難と思われた中、約7年間の裁判を続けることができたことは皆さんに感謝したい。自動車の事故調査について、当初は国交省でも相手にしてもらえなかったが、過程において国交省の対応も進むなど態度も変わった。PL法における消費者の立証責任の困難性について裁判所は理解していないなど、少しずつ問題点も見えてきた、今後とも頑張っていきたい。
産業育成の国交省でリコール検討会をやっていても仕方ない、消費者庁に移管すべきではないか。また、推定規定の導入などPL法の改正が必要である。

4)参加者アンケートから

前半の報告をさらに核心に迫りながら課題がうきぼりになり良かった。消費者目線・消費者重視が具体的にどう制度反映されているかを今後も追求していかないといけないと痛感しました。どこに問題があるかをなかなか見出せない厳しい状況であるが,専門家の力もかりて追求し是正改善していく必要がある
国もメーカーもユーザー目線に立ってそれぞれの役割をはたすことが大切であると感じた。リコールの具体事例による説明があったのは、理解が深まり良かった。各国のリコール制度の比較、長所、短所について知りたいと思いました。
山際さん、西園寺さんも、元ホンダの社員とのこと。トヨタのOBにも参加して欲しかった。国交省の古川さんも含めた議論、内容は良かったと思う。車の販売価格の中には、リコールを前提としたコストが上乗せされているのだろうか?衣類には売れ残りコストを上乗せして販売価格が決められていると聞いたことがあるが…
制度に対する理解が不十分な中での意見交換であったと思います。「消費者、スピード」というキーワードの中で、表面的な文言につられてしまったようです。米国も自動車リコールについては、米国運輸省の管轄であり、一般製品とは別扱いです。何でも欧米通りが良いのかはわかりませんが、日本流(文化の違い)の消費者目線はあってもいいように思います。日本には、自主的に(自己責任)という風土が成熟していません。自動車の重大性を考えた時、まだ時間が必要です。消費者団体としての消費者教育が不足してないですか?フェール・セーフは当然ですが、「自分の身は自分で守る」という安全の原点にも着目して頂きたい。
リコールについての種々の状況・実状と課題について大分深く理解出来ました。一方、USAとの比較もされていますが、これにはUSAにも問題はある筈であり、双方、若しくは各国ごとのメリット、デメリットを明確にしてから、すべきでは無いかと思われる。

自動車リコール制度の改革に関する提言
 

 わが国の自動車リコール制度は、「保安基準に適合しなくなるおそれがある状態、又は適合していない状態があり、かつ、その原因が設計又は製作の過程にある場合において、メーカー等が改善措置を実施する場合」にメーカーが自主的に実施することを基本としている。保安基準の範囲に限定されていること、原因の特定と改善措置の実施が前提になるため時間がかかることなどが問題である。また、安全上問題がある場合には、リコールを行うよう国がメーカーを指導・勧告・命令できることになっているが、これも保安基準の範囲内であり、原因の特定という前提は同じである。

 その上、自動車の安全性のチェックや不具合情報の調査・分析を行う国の体制は極めて不十分な状況にある。また、不具合情報に関しては、国に対してメーカーが報告する制度はあるが、この情報は公表されていないし、「自動車不具合情報ホットライン」も消費者に十分周知されているとはいえない状況にある。

 このような現状認識に立ち、私たちは自動車リコール制度を改革するよう、つぎのように提言する。

  1. リコールの要件を保安基準だけでなく、正当な理由のない事故の危険が存在すると判断(認知)した場合を含めること
  2. リコールの届出は原因や改善措置とは切り離して、短時日の内に行うようにすること
  3. 国土交通省は自動車の安全性のチェック、不具合情報の調査・分析を行うための体制を拡充するとともに関連する機関とのネットワークを確立すること
  4. 国に対して自動車の欠陥の有無についての調査を申し立てることができるようにすること
  5. 国土交通省は不具合情報はすべて公開して消費者も情報を共有できるようにすること、また、「自動車不具合情報ホットライン」の周知に積極的に取り組むこと
  6. 国土交通省及びメーカーはリコール情報の周知・徹底を図り、被害の拡大防止に万全を期すこと

2010年7月1日
全国消団連PLオンブズ会議


報告するタン・ミッシェルさん   報告を聞く参加者   報告を聞く参加者
報告するタン・ミッシェルさん   報告を聞く参加者   意見交換会の報告者
         
意見交換会の報告者   全国消団連PLオンブズ会議長見さん   クライスラー製チェロキー裁判報告花岡さん
意見交換会の報告者   開会挨拶の
全国消団連PLオンブズ会議長見さん
  クライスラー製チェロキー裁判報告
をする花岡さん
         
全国消団連PLオンブズ会議太田さん   全国消団連PLオンブズ会議清水さん    
提言発表の
全国消団連PLオンブズ会議太田さん
  閉会挨拶の
全国消団連PLオンブズ会議清水さん
   

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