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2007年7月6日

独占禁止法基本問題懇談会報告書の公表について
 

全国消費者団体連絡会
独占禁止法改正検討委員会

 本年6月26日、内閣官房長官の私的懇談会である「独占禁止法基本問題懇談会」(以下、内閣府懇談会)の最終回が開催され、報告書が確認されました。内閣府懇談会では、2005年7月の第1回から約2年間、全35回にわたり、独占禁止法違反行為を抑止するための措置とその際の手続のあり方に関して、課徴金制度のあり方、審査・審判手続のあり方を中心に精力的な検討が行われてきました。そうした検討の結果について、一部に今後の検討に委ねた部分を残しつつも、総合的・体系的にとりまとめられたことについては、消費者・市民として深く敬意を表します。

 内閣府懇談会における検討は、2005年の法改正の際に、「政府は、この法律の施行後2年以内に、新法の施行の状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、課徴金に係る制度の在り方、違反行為を排除するために必要な措置を命ずるための手続の在り方、審判手続きの在り方等について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」との規定が附則第13条に設けられたことが発端となっています。

 その背景には、法改正に対する経済界の強い反発がありました。2005年の法改正は、国際的に見て低い水準に留まっている課徴金を抑止力強化の観点から大幅に引き上げること、カルテル・談合の早期発見などを目的とした措置減免制度(リーニエンシー)を導入すること、審判事件の急増と審判の長期化に対する対応策として審判を事後手続に移行しつつ、適正手続の観点から一定の事前手続を設けること、などが柱となっていました。こうした法改正の方向性については、消費者・市民として大いに賛同するものでしたが、経済界からは強い反発があり、法改正の成立の遅れと上記の附則の設定につながりました。

 法改正以降も、橋梁談合、防衛施設庁談合、汚泥施設談合、し尿処理施設建設工事談合、トンネル換気設備工事談合、名古屋市営地下鉄談合、水門設備工事談合、塩化ビニル床シート・タイルカーペット価格カルテルなど、多くのカルテル・談合事件が明らかになっています。国や自治体、ひいては納税者の利益を侵害する談合や、直接・間接に消費者の利益を侵害するカルテルなどは、消費者・市民として許せない犯罪的行為です。また、独占禁止法は消費者の利益を守る上で重要な法律であり、その運用が厳正・迅速に行われることは、消費者・市民としての願いです。

 全国消費者団体連絡会では、そうした消費者・市民の基本的立場のもと、内閣府懇談会における検討事項を中心に、独占禁止法の厳正・迅速な執行を促進するための制度のあり方に関して検討するために、本委員会を設置しました。本委員会では、昨年7月に『消費者・市民からの独占禁止法に関する主張(中間整理)』をとりまとめ、内閣府懇談会における検討への消費者・市民の意見反映を図ってきました。

 この度公表された内閣府懇談会の報告書については、以下の点において消費者・市民の立場からの主張に合致するものであり、全体として妥当な内容と考えます。

検討の基本的視点として、法執行の実効性と適正手続の保障の調和が重要である旨、競争政策と消費者政策との一体的推進が重要である旨を明記している点。
 
カルテル・談合等に関して刑事罰と課徴金(違反金)の併科方式を維持し、カルテル・談合が犯罪であることを引き続き明確にしている点。
 
違反金については機動性・効率性を重んじ、現行の枠組みを基本的に踏襲し、考慮要素についても法令遵守体制を除外して妥当な範囲に収めている点。
 
私的独占の大半を占める排除型について、違反金の対象とすることが適当であると結論付けている点。
 
公正取引委員会の専門性を重視する立場から審判制度を評価し、当面の間という限定付きながら、現行の不服審査型審判方式(事後手続)を維持することとしている点。
 
審判・事前手続における証拠開示や、行政調査手続の際の弁護士の同席などについては、他の制度の状況も考慮した上で、過剰な手続保障は不要という立場を明らかにしている点。

 他方、懇談会報告書の中には、いくつかの点で残された問題があることも確かです。

不公正な取引方法に対する違反金の賦課については両論併記とされました。ぎまん的顧客誘引や優越的地位の濫用については、今後検討される余地がありそうですが、消費者の立場から問題が大きい再販売価格の拘束については、「私的独占の予防的規制」であることから検討の対象外になったかのように書かれてしまっています。
 
審判制度については、当面は現行の不服審査型審判方式(事後手続)を維持するとされていますが、「審判の迅速化や制度の趣旨に沿わない審判の増加を防止するための措置を講じた上で、独占禁止法違反事件の大部分を占める入札談合事案に関する実効的予防策の実施状況を踏まえつつ、事前審査型審判方式を改めて採用することが適当である」と結論付けられています。拙速な事前審査型審判方式への移行により、2005年改正法以前のような審判件数の増加と審判の長期化につながり執行力が低下してしまうことが懸念されます。

 今後、公正取引委員会において具体化に向けた検討が行われるものと思われますが、その際には懇談会報告書の趣旨を十分に踏まえ、独占禁止法の執行力を強化する方向で検討が行われるべきです。懇談会報告書の末尾に付された委員の個別意見の中では、経済界出身の委員から、懇談会報告書の内容に反対する趣旨の意見が多岐にわたって展開されており、具体化に向けた今後の検討においても、こうした経済界の意見が大きく影響することが懸念されます。学識者、経済界、消費者・市民の各代表で構成された懇談会において、十分な検討を経てとりまとめられた懇談会報告書の結論が、経済界からの一方的な意見により覆されることがないよう、今後の検討の状況について消費者・市民の立場から注視していきます。

 特に、事前審査型審判方式への移行については、制度の趣旨に沿わない審判の増加の実効的防止措置や入札談合の実効的予防策を併せて実施することが必要であるというのが懇談会報告書の基本的立場であることを十分に踏まえる必要があります。

 懇談会報告書の中では、「実際に違反金納付先送りのために審判で争うことは考えにくい」、「実際に指名停止を受ける時期をコントロールするために審判で争うことは考えにくい(注)」との見解があった旨が記載されています。しかし、現行の不服審査型審判方式に移行してから、審判開始比率は下記の通り激減しており、改正前には制度の趣旨に沿わない審判が相当数あったのではないかと疑わざるを得ません。

 事前審査型審判方式への移行については、こうした実態を十分に認識し、制度の趣旨を歪めることのないよう、慎重な検討がなされるべきです。

【出典】 独占禁止法基本問題懇談会報告書・資料集P19

以上

(注) 指名競争入札制のもとで入札談合が判明した場合、違反事業者に対しては発注行政庁から指名停止が行われ、以後の入札に参加できなくなります。しかし、指名停止処分が公正取引委員会の処分確定後に行われるのが通例であるため、事前審査型審判方式のもとでは、指名停止を受ける時期をコントロールすることで、それ以前の入札に参加しようとする事業者が現れるおそれがあります。上記の見解は、実際にそうした事業者は生じるとは考えにくい、との意味です。